記者会見
上川外務大臣会見記録
(令和6年5月17日(金曜日)14時12分 於:本省会見室)
冒頭発言
科学技術外交とODA
【上川外務大臣】昨日、松本外務大臣科学技術顧問及び小谷同次席顧問から、「科学技術外交とODA」に係る提言をいただきました。
この提言は、松本顧問が座長を務める「科学技術外交推進会議」におきまして、ODAを活用して科学技術外交を推進するために必要な取組について、取りまとめていただいたものであります。
外務省としては、この提言を踏まえまして、民間やアカデミアを始め、多様なパートナーと連携し、我が国の科学技術の途上国における社会実装につなげるためのODAの活用を進めていきたいと考えています。
特に、我が国の科学技術を活用することで、地雷対策にイノベーションをもたらすことができると考えております。この分野で、多くの知見が蓄積されている民間セクターとも連携し、まずは地雷対策の分野で、先行して提言を実現してまいります。
同時に、開発途上国での社会実装を通じて得られたノウハウ、これを我が国に還流し、国内における更なるイノベーションにもつなげる仕組みの構築についても提言いただきました。外務省としても、多様なステークホルダーと連携して、そのようなエコシステムの実現を目指していく考えであります。
私(上川大臣)からは以上です。
新たなODAの在り方
【読売新聞 上村記者】冒頭、今、ご発言のあったODAと科学技術の他に、その前日に、自民党の外交部会などから、新たな時代を踏まえたODAの在り方についての提言と決議を手交されました。今年は、ODA開始から70周年という節目の年でもありますけれども、日本の国益という点も踏まえて、大臣ご自身が、新たなODAというのは、どのようにあるべきか、お考えをお聞かせください。
【上川外務大臣】本年でありますが、我が国が国際協力を開始してから70周年を迎えます。ODAを通じまして、これまで多くの開発途上国の発展に尽力してきました。その確かな実績は、我が国の成長と、また信頼にも寄与していると考えております。
これらの国々は、「グローバル・サウス」として、今や世界に大きな存在感を示しております。これまでの支援の対象国、対象先から、今後の国際社会を担うパートナーになっておりまして、我が国といたしましても、次のフェーズに向けた新たな取組を、こうした国々とも、パートナーシップの上で、検討していく必要があると考えております。
こうした考えの下、昨年、開発協力大綱が策定されましたが、この下におきましては、オファー型協力を打ち出し、そして、開発途上国の課題解決と同時に、様々なパートナーとの社会的価値の「共創」によりまして、我が国の国益実現にも資する取組を強化したところであります。
本年3月に、私(上川大臣)の下に、「開発のための新しい資金動員に関する有識者会議」を立ち上げまして、冒頭の発言でご紹介いたしました科学技術外交推進会議の提言なども踏まえまして、開発途上国で得られたノウハウ、これを我が国への環流のためのエコシステムの形成など、時代に即したODAの在り方について、示してまいりたいと考えております。
台湾総統就任式
【NHK 五十嵐記者】台湾の関連で伺います。来週20日に、台湾の頼清徳(らい・せいとく)次期総統の就任式が行われる予定です。日本として、頼総統の下で、どのような日・台湾関係を構築したいお考えでしょうか。また、就任式に当たり、祝賀メッセージの発出など、日本政府として、どのような対応を予定しているか伺います。
【上川外務大臣】5月20日に、台湾で、正副総統の就任式が行われます。頼清徳氏が総統に、また、蕭美琴(しょう・びきん)氏が副総統に、それぞれ就任されるものと承知しております。
台湾は、我が国にとりまして、基本的な価値観を共有しております緊密な経済関係と、また人的往来を有する極めて重要なパートナーでありまして、大切な友人であります。
政府としては、台湾との関係を非政府間の実務関係として維持していくとの基本的立場を踏まえながら、日台間の協力と交流の深化を図っていく考えであります。
就任式に際しましても、今申し上げたような、我が国の基本的立場を踏まえ、適切に対応してまいりたいと考えております。
G7広島サミットから1年
【日経新聞 三木記者】19日で、広島サミットの開幕から1年を迎えます。この間、1年間の国際情勢の変化について、大臣、どのように分析されていますでしょうか。また、広島サミットでは、インド太平洋や中国との向き合い方などについて重点的に議論されました。今の国際情勢を見て、広島サミットの議論が、どう生かされているのか、お考えを伺います。
【上川外務大臣】広島サミットから1年がたった今も、世界は歴史の転換点にあると、日々、私(上川大臣)も実感しているところであります。今なお、ロシアのウクライナ侵略が続いておりますし、また、中東情勢につきましては、緊迫度を高めているという状況でございまして、国際社会の分断と対立が深まる中、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化し、また人間の尊厳が尊重される世界を実現することが、極めて重要と考えております。
そのために、G7を始めとする、この同志国間の連携を更に強化するとともに、グローバル・サウスと呼ばれる途上国・新興国とも、幅広く協力していくことが、これまで以上に求められていると考えております。
この点、G7の広島サミットにおきましては、今振り返ってみましても、非常に有意義な成果を上げることができたと考えております。法の支配、また、G7を超えたパートナーとの関係強化という二つの視点から議論を行い、G7の結束を対外的に示すことができたものと考えております。
また、グローバル・サウスを含みます招待国の首脳を交え、法の支配や、また、国連憲章の諸原則の重要性につきまして、認識を共有したところでございます。これは、日本がリーダーシップを発揮し、分断と対立ではなく、協調の国際社会の実現に向けた大きな一歩になったと考えているところであります。
