記者会見
岩屋外務大臣会見記録
(令和7年5月30日(金曜日)10時56分 於:本省会見室)
冒頭発言
(1)中国による日本産水産物の輸入規制
【岩屋外務大臣】冒頭、私(岩屋大臣)から三つ報告がございます。
まず、中国による日本産水産物の輸入規制に関してです。
中国による日本産水産物の輸入規制につきましては、昨年9月に両政府で「日中間の共有された認識」を発表して、IAEAの枠組みの下での追加的モニタリングを累次実施するなど、早期撤廃を実現すべく、政府一丸となって取り組んでまいりました。
私(岩屋大臣)自身も、昨年末の訪中の機会、また、本年3月の王毅(おう・き)外交部長の訪日の機会を捉えまして、日本産水産物の輸入を早期に再開するよう直接働きかけてきたところです。
こうした中で、今般、日中双方は、輸出再開のために必要な技術的要件について合意に至りました。今後、輸出関連施設の再登録の手続が完了され次第、日本産水産物の対中輸出が再開されることになります。
今般の合意は、昨年9月の発表を実行に移すものでありまして、一つの大きな節目であると受け止めております。我が国としては、引き続き、日本産牛肉の対中輸出の再開や、10都県の農水産物の輸入規制の撤廃などを中国側に求めていきたいと考えております。また、香港、韓国などの周辺国・地域における輸入規制についても、同様に撤廃を求めていく考えです。
(2)東南アジア外交
【岩屋外務大臣】それから、今週、日経フォーラム「アジアの未来」に出席するために、アジア各国から多くの要人が訪日されています。私(岩屋大臣)も、この間、フィリピン、カンボジアの外相と会談を行いました。またこの後、タイの外相、そして、バングラデシュの外務担当顧問とも会談を行う予定です。
東南アジアは、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、鍵となる地域です。この地域の国々との関係強化は、石破政権にとっての最優先の外交課題の一つであります。引き続き、アジアの声に耳を傾け、様々な課題の解決に向けて、共に行動してまいりたいと考えております。
(3)対シリア制裁の解除
【岩屋外務大臣】3番目は、対シリアの制裁解除についてです。
我が国は、これまでシリアの暫定政権が、包摂的な政治的な解決と国民和解に向けた対話に取り組んできたこと、また、今後も平和的かつ安定した移行に向けて取り組んでいく姿勢を見せていることを評価しております。
こうした状況を踏まえ、シリアの国民にとって、より良き状態が作り出されることが望ましいという観点から、本日、我が国が、シリアに対して科している制裁のうち、4団体に対する資産凍結などの措置を解除することといたしました。
シリアに関する国際社会の動向も注視しながら、今後も適切に対応してまいりたいと思っております。
冒頭、私(岩屋大臣)からは以上です。
中国による日本産水産物の輸入規制
【共同通信 阪口記者】冒頭、御発言ありました中国の日本産水産物の輸入再開についてお尋ねします。今回、具体的な手続を開始する方針で合意しましたけれども、先日の与那国島のブイ撤去などを含めて、日中間の大きな懸案が解決し、前進した形になりました。改めて、受けとめを伺えればと思います。それと、福島など10都県の輸入再開は対象外となったままです。こちらについても先ほど言及ありましたけれども、今後どうやって全面再開に向けて取り組むのか改めてお尋ねします。よろしくお願いします。
【岩屋外務大臣】対中外交の基本方針は、これまでも申し上げてきたとおり、「戦略的互恵関係」を包括的に推進して、「建設的かつ安定的な関係」を構築するということです。そういう取組の中で、課題と懸案を一つずつ減らしていく、そして、協力・連携できるものを一つずつ増やしていくことが重要だと考えて取り組んでまいりました。
こうした観点から、冒頭申し上げたとおり、今般、中国による日本産水産物の輸入規制を撤廃する作業が、正式にスタートするということは、大変喜ばしいことだと思います。この間、政府一丸となって、この課題に取り組んでまいりましたし、また、与党を始め、政治レベルの取組も行っていただきました。今回の合意は、一連のプロセスにおける一つの大きな節目だと受け止めているところです。
それから、残されたこの10都県産の農林水産物についてですけれども、福島第一原発事故以来、中国側が継続している日本産食品の輸入規制につきましては、我が国として、科学的根拠に基づく冷静な対応及び規制措置の即時撤廃を求めるという立場に変わりはありませんので、引き続き、政府一丸となって、中国側に撤廃を求めていきたいと考えております。
