世界一周「何でもレポート」

タイ語の専門家 守矢さん

令和5年1月6日

 大学在学中のタイへの交換留学(1年間)がきっかけで現在があると伺いました。本日は、タイとタイでの仕事について是非教えてください。

タイ語のあいさつ

(写真1)彫刻が施されたフルーツを前に並べて写る守矢さん タイの伝統工芸である彫刻が施されたフルーツと

 「サワディー・カ!現在、在タイ日本国大使館で勤務しています守矢です。タイ語であいさつは、『サワディー・クラップ(男性)/カ(女性)』と言います。実は、おはようも、こんにちはも、こんばんはも、さらに、さようならも全てこの言葉を使うんですよ。」

入省前の留学経験の有無

(写真2)ホームステイ先の家族と守矢さん ホームステイ先の家族と

 大学でもすでにタイ語を専攻していたのですか。

 「いいえ、大学でタイ語を専攻していたわけではなく、大学在学中にタイに1年間交換留学したのですが、その際にもタイの大学の政治学部の英語で学ぶプログラムに所属していました。しかし、タイに行くと、タイの方はとても優しく親日家で、もっとコミュニケーションをとりたいと思うようになり、この留学がきっかけでタイ語の勉強を始めました。そして、タイ人の友人が『ゲンマーク!(すごく上手!の意)』と言ってくれるのがやる気に繋がり、タイ語の世界にのめり込んでいきました。」

 タイ人の友人を通じて、魅力的なタイ語の世界に入っていったということですね。すてきですね。そうすると、入省する際にはタイ語を希望されたのでしょうか。

 「日本とタイの架け橋になって直接両国に携わる仕事がしたかったため、第一希望はもちろんタイ語でした!」

いざタイへ

 急速に発展するタイですが、タイでの生活で衣食住で困ることはありましたか。

 「衣食住で困ることはありませんでした。タイの市場では魚介類やお肉、野菜や果物などあらゆる食材が売られています。2014 年に留学した時は、停電や断水、蛇口から茶色の水が出てきた時もありましたが、現在のバンコクではそうしたことはほぼないように感じます。他方で、朝と夕の通勤の時間は毎日のように渋滞し、また、排水事情が良くないことから大雨が降ると道路では洪水・冠水が起きます。そこは今もちょっと困る点です。」

  • (写真3)大皿に並べられたお総菜(写真4)台に並べられた食材
    市場には魚の干物などあらゆるものが売られています

タイ語学習の苦労

 そうして、タイ語をマスターする道を歩み始めた守矢さんですが、タイ文字の壁に突き当たります。

 「タイ文字は子音が42字、母音が9音、さらに二重母音や声調、有気音と無気音と種類が多いのです。さらには『この声調記号やこの末子音にはこの発音』と規則や例外も多様なため、文字で挫折しかけてしまう人が多いのです。私もこの段階で第一の壁にぶつかりました。当時先生に『どうしてこうなるのですか?』と聞いたところ、規則や理論で説明できないことも多く『覚えるしかないの!』と怒られた(?)ことも良い思い出です(笑)。」

 しかし、街中の文字が少しずつ読めるようになっていった時は、純粋に嬉しかったと語る守矢さん。

 「例えば、『入る』の意味のเข้าでしたら、が子音のコーカイ、เとาで子音を挟むと二重母音のアオ、上についている飾りは声調記号で、合わさって『カオ(入る)』という言葉になるんだ!という感じです。」

今を大事にするタイ?