また、日本は、広島サミット及び昨年のG7のそれぞれにおきまして、議長国を務めたところでありますが、インド太平洋についての議論も主導することができました。食料や、開発、保健、気候・エネルギー、あるいは、AIという多分野におきまして、グローバル・サウスとも協力して、具体的な行動をとっていく姿勢、これを示すことができ、大変有意義であったと考えております。
JPO派遣制度50周年
【共同通信 西山記者】国際機関への人材派遣制度についてお伺いします。今年、JPO(ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー)制度が、開始から50周年を迎えました。これまでの成果や意義、今後の課題について、よろしくお願いします。
【上川外務大臣】本年まさに、50周年を迎えましたJPOの意義、そして、成果、今後の課題ということでご質問がございましたが、まず、意義に関しましては、このJPOは「国際社会で活躍する未来のリーダー」、これを「日本から世界へ」、そうした思いのもと、意欲ある日本の若い方々を国際機関に派遣をし、国際機関の職員としてキャリアをスタートする制度として、1974年に開始され、まさに、50周年を今年迎えたところであります。
その成果でありますが、これまでに2,000名を超える方々を派遣することができました。貧困や軍縮など、国境を越えた課題解決のため、日本の「顔」として、世界各地で活躍をされています。私(上川大臣)も、先日お会いをいたしました中満国連事務次長、JPOのご出身であります。また、野田UNDP危機局長もJPOのご出身であります。まさに、この日本人の女性が、国連幹部職員として活躍される出発点、これがJPOであったということを考えると、この制度を創設した、この長い歴史ではございますが、その意義は、極めて重要であると思っているところであります。
今後の課題でありますが、JPOの派遣を修了した方々が、国際機関におけるポストをより多く獲得をし、そして、キャリアを重ねていくことが重要であると考えております。外務省といたしましても、引き続き、国際機関と連携をしつつ、若い方々を後押ししていく、一人でも多くの方々に、国際機関で働くということをキャリア・デザインの一つに組み入れていただくことができるよう、そして、JPOにも積極的に応募していただきたいと考えております。
能動的サイバー防御
【朝日新聞 松山記者】能動的サイバー防御についてお伺いします。本日から、自民党の方で能動的サイバー防御に関する議論が始まりました。政府の方でも、早期に有識者会議を開くという方向で調整をされているかと思いますが、省庁横断的に取り組むこの課題について、外務省として、どのように取り組んでいかれるか、お考えをお聞かせください。また、昨年、日本の防衛機密が、中国の軍によりハッキングされて漏えいしたということについて、米国側から警告を受けたというような報道もございました。大臣、外務大臣として、外交を司る立場でいらっしゃいますけれども、ふだんの外交の中で、こういった能動的サイバー防御導入の重要性について、どのように各国から聞かれてらっしゃるか、また、リクエストなど聞かれていらっしゃるか、お伺いいたします。
【上川外務大臣】まず、能動的サイバー防御の実現に向けた法案ということで、可能な限り、早期に法案をお示しすることができるよう、内閣官房を中心といたしまして、政府全体で検討を加速しております。外務省といたしましても、しっかりと関与してきているところであります。
能動的サイバー防御の必要性につきまして、近年のサイバー空間におきましての厳しい情勢を踏まえますと、政府機関や、また重要インフラ等に対しまして、安全保障上の懸念を生じさせる重大なサイバー攻撃が行われる恐れがございます。こうしたサイバー攻撃につきましては、可能な限り、未然に排除するとともに、発生時には、この被害の拡大を防止する必要があると認識しているところであります。この点も踏まえまして、「国家安全保障戦略」で能動的サイバー防御の導入を確認したところであります。
情報のセキュリティの重要性につきましては、各国とも、そのことにつきましての認識、これは共用しておりまして、サイバーセキュリティにつきましては、十分な体制をとるよう、連携して取り組んできているところでございます。
様々な外交の舞台におきましても、こうした問題は、科学技術の進歩とともに、本当に直面する喫緊の課題であるとの認識は、私(上川大臣)の日本の取組を含めまして、共有していると認識しております。
「パンデミック条約」
【フリー・ジャーナリスト 高橋氏】「パンデミック条約」についてお尋ねします。「パンデミック条約」前書きのところに「新型コロナウイルスへの対応について、深刻な欠陥を露呈したことを認識している」とありますが、我が国は、mRNAワクチンが登場する前の2020年は、死亡者数が8,338人減っているのに対して、21年以降は20年を基準とすると、23年末までに、累計で48万1,000人以上死亡が増えています。一方、新型コロナの累計死亡者は、PCR陽性で亡くなった人全てを含めても、7万5,000人に届きません。我が国は、対応したことが深刻な失敗を招いたのに、同条約に反対の国が増える中、なぜ日本は、推進の立場を貫くんでしょうか。
【上川外務大臣】いわゆる「パンデミック条約」についてご質問でございますが、5月の27日から開催されます第77回の世界保健総会への条文提出を目指して、今、交渉が鋭意続いている状況でございます。
新型コロナウイルス感染症のような世界的な健康危機に対しましては、国際社会が一致して対応する必要があると考えております。
パンデミックに対する予防、そして準備、及び対応の強化に、真に役立つ国際的規範を作ることが重要であると考えております。また、規範が実効的であるためには、主要国を始め、多くの国が、合意して提出できる普遍性が必要であります。日本政府といたしましては、本件交渉に、引き続き、建設的に参加をし、交渉妥結に貢献してまいりたいと考えております。