寄稿・インタビュー
茂木外務大臣書面インタビュー
(2021年1月6日付、ラ・ナシオン紙)
【問】今回のアルゼンチン訪問の主要目的は何か。
【答】今回の訪問は、私の外務大臣就任後初の中南米訪問となります。我が国と中南米諸国は、伝統的な友好関係に裏打ちされた基本的価値を共有するパートナーです。2018年12月に安倍総理(当時)がブエノスアイレスで発表した外交方針である、中南米との経済・価値・知恵の3つの連結性構想に基づき、これまで関係強化に取り組んできました。
我が国にとって重要なパートナーである中南米諸国で私が目標とする「包容力と力強さを兼ね備えた外交」を自ら推進したいと考え、今回の中南米訪問を決めました。
中でもアルゼンチンは、120年を超える外交関係を有する戦略的パートナーであり、ここ数年の頻繁な要人往来等を通じて二国間関係が大きく進展しています。今回の訪問では、フェルナンデス大統領やソラー外相との会談を通じ、二国間関係の更なる深化やルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けた連携を確認したいと考えています。
経済関係では、コロナ下でもトヨタ自動車や日産自動車が新規投資を発表するなど、近年、日系企業の進出が増大しています。今回の訪問に際しては、ポスト・コロナを見据えた更なる貿易・投資拡大のためのビジネス環境改善について議論するとともに、法的枠組みの整備や地域経済活性化への協力についても意見交換する予定です。
さらに、本年の東京オリンピック・パラリンピック、2025年の関西・大阪万博等を通じ、両国のスポーツ・文化交流を更に進めていくことを確認したいと思います。
【問】政治、経済面における今日の両国関係をどう見るか。
【答】日本とアルゼンチンは、自由、民主主義、法の支配、人権等の基本的価値を共有し、地域及び国際場裡の課題に共に取り組む戦略的パ-トナ-です。
G20のメンバーである両国は、新型コロナへの対応、世界経済の回復といった今日国際社会が直面する課題を始め、様々な分野で緊密に連携しています。
特に経済関係は、日系進出企業数が2015年からの4年間で倍増するなど、拡大・深化しています。これは、日本のビジネス界がアルゼンチン経済の潜在性を高く評価していた証左です。しかし、残念ながら、2018年以降の経済的な危機やその後の新型コロナウイルス感染拡大により、経済的な見通しに不透明感が漂っていることも事実です。日本政府としては、IMF理事国として債務問題を注視するとともに、ポスト・コロナを見据え、二国間のビジネス環境が更に整備されることで、両国間の経済関係が更に発展することを期待しています。
また、今後の経済発展に不可欠なデジタル経済、ICT分野、さらには、アルゼンチンにおいて潜在性が高い水素分野での協力等、脱炭素社会につながる協力も始まっています。こうした分野においても日本の技術や経験が大きく貢献できると考えています。
多様な分野で協力できる良好な二国間関係の根底には、アルゼンチンの発展に貢献してきた日系社会の存在があります。アルゼンチンには、約65,000人の日系社会があり、両国関係の「架け橋」として重要な役割を担ってきました。引き続き日系社会とも連携しつつ、両国の絆を深めていきたいと思います。
【問】アルゼンチン現政権との関係は、マクリ前政権との両国関係と比較してどう変わり、現政権とのつながりをどう評価するか。パンデミックは二国間関係、また保健分野の協力にどのような影響を与えたか。
【答】昨年に入ってからは新型コロナの世界的な感染拡大により、これまでのような頻繁な人的往来が困難となっています。そうした状況でも、次官級政策協議を始め、オンラインでの対話や大使館を通じた外交活動を行ってきましたが、対面での協議だからこそ得られる成果もあります。そうした思いから、今回、中南米とアフリカ諸国を訪問することとしました。
我が国は、アルゼンチンに対し、感染症対策の中核となる医療施設の整備等を通じて中長期的な保健医療システムの強化に貢献する考えです。具体的には、5億円の医療機材を供与するほか、大学へのPCR装置や病院への超音波診断装置等の医療機材の支援も実施しています。
現在、我々は新型コロナという危機に直面していますが、困難に直面したときこそイノベーションが生まれるのが人類の歴史であり文明です。この危機を乗り越え、より一段高い世界と飛躍することができるよう、アルゼンチンを含む国際社会と連携しつつ、全力で取り組んでいきたいと思います。