外務省を知るためのイベント

平成26年2月7日
 平成25年12月20日(金曜日)、外務省において平成25年度第2回「外務省セミナー『学生と語る』」を開催いたしました。
 全体講演および分科会の内容について、アンケートにご協力をいただいた参加者の感想を引用しつつ、紹介します。

1.全体講演

開会挨拶(大臣官房国内広報室 山下恭徳室長)

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 「学生と語る」開催趣旨の説明に続き、外務省が発行するわが国唯一の外交専門論壇誌「外交」について紹介した。

基調講演「国際情勢と日本外交」(13時35分~14時35分)
(講師:総合外交政策局政策企画室 杉浦正俊室長)

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 前半は、日本および日本を取り巻く国際社会の情勢について概観した。冒頭、各国の世論調査等で日本(日本人)は、世界から好感度の高い国だと見られている一方、人口減少、高齢化および財政赤字などの課題にわが国が直面していると述べた。続いて、日本の繁栄は外国(貿易)に依存しているというイメージが強いが、データによれば日本のGDPに占める貿易割合(貿易依存度)は輸出入とも10%台と国際的に見て低い水準にあり、日本は貿易に依存しなくても大丈夫との議論もあり得ることを紹介した。しかし実際には、食料自給率は4割で、エネルギーについては輸入が9割にのぼり、海上輸送にかなり依存していると解説した。

 次に、日本の海洋をめぐる最近の情勢として、中国の海洋進出について触れ、中国の対外説明では、経済成長にしたがい、必要なエネルギー、資源、市場の確保、権益を守るとの観点で海洋進出することは自然だとしていることを紹介した。続いて東アジア地域の軍事力を概観し、欧州・米国など国際的に兵力を縮減する潮流の中で、東アジアには強力な軍隊、核戦力をもつ国家が集中しており、この地域の軍事力構成は特異な状況だと解説した。同時に、アジアを含むアジア太平洋地域は世界の成長センターであり、名目GDPの伸び率はその他の地域に比べ著しく高いと語った。また、パワーバランスの変化という点で、アジアなど新興国とG8が世界に占めるGDPシェアは、その差が縮小しているが、他方、一人あたりGDP、豊かさという点では格差はむしろ拡大していると説明した。さらに現在のトレンドに基づく将来予測によれば、2060年には米国、日本、EUおよびOECD加盟国が占める割合は2011年の65%から42%程度まで縮小すると述べ、これまで先進国と言われていた国の影響力は相対的に低下しつつあると解説した。

 後半は、日本がおかれている状況、世界で動いている状況を踏まえ、これからの日本外交の展開を語った。

 まず、岸田外務大臣が唱える日本外交の3本柱((1)日米同盟の深化、(2)近隣諸国・地域諸国との協力、(3)経済外交の推進)について概説した。

 日米同盟は安全保障条約が大きな柱ではあるが、経済、文化・人材交流も含む広範なものであり、両国はアジア太平洋地域の安定や国際的な課題に共に取り組む関係であると説明。次に近隣諸国・地域との協力については、APEC、ASEANなどアジア太平洋の地域協力の枠組みを概観し、我が国は二国間の関係はもちろん重要であり強化していくが、同時にこれらの枠組みを活用して開放的で透明性の高い地域協力を推進すると述べた。続いて経済外交の推進について、(1)日本経済再生に資する取組、(2)安心して住める魅力ある国づくり、(3)国際的なルール作りの3つのポイントを解説し、特に国際的なルール作りでは、日本の得意な分野で有利なルールを作る、あるいはなるべく不利にならないようにするなど国際的な会議の場で日本の立場を反映することが重要だと指摘した。

 次に4本目の柱として、地球規模課題への取組について説明した。最初に日本政府が積極的に取り組んでいる人間の安全保障は、国家による安全保障を補完するものとしてテロ、感染症等様々な脅威にさらされる個人、コミュニティに着目して、彼らの保護と能力向上を重視する考え方であると述べた。次に我が国のもっとも重要な外交ツールであるODAの活用を詳しく解説し、今後はNGOや中小企業などODAの新たな担い手を積極的に活用し、国際協力を進めていくと述べた。続いて平和協力・平和構築の取組みについて、国連PKOミッションへの人的貢献や人材育成に加え、環境整備についても言及した。特に環境整備については、「防衛装備品等の海外移転に関する基準」の策定について、ハイチの事例を挙げてわかりやすく解説した。さらに軍縮・不拡散を進めることは、わが国の憲法の理念にも合い、唯一の戦争被爆国としての道義的責任、さらに安全保障環境改善にも関係する重要な施策であると強調した。地球規模課題として、最後に、最近の重要な施策として女性関連施策について説明した。特に、グローバルな課題への対応として、女性の能力強化、権利の保護・促進に取り組むことを重視しているとして、アフガニスタンの女子教育のわが国の取組を例に挙げ詳説した。また今後はNGOや民間企業の技術、知見を活用して推進していくとも述べた。さらに女性の保健医療分野での取組、紛争下での女性の保護等も重点的に進めていくと語った。

