記者会見
上川外務大臣臨時会見記録
(令和6年7月19日(金曜日)18時52分 於:サラエボ(ボスニア・ヘルツェゴビナ))
冒頭発言
(大臣)今、スレブレニツァ虐殺メモリアルギャラリーへの訪問を終えました。本ギャラリーは、1995年に起こったスレブレニツァの虐殺を決して繰り返さないとのメッセージを語り継いでいくために建てられた記念館であります。虐殺の場から唯奇跡的に生存した男性が、失われた家族の御遺体を見つけるまでの話を伺いました。この紛争が残した凄惨な記憶は、30年経った今も生々しく存在していることを強く印象付けるものでありました。
このような悲惨な紛争の舞台となった1990年代のバルカン半島は、冷戦が終結し、欧州に平和への期待が広がっていた時期でありました。それから約30年、我々はバルカンの教訓を胸に刻み、一つひとつ地道な取組を具体化させ、平和への道のりを歩んできたはずでした。しかし今日、ロシアによるウクライナ侵略や中東における情勢、さらには東アジアにおける緊張の高まりによって、国際秩序は再び挑戦にさらされています。
こうした状況の中で今私(大臣)はサラエボの地に立ち、平和の重さを噛みしめる時、平和を維持するために多くの努力を欠かすことのできないということに改めて気づかされました。我が国は、ここ西バルカンが悲惨な紛争に見舞われた時期も、そして厳しい国際情勢下にある今日も、国際社会を分断・対立ではなく、協調へと導き、一人一人の人間の尊厳が尊ばれるような世界、まさに平和な世界にしていく取組を先導してまいりました。
我が国は、現地の国々による平和への努力を後押しするため、2018年に「西バルカン協力イニシアティブ」を発表し、さらなる域内融和、EU加盟に向けた社会経済改革を支援してきています。特に、地域の平和と安定のためには、経済の安定が大きな鍵となります。近年では、日本企業の進出事例も増えてきており、現地の雇用創出にも貢献しています。日本として引き続き、こうした動きをサポートし、各国の自立的発展を後押ししてまいります。
昨日、セルビアでは、首相表敬、外相会談において、EU主導のセルビア・コソボ間対話への建設的な関与について働きかけ、投資協定の正式交渉開始に合意いたしました。マツラ・ジェンダー平等担当大臣とは、域内融和プロセスに、女性・平和・安全保障、いわゆるWPSの視点を取り入れる重要性について問題意識を共有しました。ここボスニア・ヘルツェゴビナにおきましては、民族間の協調を呼びかけるとともに、日本の変わらぬ関与、WPSの取組強化を説明いたしました。
特に、同国の安定のため、我が国は国境警察に対する監視カメラ及び救急車の供与を進めています。さらに、今後、森林火災リスク削減のための能力強化や同国の経済発展に向けた観光開発のための専門家派遣を実施いたします。また、文化外交の一環として、サラエボ市内の書店及び国際交流基金の巡回展として現在ボスニア・ヘルツェゴビナ博物館で行われている漫画展を視察いたしました。この後、外交関係樹立15周年の節目を迎えるコソボを日本の外務大臣として初めて訪問いたします。
セルビア・コソボ間対話に関し、コソボ側に対しても建設的な関与について働きかけるとともに、二国間関係や国際場裏での協力について意見交換する予定であります。今回の西バルカン訪問は、国際社会の分断と対立が深まる中、かつて戦火に苦しみ、今なお融和と復興の途上にある国々において、平和への思いを新たにするとの強い思いを持って臨みました。平和がいかに儚く崩れてしまうものか、一度崩れた平和の再構築がいかに難しいかを思い知らされる機会であるとともに、分断と対立が深まる現在の国際社会において、一貫して現場に寄り添い支援してきた日本への強い期待に触れる機会ともなりました。このような問題意識に沿って今後ますます平和外交を展開してまいりたいと、こうした決意を新たにしたところでございます。
質疑
(記者)西バルカン地域ではウクライナ情勢の影響やEUの加盟交渉が長引くなどして中国・ロシアの影響力増大が懸念されています。こうした中での西バルカン地域の今回の大臣の訪問の意義についてお考えを伺います。
(大臣)ここ西バルカン地域におきましては、特にロシアによるウクライナ侵略以後、各国による影響力拡大の競争が激化しております。こうした中、日本は、国際社会を分断・対立ではなく、協調へと導き、一人一人の尊厳が尊ばれる平和な世界を希求しているところであります。こうした考えに基づきまして、我が国は西バルカンの平和と安定、域内の協力の推進、そして欧州統合を後押しする「西バルカン協力イニシアティヴ」を進めてまいりました。
