世界一周「何でもレポート」

ベトナム語の専門家 鷹尾伏さん

令和元年12月26日

 Xin Chao!(シン・チャオ)=こんにちは!

ベトナム語は発音が命

 「ベトナム語は6つの声調を持つ美しい言語で,発音を間違えば通じません。」
 え?!発音を間違えば,全く通じないのですか?
 「そうです。発音を間違えば,単語の意味も変わってしまいますので,通じないですね。また,方言が豊かな言語であり,地方によって使う単語や発音が異なります。」
 地方によって違いがあるのですね。
 「大まかに北部,中部,南部で異なります。幸い私は,大学時代に南部のホーチミンに一年間留学していたこともあり,今でも南部の方言を聞き取ることはできます。」
 ちなみに,公用語はどこの地域の言葉になるのでしょうか。
 「首都ハノイの言葉が標準語と言われています。ちなみに中部の方言となると,ネイティブのベトナムの方さえも聞き取るのが困難な場合もあり,外国人である私はなおさら理解するのに苦労します。」

ベトナム語を選んだ理由

(写真1)胃袋をつかんだフォー 胃袋をつかんだフォー
(ハノイの街の至る所にフォー屋さんがあり,ハノイ人は自分の行きつけの店があります。)
(写真2)ベトナムのお正月料理 ベトナムのお正月料理

 どうしてベトナム語を選んだのですか。
 「実は,大学でベトナム語を専攻していました。大学受験の前からアジアの言語を学びたいという希望はあったのですが,高校生の時に,父親が駐在していたアメリカに冬休みに遊びにいった際,初めてフォーを食べました。今でこそフォーはインスタントフォーがあるくらい日本人の間ではベトナムの麺料理として定着していますが,当時の日本ではほとんど知られていませんでした。アメリカでフォーを食べ,なんて美味しい麺料理がある国なんだと感銘を受けました。」
 そうなんですね。確かに一昔前まではフォーは馴染みのないものでしたよね。当時のフォーが本当に美味しかったわけですね。
 「ええ。そして,こんな美味しい麺料理がある国のことを勉強してみようと思いベトナムのことを学べる学科のある大学に入りました。大学卒業後は何らかの形でベトナムに関わりたいと考えており,政治,経済,文化等あらゆる分野でベトナムに関わることのできる外務専門職という仕事があることを知り受験をするに至りました。高校時代にフォーに胃袋をつかまれたことがきっかけで,今では,ベトナムの専門家として仕事をすることになるとは当時,想像もしていませんでした。まさにCo Duyen(ご縁がある)だと思います。」

ほろ苦い通訳デビュー

(写真3)大使通訳 大使通訳(研修後は大使の秘書として通訳をこなす日々でした。)

 そして,外務省に入省し,2年間のハノイでの研修を終えた鷹尾伏さんですが,大使館勤務の初日に早速,大使の通訳を務められたのですね。
「図らずも,日越外交関係樹立40周年の記念行事である日越サッカー親善試合に出席する大使に同行した時でした。当初,大使は日本語でスピーチを行い,事前に用意していたベトナム語訳がスタジアムのスクリーンに映し出される予定だったのですが,機材の不具合でスクリーンが使えなくなり,大勢の聴衆を前に急遽逐次で通訳をする必要が生じました。これが私の通訳デビューとなったわけですが,緊張で全身がくがく震え上がり,頭が真っ白になりながらも通訳した経験は,通訳業務を数多く重ねた今でも思い出されるほろ苦く貴重な経験でした。」

日越関係

(写真4)農村 農村(発展著しいベトナムですが,都市部を一歩出るとのどかな農村風景が広がります。)
(写真5)ベトナムの交差点 ベトナムの交差点(信号なんて関係なし!?混沌とした交差点。ベトナムではどこでも見られる光景です。)

 ベトナムは,少し郊外に行くと日本人にもふるさとを思い出すような田園風景が広がっていたりと親しみやすそうですね。
「はい。私が高校生の時のベトナムのイメージは,枯葉剤,ベトちゃんドクちゃんといったベトナム戦争のイメージでしたが,この十数年の間に,日本人にとってベトナムという国は非常に身近な国になっています。」
そういえば,前回,「チャレンジ!外国語」Part1で登場した六反田さん(平成19年10月掲載)がベトナムにいた時代は,まだスーパーマーケットの数も少なかったようですが,最近はどうですか。
「近年,ベトナムは経済成長が著しく,日本の大手スーパーマーケット・チェーンも進出しています。この十数年の間に,日本人にとってベトナムという国は非常に身近な国になっています。直行便も増え,極端な話,週末にベトナムに行ってみるということも可能な時代となっており,毎年約120万人を超える両国の国民が観光客として相互に訪問しています。 また,ベトナムからも多くの方々が訪日しており,37万人以上のベトナム人が留学生や技能実習生として日本に滞在しています。さらに,人的交流だけでなく,近年両国は政治,経済,外交安全保障の分野における協力が緊密になっています。」

外交官としてのやりがい

(写真6)2017年に天皇皇后両陛下(当時)がベトナムを御訪問されました。 2017年に天皇皇后両陛下(当時)がベトナムを御訪問されました。

 両国間の人の往来が増えていることもあり,ベトナムと関わるということにおいては,様々な職業の選択肢があるそうですが,外交官としてベトナムに関わるということの醍醐味は何でしょうか?
「政治,経済,文化等多角的な観点から二国間の関係に関わることができることだと思います。特に専門職は自分の専門の国と長い外交官人生を通じておつきあいをすることになります。両国間の多くの人々のたゆまぬ努力で日々少しずつ紡ぎ出されていく両国の絆を間近で感じることができるのは大変やりがいを感じますし,その一端を担えるよう日々精進したいと思います。」

おしん!?

「日本語がそのままベトナム語として使われている言葉として『おしん』という言葉があります。これは1990年代にベトナムで放送された日本のドラマ『おしん』がベトナムで大流行し,『お手伝いさん』のことを『おしん』と呼ぶようになったことに起因します。私が学生時代に下宿していたホーチミン市の家には,14歳の女の子が『おしん』をしていました。彼女は貧しいメコンデルタ出身の少女で,韓国ドラマが大好きな女の子でした。同年代の女の子たちがおしゃれをしたり,学校にいったりしているのを横目で見ながら毎日熱心に家の中の仕事をこなしていました。ある時,彼女が私に将来の夢は『韓国にお嫁に行くこと,韓国にお嫁に行けば韓国ドラマの中の主人公のようにおしゃれもできるし,学校にもいける。』と話してくれたことがありました。今,彼女がどこで何をしているかは知りません。現在,ベトナムというと経済発展著しい点ばかりに目がいきますが,こうした経済発展から取り残された人々が多くいることを常に忘れないようにしたいと思います。」

便利なフレーズ

(北)Gioi oi(ゾイオーイ)/(南)Troi oi(チョイオーイ)/オーマイゴット(ベトナム人はよく使います。)
Co Duyen(コーズエン)/ご縁がある。
An com chua?(アン・コム・チュア?)/ご飯食べた?(ベトナム人は本当に気遣ってくれて,ご飯を食べていないと自宅の夕食に招待してくれたりします。)


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