【香港フェニックステレビ 李記者】この中国の日本産水産物の輸入再開についてですけれども、大臣は、先ほど「大きな節目である」というふうにおっしゃいましたが、この問題が日中関係に影響する一因だというふうに、日本の中で受け止められているようなんですけれども、今回の再開というのは、日中関係の中で、どのような意義があるというふうにお考えですか。この大きな節目というのは、具体的にどのようなことを意味しているんでしょうか。
【岩屋外務大臣】日中間には、様々な課題がございます。この農林水産物の輸入規制というのも、その中の一つですが、この課題に解決の糸口を作れたということは、様々な残る課題についても取り組んでいく大きな端緒になっていくのではないかと考えておりますし、また、そのようになるように、引き続き、外交努力を重ねていきたいと考えております。
その意味で、一つの大きな節目というふうに申し上げた次第でございます。
対シリア制裁解除
【日経新聞 馬場記者】シリアの制裁解除についてお伺いします。冒頭も御紹介ありましたけれども、4団体への資産凍結の解除ということで本日閣議了解されたとのことですが、米国やEUなどとも足並みを揃えた措置となりましたが、日本も今後、国際機関や、また、二国間でも支援を再開していくことになると思います。その点について、政府としての方針をお伺いします。
【岩屋外務大臣】昨年12月以降のシリアにおける情勢の推移については、我が国としても重大な関心を持って注視してきました。そして、暫定政権にも関与しながら、平和的かつ安定した移行を働き掛けてきたところです。その上で、これまでのシリアの暫定政権の様子を見ておりますと、包摂的な政治解決、それから、国民和解に向けた対話に取り組んできていると、そして、今後も、平和的かつ安定した移行に向けて取り組んでいくという姿勢が見られておりますので、この点を評価して、国際社会とも歩調を合わせる形で、今般の制裁解除の決定を行ったところでございます。
今後も、シリアの暫定政権が、国際社会と協調して、平和的かつ安定した移行を実現をするということを期待したいと思います。我が国としては、シリアの平和と安定を実現するために何が効果的かという観点から、引き続き、G7を始めとする国際社会と連携しながら対応していきたいと考えております。
また、我が国は、本年3月に、UNICEFを通じた5百万ドルの医療施設の修復支援を実施しております。これまで一貫して、そのシリアの国民を支援してきておりまして、今後もシリアの国民に寄り添った支援を継続していきたいと考えております。
対イスラエル外交
【パンオリエントニュース アズハリ記者】
(以下は英語にて発言)
日本は、力によって現状を変更しようとする国々に対し、繰り返し反対の立場を表明し確認してきました。
これが、日本がロシアに対し制裁を科した理由です。しかし、日本はこの原則について選択的であるように見えます。
ロシアに対しては制裁を科した一方で、日本はイスラエルとの関係を改善しており、武器の購入や購入計画を進めています。
イスラエルは、ガザ地区とヨルダン川西岸地区の一部を占領しており、既にゴラン高原を併合しています。これらの制裁措置と、日本が、力による現状変更に反対する立場は選択的であるのか、なぜ選択的なのか、そして、これが世界の平和実現に役立つと考えるか、お聞かせください。
【岩屋外務大臣】まず、ロシアのウクライナ侵略とガザ情勢は、経緯や歴史的背景が異なる上に、ハマスによるテロ攻撃を直接のきっかけとしたイスラエルの行動と、ロシアが一方的にウクライナを侵略しているという行動を、同列に扱うことは適当ではないと考えております。
今般のイスラエルによるガザの再占領や軍事作戦の拡大によって、もう既に深刻になっているガザの人道状況を一層悪化させることになっています。しかも、こういう行動は「二国家解決」の実現に逆行すると考えておりまして、反対をしているわけでございます。イスラエルが、こういった問題について適切に行動することを、これまでも強く求めてまいりました。
我が国としては、更に、ヨルダン川西岸地区におけるイスラエルの入植活動は、国際法違反であって、二国家解決の実現を損なうものであるとの立場、ICJもそういう判断をしていると思いますけれども、入植活動を完全に凍結し、現状を変更するような一方的な行為を控えるように、イスラエルに対して累次の機会に強く求めてまいりました。
