演説

中野外務大臣政務官

「日加平和・安全保障協力シンポジウム」10周年記念
公開シンポジウム「日本とカナダの安全保障協力:現状と課題」
中野外務大臣政務官による基調講演
平成24年4月20日(金曜日)(於:東京ミッドタウン・タワー4階,第5,6会議室)

(冒頭)

 ただいま御紹介にあずかりました外務大臣政務官の中野譲でございます。本日,第10回日加平和安全保障協力シンポジウムを記念して,公開シンポジウムを開催することを大変嬉しく思います。

(日加関係全般)

 日本とカナダは,アジア太平洋国家として,また,民主主義等の共通の価値観を有するパートナーとして,ASEAN地域フォーラム(ARF)やアジア太平洋経済協力(APEC)等の地域的な枠組や,国連やG8等の多数国間の枠組を通じて,グローバルな課題に取り組むため協力関係を深めてきました。
 両国の協力は,政治・安全保障,経済,文化,青年交流等多岐に亘ります。2009年には天皇・皇后両陛下がカナダをご訪問され,先月末にはハーパー首相が訪日し,日加経済連携協定(EPA)交渉の開始,物品役務相互提供協定(ACSA)交渉の促進,青年交流計画や科学協力の推進等12項目に及ぶ共同成果を発表しました。
 東日本大震災の際には,カナダからは,カナダ赤十字を通じ約41億円もの救援金を頂いたほか,世界に先駆けて原発事故に伴う日本食品の輸入規制措置を全面解除して頂きました。

(平和・安全保障分野の協力)

 平和・安全保障の分野でも,平和に対する強いコミットメントを基盤とした協力の実績があります。第二次世界大戦を経て,日本は平和の大切さを深く認識し,カナダは,役立つ調停者(helpful fixer)として国連等の活動に積極的に取り組みました。両国は,国際社会において責任ある一員でありたいと願い,国際平和と安全のため貢献してきました。

(PKOへの貢献)

 カナダの国連平和維持活動(PKO)への貢献は良く知られています。1956年のスエズ動乱の際には,国連緊急軍(UNEF1)が派遣され,翌年,ピアソン外相(当時)がノーベル平和賞を受賞しました。その後も,先進国の中では最多の121名の要員が命を落とすという大きな犠牲を払いつつ,多大なる貢献をしています。
 我が国も,1992年に国際平和協力法を制定し,国連カンボジア暫定機構へ自衛隊・文民警察要員を派遣するなど,27件の国際平和協力業務を実施しました。現在,ゴラン高原,ハイチ,東ティモール,南スーダンのミッションに要員を派遣しています。
 このうち,ゴラン高原の国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)では,1996年,我が国輸送隊43名がカナダ輸送隊の業務を引き継ぎ,10年に亘り,後方支援大隊での協力を続けました。また,日本のPKOセンターは,カナダのピアソン平和維持センター等も参考にして設立され,我が国の要員もカナダで訓練を受けたことがあります。本年2月には,タンザニアで行われたカナダ政府主催の民軍協力コースに佐藤美央国際平和協力研究員(本シンポジウム出席)を講師として派遣しました。日本もカナダ同様,アフリカにおける平和維持能力向上を重視しており,今後も効果的な支援を積極的に行っていく考えです。

(平和構築)

 近年,人々を紛争に後戻りさせないため,法の支配や民主主義の定着など政府の統治能力向上,更には紛争で激しい損害を受けた経済社会的インフラの再建といった長期的な平和構築に向けた努力がより重要となっています。
 PKOに積極的に参加し,その限界も認識していたカナダは,この平和構築の概念を推し進め,実施した最初の国の一つでした。日本も,カンボジア,東ティモール,アフガニスタン等多くの国々で平和構築の重要性に着目した復興支援を行いました。日加両国は,人間一人ひとりに着目し,その潜在力を十分に発揮させる社会作りを目指す人間の安全保障を推進し,1999年,平和構築に関する合同シンポジウムを東京で開催し,その後も平和構築に関する双方の経験を学びました。国連の平和構築委員会では,両国は5カ国からなる主要財政貢献国として組織委員会のメンバーとなり,日本は教訓作業部会の議長として,カナダはシエラレオネ担当の国別会合の議長として,中心的な役割を果たしています。

