政策評価

平成30年3月26日

1 日時

 平成30年1月19日(金曜日) 14時30分~15時30分

2 場所

 外務省 南272号室

3 出席者

(有識者)(五十音順)
秋月 謙吾 京都大学大学院法学研究科 教授
神保 謙  慶應義塾大学総合政策学部 准教授
福田 耕治 早稲田大学政治経済学術院 教授
山田 治徳 早稲田大学政治経済学術院 教授
(外務省)
遠藤 大臣官房総務課長
真鍋 大臣官房考査・政策評価官(司会)
村岡 大臣官房ODA評価室長
髙橋 総合外交政策局政策企画室長
貝原 総合外交政策局総務課主任外交政策調整官
原田 会計課総務室課長補佐

4 議題

  • (1)外務省における政策評価の基本計画(平成30年度~34年度)案
  • (2)平成30年度外務省政策評価
    • ア 実施計画案
    • イ 判定基準案等
  • (3)政策評価をめぐる最近の動き
  • (4)行政事業レビュー

5 発言内容

【外務省】
 本日は第28回外務省政策評価アドバイザリー・グループ会合に出席頂き感謝申し上げる。
 厳しさを増す安全保障環境,近隣諸国との関係,保護主義の台頭,軍縮,気候変動等の地球規模課題,中東,自由で開かれたインド太平洋戦略等々,日本外交の課題は多々ある。政策評価を見ながら,各分野の政策の取組を進めていきたい。
 本日は,議題(1)で,今後5年間の基本計画案,議題(2)で平成30年度の実施計画案等についてご説明させていただく。平成30年度は,安全保障,経済,国際協力等,主に分野別の施策について評価を実施予定である。各施策が日本の外交政策全体の視点から求めるべき成果を達成したか否かという点を勘案し,より客観的,厳格な形で評価をしていきたい。
 議題(3)では,政策評価をめぐる最近の動きとして,EBPM(証拠に基づく政策立案)推進に係る政府の取組等の現状を紹介したい。外交政策の特性を踏まえると,EBPMの実施には様々な課題があると思うが,当省としてどのように取り組んでいくか検討していく。
 政策評価のプロセスを通じて,また,評価の結果を活用して,外交政策をより効果的,効率的なものとし,国民への説明責任を果たしていく。そのためにも,政策評価の手法を不断に見直し,改善していくことが重要であるので,そうした観点から,先生方から忌憚のないご意見を頂きたい。

(1)外務省における政策評価の基本計画(平成30年度~34年度)案

【外務省】
 まず,外務省における政策評価の基本計画案について説明する。
 基本計画は,政策評価法第6条に基づいて,外務省においては5年ごとに定めているものであり,今回の計画期間は,平成30年度から平成34年度までの5年間となる。「計画期間」や「政策評価の実施に関する方針」といった項目は,政策評価法に沿って定めている。
 また,各項目の内容については,政策評価に関する基本方針に沿って定めている。基本的な内容は,前回の平成25年度から平成29年度を計画期間とする基本計画と同様である。

(2)平成30年度外務省政策評価

ア 実施計画案

【外務省】
 実施計画案は,政策評価法第7条に基づき,事後評価について,評価の対象等を毎年定めているものである。平成30年度は,主に分野別の外交について評価を行う。
 具体的には,国際の平和と安定に対する取組,国際経済に関する取組,国際法の形成・発展に向けた取組,情報収集・分析等,広報・文化交流等,経済協力,環境問題や気候変動といった地球規模の諸問題の取組である。また,分担金・拠出金についても評価を行う。
 評価対象は,これら以外に2つある。
 一つ目は政府開発援助に関する未着手・未了案件である。対象案件の確定は年度末になる。
 二つ目は,規制に係る政策の事後評価である。平成30年度は,旅券を紛焼失したときに旅券名義人本人が出頭して届け出ることを義務づけるという規制に対する事後評価を実施する。
 事後評価の方法については,基本的には平成29年度と同様である。基本計画,実施計画については,今後,年度末までに外務省ホームページで公表する予定である。

イ 判定基準案等

【外務省】
 政策評価のフォーマットは基本的に平成29年度から変更はない。
 目標達成度合いの判定基準,手順の変更点について4点説明する。
 一点目として,各年度目標の達成状況の「判定の目安」として「s」,「a」,「b」,「c」,「d」の5段階のうち「b」を標準とすることを明確にした。
 二点目としては,評価の視点について,当該指標のみに着目するのではなく,外交政策全体から見たときにどのように位置づけられるのかという視点から,本来求められるべき成果,実績は何なのか,どの程度達成できたのかということも含めて,総合的に達成状況を判定し,より包括的な形で評価をしていきたい。
 三点目として,判定基準をわかりやすく整理した。まず,測定指標のうち主要なものを予め指定した上で,各指標の判定結果をもとに施策全体で各行政機関共通の5区分で評価する。
 四点目として,施策毎の目標達成度合いとして,各省共通の「目標超過達成」から「目標に向かっていない」までの5段階のそれぞれに,よりわかりやすくするという観点から,外務省独自の設定として「S」から「D」を併記することとしたい。

