世界一周「何でもレポート」

香港と書道と私

平成29年5月30日
(写真1)香港

広聴室 課長補佐(元在香港総領事館領事)
松本みゆき

 ある時,上司がやや力をこめて言った。
「日本の文化を紹介するイベントを,君が何かやってみなさい。」

 上司の本気度がわからない。
 私の頭の中:「そんなこと,私がやっていいんですか。」

 平成26年(2014年)8月までの2年間とちょっと,私は香港にある日本総領事館で勤務し,メディア対応・広報の仕事をしていた。俳句をたしなむ上司から“むちゃぶり”(?)を受け,思案の末,書道なら師範の免状を持っているからと,香港の市民を対象に書道教室を催す案を後日申し出ると,上司は賛成した。なお,書道のルーツは中国だと思うが,日本文化の魅力のひとつにもなっていると理解してよいだろう。

 ところで,香港の地下鉄のプラットホーム壁面には,駅ごとにその駅名が,書道で大きく力強くダイナミックに書かれている。機会があれば,ぜひ見ていただきたい。その一部の写真を,ここに掲載させていただく。私が住んでいたのは西湾河(サイワンホー)エリア。

  • (写真2)香港の地下鉄のプラットホーム

 新ミッション浮上!
 参考になるだろうと,母が日本から,書道家・武田双雲氏の本を送ってくれた。また,老齢であられる私の書道の師匠は,国際電話で励ましてくださった。

 書道教室の参加者は,総領事館のホームページを通じて募集した(もちろん,参加無料)。会場(総領事館の多目的ホール)のキャパシティーの制約もあり,人数は各回10数名。香港のみなさんは,控えめな印象。

 まず,書道にはどんな書体があるか等についての説明をし,みなさんの前でひらがなや漢字をいくつか書いてみせた後,自由に書写してもらい,席をまわりながらぎこちなく講評や助言をした。

 恥ずかしそうに,日本語で話しかけてくるひと。
 日本が好きで,何度も旅行しているというひと。
 自由書写で,「風林火山」,「天下一品」,「東北」という語を書くひと,「占領中環」(セントラル占拠),「世界和平」(世界平和)といった語を書くひと。
 平日の日中にもかかわらず参加してくださった男性諸君,香港の祝日に来てくれた小学生。
例の上司も,ふらりと教室にやってきて書写することがあった。
 最後にみんなの拍手の量により,優秀作品を決めたりした。

 こうして触れ合えてよかった。地味な催しながら,和やかな雰囲気だった。
 IT・パソコンの時代でも,アナログな書道に興味を持ってもらえるんだなあ,と思った。
 アンケートには,日本の茶道,華道,香道,アニメ・漫画,着物の着付け,日本食に関心がある,学んでみたい,という書き込みが多かった。
 通常業務の傍ら,私はこのたどたどしい教室を数回開いた。
 その模様を,一部掲載させていただく。

  • (写真3)書道教室の様子
  • (写真4)作品を披露する二人
  • (写真5)集合写真
  • (写真6)「大吉」を書きました

 香港勤務を終え日本に戻ってきた後,香港では,「雨傘革命」と呼ばれるデモが長期間行われた。ニュースに映し出されたのはまぎれもなく,見慣れた香港の風景と,控えめと思われた香港の人たちだった。


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