記者会見

茂木外務大臣会見記録

(令和2年1月17日(金曜日)15時38分 於:本省会見室)

冒頭発言

本年の抱負

【茂木外務大臣】年明けから海外出張が続いておりまして,考えてみましたら今年初めての会見ということになります。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
 年明けの東南アジア訪問に続きまして,今週は米国を訪問して日米,日韓,日米韓外相会談を行いまして,中東情勢,北朝鮮情勢について突っ込んだ議論を行ったところであります。年始から中東情勢はじめ国際情勢に様々な変化がありまして,私(大臣)自身も慌ただしい時間を過ごしてきましたが,引き続き緊張感を持って,「包容力と力強さを兼ね備えた外交」を展開していかなければならない,そのように感じております。
 今年は日米安全保障条約の発効から60周年に当たる節目の年であります。今や日米同盟の裾野は外交安保から経済,ルール作りと広がっており,より一層世界全体に貢献するものへと進化させていきたいと思います。また「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組など,日本ならではの外交構想も展開していきたいと考えております。年明けの東南アジア歴訪でも,このFOIPとASEAN,AOIPのシナジーを追求するということで,各国とも意見が一致したところであります。同時に緊張する中東情勢,北朝鮮をめぐる諸懸案への対応,中国,韓国,ロシアといった近隣諸国外交,新たなルール作りを日本が主導する経済外交,地球規模課題への対応などに焦点を当てて,さらに歩を前に進めていきたいと思っております。
 夏には,東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。多くの海外要人や外国人観光客の訪日が見込まれるわけでありますが,日本の豊かな文化や食,美しい自然,先進的技術,そして日本人のホスピタリティー,こういった様々な魅力を今年世界に向けて更に発信をしていきたいと考えております。

大臣のインドネシア訪問

【トリビューン・ニュース リチャード・スシロー記者】先週なんですけれども,インドネシアに訪問したとき,MRTジャカルタに乗られましたが,その件でMRTジャカルタはいかがでしたでしょうか。大臣の反応,ご意見が聞きたいです。もう一つはナトゥナ島の話なんですけれども,今まで中国側からナトゥナ島は自分のものと言われ,ものすごくインドネシアの方は怒ったのですが,日本側から見た大臣の考え方はどう思われますでしょうか。コメントが欲しいです。お願いします。

【茂木外務大臣】まず地下鉄(MRT)は私(大臣)も試乗をして,6駅乗って,実際にASEANの新しい事務局の方でスピーチを行うということをやりましたが,非常にパンクチュアル,時間が正確でありまして,まさに日本の協力というのは,単に物を作るだけではなくて,人材を育てる,そしてまたノウハウを移転する,こういった意味でも生かされているということを,改めて地下鉄を試乗して実感をしたところであります。
 今回のインドネシア訪問では,ジョコ大統領そしてルトノ外務大臣と,こういったインフラ整備,人材育成の分野で具体的な協力を進めることを確認いたしました。また自分からは,東日本大震災後の日本産食品への輸入規制について,インドネシアが規制の緩和を決定したことを歓迎するとともに,規制の早期撤廃を求めたところです。また,戦没者の遺骨収集事業の早期再開に向けた協力を求めました。
 地域の問題についても突っ込んだ議論をさせていただきました。南シナ海につきまして,力による一方的な現状変更,こういった試みに対しては日本としても断固反対する,こういう立場を明確に申し述べたところでありまして,南シナ海,北朝鮮といった地域の課題,更には経済連携協定,RCEP,これについても緊密な連携することを確認したところであります。今回,MOU,これは締結をしておりませんが,二国間の協力案件,全体を見る,総覧する枠組みを立ち上げることで一致しておりまして,この枠組みを通じて各分野で具体的な協力も進めて行きたい,こんなふうに考えております。

ロシア情勢(ロシア内閣総辞職)

