記者会見

上川外務大臣臨時会見記録

(令和5年10月12日(木曜日)17時34分 於:タイ・バンコク)

冒頭発言

【上川外務大臣】10月8日から13日、外務大臣就任後初めての二国間訪問として、東南アジア4か国、ブルネイ、ベトナム、ラオス、タイを訪問しました。その際、50年間の長きにわたり先人たちが培ってきた「心と心」の繋がる真の友人としての深い関係の証を現地において肌で直接感じることができました。本年12月の日ASEAN特別首脳会議に向けた準備のためにも、大変有意義な訪問となりました。

 カウンターパートである各国外務大臣と長い時間を割いて密度の濃い協議を行ったほか、各国首脳や、他の閣僚や議員とも会談を行いました。さらに、現地に進出している日系企業の方々のお話も伺うことができました。

 この地域、そして国際社会が、気候変動を始め新たな共通の課題や厳しい安全保障環境に直面する中、ともに強靱性を高め、新たな未来を創るため、多岐にわたる分野について意見交換を行いました。自由で開かれたインド太平洋、FOIPとインド太平洋に関するASEANアウトルック、AOIPとの連携、ASEAN全体の連結性を高めるための支援、そしてAZECを含むカーボンゼロを目指すGXの取り組みやDX、感染症対策など新しい分野や科学技術面での協力は特に重要です。中でも、様々な側面を有する連結性の推進は、全ての国で、重要な論点として取り上げられました。さらに、私からは、女性、平和、安全保障、すなわちWPSの主流化についても、しっかり話をいたしました。

 そして、私が法務大臣時代から力を入れてきた法制度整備支援の成果が着実に進展していることを実感しました。ラオスにおいては実際に日本の支援によって完成した民法典を手にとることができました。また、現下の国際情勢を踏まえ、「法の支配」こそが、複雑な利益が絡み合う国際社会で各国の利益を守り抜くための礎となることを改めて確認することができました。

 さらに、次世代を担う子供たちを育む教育と人材育成、それを各国と連携して進めていくための人材交流の重要性を特に感じたところであります。各々の二国間協力と日ASEAN協力を連動させ、この地域、更に広く国際社会の平和と繁栄に資するものとしていけるよう尽力していきたいと思います。

 なお、今回の訪問中、会談の合間に書店に立ち寄り、それぞれの文化や歴史などについての書籍を購入しました。私は、活字議連のメンバーとして各地の活字文化に触れて参りましたが、訪問の際、こうした書店訪問を今後の外交活動にも役立てていきたいと思います。

 外交は継続が重要であります。今回の訪問における議論をさらに深め、12月の日ASEAN特別首脳会合に向け、具体的な成果に結び付けて参ります。

 最後に、情勢が厳しさを増すパレスチナ・ガザ情勢について一言申し上げます。今般のハマス等のパレスチナ武装勢力による攻撃により、極めて多くの罪のない一般市民が犠牲となっていることに大変心を痛めております。ここタイの国民の中からも犠牲者が出ており、誘拐をされそして人質となっている方々もおられます。

 日本は、このようなテロ攻撃を断固として非難します。まずは事態のさらなるエスカレーションによって犠牲者が増えることを防ぎ、人質となっている人々が一刻も早く解放されることが必要です。

 このため、今回の東南アジア訪問中、私は、ヨルダン、UAEの外務大臣と電話会談を行い、この後もエジプトの外務大臣、カタールの国務大臣と電話をする予定としております、さらにイスラエル外相との電話会談を最終調整中であります。今後も様々な関係者への働きかけしていく考えです。また、在留邦人の保護について万全を期すため、今回の訪問中も随時報告を受けつつ、私から、出国手段の確保も含め東京の関係部局に対して様々な指示を出して対応に当たっています。

 外務大臣として、在留邦人の安全確保に万全を期するとともに、事態の早期沈静化に向け、あらゆる外交努力を尽くしてまいります。

質疑応答

【記者】今回の外遊の総括と、ASEANの一体性の重要性について伺います。ロシアによるウクライナ侵攻やミャンマー情勢をめぐって、ASEANの対応の一体感が失われているとも言われます。今回の外遊ではそうした一体感の醸成や重要性を訴える機会になったかと思いますが、手ごたえはどうだったか、また、今後どういった取り組みが必要とお考えかお聞かせ下さい。

【上川外務大臣】日本は、これまで一貫してASEANの中心性・一体性を強く支持してきております。このような観点から長年にわたりASEANに寄り添ってその発展に協力をしてまいりました。現下の国際情勢にかんがみ、ASEANの一体性を維持・強化していくことは、引き続き最重要の課題であります。日本としては、こうした支援を続けてまいりたいと考えております。

 12月の東京におきまして開催されます、特別首脳会議でありますが、長年培ってきた相互の信頼を礎に、両者が共有する課題を見据えた将来の日ASEAN関係の方向性と新たな協力のビジョンを共同で打ち出す極めて重要な機会であり、年内に予定されております外交行事の中でも最重要なものの一つと捉えております。

