御列席の皆様,
「国連軍縮会議 in 松本」の開会にあたり,日本政府を代表して御挨拶する機会をいただき,大変光栄に思います。この会議は今年で23回目を数えますが,3月に発生した東日本大震災から4か月余りという短い期間で,また先月末にここ松本市を襲った地震により被害に遭われた方がおられる中で開催される今回の会議には,特別な意義があります。まず,会議が当初の予定どおり開催されたことについて,主催者である国連軍縮部及び国連アジア太平洋平和軍縮センターの御尽力と,開催地・松本市の皆様の熱意に心から敬意を表します。また,世界各国からお越し下さった皆様を心から歓迎します。
大震災を受けて,日本は世界各国から温かい御支援と励ましを頂戴しました。日本政府を代表し,この場をお借りして重ねて御礼申し上げます。また,東京電力福島第一原子力発電所事故については,現在,事態を収束させるために全力を尽くしているところであり,予断は許さないものの,徐々にかつ着実に収束に向かっています。こうした努力とあわせて,日本政府は,最高水準の原子力安全の実現に向け努力するとともに,事故に関する情報と教訓を国際社会と共有し,国際的な原子力安全の向上に最大限貢献する決意です。先月,ウィーンのIAEA(国際原子力機関)で開催された原子力安全に関する閣僚会議では,事故に関する報告書を提出し,事故の事実関係やこれまでに得られた教訓を共有しました。本日はそのIAEAから,天野事務局長がお見えになり,基調講演をされる予定と伺っています。原子力安全はもとより,軍縮に向けた取組でもIAEAが引き続き大きな役割を果たすことを期待しています。
松本市の菅谷昭(すげのや・あきら)市長におかれましては,25年前のチェルノブイリ原発事故の際,現地で5年半にわたり医療支援活動をされ,健康被害に苦しむ子どもたちの治療にあたられたという貴重な経験をお持ちと承知しています。市長は今回の会議で,原子力の平和的利用に関する全体会議に参加されると伺っています。こうした討議が,原子力安全の推進と発展にとって,極めて重要な機会となることを確信しています。
日本はまた,核兵器使用の惨禍を経験し,記憶する唯一の国でもあり,核軍縮・不拡散の重要性を国際社会に訴えていく道義的責任もあります。日本は,核兵器廃絶に向けた現実的で着実な前進と,国際的な核軍縮・不拡散体制の維持・強化を目指し,努力しています。
具体的には,日本政府は「核リスクの低減」を掲げ,このテーマを共有する9か国と共に,昨年,外相レベルの地域横断的なグループを立ち上げました。このグループは,昨年のNPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議で得た合意を着実に履行し,核軍縮・不拡散に向けた国際社会の機運を維持・強化していくことを目指しています。これまで国際社会で1か国だけでは十分な声にならなかったことでも,10か国の力を結集することで,より大きな実効性を伴ったメッセージを発することができるものと確信しています。この4月には,第2回目となる外相会合がベルリンで開催され,松本剛明外務大臣が出席しました。今後も,FMCT(兵器用核分裂性物質生産禁止条約)の早期交渉開始,CTBT(包括的核実験禁止条約)の早期発効,核軍縮における透明性の確保,IAEA追加議定書の普遍化など,具体的提案に基づく行動を進めていきたいと考えます。さらには,このグループへの参加に意欲を示す他の国に門戸を開き,核兵器のない世界に向けた運動の輪を広げていく所存です。
また,日本政府は1994年以降毎年,核軍縮決議案を国連総会へ提出し,世界各国の圧倒的多数の支持で採択されています。昨年は,日本と共に,米国を含む90か国が共同提案国となりました。決議案は,タイトルを「核兵器の全面的廃絶に向けた共同行動」とし,国際社会の共同行動によって全面的核廃絶を追求していくとのメッセージを打ち出しています。今回の国連軍縮会議のテーマも,「核兵器のない世界に向けた緊急の共同行動」です。私は,日本政府が引き続き国際社会の共同行動をリードしていくことをお約束するとともに,今回の会議を通じて,市民の皆様の力でよりダイナミックな共同行動が育まれていくことを希望します。
世界を見渡しますと,国際社会は北朝鮮やイランの核問題,核テロの脅威など,極めて困難な問題に直面しています。特に北朝鮮による核開発は依然として継続しており,北朝鮮から非核化に向けた具体的行動を引き出すべく,国連安保理決議等に基づく措置を着実に実施しつつ,関係国と引き続き緊密に連携していきます。さらに,日本政府は,拉致問題を含む諸懸案の包括的解決に向け,引き続き力を尽くします。イランの核開発についても,イランが国連安保理の決議などを重く受け止め,国際社会の信認を得るべく適切な措置をとるよう,各国と協調しながら働きかけを行っていく考えです。
以上のように核軍縮・不拡散の分野で取組を進めていくことに加え,軍縮・不拡散教育も,日本が率先して取り組むべき重要なテーマです。日本には広島・長崎の経験があり,被爆の実相を世界の人々,とりわけ次世代を担うべき若い世代に伝え,受け継いでいくという使命があります。この分野では,各国の研究機関やNGOを含む市民社会が様々な取組を行っており,官・民・学が十分に連携することで,より大きな相乗効果を発揮できるものと期待します。昨年9月に日本政府は,菅総理のイニシアティブにより,被爆者の方々に御自身の被爆体験を広く国際社会に伝達していただくため「非核特使」制度を立ち上げました。9名の「非核特使」がNGOの船で,被爆体験を語る世界一周の旅に出られたり,国内のみならず海外在住の被爆者の方にも「非核特使」を委嘱するなど,これまでに計17件,延べ34名の皆様に世界各地で被爆体験を語っていただいています。また,本年の5月から,被爆者の方々及び広島・長崎の原爆資料館の協力を得て被爆者証言を多言語化し,外務省ホームページに被爆者体験記及び被爆証言映像を掲載するという取組を開始しています。今月には,国連のホームページにも今回多言語化した被爆者証言が掲載されました。今後も日本が各主体と協力しつつ軍縮・不拡散教育でリーダーシップを発揮していきます。
国連軍縮会議は,核軍縮や原子力の平和的利用などについて,専門的な議論が交わされる貴重な場です。また,今回の会議では,次世代を担うべき若い世代が軍縮問題の理解を深める貴重なプログラムとして,地元高校生と会議参加者との交流イベントも予定されています。世界各国の様々な立場から,活発な意見交換がなされることを期待するとともに,市民の皆様が,こうしたセッションに積極的に参加され,平和や原子力について考える絶好の機会となることを期待します。今回は,音楽都市・松本市にふさわしいサイドイベントも行われると伺っています。市民の皆様には,様々な角度から今回の国連軍縮会議を御満喫いただき,核兵器のない世界に向けて行動するきっかけとなるよう願っています。
最後になりましたが,「国連軍縮会議 in 松本」の成功を心から祈念し,私の挨拶を締め括らせていただきます。御清聴ありがとうございました。