 「他方で、タイ語は時制による言葉の変化がありません。過去形も現在形も同じ言葉を使います。」

 それは知りませんでした、それでは、どうやって時制を分けているのですか。

 「例えば『昨日○○に行きました』や『○○に行ってきました』といった感じで、時を示す言葉を入れることで過去であることを示しています。」

 タイ語はなぜ現在形しかないのでしょうか。タイは熱心な仏教徒が多い国と聞きますが、何か現在を大事にする文化があったり、それが言語に影響していたりするのでしょうか。

 「鋭い観点ですね!私の個人的意見になりますが、多くが仏教徒であるタイの方は『現在』を大切にしているように感じます。
 タイでは朝に托鉢するお坊さんに喜捨をしたり、お寺でお祈りやお供えをしたりと『タンブン(徳を積む)』という習慣が根付いています。タイの方が『タンブン(徳を積む)』を行うのは、現世で善行を行うことで『輪廻転生』をした来世でも幸せに暮らしていけると信じられているためです。
 そのためか、タイの方は徳を積む現在に重きを置いているように感じる時があります。研修中にタイ語の先生に一年を振り返って『今年はこんな良くないことがあった』と話したところ、『過去に起こった嫌なことは忘れてしまいなさい、そして他の人を許しなさい』と言われたことがとても印象的でした。そうか、タイの方は忘れることや許すことができるから、おおらかでいられるのだなと感心したことを覚えています。」

  • (写真5)お寺の写真(写真6)銅鑼を叩く守矢さん
    バンコク中心部の仏教寺院「ワット・フアランポーン」にて

語学学習のエピソード

(写真7)市場に並べられた果物 市場には南国のフルーツが沢山売られています(オートーコー市場)

 タイ語は文字の難しさの他に、発音も難しいそうですね。

 「はい、声調のある発音にも苦戦しました。音程が違うと意味が異なってしまうため、タイ語は音程も重要な要素なのではないかと感じます。最初のころはクリアに発音できず、よくお店やバスの方に『何を言っているんだ!』といらいらされていたことも、今では良い思い出です。そのため、よくバスに乗る前やお店で注文する時に、自宅で声調や発音の練習を一人でよくしていました(笑)。」

 タイに来た当初、発音がうまくできずにお店で買い物すらできず、話せなくてはご飯すら買えない!と焦ったことを覚えているそうです。食べるために必死で発音の練習をした成果が今につながるのですね。

在外研修のエピソード

(写真8)暗い中、車が渋滞している様子 バンコクでは毎日のように朝夕は渋滞します

 苦労してタイ語を習得していった守矢さん。現地では、人の温かみに触れることもあったそうです。

 「タイは『微笑みの国』と呼ばれるように、タイの方の多くは温かく優しい国民性だと思います。バスや電車といった交通機関に乗ると、お年寄りや子供に席を譲ることはもちろん、男性は女性にも席を譲ることがあります。私はバスから降車する時に転げ落ちてしまったことがあるのですが、周囲にいた方のほぼ全員が荷物を拾ってくれたり、声をかけてくれたり、立ち上がるのを手伝ってくれたり、と(転んで痛いなと思いながらも)タイの方は優しいなとしみじみ実感したことを覚えています。」

通訳のエピソード

(写真9)法務大臣 ソムサック・テープスティン法務大臣(右)と会談する古川法務大臣(左)
(出典:法務省ウェブサイト)

 そして、タイ語の専門家として在タイ日本国大使館に勤務することになるわけですが、通訳業務などもありましたか。

 「私が最初に二国間会談の通訳業務を経験したのは、2022年7月に法務大臣が訪タイした時でした。初めての大臣クラスの通訳業務で緊張していたのもありますが、大臣が原稿にない事柄について話された際には、法律関係の専門用語がとっさに出てこず四苦八苦したことを覚えています。止まってはいけない!という思いで何とか訳しきったものの、帰りの車で涙ぐみそうになるほど、この通訳のデビュー戦はほろ苦い思い出です。」

 それ以降は、事前に用意される原稿の他に、関係しそうな用語を調べておくことや、昨今のニュースを追って話題になりそうなことを日タイの両言語で準備して、挽回したそうです。

二国間関係

(写真10)ドーン・タイ副首相兼外相と集合写真 ドーン・タイ副首相兼外相と

 「日本とタイは非公式の関係を含めると600年以上の歴史を持ち、皇室王室関係を礎に、非常に緊密で友好的な関係が続いています。タイ人にとって日本は最も人気の観光先である一方で、タイに進出する企業は約6千社、また在留邦人は約8万人と、日本にとってもタイはとても重要な国となっています。留学時代に感じた親日派・知日派の多さは、まさに外交成果や外交の努力による賜物だと思います。こうした友好関係を維持し、さらに発展させていくためにも、これからも微力ながら精一杯頑張っていこうと思います。」


世界一周「何でもレポート」へ戻る