今回、各会談におきまして、こうした日本の考え方と取組を具体的に説明いたしました。これに対しまして、各国からは高い評価を受けるとともに、今後の引き続きの協力に対する大きな期待も寄せていただくことが出来ました。今回の訪問の成果につきましては、しっかりとフォローしながら、欧州の平和にとって重要な西バルカン、この地域の平和と安定に貢献していきたいと思います。
(記者)3点伺いたいと思います。大臣は先日、カンボジアで地雷対策に関する第三国協力を進めていく考えを示されました。ボスニア・ヘルツェゴビナも紛争後、地雷対策が課題となっていると思いますが、日本の支援の状況と、今後新たにカンボジアとの第三国協力を活用した支援策などを打ち出す考えはおありでしょうか。また、大臣が重視されているWPSの分野でも同様に、今回の訪問国と新たに協力をご検討されているかも伺います。最後に、ウクライナでの和平を展望する上で、今回の訪問ではどのような示唆や成果がございましたでしょうか。ウクライナの和平に向けた日本外交にどう生かしていくか伺います。
(大臣)まず、地雷対策支援については、先般日カンボジア地雷イニシアティブを発表いたしまして、その中で第三国での地雷対策支援を打ち出したところであります。この西バルカン地域につきましては、我が国は地雷が大きな課題となってきたボスニア・ヘルツェゴビナに対しまして、西バルカンでの地雷除去の知見を有するスロベニアと協力などして、これまで地雷除去の支援事業を行ってきたところであります。我が国は、来年ウクライナにおける地雷対策に関する国際会議を主催する予定でございます。昨日の外相会談におきましても、コナコビッチ・ボスニア・ヘルツェゴビナ外相との間におきまして、この会議に向けた連携を確認いたしました。本会議を昨年開催したクロアチアをはじめとする西バルカン諸国とも連携をし、同地域が有する地雷対策の知見、これを生かしながら、この会議の準備を進めてまいりたいと考えております。ご指摘いただきましたカンボジア地雷除去の支援につきましては、まさにウクライナの地で協力を行っているところでありまして、この会議に向けましても協力していきたいと考えております。
また、二点目、WPS分野での協力につきましては、セルビアでは、女性のエンパワーメント等を担当するマツラ大臣と意見交換を行い、また、ここボスニア・ヘルツェゴビナでは女性支援事業、平和構築に従事していらっしゃいます国際機関やNGOの女性の皆さんと意見交換を実施いたしました。次の訪問国コソボでも、女性・子ども支援事業、これを積極的に展開されているヤヒヤガ元大統領と意見交換を行う予定でございます。こうした意見交換を通じまして、紛争を乗り越えるための努力への女性の関与、また女性や子供の視点、ここもプロセスに組み込んでいくということが、この地域の将来にとって重要であるということを痛感したところでございます。今回の意見交換を糧として西バルカン地域とも、WPSという取り組みにつきましてさらに連携していきたいと考えております。
最後に、ウクライナ和平に向けました成果について、今回の西バルカン訪問につきましては、ロシアによるウクライナ侵略に象徴されるような国際社会の分断と対立が深まっている中におきまして、かつて戦火に苦しみ、今なお融和と復興の途上にある西バルカンの国々において、平和への思いを新たにするという、こうした強い思いをもって臨んできたところでございます。ロシアによりますウクライナ侵略が長期化する中、先般スイスでウクライナ平和サミットが開催されたところであります、ウクライナにおける公正かつ永続的な平和の実現におきましては、残念ながら未だ遠く困難であるというのが現状です。今回、西バルカンを訪問し、平和がいかにもろく崩れてしまうものかということ、また、一度崩れた平和の再構築、このことについても大変難しい課題であるということも痛感したところであります。だからこそウクライナに一刻も早く公正で永続的な平和を実現をし、国際社会の分断・対立ではなく、協調へと導き、一人一人の尊厳、これが守られる平和な世界にしていく、この努力については惜しまず、しかし迅速に、力を合わせて、これを達成していかなければならない、こういう思い、決意をもってこれからも進めてまいりたいと考えております。