先般、5月13日の日・イスラエル外相会談におきましても、私(岩屋大臣)からサアル外相に対して、これらの点について直接強く申し入れたところです。
我が国が「法の支配」を堅持するという立場に揺るぎはありません。今後とも、イスラエル政府に対しては、国際法に則って、適切に行動することを引き続き強く働きかけていきたいと考えております。
中国による日本産水産物の輸入規制
【NHK 米津記者】中国による日本産水産物の輸入規制についてお伺いしたいんですけれども、これまでの経緯として、中国との間で課題と懸案を一つずつ減らしていくという、お話もありましたけれども、これ、中国側、今回合意の狙いといいますか、中国側としても関係の改善に前向きであるから、このような合意に至ったというふうに見ていらっしゃるのかということと、あともう一点、手続の開始ということですけれども、具体的にスタートしていく、輸入が再開される見通しをどのように見てらっしゃるかお願いします。
【岩屋外務大臣】まず、中国側の意図について、私どもから断定的に申し上げることは控えたいと思います。
ただ、石破総理と習近平(しゅう・きんぺい)主席との首脳会談で、戦略的互恵関係に立ち戻って、建設的・安定的な関係を作っていこうという首脳同士の合意に基づいて、これまで外相会談などもやってまいりまして、様々ある課題の中の一つに、日本産水産物の輸入規制撤廃ということを取り上げて取り組んでまいりました。
私どもも、「戦略的互恵関係」を、しっかりと推進していきたいという考えで、この協議に臨んでまいりましたし、おそらくは中国側も同様の気持ちで臨んでいただいたのではないかと考えているところでございます。
そして、具体的な手続ですけれども、中国側において輸出関連施設の再登録が必要となります。輸出関連施設の再登録の申請は、ALPS処理水の海洋放出前に、中国側に登録されていた施設から開始されることになっていきます。したがって、先ほど申し上げたように、海洋放出前の時点で、10の都県の施設の登録は認められていなかったために、今回は、それが除外されたということです。
したがって、こういう手続を一つ一つ踏んでいきながら、残る10都県産の水産物についても輸入の解禁を求めていきたいと思います。
それから、まとまった技術的要件とは何かということで申し上げますと、ALPS処理水の海洋放出前と同様に、放射性セシウム及びヨウ素の検査証明書、産地証明書及び衛生証明書の添付が必要になると承知しております。これ以上の詳細については、所管の農林水産省に確認をいただきたいと思います。
米国留学査証
【共同通信 阪口記者】米国のトランプ政権の「学生ビザ取得のための面接新規予約の一時停止」についてお尋ねします。外務省からも留学中の職員であったりとか、これから留学を予定している職員もいらっしゃると思います。現時点で把握している職員への影響についてお尋ねします。併せて、米国への留学を計画している日本人も多くいると思います。今後、日本政府として、この問題に対して、どのように対応していくのかお尋ねします。
【岩屋外務大臣】御指摘の件をめぐって、米国へ渡航予定の方々から不安の声が上がっています。政府としても高い関心を持って対応してきております。そして、米側に対しては、情報提供をしっかりやってもらいたいということを申し入れております。本件に関して、緊密に米側と意思疎通を行っているところです。
現在、駐日米国大使館からは、米国政府による新たな措置が示されるまでの当面の対応として、駐日米国大使館においては、学生査証の取得のための面接の新規予約を一時的に停止している。他方で、学生査証の申請自体は、引き続き受理していて、また、既に予約済みの面接については、予定どおり実施されているという説明を受けているところです。
今後とも、米側との緊密なやり取りを通じまして、更なる状況把握に努めながら、引き続き、適切に対応していきたいと考えております。
外務省においても、現在、米国の大学で二十数名が研修中ですし、これから研修に出る予定の職員もおります。特に、これから渡航予定の職員の査証申請手続への影響を注視しているところです。
外務省の在外研修は、語学の習得及び外務公務員として必要な基礎的知識、能力及び教養を増進する重要な機会です。将来の日米関係を含む日本外交を担う人材を育成していくという観点からも、米国における在外研修が円滑に実施されることが必要だと考えておりまして、適切に対応していきたいと考えております。