世界一周「何でもレポート」
チャレンジ!外国語 外務省の外国語専門家インタビュー
ギリシャ語の専門家 清水さん
Καλή Εβδομάδα!(カリー・エヴドマーダ!)=よい一週間を!
清水さんが好きなギリシャ語の言葉だそうですが,日本では見慣れない言葉ですね。一体どういう挨拶の言葉なのでしょうか?
「ギリシャでは,月曜日には必ず,“カリー・エヴドマーダ!(Have a nice week!)”と挨拶する習慣があり,ギリシャの方々はこの挨拶をとても大切にしています。月曜日の朝,仕事に行くのが少し憂鬱な時も,アパートのお隣さん,通勤途中に立ち寄るコーヒーショップのおじさん,職場の同僚に,満面の笑みで“カリー・エヴドマーダ!”と言われると,『今週も一週間頑張ろう。』と,不思議と前向きな気持ちになりました。月曜日の朝は,ギリシャでも日本と同じようにみんな少しつらいもの。月曜日の朝を少し明るくする,日本にはないこの挨拶の習慣は,とても素敵だと思います。」
外交官を目指した理由
清水さんが外交官になろうと思ったきっかけは何ですか?
「就職を考えた時,「日本」というブランドを世界に発信するような仕事がしたいという思いがありました。最初は外交官に絞っていたわけではなく,メーカーなども視野に入れて就職活動をし,実際に関心のある企業の社員の方にもお話を伺ったりしていました。民間企業に就職するかどうか,とても迷いましたが,最終的には外務省の先輩に,『より幅広く,日本の魅力や強みを海外に発信することができる職場だよ。将来やりたいことや,手がけたい分野が明確に絞り込めていないなら,外務省にした方がいい。色々なことにチャレンジできるよ。』とアドバイスをいただいたことをきっかけに,外務省を選びました。」
なぜギリシャ語?
学生時代,短期でアメリカやドイツの語学学校へも通われたそうですが,なぜギリシャ語を選択したのでしょうか?
「欧州に関心があったのですが,比較的学習者の少ない言語を勉強してみたいという思いがあり,希望を出しました。」
実際,ギリシャ語を勉強することになってどうでしたか?
「ギリシャ語研修の先輩方はもちろん,ギリシャ語の先生やギリシャの大使館でお世話になった職員の皆さん,その他ギリシャ関係の方々はみなさんとても親切でアットホームな雰囲気。私が右も左もわからない頃から,温かく育ててくださいました。そういう面でもギリシャ語研修で良かったなと思います。」
ギリシャ人の逆の発想!?
ギリシャには一度も行ったことはなく,研修言語を言い渡された時は,世界史の教科書で見たパルテノン神殿くらいしか思い浮かばない程の知識量だったそうですが,ギリシャでの生活を始めた清水さん,勉強していく中でギリシャと日本の考え方の違いも学んでいったそうです。
「『アリとキリギリス』は古代ギリシャの寓話作家であるイソップが書いた話なのですが,皆さんはどういう解釈をしていますか?」
『アリとキリギリス』は古代ギリシャ人が書いたのですか。子供の時には,夏の間遊んでいたキリギリスがダメな人,ずっとまじめに働いていたアリがお手本だと習った気がします。
「そうですよね。しかし,ギリシャでは少し異なる解釈を目にする機会がありました。ある日,ギリシャの小学校を訪問し,授業を見学させていただいた時,丁度『アリとキリギリス』の物語を授業で取り上げていました。そこでは,『幸せの尺度や人生の価値観は人によって違う(夏に歌を歌って過ごすことが悪いとは限らない)。』,『世の中には作業分担がある。適材適所というものがある(キリギリスが夏歌っていたのは,遊んでいたのではなく,「歌う」という彼らの仕事をしていたのだ。たとえ,夏に歌が必要な人がいても,アリには歌うことができない。)』,『困っている人がいたら,助け合わなければいけない(助けなかったアリが悪い)。』という解釈も語られていて,とても驚いたことを覚えています。」
なるほど,歌う特技があるキリギリスですか。
「ええ。ギリシャでの経験は,『正しく働く』というたった一つの論点においても,その『正しさ』に様々な価値観や方法があることを気づかせてくれました。日本のメンタリティーが正しくて,ギリシャの考え方が間違っているわけではない。むしろ,ギリシャでギリシャの方々と働く限りは,私がその違いをよく理解し,ギリシャの方々と上手く協力できるようにならなくてはいけません。一緒に働き,そのメンタリティーや文化を理解すると,ギリシャの方々は,自身の仕事に対する意識が高く,熱心な方々であることがよくわかりました。」
通訳のエピソード
ギリシャ語は,日本語と同じくらい語彙や表現方法が豊富で,数学のように整然とした文法を持つ,とても美しい言語ですが,その分,言語の学習も非常に大変だと言う清水さん。様々なハードルを乗り越えて,今では天皇陛下の通訳を務めるほど。そうした大役はやはり緊張も大きいのでしょうか?