 私は、日本との経済面でのつながりを更に強化していくこと、「法の支配」を促進すること、「女性・平和・安全保障」を力強く推進していくこと、多様な側面を有する連結性、これを高めていくこと、日本とASEANが手に手を携えて地球規模課題に対するレジリエンスを高め、解決に導いていくことを重視し、各国にも賛同を頂きました。

 今回の訪問では、これらの課題につきまして率直な意見交換を行うことができました。引き続きASEANの努力を支え、この地域が法の支配に基づく自由で開かれたものであるよう、共に取り組むとの決意を新たにしています。

【記者】外遊中にはイスラエル・パレスチナ情勢を巡って、ヨルダン、UAEなどの各国外相とも電話会談されましたけれども、9月に林前外相が中東を歴訪されて、アラブ諸国とパレスチナ支援での協力強化について確認した直後に、中東諸国とパレスチナ問題について会談することとなりました。日本政府に期待されている役割、果たすべき役割とはどういうことだとお考えでしょうか。また、今回の停戦仲介に日本政府として取り組むお考えがあるのかどうか。お聞かせください。

【上川外務大臣】冒頭で申し上げましたところでありますけれども、今般のパレスチナ・ガザ情勢を受けまして、この東南アジア訪問中に、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)の外相とそれぞれ電話会談を行い、事態の早期沈静化に向けて、連携していくことを確認した、また、この後、エジプトの外務大臣、カタールの国務大臣と電話会談を予定しております。さらにイスラエル外相との電話会談も最終調整中になっております。

 現地では既に多くの死傷者が出ておりまして、情勢は全く予断を許さない状況が続いているところでありますが、まずは人質となっている人々の即時解放を含む一般市民の安全確保が必要であります。そして、事態の早期の沈静化に向けました外交努力が求められております。

 また、中東和平を巡りましては、その実現に向けてこれまで多くの国が様々な努力を積み重ねてまいりました。日本も、「平和と繁栄の回廊」構想を始めとする具体的な取組を進めてきたところでございます。そして日本は、長年の協力関係に基づきまして、イスラエル、パレスチナを含む中東諸国・地域と良好な関係を築き上げてきたところでございますが、これは我が国の貴重な財産となっております。

 こうした先人達の積み重ねの上に立って、公正で永続的な平和の実現に向けて、様々な関係者への働きかけを含め関係国と緊密に連携をしながら、自らの役割を果たしてまいりたいと考えております。

【記者】イスラエル・パレスチナ情勢関連で伺います。イスラエル・パレスチナ情勢をめぐっては、アメリカやフランス、ドイツなど、欧米5か国は、イスラエルに対する結束した支持、これを打ち出しています。大臣先ほどおっしゃったように日本は中東での独自の外交を展開していますが、今年日本がG7の議長国であるという中で、この問題についてどういう立ち位置で取り組みたいお考えか伺います。

【上川外務大臣】今般のハマス等のパレスチナ武装勢力による残虐な無差別攻撃は正当化することはできず、日本として断固として非難をいたします。特に、罪のない多くの一般市民に対する攻撃や誘拐はどのような理由であれ正当化しえないものであります。刻々と動く現地情勢の中にありまして、人質となっている人々の即時解放を含む一般市民の安全の確保、そして事態の早期沈静化が極めて重要と考えております。

 このような観点から、日本政府といたしましては、二国間会談や国連、またG7を含む様々なチャネルや枠組みを活用しつつ、在留邦人の安全確保に万全を期するとともに、事態の早期沈静化に向けた取組を続けてまいります。

【記者】アメリカのブリンケン国務長官、それからイギリスのクレバリー外務大臣はそれぞれイスラエルを訪問されておりますが、上川大臣御自身はイスラエル、あるいはパレスチナを訪問されるお考えはありますでしょうか。また、岸田首相、上川外相がイスラエルの攻撃について「深刻な憂慮」と表明しましたが、昨日、岡野次官は「イスラエルは国際法に基づき自国と自国民を守る権利がある」と言うふうに発言されました。これは日本政府の立場として一歩踏み込んだ表現と捉えて宜しいのでしょうか。日本政府としての立場を改めて整理してお聞かせください。

【上川外務大臣】冒頭申し上げましたとおり、今般のハマス等のパレスチナ武装勢力によるテロ攻撃によりまして、極めて多くの罪のない一般市民が犠牲となっていることに大変心を痛めております。日本は、これを断固として非難いたします。

 人質となっている人々の即時解放を含む一般市民の安全確保、そして、事態の早期沈静化が極めて重要であります。これが我が国の考えの基本であります。刻々と動く現地情勢の中、その時々の情勢に応じて、我が国としての考え方を対外的に発信してきているところであります。

 昨日のコーヘン駐日イスラエル大使との会談における岡野次官の発言は、こうした政府の考え方に基づくものであります。

 私の訪問予定のお尋ねについてでありますが、現時点で何も決まったものはありません。私自身、各国・国際社会と引き続き連携をし、様々な関係者に対して働きかけるといった意思疎通をしっかりと行い、在留邦人の安全確保に万全を期するとともに、事態の早期沈静化に向けた外交努力を続けていくということに尽きると思います。

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