記者会見
上川外務大臣会見記録
(令和5年11月10日(金曜日)15時35分 於:本省会見室)
冒頭発言-上川外務大臣の米国訪問
【上川外務大臣】11月12日から11月16日まで、APEC閣僚会議、IPEF閣僚級会合、及び日米経済政策協議委員会、いわゆる経済版「2+2」に出席するため、アメリカ合衆国サンフランシスコを訪問します。
APEC閣僚会議においては、自由で開かれた貿易・投資の推進、地球規模課題への対応、女性や若者を巻き込んだ包摂的成長といった重要課題について、日本の立場を発信する予定であります。また、ロシアによるウクライナ侵略が、アジア太平洋地域における経済協力に影響を与えており、一日も早く終結させる必要性があるとの問題意識を共有する考えであります。
IPEF閣僚級会合においては、インド太平洋地域における持続可能で包摂的な経済成長を実現するべく、貿易に関する柱1、サプライチェーンに関する柱2、クリーン経済に関する柱3、及び公正な経済に関する柱4について、ハイレベルで議論を行い、建設的に貢献していく考えであります。
経済版2+2においては、外交・安全保障と経済、これを一体として議論をし、インド太平洋地域の持続的・包摂的な経済成長の実現、自由で開かれた地域経済秩序の維持・強化、経済安全保障分野における協力等を含め、経済分野での日米協力を拡大・深化させていく考えであります。
私(上川大臣)からは以上であります。
上川外務大臣の米国訪問(経済外交の意義、IPEF)
【朝日新聞 松山記者】APECの関連でお伺いします。大臣、先ほど、IPEFのことについても言及されましたけれども、四つの柱に向けて合意を目指す考えだと思いますが、これにおいて、日本は、これまでどのようなリーダーシップをとってこられたかについてと、日本の外務大臣として、どのような経済外交を目指すお考えか教えてください。
【上川外務大臣】今般、APEC経済外交、APEC及びIPEFと、様々な会議が同時に開催されるわけでありまして、そこに行ってくる予定であります。
APECの閣僚会議におきましては、この自由で開かれた貿易・投資の推進に加えまして、地球規模課題への対応、また、女性や若者を巻き込んだ包摂的成長といった重要課題につきまして、日本の立場を発信し、APECメンバーとともに、地域の持続可能な発展に向け議論に貢献してまいりたいと考えております。
また、インド太平洋経済枠組み、IPEFでありますが、これにつきましては、現在サンフランシスコにおいて、交渉会合が、今開催されているところであります。閣僚級会合の成果についてでありますので、予断を持ってお答えすることについては、差し控えさせていただきたいと思います。
いずれにいたしましても、日本としては、この米国によるインド太平洋地域の経済秩序への関与という戦略的な観点から、IPEFを重視しておりまして、また、各国が実質的なメリット、これを享受できる枠組みとすることを重視しております。そういう立場で、これまで取り組んできたところでございます。
早期に、具体的な成果につなげていくことができるよう、引き続き、建設的に議論に貢献してまいりたいと考えております。
中東情勢(日本が果たせる役割)
【共同通信 桂田記者】先日のG7外相会合の関連で伺います。会合では、中東情勢について各国と議論し、一致したメッセージを発信されました。議長国会見では、今後も議長国として、国際社会のパートナーと協力し、努力を積み重ねるとのご発言がありましたが、改めて、今回会合での議論も踏まえ、中東情勢において、日本が果たせる役割をどのようにお考えでしょうか。
【上川外務大臣】中東情勢をめぐる問題でありますが、宗教や民族、歴史が大変複雑に絡み合っており、その解決は容易ではないものと考えております。しかし、そのことを乗り越えて、あらゆる努力を重ねて行く必要性、これについては、歴史的なしがらみのない日本だからこそ、果たせる役割ではないかと考えております。それは、共に生きる未来を創っていくこと。「二国家解決」の実現に向けての支援、そして、パレスチナの経済的自立への支援、この二つが極めて重要だと考えております。
イスラエル・パレスチナにおきましては、双方の経済格差が顕著であります。パレスチナが経済的に自立するため、日本はこれまでも「平和と繁栄の回廊」構想などを推進し、協力をし、そして、友情と信頼の関係を構築してまいりました。
イスラエル訪問時に、ハマスによるテロ攻撃の犠牲者の御遺族や人質の御家族にもお会いをし、深い悲しみを共有したところであります。特に、UNRWAとともに訪日され、テロ攻撃発生により、故郷のガザに帰れなくなった子供たちに、ヨルダンの本部で再開をすることになりました。あのとき、この外務省の中で、「自分の未来は科学者になることだ」と、そう言っていたある子供と再会をすることになりましたが、本当に彼らの未来が、しっかりと実現することができるようにしていく政治の役割、そして、各国の指導者の役割ということについて、痛切に感じたところでございます。
憎しみや悲しみの連鎖を、何といっても立ち切ること、そして、共に生きる「二国家解決」の未来への支援は、イスラエル・パレスチナ双方と良好な関係にある日本だからこその役割ではないかと、こんなふうにも思っております。
