平成24年2月28日
議長,
人権高等弁務官,
ご列席の皆様,
日本国政府を代表して,人権理事会でステートメントを行う機会を得たことを大変光栄に思います。
人権理事会議長という重責を担うラセール大使閣下の卓越したリーダーシップ,また,ピレー国連人権高等弁務官及び同事務所が世界で展開しておられる精力的な活動に敬意を表します。
議長,
約1年前の3月11日,我が国に甚大な被害をもたらした東日本大震災に際し,各国から寄せられた暖かいご支援に感謝いたします。日本政府は,震災からの復旧・復興に全力で取り組んでいます。我々は,東日本大震災を通して,危機の中で一人ひとりが秩序立って行動でき,協力しあうことができる社会の素晴らしさを実感しました。
議長,
国際社会は,世界人権宣言にうたわれている普遍的価値である人権及び基本的自由の保護・促進のために,様々な努力を重ねてきました。この関連で強調したいのは,自由で基本的人権が尊重され,安定した民主主義国家を造るためには,政治面での改革のみならず,経済面・社会面での改革も重要だということです。我が国は,自由と民主主義を希求する人々を今後とも支援していきたいと思います。
議長,
この1年の間に,人権分野では世界各地,特に中東・北アフリカやアジアにおいてはさまざまな変化を目の当たりにしてきました。
まず,「アラブの春」のうねりの中で,チュニジア及びエジプトの長期政権が崩壊し,リビアでも体制変革が行われました。
しかし,シリアにおいては多くの死者を伴う弾圧,非人道的・非民主的状況が続いています。状況改善には,国際社会が早急に一致した対応をとる必要があり,我が国としても,今次緊急討議の開催をはじめとするこれまでの人権理事会における取組を評価するとともに,国際社会と連携しながら,引き続き最大限の外交努力を払う考えです。そうした立場から,今般,私は24日に開催されたチュニスでのシリア・フレンズ会合に日本政府代表として出席し,シリア政府に対して暴力を即時に停止するよう改めて求めました。また,悪化するシリアの人道状況に対して,我が国として300万ドルの緊急無償資金協力を行うことを決定しました。
また,アジアに目を転じれば,ミャンマーにおいて民主化・国民和解に向けた大きな進展がみられます。ミャンマーについて,我が国は,最近の多くの政治犯の釈放及び少数民族武装勢力との停戦合意を,実質的な進展であると評価しています。今後は,4月の補選が自由・公正に実施され,アウン・サン・スー・チー氏を含む関係者が自由に政治活動できることが重要と考えます。玄葉外務大臣は,昨年12月末にミャンマーを訪問し,テイン・セイン大統領と会談し,ミャンマー政府の民主化と国民和解に向けた取組を評価するとともに,我が国として同国の改革努力を引き続き支援する旨伝えました。ミャンマーで起きている民主化と国民和解に向けた動きが一層前進し,人権状況も一層改善されるよう,人権理事会を含めた国際社会が一体となって支援していくことが重要であると考えています。
他方,同じアジアにおいても,依然として自由や基本的人権の尊重において対処すべき課題が存在します。中でも,北朝鮮において人権侵害が組織的にかつ広範に行われていることは,国連事務総長や北朝鮮人権状況特別報告者による客観的な報告書で指摘されています。国際社会が,管理所と呼ばれる政治犯収容所など北朝鮮の劣悪な人権状況に対して繰り返し懸念を表明してきたにもかかわらず,状況に改善が見られないことを深く憂慮します。国際人権メカニズムとの協力の観点からは,北朝鮮が,2009年に行われたUPR北朝鮮審査において各国から出された勧告をこれまで一つも履行しておらず,北朝鮮人権状況特別報告者の入域を認めていないことは,大変遺憾です。
また,北朝鮮は,基本的な人権の侵害という国際社会全体にとっての普遍的問題である拉致問題に真摯に対応していません。当時13歳だった少女を含む17名の日本人が北朝鮮工作員により拉致され,いまだ12名が帰還しておりません。さらに,これらの日本政府が認定している拉致被害者に加え,拉致の可能性が排除されない事案も多数あります。本年は北朝鮮が2002年に日本人の拉致を認めてから10年の節目を迎えますが,北朝鮮当局は,2008年に約束した拉致問題の再調査を実施しておらず,進展が見られません。
こうした状況を踏まえ,我が国は,今次人権理事会において,北朝鮮の人権状況をフォローする北朝鮮人権状況特別報告者のマンデートを延長するための北朝鮮人権状況決議をEUと共に提出します。国際社会の注意を喚起し,北朝鮮に対し,国際社会として,明確なメッセージを発するべく,各国から幅広い支持が得られることを期待します。
議長,
国際社会において人権を保障していく上で,人権理事会の役割・重要性は益々高まっています。人権理事会は,国際社会が託した期待に応え得る体制を整え,また,現場での人権状況の改善に資する,現実的かつ実効的なものであるべきです。我が国は,2006年の人権理事会設立以降,人権理事会の作業と機能強化のために人権理事会レビューに積極的に参加するなど,人権理事会の活動に積極的に貢献してきています。
特にUPRは,各国との対話及び国際社会との協力とを通じて,各国の人権状況の改善を促していく有意義な制度であると考えています。我が国としては,本年6月から始まる第2サイクルの審査を注視しており,UPRが人権理事会の有効なツールの一つとなるためにできる限りの貢献を行っていく所存です。さらに,本年実施される予定の自国の第2回UPR審査に真摯に取り組んでまいります。
議長,
人権諸条約が各国の人権状況に果たしている役割も極めて重要です。我が国は,締結している人権諸条約の効果的実施にも誠実に取り組んでいます。昨年7月には拷問等禁止条約の政府報告書を国連高等弁務官事務所へ提出しました。また,我が国は,2010年12月に策定した第3次男女共同参画基本計画に基づき,様々な分野で男女共同参画社会の実現に向けた取組を強化しており,昨年8月女子差別撤廃委員会に提出した最終見解に対するフォローアップは同委員会から高い評価を受けました。引き続き,委員会からの勧告,国際社会からの指摘を誠実に受け止め,適切に対応することで,全ての人権の保護・促進を進めていきます。
また,新たに進めている取組の1つとして,障害者の権利の保護・促進があります。障害当事者も交えた活発かつ密度の濃い議論の下,2011年7月29日に改正障害者基本法が成立しました。本法律の目的は,「全ての国民が,障害の有無によって分け隔てられることなく,相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」の実現を図ることです。日本政府は,引き続き国内の体制整備を早期に進めつつ,障害者権利条約の締結を目指します。
議長,
人権の保護・促進に終着点はなく,国際社会全体の粘り強く,かつ継続した取組が必要です。人権は国際社会の正当な関心事項であり,人権理事会には,国際人権分野において重要な役割が期待されています。我が国は,従来より,人権理事会理事国として人権や民主主義といった普遍的価値に基づく外交を重視し,国造りや技術協力等人権協力のための協力も含め,世界の人権の擁護及び促進に積極的に取り組んで参りました。国際社会の人権状況の改善に向けた取組に引き続き貢献するため,本年の人権理事会選挙に立候補しています。我が国のこれまでの国内外における取組が評価され,多くの国からご支持が得られることを期待しています。
ご清聴ありがとうございました。