【産経新聞 力武記者】ロシアで15日に内閣が総辞職しました。茂木大臣は先日モスクワを訪問して,ラヴロフ外相と平和条約締結交渉について本格的な交渉を始められたわけですけれども,今後ラヴロフ外相が再任されるかどうかというのはまだ見通せないところだと思いますが,今回の内閣総辞職が今後の平和条約交渉に与える影響をどのように見ておられますでしょうか。

【茂木外務大臣】日露はアジア太平洋地域の重要なパートナーであります。地域の大国であります両国が安定した関係を築き協力を深めることは,地域の安定と発展にとってきわめて重要だと考えております。内閣改造が行われるということでありますが,もちろんラヴロフ大臣ともオレシキン大臣ともいい関係を築いてまいりました。ロシア側が,誰が大臣であるにしても,政府として領土問題を解決して平和条約を締結する,この基本方針の下,粘り強く交渉をしていく,こういう方針に変わりはない。またこれは安倍総理,そしてプーチン大統領の間で,56年の共同宣言を基礎として,平和条約締結の交渉を加速化させる,こういう合意の下で行われている事でありますから,誰が外相であっても,ラヴロフさんがいやというわけではまったくないですよ,しっかり交渉を進めていきたいと思います。

【NHK 渡辺】今の質問に関連です。プーチン大統領が年次教書演説の中で憲法改正をロシアで行うということを述べました。その中で,条約や国際取極よりも憲法が優先する点を明確にすると述べているんですけれども,その観点からいきますと,56年の日ソ共同宣言,そういった条約というものが憲法より重要性が下がるということになってきますと,条約交渉にどんな影響があるのかということを注視しているのですが,日本側としてその点何か働きかけるということは考えていらっしゃいますでしょうか。

【茂木外務大臣】年次の会見によって,具体的にどういうことが動くというのは今の段階で申し上げるのは難しいなと思っております。スペシフィックにこの何れかの,例えば共同宣言を持ち出してお話ししていることではないと,こんなふうに考えております。

韓国情勢(文在寅大統領の新年記者会見)

【聯合ニュース イ記者】韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は,新年記者会見で,徴用の問題解決のために日本も頭をつきあわせる必要がある,知恵を絞りたいという見解を示しました。そして韓国の提案に対して修正の意見があったら積極的に出してくださいと促したんです。そして最近,日韓両国の徴用被害者の支援団体と弁護士らが,徴用の問題の解決策を議論する両国による協議会の設置を提案いたしました。それに関して大臣のご見解をお願いします。

【茂木外務大臣】まず,原告側やその支援団体等の動きの一つひとつについて,コメントすることは差し控えたいと思います。旧朝鮮半島出身労働者問題に対する我が国の立場は一貫しておりまして,韓国に対して国際法違反の状態の是正を引き続き強く求めていきたいと思っております。韓国政府として既に解決案を示していると,どれが解決案なんだかよく分かりません。少なくともボールは韓国側にあるのは間違いない,こんなふうに考えます。

【聯合ニュース イ記者】両国の支援団体は,「徴用による人権侵害の事実を日本政府と企業が受け止めて謝罪することが,問題解決の出発点になるべきだ」というような見解を示しました。大臣がおっしゃった,解決済みとか国際法律の批判とかそういう話は,結局請求権の問題,いわゆる財産,請求権,お金の問題に関する見解の表明だと思うんですけれども,支援団体が謝罪ということ,人権侵害の事実を認めるということを主張したのは,結局被害者本人たちの心の問題,感情の問題に対する立場を取り上げていると思うんですけれども,それに関してはどういうふうに考えていらっしゃるんですか。

【茂木外務大臣】お金の問題だとは申し上げておりません。問題が解決したかしていないかということでありまして,それは日韓両政府で合意した問題であると考えています。国と国との約束,これは守られるべきだ,このように思っております。

中東情勢(緊張緩和に向けた働きかけ)

【パンオリエントニュース アズハリ記者】
(以下は英語にて発言)