現地を訪問いたしまして、日本への信頼の厚さを実感したところであります。現地の日本大使館がこれまで積み上げてきた友情、そして貢献、そして様々なネットワークから得ている情報を元に、中東における日本外交の総合力、これを駆使して、短期的には、人道状況の改善と事態の沈静化、中長期的に「二国家解決」を実現し、この地域の平和と安定を実現すること。そのため、様々な外交努力をしっかりと積み上げてまいりたいと考えております。
中東情勢(1日4時間の戦闘休止)
【NHK 五十嵐記者】イスラエル・パレスチナ情勢について伺います。米国のホワイトハウスは、9日、イスラエル軍が地上侵攻を続けるパレスチナのガザ地区北部で人道目的のために、1日4時間、戦闘を休止すると発表しました。これについての受け止めと、先ほどとも重なりますが、事態打開に向けた日本の取組について、大臣のお考えを伺います。
【上川外務大臣】御指摘の報道は承知しているところでございます。また、現地時間11月5日以降、イスラエル軍は、ガザ地区北部から避難するための回廊、これを設置しており、また局所的な戦闘休止の間に、多数の住民が同地区南部へ移動しているものと承知しております。
先般のG7外相会合におきましても、この人道的休止及び人道回廊の指示につきましては、一致をしているところであります。今般発表されました措置につきましては、その内容を含めまして、精査を行っているところではありますが、いずれにせよ、これらの措置が、実際に、緊急に必要な支援、そして、一般市民の方々の移動及び人質の解放につながることが、極めて重要だと考えております。
事態は予断を許さない状況が続いていくわけでありますが、我が国といたしましては、G7を始め、各国、そして、国際機関との間で緊密に意思疎通を行い、人道状況の改善、事態の早期沈静化等に向けまして、外交努力を粘り強く積み重ねてまいりたいと考えております。
G7(議長国としての残りの任期)
【読売新聞 工藤記者】G7の関連で伺います。大臣は8日の記者会見で、「G7議長国としての任期は残り2か月でなく、あと2か月もある」というふうにおっしゃいました。その上で、外相会合の成果について、「G7議長国として、今後グローバル・サウスの国々などに説明して理解を得ていきたい」ともおっしゃいました。APEC閣僚会議の機会を活用し、どのような国々と会談し、また、具体的にどのような点について説明して、理解を得ていきたいとお考えでしょうか。また、残りが2か月の議長国の任期中、大臣として、特に力を入れたいと考えておられることがありましたら、それも併せてお聞かせください。よろしくお願いします。
【上川外務大臣】まず、APEC閣僚会議の機会が極めて大事だということで、バイ会談、これにつきましては、できる限り開催し、そして、連携を深めていきたいと思っております。実際、どのような国々とバイ会談をするかにつきましては、現在調整中でありまして、いずれにしても、様々な機会を捉えまして、法の支配に基づく、自由で開かれた国際秩序の維持・強化等に関しまして、いわゆる「グローバル・サウス」と呼ばれる国々も含めまして、国際社会の幅広い支持と対応を得てまいりたいと考えております。
残り2か月のG7議長国の任期中に、特に力を入れたいことというご質問でございます。
この1年間を通じて、日本が議長国として、大きな責任を持つ立場で活動して積み上げてきたと実感しているところであります。
今週開催したG7外相会合においては、喫緊の課題であります、中東情勢、これに加えまして、戦略的に最も重要な地域でありますインド太平洋に関する議論や、また、これまで様々な形で議論を積み重ねてきたウクライナにつきましても、議論を行ったところであります。
こうした成果を踏まえつつ、中東情勢を含め、国際社会が直面する喫緊の課題について、議長国の責任をギリギリまで果たしてまいりたいと思っております。その上で、来年の議長国はイタリアであります。イタリアの外務大臣とも、こうしたことについて、また、G7の議題の中でも、こうした次なる議長国に、バトンをタッチするということについての確認もしたところであります。しっかりとG7と結束を高め、こうしたバトンが、しっかり渡すことができるように、私(上川大臣)としても、この残されたギリギリ2か月、頑張ってまいりたいと思っております。
中東情勢(非人道的行為に対する調査)
【パンオリエントニュース アズハリ記者】
(以下は英語にて発言)
イスラエルやアラブの報道では、ハマスがイスラエルの子供たちの首をはねたという証拠はないとするものが増えています。また、イスラエル民間人の犠牲者のほとんどは、イスラエル軍が家屋を砲撃した際にパニック状態にあり、イスラエル軍自身によって殺害されたとも言われています。パレスチナ当局者の中には、イスラエルの民間人を殺したのは誰かというイスラエルの主張について、国際的な調査を求めている者もいます。日本はイスラエルの主張に対する調査を支持しますか。