 最後に積極的平和主義について、国家安全保障会議(NSC)、国家安全保障戦略(NSS)、中期防衛計画の大綱見直し、安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会について、その意義と目的について概説した。特にNSSについて、地域・世界の平和と安定に向けた日本の長期的ビジョン、指針を内外に示すものとして重要な役割を果たしていると述べ、講演を締めくくった。

<参加者の感想>

  • 時々刻々と変化しつつある世界情勢の中で、日本がどのような外交戦略を持って臨んでいるか、最前線の実務家の講演は刺激的だった。
  • 全体会で日本の目指している外交、課題等を包括的に知ることができ、その後の分科会の内容がより理解が深まった。

「省員による体験談」(14時35分~15時20分)
(講師:大臣官房人事課 島田謙治課長補佐)

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 はじめに入省後の10年を振り返り、外務省の仕事について説明した。世界10数カ国への出張やマルチの国際会議の開催に携わり、世界各国の外務省職員、在京大使館員らと直接コンタクトを取るなど、世界を舞台に活躍できる仕事であると紹介。さらに外務省の任務として、良好な国際関係を推進し、日本の国益の増進を図るために、安全保障、経済外交、地球規模の課題、文化外交など幅広い分野の業務があるということを説明し、自身は経済条約、中南米地域、OECD、TPPなどの業務に携わってきたと紹介した。さらに若手省員のキャリアパスでは、特に在外での語学研修について自身の体験を交え詳しく説明した。

 続いてこれまでに携わってきた業務体験を通して外務省の仕事のやりがい等について語った。

 在外研修中の2008年、研修地(スペイン・サラゴサ)で開催された「サラゴサ国際博覧会」(水の国際博覧会)に皇太子殿下をお迎えすることとなり、その準備作業に自身が携わった体験を通して、地元自治体等関係者との協議、調整する中では自分の判断で進めることもあり、外交の現場と言うのは自分の判断、発言が日本政府の意向として受け取られることを実感したと語った。同時に、人と人との繋がりが仕事を成就させることを実感したと感想を述べ、外交は相手との信頼関係の中で仕事を進めていくことが重要だとし、達成感がある仕事だと語った。

 続いて2011年、日・メキシコEPAの改正交渉での妥結、署名のプロセスを、詳細かつリアルな再現で紹介しながら、交渉の裏側での詰めの作業、メキシコ担当官とのやりとりなど外交官の現場実務を紹介した。帰国時に自身が関わった合意文書を腕に抱えながら、これが日本の権利や義務を規定していくものと思ったとき、外務省の仕事のやりがいと責任の大きさを感じたと、体験談を締めくくった。

<参加者の感想>

  • 人と人との繋がりの大切さを認識することができた。外交官の日本を背負う責任の重さと仕事を達成したときの充実感、やりがいが伝わってきた。
  • 臨場感溢れる体験談やキャリアパスの話しは非常に有意義だった。

2.分科会(15時40分~17時40分)

 全体講演終了後、6つの会場に分かれて分科会が開催され、各分科会では、外務省員によるプレゼンテーション、質疑応答、参加者によるディスカッション等活発な意見交換が行われた。

「ASEAN外交」
(講師:アジア大洋州局地域政策課 市場裕昭課長補佐)

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 本分科会においては、戦略的重要性が高まりつつあるASEANについて、その成り立ちや現状を概説するとともに、深化する日・ASEAN関係について、前週に行われた日・ASEAN友好協力40周年特別首脳会議の現場の様子を交えつつ説明を行った。

 その後、日・ASEAN関係について、政治・安全保障、経済・経済協力、文化・人的交流といった幅広い文脈から議論を行い、参加者からは、ASEANの重要性について様々な視点から鋭い意見が出されるととともに、アジア全体におけるASEANの位置づけ、アジアと欧州との比較といった幅広い観点からも積極的に意見・質問が出された。

<参加者の感想>

  • ASEAN地域を概観しながら自由に議論できたことで大きな収穫があった。様々なバックグラウンドをもつ参加者の関心を知ることができた。

「日本の安全保障政策」
(講師:総合外交政策局安全保障政策課 梶田拓磨課長補佐)

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 本分科会においては、北朝鮮によるミサイル・核開発など、日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増していることを具体的事例に照らして確認した上で、国家安全保障会議の設置、国家安全保障戦略の策定など、近時の日本の安全保障政策の進展を踏まえつつ、日米同盟の在り方、集団的自衛権の行使の是非を含む日本の安全保障政策の在り方、近隣諸国との関係の在り方などにつき議論を行った。

 例えば、日本の安全保障を考える際に最も重視すべき点について、参加者からは、各国との協力関係の深化の必要性、特に重視すべき地域、日米同盟の在り方など、様々な意見が表明された。