 中東情勢について伺います。先般,安倍総理は,中東地域における緊張を理由に複数の日本政府関係者が訪問について中止すべきとの懸念を有していたにもかかわらず,予定されていた中東訪問を実施するとの大胆な決断をされました。日本政府は,中東地域の緊張緩和に向けて一層取り組む決意を表明したように見えます。安倍総理による訪問の結果を受けた,次なるステップについてお聞かせください。
 特に,米国はイランに対する制裁を強化していますが,これについての日本政府の立場についてもお聞かせください。

【茂木外務大臣】
(以下は日本語にて発言)

 まずですね,国内で安倍総理の中東訪問について,concernがあったということについては,十分承知をいたしておりませんが,いずれにしても,安倍総理は中東情勢が緊迫の度を高める中,事態の更なるエスカレーションを避けるべく,我が国によります外交努力の一環として,1月11日から15日まで,地域の緊張緩和と情勢の安定化に重要な役割を果たしますサウジアラビア,UAE,そしてオマーンを歴訪したわけであります。
 安倍総理は各国の首脳レベルで率直な意見交換を実施しまして,全ての関係者が自制的に対応し,あらゆる外交努力を尽くすべきとの認識で一致をしたところであります。また,関係国の自制的な対応によって,緊張緩和の動きが見られるこの機会,これを生かして,地域の様々な問題について,対話を通じた平和的な解決に向けた機運を高めていくことが重要であるとの認識を共有したところであります。
 サウジ,UAE,MbS(ムハマンド・ビン・サルマン皇太子(サウジアラビア)),MbZ(ムハマンド・ビン・ザーイド皇太子(UAE)),極めて優れたリーダーもいるわけでありまして,そこと率直な意見交換ができたというのは非常に大きかったと,こんなふうに思っています。また,日本関係船舶の安全航行の確保を目的とした,自衛隊によります情報収集活動について,総理から説明を行い,各国から理解と支持を得たところであります。
 私(大臣)自身も冒頭申し上げましたように,今週は訪米いたしまして,ポンペオ長官と会談を行いまして,事態のエスカレーション,これは避けるべきとの認識で一致するとともに,引き続き関係国と緊密に連携しつつ,中東地域の平和と安定に向けた外交努力を尽くしていくことの重要性を,確認したところであります。
 我が国としては,米国と同盟関係にあります。そして,イランを始め,中東諸国とも友好関係を持っております。こういう関係を生かして,関係各国と緊密に連携して,中東地域の緊張緩和,情勢の安定化に向けて,粘り強い外交努力,継続をしていきたいと思います。

イラン情勢(米軍によるイランのソレイマニ司令官の殺害)

【共同通信 斎藤記者】イランの関連で補足してお伺いします。米軍によるイランのソレイマニ司令官の殺害の件では,アメリカや欧州の世論からもですね,国際法違反ではないかという指摘が出ています。この点について,大臣はどのように受け止められているか,所見をお伺いしたいと思います。

【茂木外務大臣】今の質問ですね,国会で今日,3回お答えしたとおりであります。

【共同通信 斎藤記者】分かっていますが,今日,最初の会見ですので,改めて大臣にお伺いしましたが,いかがでしょうか。

【茂木外務大臣】もう一回言う必要ありますか。聞いてらしたんでしょう。

【共同通信 斎藤記者】聞いてました。

【茂木外務大臣】ならいいでしょう。

【共同通信 斎藤記者】分かりました。

日米安保条約60周年(在日米軍)

【AP通信 山口記者】冒頭でも少しおっしゃいましたが日米関係についてお尋ねしたいんですけれども,今年安保60周年ということもあり,在日米軍の役割も含めて,ワシントンの方でも日本の役割をさらに資金的にも能力的にもいろいろ更なる役割を期待するという発言もあるようですけれども,そのあたりを含めて,今後日本としてはどのような役割を果たしていくのか,中東情勢も含めて少しお聞きできたらと思います。

