記者会見
茂木外務大臣会見記録
(令和7年12月9日(火曜日)17時32分 於:本省会見室)
米国の国家安全保障戦略と安保三文書の改訂
【産経新聞 永原記者】米国が、先日発表した国家安保戦略について伺います。国家安保戦略では、日本や韓国などの国名を出して、防衛費増額の必要性を強調しました。また、先日、ヘグセス国防長官は、同盟国に対する防衛費の増額要求をめぐり、「集団防衛で自らの役割を果たさない同盟国は結果が伴う」と発言しています。こうした米側の発信を踏まえて、高市政権が、今後取りまとめる安保三文書の改定に、どのように反映させていくお考えか、お聞かせください。
【茂木外務大臣】まず、我が国を取り巻く安全保障環境、これは戦後最も複雑で厳しいものになっている、こういう認識については、以前から強調しているところであります。そういった中で防衛費の整備、これをどうしていくかと。自らの国は自ら守るという、こういう基本姿勢の下で、我が国自身の主体的判断に基づいて行うものであると考えております。
その際に、金額であったりとか、対GDP比であったりとか、数字ありきではなくて、大事なのは、防衛力の中身であると、こんなふうに考えているところであります。
今の新しい戦い方、こんなことも言われておりますけれど、新しい戦い方というのは、今に通常の戦い方になる。もしくは、通常の戦い方と新しい戦い方が、既存の戦い方と新しい戦い方が一緒になったハイブリッド型の戦い方と、こういったものが生まれているわけでありまして、そういった中で、我が国としては、主体的な判断として、防衛力の抜本的な強化、これを進めるために、「国家安全保障戦略」に定めました「対GDP比2%水準」、これについて、前倒しをいたしまして、今年度中に、措置を講じるということを決めたところであります。
その上で、新たな安保三文書については、与党とも相談をしながら、その具体的な内容について、今後、検討を進めていきたいと考えております。
冒頭申し上げたように、安全保障環境が一層厳しさを増す現状を踏まえて、引き続き、日米同盟の抑止力・対処力、これを強化していく。そのために、米国との間でも、緊密に連携していきたいと考えております。
そして、こういった我が国の考え方、これは、首脳レベル、外相レベル、また防衛大臣、戦争大臣の間でも、また事務方、様々なレベルで、共有してきている点だと、こんなふうに考えております。
ガザ情勢(停戦合意維持・復興支援)
【共同通信 阪口記者】パレスチナ自治区のガザをめぐって、イスラエルとイスラム組織のハマスの停戦合意から2か月が経過しました。ハマスの武装解除を目指す第2段階は、難航が予想されますけれども、現段階で、日本として、ガザの停戦の維持や復興の支援に、どのように関与していくお考えかお尋ねします。
【茂木外務大臣】中東地域、特に、イスラエル、パレスチナ、この地域というのは、歴史的に見ても、戦争であったり戦闘が絶えない地域であった。なかなか停戦が難しい、こういう地域でもあったと思っております。例えば、中世の十字軍の時代でも、停戦合意が一番長く続いたのは、第3次十字軍の時代で、イスラム、そして、当時はキリスト教、両方の勢力が一番強い時代というか、キリスト教側でいいますと、第3次十字軍のトップに立つというか、これがライオンハートと言われた英国の国王であったわけですね。一方で、アラブの側は、ヌルディンからサラディンという新しい支配者に代わって、このリチャード1世と、そして、サラディンの間で、4年の停戦を行った。これが多分一番長い停戦と言われるぐらいでありまして、それだけ戦闘が続いていると。
今回のガザ、これも2023年10月7日に、ハマスによる攻撃が始まってから長引いている中、トランプ大統領の「ガザ紛争終結のための包括的な計画」を契機として、当事者間で成立した合意、これはガザ情勢の解決に向けた大きな進展であると、このように考えているところであります。
地域の中長期的な平和と安定のためには、停戦の維持、これが最優先でありまして、同時に、どういった形で次のステップに進んでいくのか、イエローラインからレッドラインにどう持っていくのか。次の段階への着実な移行、これが極めて重要であると考えております。我が国としても、引き続き、様々な機会を捉えて、全ての関係者に対して、包括的計画の着実な実施を求めていきたいと思っております。
今月に入ってからも、大久保ガザ再建支援担当大使や岩本中東アフリカ局長を、イスラエル、そして、パレスチナ等に派遣をしまして、日本としても、関係者との意見交換、これを図っているところであります。
今後とも、ガザの人道支援、そして、復旧・復興、さらには暫定統治に係る国際的な取組に貢献していくともに、パレスチナの国づくり支援、これを通じて「二国家解決」の実現に向けて、積極的な役割、これを果たしていきたいと、こんなふうに考えています。
ウクライナ情勢(対ウクライナ支援)
【インディペンデント・ウェブ・ジャーナル 濱本記者】 ウクライナ情勢について質問します。ウクライナ紛争は、現在、大きな転換点を迎えています。戦場では、ロシアが圧倒的に優勢であり、トランプ政権は、現在、バイデン政権時とは180度反対に舵を切り、新しい米国安全保障戦略ではロシアの脅威は削除され、プーチン大統領もこれを歓迎しています。また、和平案協議では、ロシアと米国の資源開発における協力についても言及され、米露は、友好関係構築に向かっていますが、高市総理は、3年半前の岸田政権当時のままの認識で、「いわれなき侵攻」と繰り返すままであり、日本は、ロシア敵対、ウクライナ支援、戦争継続の方針を堅持しているように見られています。また、ウクライナのイェルマーク大統領府長官ら側近が、次々と汚職疑惑の捜査対象となっており、ゼレンスキー氏自身も追及される可能性があり、約1兆4,000億円にものぼる日本の支援金、つまり国民の血税が横領されている懸念があります。外交の責任者である茂木大臣の戦況分析及び現状認識をお聞かせください。また、これまでの支援金の行方についても国民への報告をお願いしたいと思います。