(地雷)

 日本とカナダは,対人地雷対策の面でも協力しました。対人地雷は,一般市民に深刻な被害を与える人道上の重大問題であると同時に,紛争終結後の復興と開発にも多大な支障をきたしていました。
 オタワ条約とも呼ばれる対人地雷禁止条約は,1999年に発効し,159カ国が締結しています。日本は,同条約の普遍化に加え,地雷除去活動と犠牲者支援も行うという包括的アプローチを重視し,1997年には「犠牲者ゼロ・プログラム」を提唱するとともに,1998年から2002年までに100億円の支援を達成するなど,積極的に地雷対策支援を行いました。一昨年から昨年にかけての国連の地雷対策支援信託基金への拠出は,一位が日本(全体の32%),二位がカナダ(25%)であり,日加両国が60%近くを負担しています。これは,両国が共通の課題に取り組んでいる良い一例です。

(テロとの闘い/アフガニスタン支援)

 2001年9月11日以降の「テロとの闘い」では,日加両国は,アフガニスタンとその周辺及びインド洋上でのテロ対策活動にも積極的に参加しました。カナダは,不朽の自由作戦に参加し,158名もの犠牲者を出しつつも,昨年12月までアフガニスタンの国際治安支援部隊に要員を派遣しました。日本も,テロ対策特別措置法及び補給支援特別措置法を制定し,2001年から10年間,インド洋において,テロリストの移動,武器の運搬,麻薬の輸送に対する海上阻止活動を行う12か国に対して海上自衛隊が燃料や水の補給活動を実施しました。カナダの艦船用燃料の補給回数は計51回,補給量は計約1万2千キロリットルに上りました。
 日本とカナダは,アフガニスタンの安定と復興を特に重視しており,2014年末を目標とする治安権限委譲プロセスを成功させなければなりません。両国にとってアフガニスタンは最大規模の援助供与先であり,警察支援を含む治安能力の強化,社会インフラの整備,職業訓練を含む人材育成等幅広い分野での支援を実施してきました。国連薬物犯罪事務所(UNODC)による麻薬対策等の法執行能力向上支援事業にも拠出を行い協力していく予定です。7月に東京で開催する閣僚級会合では,アフガニスタンの持続可能な開発をテーマとする予定であり,カナダの参加も得て,実りある議論を行うことを期待しています。

(日加政府間協議の枠組み)

 日本とカナダは,平和・安全保障の分野で更なる協力強化の可能性を秘めています。政府間でも対話の枠組みを強化し,昨年8月には東京で第一回次官級2+2対話を行いました。これまで外務・防衛当局の局長級協議も7回開催され,両国の海軍種間でも艦船の訪問等の交流も行っています。

(結び)

 日加平和安全保障協力シンポジウムが,両国の皆様のご協力を得て14年間継続してきたことは,大変意義深いことです。
 このシンポジウムでは,これまでPKO,平和構築,人間の安全保障,国連強化,核軍縮・核不拡散,中東やアフガニスタンを含む地域情勢,災害救援,感染症対策,テロ対策と,幅広いテーマを取り上げてきました。これらの事項は,首脳会談時等に発表される共同宣言や行動計画等に反映され,具体的な政策として実現したものもあります。日加物品役務相互提供協定(ACSA)の交渉開始は,まさに前回のシンポジウムで提起されたものでした。
 日本とカナダがお互いから学ぶべきことは多く,今後も,両国が国際の平和及び安全に効果的に貢献するため,引き続き,皆様の御知見を頂ければと思います。
 ここに,本シンポジウムの成功をお祈りするとともに,日本とカナダの協力拡大の観点から,活発且つ有益な意見交換が行われることを期待しています。


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