【茂木外務大臣】1960年に日米安保条約が締結されてから,我が国を取り巻く安全保障環境,大きく変化をしてきておりますが,日米安全保障体制は我が国の外交安全保障の基礎であり続けた,このように思っております。そしてこの日米安全保障体制を中核とする日米同盟,いまや我が国のみならずインド太平洋地域,さらには国際社会の平和と安定の礎の役割を果たしていると思っております。この日米関係,これを外交安全保障から経済,そしてまたルールの形成,様々な分野に今拡大をしているところでありまして,今後も米国と緊密に連携をして,地域や国際社会の平和と繁栄の確保に取り組んでいきたいと思っております。
 19日で,署名からちょうど60周年を迎えるということでありまして,この60周年を記念して,19日,日曜になりますが,記念のレセプション,これも都内で開催する予定でありまして,日米の外務そして防衛の4閣僚によります共同発表,これも発出する方向で,今調整を行っております。

ゴーン被告人の出国(レバノン政府への対応)

【AP通信 山口記者】年末年始にかけて,元日産会長のカルロス・ゴーン氏が逃亡したということで大変話題になり,日本とレバノンの間で,今どのようなやりとりがあり,何か新たな,日本側としてはどのような申し入れをし,どのような反応を得ていらっしゃるのか,現状で教えていただければと思います。

【茂木外務大臣】ゴーン被告でありますが,裁判所から逃げ隠れしてはならない,海外渡航してはならない,こういう条件の下で,これを約束して保釈されていたにも関わらず,国外に逃亡して,刑事裁判そのものから逃避した行為は,どの国の制度の下であっても許されざるものだと,このように考えております。
 1月7日に,大久保駐レバノン大使からアウン大統領に対して,「ゴーン被告人が不法に我が国から出国をし,レバノンに到着したことは誠に遺憾であり,我が国として到底看過できるものではない」旨伝えるとともに,我が国として重大な関心を有する本件について,レバノン政府が,事実関係の究明を含め必要な協力を行うよう要請をいたしました。
 アウン大統領からは,本件に関してレバノン政府は全く関与していないとの説明があるとともに,「レバノンは日本との関係を重視しており,日本側からの協力要請に対しては,全面的な協力を惜しまないことを約束する」,こういう発言があったと,このように承知をいたしております。

日中関係(習近平中国国家主席の訪日)

【NHK 渡辺記者】日中関係でお伺いしたいと思いますけれども,先日,秋葉事務次官が中国を訪問されまして戦略対話を行っております。そうした中で習近平(しゅう・きんぺい)国家主席の訪日に向けた準備が進んでいると思うんですが,現時点で「第5の政治的文書」といったものの作成に向けて,何か見解が一致している部分があるのか,あるいはこの点において,今後,外務大臣のお互いカウンターパートレベル同士で何かこういった話し合いが行われるのか,そういったことも含めて大臣のお考えを聞きたいと思うんですが。

【茂木外務大臣】日中間ですね,まさに正常な軌道に戻ると,そういった中で,今年の春に習近平国家主席を国賓として日本にお迎えをするということでありまして,この機会に,日本,そして中国が国際社会の中の重要な国として,大きな責任,役割を担っていく,こういったことを対外的にも発出する,そういった機会にしていきたい,こんなふうに基本的には考えております。
 今,訪日に向けた準備を進めておりますけれども,その成果をどうするか,これにつきましては現時点で何か決まっているというものはございません。何かの文書を作成するかどうかも含めて,今後,日中間でよく話し合っていくべき問題だと,こんなふうに思っております。

日韓関係(旧朝鮮半島出身労働者問題)

【聯合ニュース イ記者】日韓関係に関してもう一回質問させていただきます。徴用の過程での人権侵害の事実を認めて謝罪することは,先ほどおっしゃった国と国との約束を守ることに反するという認識ですか。それともそれは可能であるという認識ですか。

【茂木外務大臣】先ほど申し上げたとおり,旧朝鮮半島出身労働者問題に係る我が国の立場は一貫しております。韓国に対して,この日韓関係の基礎でありますこれを翻した,この国際法違反の状態の是正,これを引き続き求めていくと,こういう考えに変わりはありません。

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