「先日は信任状捧呈式(新しく日本に赴任した外国の大使が,信任状を天皇陛下に捧呈する儀式)で,初めて天皇陛下の通訳をさせていただくことができ,とても光栄でした。
当日は大変緊張しましたが,出席された駐日ギリシャ大使館の方に,『私もとても緊張しているけど,英語ではなく,母国語で話すことができるからとても安心だよ。ありがとう。』と声をかけていただき,緊張がほぐれました。
また,ギリシャでも日本大使の信任状捧呈式の通訳をさせていただいたのですが,私がギリシャ語で訳し始めたとたん,先方のギリシャの大統領が嬉しそうな顔で,『あんなに遠い国(日本)の君がギリシャ語を勉強したのかい。』と言ってくださって(これは日本語には訳さなかったですが),とても嬉しかったのを覚えています。」
ギリシャの大統領も驚いたでしょうね。こうした外国語のスペシャリストを養成することも外務省の大事な取組の一つですね。
外交官としての仕事のやりがい
外交官としての仕事のやりがいはどういうところに感じますか?
「外務省には様々な仕事がありますが,在外公館での仕事は特に自分のこれまでの経験を活かし,自分なりのカラーを出すことができる場だと思います。
ギリシャの方には,何を,どのような方法で伝えたら,日本という国が一番魅力的に映るのだろうか。どう説明したら最も理解が得られるのだろうか。私は在ギリシャ大使館で,広報や文化交流の担当をしていたのですが,毎日そんなことを考えながら事業の企画を考えていました。自分なりに工夫した企画が,現地の方々と日本との出会いとなり,日本という国を身近に感じてもらえた時はとても嬉しかったです。大使館で開催した文化イベントをきっかけに,柔道や剣道等を習い始めた,日本語の教室に通い始めた,日本留学を決意した等々の嬉しい報告は,大きな励みになりました。外務省には“大きな”仕事も沢山ありますが,他方で,一人一人との出会いを大切にし,日本ファンや日本サポーターを地道に増やしていく草の根的な仕事も,とても大切で魅力的だと思っています。」
草の根的な地道な努力があって二国間関係がよりよくなるわけですね。
聖火がやってくる
「2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催され,オリンピックの聖火が古代オリンピアから福島県へやってきます。日本とギリシャが結ばれる一大行事なので,皆様にもぜひ古代ギリシャを感じて楽しんでいただきたいですね。」
平和と希望の象徴の聖火がギリシャからやってくる。途方もなく素晴らしい話ですね。ぜひギリシャから運ばれてくる聖火を大切に見守りたいです。
キプロス共和国に大使館開設
ギリシャ語を公用語とする国がもう一つあるそうですね。
「ええ。キプロス共和国でもギリシャ語が話されています。昨2018年には,キプロスにも新しく日本の大使館ができました。キプロスは,美の女神アフロディーテが生まれた場所とされている,大変美しく,歴史ある国です。今後も,日本とギリシャ,そしてキプロスとの二国間関係が一層発展するよう,ギリシャ語の専門職として引き続き研鑽を積んでいきたいです。」