【上川外務大臣】ご指摘いただいた調査の詳細については、接しておりませんので、参加の有無も含めまして、ここで予断を持って発言することについては差し控えさせていただきますが、全ての行動は、国際人道法を含む国際法に従って行われるべきであります。イスラエルに対しましても、一般市民の保護、この重要性を伝達してまいりました。国際人道法を含む国際法に従った対応等を要請し続けてまいりたいと思っております。
中東情勢(日本の姿勢)
【アナドル通信社 メルジャン・フルカン記者】ガザ地区で、イスラエルの攻撃の中で、1万1,000人以上の民間人が殺害された、その70%以上が、罪のない女性と子供でした。G7外相は今週、ハマスを非難したが、ガザでイスラエルの攻撃にはもっと柔らかい言葉で反応しました。G7とは異なり、日本政府が、自らの立場を、より明確に表明することを求める日本国民の要求や呼びかけが見られます。日本としてG7パートナーから離れて、イスラエルによる罪のない民間人殺害を非難するか、あるいは、停戦を呼びかけるつもりでしょうか。日本政府は、ガザにおけるイスラエルの攻撃を非難しないというG7に同意しますか。
【上川外務大臣】国際情勢が不透明さを増す中にありまして、基本的価値や原則を共有するG7の連携は、ますます重要になっていると考えております。G7は従来からの様々な問題から、今動いている新たな課題まで、様々なテーマにつきまして、外務大臣の間で忌憚のないやり取りができる貴重な場と考えております。
我が国は、ハマス等によるテロ攻撃を断固として非難しつつ、「人質の早期解放や一般市民の安全確保」、そして、「全ての当事者が国際法に従って行動すること」、「事態の早期沈静化」を求めているところでございます。この立場は当初から一貫して、明確にして発信してきてまいりました。
イスラエルに対しましても、一般市民の保護の重要性、また、国際人道法を含む国際法に従った対応等を要請してきておりまして、先般、私(上川大臣)のイスラエル訪問におきましても、私(上川大臣)からコーヘン・イスラエル外相に、改めて直接お伝えをしたところであります。
引き続き、人道状況の改善や、事態の早期沈静化に向けた外交努力を、粘り強く積極的に続けていくとともに、「平和と繁栄の回廊」構想等の、日本独自の取組などを通じまして、当事者間の信頼醸成に取り組んでまいりたいと考えております。
中東情勢(1日4時間の戦闘休止)
【日本経済新聞 根本記者】米国政府が発表した、ガザへの人道支援のための1日4時間程度の戦闘休止に関して、先ほどG7外相会合の議論も踏まえた御所感をお伺いしましたが、民間人退避や人質の解放、物資の支援に向けて、今回の措置の時間や地域・機関を広げていく必要があるとお考えでしょうか。また、今回の措置は、恒久的な停戦につながる一歩だと捉えているのか、その点についてご見解をお願いします。
【上川外務大臣】まず、今回、様々な情報がございまして、それにつきましては承知しているところでございます。現地時間の11月5日以降の、この事態につきまして、イスラエル軍がガザ地区北部から避難するための回廊の設置、局所的な戦闘休止の間に、多数の住民の方々が南部の方に移動していると承知しております。
先般の外相会議におきましても、この人道的休止と人道回廊の支持で一致しているところでありますが、この目的といたしましては、今の人道状況が極めて厳しいということを受けて、そして、また、一日も早い人質の解放も含めて、そうした問題を解決するための一つの手段として、ここを位置づけているところであります。この措置が実際に緊急に必要な支援、あるいは一般市民の移動、そして人質の解放につながる、このことが重要であります。
今、事態は予断を許さない状況でありますが、そういったことが、しっかりと実現できるように、G7を始めとした各国・国際機関との間で緊密に意思疎通を行って、その改善の成果がしっかりと上がり、そして、更に、その先に大きな方向性の中で、平和的解決ができるような方向に結びつけていくことができるよう、努力してまいりたいと考えております。
G7の在り方
【インディペンデント・ウェブ・ジャーナル 濱本記者】皆さんの質問と、ちょっと重なる部分もあるんですけれども、G7について。G7外相会合では、米国が主張する「戦闘の人道的休止」で一致しましたが、これは「一時」であって、「停戦」を求めるものではありませんでした。一方、10月27日の国連総会で、圧倒的多数で採択された決議は、ハマスを非難せず、イスラエルの退避命令の撤回と、「人道的休戦」を求める停戦に近いものでした。米国が異常にイスラエルを偏愛していることは、世界中に知られていることですが、米国主導のG7も、もはや世界で孤立しているのではないでしょうか。そこに、日本が無批判に加わり続けていて、国益にかなうとお考えでしょうか。
【上川外務大臣】日本は、今年G7議長国として、法の支配に基づく、自由で開かれた、国際秩序の維持・強化、また、国際的なパートナーへの関与の強化等を優先課題といたしまして、G7の議論をリードし、成果を挙げてきたと考えております。
同時に、日本としては、様々な地域的な枠組みや、また同志国等との間におきましても、これらの重要な課題について個別に意思疎通をしてきているところでございます。引き続き、こうした外交努力を継続し、国際社会の中で積極的な役割を果たしてまいりたいと考えております。