 意見交換では、実務における実際的な観点なども共有しつつ、共に、将来を見据えた戦略的な安全保障政策の在り方について考えを深めた。

<参加者の感想>

  • 大学で国際法、外交史を勉強しているが、実務に携わる方の話を聞くことで、より理解を深めることができた。

「国連外交」
(講師:総合外交政策局国連企画調整課 細見昌史事務官)

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 本分科会においては、国連を始めとする国際機関に日本が加盟する意義や国連の活動について解説した。

 また、日本と国連の関係及び国連を通じた日本の活動について説明を行うとともに、9月に安倍総理が実施した国連総会一般討論演説がどのように作成されたかについても紹介した。

 出席者からは、安保理改革に向けた日本の取り組みや、一般討論演説で安倍総理が掲げた「積極的平和主義」により国連PKO活動への参加などの日本の国連外交がどのように変わっていくのか等について質問が行われ、講師との間で活発なやりとりが行われた。

<参加者の感想>

  • 基本的な情報に関してわかりやすい説明、最新の安保理改革や平和構築、人間の安全保障について説明を受けた上、質疑の時間が豊富で理解を深めた。

「対中国外交」
(講師:アジア大洋州局中国・モンゴル第一課 手塚功課長補佐)

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 本分科会においては、「対中外交」をテーマとして、日中関係の歴史と現状について説明しながら、主に尖閣諸島をめぐる情勢や中国が11月に設定した「防空識別区」に言及しつつ、日中関係の今後の見通しについて様々な角度から議論を行った。

 参加者からは、最近の中国内政の主要動向や、青少年を中心とする両国民の関心事項、さらに外交実務における対中外交の進め方について質問が出された。

 特に、現下の日中関係をいかに改善していくのかについて、参加者からは、様々な観点からいろいろなアイデアが出され、日本政府の基本的な立場や外交実務についての理解を深めながら、活発な議論が行なわれた。

<参加者の感想>

  • 日中関係を取り巻く現状、日本、中国それぞれが抱える問題への理解が深まった。実際に省員から自身の経験を踏まえた具体的な話を伺い勉強になった。

「日・EU外交」
(講師:欧州局政策課 原琴乃課長補佐)

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 本分科会においては、まず日本にとっての欧州の意義について、欧州の発信力や経済力、国際社会での規範形成力等に言及しながら紹介した上で、その欧州の意義を最大限活かすべく対欧州外交をどのように展開しているか、最新のEU情勢と日EU外交を事例に説明した。

 特に、EUの拡大と統合深化に伴う諸課題について、EU域内外の文化・宗教・社会・経済等の相違や地政学的観点から見るとともに、EUがその課題を乗り越える上で日本がどのような協力・貢献を行えるか、また日本がその課題の解決から何を学べるかについて、参加者からの鋭い質問や提言も得つつ、最新の外交的取組の紹介等も通じて、議論を行った。

<参加者の感想>

  • EUとの関係のあり方、EUの個別の状況についてわかりやすく解説いただき理解が深まった。他の学生の意見や質疑を通じて講義が整理できた。

「経済外交」
(講師:経済局政策課 鈴木幸雄課長補佐)

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 本分科会においては、外交という仕事の持つ意義や外交官という職業の特徴に触れた上で、日本の経済外交の3つの側面-経済連携や風評被害対策を含む日本企業の海外展開支援、エネルギー安全保障、食料安全保障をはじめとする安心して住める魅力ある国作り、G8・G20サミットやWTO、OECD、APEC等の国際的なルール作りへの参画、について実際に行われる外交上の業務の紹介を交えながら説明が行われた。

 参加者からは、経済外交の中には多種多様な取組があり、それぞれが強みや特徴を持っていることへの理解が深まったとの発言があり、いかなる戦略をもってそれらを取り進めていくことが国益に適うか、また、外交全体における経済外交の役割等につき鋭い指摘があるなど、有意義な議論が行われた。

<参加者の感想>

  • 外交は国益の追求が目的でありながらも交渉の相手国、当事国のみならず世論にも気を配り、交渉後には次なる交渉が意図されるなど非常に多角的な視点が求められることを実感した。

3.懇親会(18時10分~19時30分)

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 分科会終了後に行われた懇親会には、参加者に加え、山下国内広報室長はじめ分科会講師、入省1年目の省員など30名を超える外務省員が参加し、参加学生と外務省員が熱心に語り合う姿が会場の随所に見られた。
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最後に

 今回の「外務省セミナー『学生と語る』」には定員を大きく超える応募があり、会場の都合により残念ながらご参加頂けなかった方々には深くお詫び申し上げます。

 ご参加頂いた方々のアンケートでは、参加して良かったという感想をはじめ分科会テーマ、議論の進め方などについて様々なご意見、ご提案をいただきました。アンケートに寄せられたご意見、ご提案を参考に本事業をさらに充実・発展させて参ります。

 今回、本事業の広報活動にご協力いただきました各大学、大学院、予備校等の教育機関の教職員の皆様に厚く御礼申し上げます。

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