【茂木外務大臣】まず、戦況についてでありますが、現在、国際社会において、様々な議論が行われております。決定的にロシアが有利なのかどうかということについても、議論の余地があるところだと思っておりまして、いずれにしても、ロシアによります侵略というものを早期に終結をさせ、一日も早く、ウクライナに平和をもたらすためにも、米国の関与を得て、ウクライナ、欧州など関係国が結束して取り組むことが重要だと考えております。
その上で、ウクライナの和平をめぐっては、現在、国際社会において様々な議論であったりとか、また調停等々が続いているところでありまして、今後、予断を持って、コメントすることは差し控えたいと思っております。
そして、我が国の支援でありますが、「今日のウクライナは、明日の東アジアかもしれない」、こういう強い危機意識の下、こういった危機意識、これは岸田政権の時から持っていたわけでありますけれども、そういった危機意識は変わっていない。このことについては、別に、戦況が変わっても、「今日のウクライナは、明日の東アジアかもしれない」、こういう認識は私は変わらない、こんなふうに考えておりますが、こういった、強い問題意識の下、国際社会と連携をしながら、積極的なウクライナ支援に取り組んできているところであります。
具体的に申し上げますと、人道、財政、復旧・復興、こういった分野で、総額120億ドル以上の支援を表明し、実施してきておりまして、今後もしっかりと取り組んでいきたいと思っております。そして、こういった支援を実施するにあたりましては、引き続き、ウクライナ政府、国際機関等と連携をしながら、我が国として、支援が適切に行われているか、その適切な実施の確保、これに努めているところであります。
インドからのインバウンド強化
【Asian News International 板垣記者】先般のインド・日本フォーラムが開かれまして、そこに大臣のメッセージを寄せられまして、現地では、非常に好感を持って受け止められております。一方、インドのほうからは、ジャイシャンカル外務大臣が応える形でのメッセージしていましたが、その中に、日本とインドとのツーリズムの進展といったような言及がありました。現在、福島の方では、ほんの、今まだ小さな規模なんですが、そこを復興・復活の聖地として位置づけまして、そこを勉強に行くスタディー・ツアー、あるいはエデュケーショナル・ツアーといったようなものが、福島在住のインド人の2人の若者によって組み立てられております。こうした流れ、トレンド、更に広い意味での人材の交流といったような点について、大臣のお考えをお聞かせください。
【茂木外務大臣】そういった海外の若者が、日本で活躍をする、また、そういった活躍を、小さいながらも広げようとしていると、そういうことについては、高く評価したいと、こんなふうに考えております。
7日から8日にデリーで開催をされました「日印フォーラム」では、私からビデオメッセージを発出したところであります。「X(エックス)」にも、その内容を出していただきましたが、この中で、ジャイシャンカル外相と、長い付き合いでありますが、一緒に、「今後10年に向けた日印共同ビジョン」に基づいて、幅広い分野で具体的な成果を出していきたい、こういった旨を、述べさせていただきました。
日印間の人的交流、これは強固な二国間関係の基盤となるものだと考えておりまして、御指摘の観光分野も含めて、人的交流の促進を通じた日印関係の強化に、今後とも一層取り組んでいきたいと考えております。
日中関係(米国とのやり取り、関係改善への取組)
【ブルームバーグ 村上記者】今般の日中関係における米国への働きかけについてお伺いします。高市総理の台湾に関する発言に端を発した日中間の一連のやり取りについて、山田重夫ワシントン大使がトランプ政権に対して、日本を支持する姿勢を、よりはっきりと打ち出すよう求めたとの報道がフィナンシャルタイムズから出ておりますけれども、これは事実でしょうか。事実であれば、米国とはどのようなやり取りがあり、日本としては、どういった発信を米側から求めたかも併せて教えてください。
【茂木外務大臣】まず、個々の報道について、それが正しいかどうかということについてはコメントしないということを、これまでも一貫して申し上げているところでありますけれど、日中関係につきましてもどうあるべきかと、合意している「戦略的互恵関係」の包括的な推進であったりとか、「建設的かつ安定的な関係」の構築と、こういった点で一致しているところでありまして、それに向けて取組をしていきたいと思っております。
そういった中で、様々な形で、意見の相違であったりとか、考え方の違いがあることについては、日本の立場・考え方、これは山田大使に限らず、各国におきまして、様々なレベルで、日本の立場や考え方、そして中国の言っていることが、事実と異なる場合には、正しい事実関係、こういったことを説明するというのは、当然、外交上必要なことだと思っておりまして、こういったことを、引き続き、行ってまいりたいと考えております。
【ラジオフランス 西村記者】日中関係についてお聞きします。大臣としては、今の日中関係の状況を改善するために、何を優先すべきかとお考えいただけますか。
【茂木外務大臣】何を優先するかというか、これも繰り返していることですけれども、日中、隣国であります。当然、隣国は、日本は韓国との間でもそうでありますし、欧州の国もそうでありますけれど、隣国の間には、課題や懸案というのがあります。一方、隣国であるが故に、協力できる分野というのもあるわけでありまして、対話を通じて、課題や懸案と、これを少しでも減らし、一方で理解や協力の分野、これを増やしていく、こういう取組が必要だと思っておりまして、特定の一つのことというより、様々な分野で対話を通じて、こういうことができるのではないかと、こういったことについては、お互いの距離を縮めていこうという取組が必要だと、日本として、対話には常にオープンでありたいと、こんなふうに考えています。

