
塩崎外務副大臣演説
「中央アジア+日本」知的対話:東京対話
塩崎外務副大臣基調演説
平成18年3月30日
1.冒頭発言
- 「中央アジア+日本」対話のトラック2である「東京対話」の開催に当たり、外務省を代表して、本対話出席のためはるばる訪日された中央アジア各国よりの参加者の方々を心から歓迎致します。また、本対話の趣旨に賛同いただき、ご多忙な中、出席を快諾いただいた日本側参加者の皆様に深く感謝致します。
- 本対話の主催者を代表して、私から、我が国の対中央アジア政策の基本的な考え方について若干紹介させていただき、本日の皆様方の議論の一助とさせていただければと思います。
2.我が国の対中央アジア政策の基本的な考え方
- 中央アジアは、70年の長きにわたりソビエト連邦の一部として中央集権的な社会主義経済体制の中に組み込まれ、人々は独自の文化、宗教、歴史を否定され自由な国造りを行うことができないでいました。1991年のソビエト連邦崩壊により、中央アジア各国は次々と独立を果たし、中央アジアの人々に自らの手で国造りを行う大きな機会が訪れました。しかしながら、モスクワの中央統制から解放された中央アジア諸国は、自らの手による国造りを進めるに当たって、大きな困難に直面しています。いずれの国々も、世界的な市場経済活動への参加に有利ではない内陸国であり、すべての国々が必ずしも資源に恵まれた国ばかりではありません。また、国造りに不可欠な人材の育成は若い中央アジア諸国にとって大きな課題です。
- 私は、厳しい条件の下、国造りを進める中央アジア各国の人々の努力を支援することは、我が国を含む国際社会にとって極めて重要であり、大きな利益をもたらすものと考えます。中央アジアは、ユーラシア大陸の中央にあり、ロシアと中国に挟まれ、更にアフガニスタン、パキスタン、中東に隣接するという位置にあることから、その平和と安定はユーラシア大陸全体、ひいては国際社会の平和と安定に大きな影響を及ぼします。このような地政学的重要性に鑑み、国際社会にとって、中央アジア各国の国造りの推進を通じた地域の平和と安定は大きな意義を有します。
- さらに、この地域の安定は世界のエネルギー需給を緩和します。すなわち、中央アジア地域は、カスピ海周辺の豊富な石油・天然ガスをはじめエネルギー資源に恵まれ、国際社会にとってエネルギー安全保障上の重要性を有しています。中国、インドをはじめ国際エネルギー需要が増加し続ける中で、供給源の多様化の観点から中央アジアの重要性は増しています。日本にとっては、輸送コストの問題等から、当面は中央アジア産の石油や天然ガスを直接輸入することにはなりませんが、中央アジア各国の国造りが進み、非中東産のエネルギー資源が国際市場に安定的に供給されることは国際エネルギー価格の安定に寄与し、日本をはじめとする国際社会の利益にもなります。
- このような考え方から、我が国は、中央アジア諸国が市場経済に基づく自立的且つ安定的な発展を確保するよう、協力していくことが大変重要と考えています。同時に、各国独自の文化的・歴史的背景を考慮しながら、民主主義や人権尊重といった基本的価値の定着が図られていくことも重要です。更に、その過程において、中央アジア諸国が周辺諸国及び域外主要国と良好で安定的な関係を維持、強化することを重視しています。また、より二国間の観点からは、伝統的な友好関係を維持し、国連改革を含む様々な国際問題への対応において、我が国の立場に中央アジア諸国の理解と協力を得ることも期待しています。
3.中央アジアに対する我が国の取り組み
- 以上のような認識に立って、我が国は、1991年のソ連崩壊に伴う中央アジア諸国の独立以降、民主化、市場経済化促進のための国造り支援を基本としつつ、この地域に積極的に関与してきました。特に、1997年以降、当時の橋本総理が提唱した所謂「シルクロード外交」の下、1)政治対話、2)経済協力・資源開発協力、3)平和の定着のための協力を柱として、中央アジア諸国との強固な二国間関係の構築に取り組んできました。日本はこれまで、中央アジア5カ国に対し、インフラ整備、医療・教育等基礎生活分野、人材育成等を中心として、2004年度までに累計約2800億円(約25億米ドル)相当の支援を実施してきました。今後とも、各国の経済発展度、ニーズを踏まえた支援を行っていく考えです。
- 一方、2004年8月、9.11.以降の戦略的環境の大きな変化をも踏まえ、当時の川口外務大臣が中央アジアを歴訪した際、従来からの「二国間関係の増進・緊密化」に加え、「中央アジア全体との対話と協力の構築」を二本柱とする新たな対中央アジア政策を打ち出し、カザフスタンにおいて中央アジア4か国と日本による外相会合を開催して、「中央アジア+日本」対話の枠組みを立ち上げました。この新たなイニシアティヴは、中央アジア諸国から、強い支持と賛同を得ました。
- この対話の枠組みの眼目は、中央アジア諸国間の地域内協力の促進です。これは、中央アジア諸国がグローバリゼーションの進展の中で持続的発展を確保していくには、テロ、麻薬、環境、水資源、輸送など各国個別の取り組みでは解決困難な課題に共同で対処しつつ、5700万人の共同市場形成に向けて地域内協力を進めることが不可欠との考えに基づくものです。各国間の相違、特に、最近の経済発展の格差に鑑みれば、決して容易ではない課題ですが、中央アジア諸国自身が地域内協力の必要性を十分認識し、協力推進の様々な試みがなされています。日本は、そのような中央アジア諸国の主体的な取り組みを「触媒」として支援していく考えです。
- 「中央アジア+日本」対話については、その後、二回の高級実務者会合が開催され、現在、第二回外相会合の開催を念頭に置きつつ、具体的な協力の実現に向けた議論が進められております。
4.「東京対話」への期待
- 「中央アジア+日本」対話では、政治対話、地域内協力、ビジネス振興、知的対話、文化交流・人的交流を協力の5本柱と位置づけていますが、その一つである知的対話の第1回となるのが、本日の「東京対話」です。知的対話の意義は、「セカンド・トラック」として、有識者間で自由闊達かつ突っ込んだ議論を行い、そこで得られた成果を提言していただくことによって、政府間の対話と協力のプロセスに新たな視点と深みを与えることにあると考えます。
- 今回「東京対話」においては、「中央アジア地域統合の展望」、「中央アジアと域外国の関係」という2つのテーマが設定されています。今後「中央アジア+日本」対話の枠組みでの協力を検討していく上でも、中央アジアの経済的統合に向けた展望を専門家間で議論いただくことは大変有意義です。また、中央アジアを巡る国際環境がダイナミックに変化する中、ロシア、中国、米国をはじめとする域外諸国との関係について専門家の間で議論を深めていただくことは、時宜を得たものと考えます。
- 今回の「東京対話」が、中央アジア諸国と我が国との間の協力の一層の発展に繋がるような有益な提言を生み出すこと、また、中央アジアと我が国との間の知的交流が更に幅を広げていく契機となることを期待し、私の挨拶とさせて頂きます。