世界一周「何でもレポート」

韓国語の専門家 茂木さん

令和2年7月10日

「感情表現豊かな」韓国語

 반갑습니다! パンガプスムニダ!(こんにちは! お会いできて嬉しいです!)
 初めて会ったときにも、久しぶりに会ったときにも使えます。

 정신이 하나도 없어요! チョンシニ ハナド オプソヨ!(忙しいです!)
 機械的に直訳すると「精神が1つもないです」という意味になります。こう言われると、不思議とそんなに忙しいなら仕方ないかという気になってしまいます。

 시작이 반이다! シジャギ パニダ!(始めれば半分終わったも同然!)
 何事も始めるまでに重い腰を上げるのが大変ですが、一歩を踏み出すために 背中を押してくれるポジティブな表現です。

「近くて遠い国?」をもっと知るために、そして「外交官」の道へ

 茂木さんが韓国語を始めたきっかけはなんですか? なぜ「外交官」を目指そうと思ったのですか? 韓国語は日本語と似ているところが多いようですが、いかがですか?

 「大学の専門は日本文学だったので、韓国はおろか外国とは縁のない勉強をしていました。そのような大学生時代ではありましたが、第二外国語で学び始めた韓国語にハマってしまいました。費用の面でも長期留学するのはハードルが高かったので、大学2年生の夏に韓国のソウルと釜山に3週間ずつ短期留学をしました。期間は短かったですが、日本のすぐ隣にあるのに、よく知らなかった韓国をもっと知りたい、韓国語をもっと勉強したいという思いが強くなりました。
 それから独学を中心として韓国語の勉強を続けながら、色々悩んだ挙句、大学卒業後には、韓国語を本格的に勉強し、韓国語を使い、専門的に韓国に携わる仕事をしたいという気持ちが大きくなっていきました。そうした中で、外務省専門職員という仕事があることを知り、これこそ自分の希望が叶う仕事であると思い、外交官を目指しました。
 外務省に入省し、外務省研修所で韓国語の授業を受けていたとき、先生が、「韓国語の学習は、初めは笑いながら、最後は泣きながら」と言っていたことが忘れられません。韓国語は日本語と語順がほぼ同じで、漢字語が多く使われるので(表記はハングルですが)、初めは勉強するとすぐに実力が付くので、楽で笑いながら入門できますが、勉強して上達すればするほど、日本語との違いの多さ、発音の難しさに苦しむことになります。
 韓国語は母音も子音も日本語より多く、音が豊かな言語だと思いますので、発音が大事です。かくいう私ですが、今でも完璧な発音ができず苦しむことがあります。発音は、自分の口で再現できないと意味がないので、実践と練習あるのみです。韓国人に「ムォ(何)?」と聞き返され、恥ずかしさを味わい、それをバネに、人知れず何度も何度も練習する、これしかないです。」

語学研修時代の思い出

(写真1)延世大学 延世大学

 特に印象に残った思い出は何ですか?

 「在外研修中、延世大学の大学院で韓国政治等を勉強しました。在外研修開始当初から何とか大学院に入学することができたのですが、長期留学の経験もなければ、大学時代に韓国語を専攻したわけでもない私には、大変な日々でした。特に韓国語での発表には苦戦を強いられました。言いたいことが韓国語で上手く言い切れず、しどろもどろになってしまうのです。あらかじめ発表のための原稿を用意する、使いたい表現を確認しておく等、足りない韓国語の実力を補うため、とくにかく準備に多くの時間をかけざるを得ませんでした。今思えば、なぜできなかったのかと思いますが、当時は本当に駄目でした…。

(写真2)韓服を着て伝統的な結婚式を体験 韓服を着て伝統的な結婚式を体験。新郎として式場に入場。
(写真3)慶州の王陵 慶州の王陵。日本の古墳と似ており朝鮮半島との古代からの交流が感じられる。

 よく韓国人は、情に厚いと言いますが、そのとおりだと思います。在外研修中には、日本語を学ぶ韓国人の友人と通訳や翻訳の勉強会をよくやっていましたが、在外研修期間も終わりに近づいた頃、彼らが当時新婚だった私と妻のために地方都市・慶州(キョンジュ)で韓国の伝統的な結婚式を挙げてくれました。わざわざ伝統的な結婚式を行っている会場を探して、予約してくれたのです。とても温かい心遣いに、今でもとても感謝しています。」

緊張感の中での通訳

 「通訳をするときは、その時々で程度の差はありますが、やはり緊張します。これまでの通訳の中で強く印象に残っているのは、在韓国日本国大使館で勤務していた頃の出来事でしたが、2015年12月28日の慰安婦問題に関する日韓合意からまだ間もないときに、駐韓日本国大使が当時の韓国の野党の代表と面談した際の通訳です。日韓合意に対する韓国国内の関心が非常に高まっていた時期でした。面談会場に入ると、カメラのフラッシュの眩しさと熱まで感じるほど、多数のメディアが待ち構えていました。ここで通訳するのかと、たじろぐ間もなく面談スタート。大使の発言が、自分が通訳したまま直ちに報道になってしまうので、もし失敗したら…という恐怖心を抑えながら、とにかく必死で通訳しました。」

「外交官」として

(写真4)2015年の日韓交流おまつり 日韓国交正常化50周年を迎えた2015年の日韓交流おまつり in Seoul。
駐韓日本大使の祝辞を通訳。
(写真提供:日韓交流おまつり運営委員会)

 茂木さんはどのような韓国語の専門家を目指していますか?

 「この仕事の魅力は、我が国と担当する国との関係の最前線において、酸いも甘いも経験できることかと思います。これは、政治、経済、文化、広報、何を担当していても一緒ではないでしょうか。外交官の仕事は基本的に黒子なので、何をしているのか見えにくいですが、自らの身をもって両国関係のために仕事ができるのは、外交官ならではの醍醐味かと思います。
 御承知のとおり、現在、日韓両国関係は厳しい状況にあります。厳しいときにこそ、コミュニケーションが重要ですが、コミュニケーションをより正確に行うため、通訳業務はもちろんですが、韓国語専門の職員として、日韓両国の社会や文化等の違いを踏まえた貢献ができるよう努力していきたいと思います。」


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