【有識者】
 これまでは,目安としては「b」を標準とするという表現が無かったということか,どれが標準だという表現は無かったのか。

【外務省】
 然り。

【有識者】
 これによって,どう変化するのか。目安としては「b」を標準とするのは曖昧な感じがする。例えば評価の最頻値や,中央値,平均値が「b」になるようにするということか。

【外務省】
 目標を超えて達成している,達成している,相当程度進展がある,といった目標達成度合いに基づいて客観的に評価をすることには変わりない。実際に評価する場合に,標準があった方が,より客観的に評価しやすくなるのではないかと考えている。評価するに当たって,「b」相当の「相当程度進展あり」は,どちらかというとやや低い評価との印象になる可能性もある。そうではなくて「b」でも,これは相当程度進展があったということで,特段悪い評価ではないという意味で,「b」が標準ということを明示することによって,より,本来の共通区分に従った評価をしやすくなるのではないかと考えている。

【有識者】
 「b」は良くないという心理的な影響を排するという効果を期待するということか。

【外務省】
 そういう効果もあるのではないかと考える。

【有識者】
 目安を設定されたのは非常に良いことだと思う。
 目標をどの辺りに設定するかで評価も全然変わってくる。大学の成績でも,期待値や充足値を設け,「優」や「良」をつける。今回のような目安があると,目標を達成できていないものがあっても,それをもって,直ちに非とするものではないとなり良いことである。
 アメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領の政策評価の際,グリーン,イエロー,レッドの3段階で,イエローやレッドがあることにより,これが評価だと言って大統領が満足したという例もある。
 目安を設けることを評価する。

【外務省】
 目標の水準を適切に設定する上でも,評価の目安があった方が良いが,目標の設定水準をどのレベルにするかは難しい問題である。仮に成果が同じであっても,事前に設定した目標のレベルによって評価の結果が変わってしまうこともあり,目標を如何に適切な水準に設定するかが重要なので,政策評価を進める中で,改善していきたい。

【有識者】
 判定基準は2年間の評価にのみではなく,中期レベルでもこの基準でやるという理解で良いか。

【外務省】
 2年間の評価である。平成30年度については平成28年度と29年度の成果について評価する。

(3)政策評価をめぐる最近の動き

【外務省】
 政策評価審議会において昨年3月に目標管理型の政策評価の改善方策が示され,外務省としても,これを踏まえた政策評価の改善に取り組んでいる。
 特に,政府全体で取り組んでいるのは,ロジックモデルの活用であり,まだ試行段階だが,目標管理型評価の事前分析表を作成するに当たって,ロジックモデルを活用して目的と手段の関係をより明確にする,あるいは,アウトプット,アウトカムの関連等を明確にすることによって,政策評価を改善することを目指している。現在,総務省が取りまとめているところであり,その結果を踏まえて外務省としても改善していきたい。
 次に,政府全体の方針として取り組んでいるEBPM推進の取組についてご説明する。大きな動きとして,昨年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2017」においてEBPMの推進が政府の方針となった。政府の取組は,政策,施策,事務事業の3つの階層に分かれるが,施策レベルにおけるEBPMの取組としては,施策を評価の対象としている政策評価の仕組みを活用しようということになっている。具体的には,総務省が実証的な共同研究を計画しているので,その結果を受けて,外務省としてもどういったやり方ができるか考えていきたい。
 なお,政府全体として,各省にEBPM推進担当の幹部を置いて,それぞれの省で中心的な役割を担うことになっており,第1回EBPM推進委員会が昨年8月に開催され,今後の取組方針などについて確認した。

【有識者】
 EBM(エビデンスに基づく医療)は以前から言われているが,これを政策立案にも応用しようという流れと理解する。
 政策立案の根拠を明確にすることは結構なことだと思う。
 社会をどう変えていくか考える際,例えば,「標準世帯」という概念は,かつては「夫婦と子ども二人」が標準だと言われたが,今は単身者が一番シェアが大きい。時代の変化に合う形で次の施策を設定しなければいけない。
 具体的なデータを幾つか取り上げ,継続してデータの推移を見ながら,次の中期計画を立てるのが良い。外務省では継続して取っているデータはあるのか。

【外務省】
 EBPMの取組は始まったばかりで,まだ試行錯誤の段階にある。
 EBPMのE(エビデンス)は,基本的には統計やデータを念頭に置いているが,外交政策の場合,その性質上,統計データをどう取るのかが難しい。
 例えば,日本とある国の関係強化をどのような統計データで示すのかは難しいところがある。
 エビデンスは必ずしも定量的なデータでなく,定性的なものでも良い,との助言をいただいているので,ロジックモデルを活用し,定性的なエビデンスを使ってうまくロジックが繋がるようにしてEBPMに繋げていきたい。

【有識者】
 諸外国の戦略研究所等で出している報告書だと,例えば武器の性能とかGDPに占める軍事費の割合といった比較データがあり,それを参考にして,今後政策提案をするような議論が進むのではないか。いろいろ興味深い。

【外務省】
 他国でも,外交当局によるEBPM実践の例があると思うので,参考にしたいと思っている。

【有識者】
 現在のわが国のEBPMの取組みは統計整備がメインである。統計改革推進会議最終とりまとめにもあるとおり,概念を如何に指標化し,整備していくかが課題である。日本の政策形成の場合,「論より証拠」ではなく「証拠より論」という側面が強いと思うが,「論も証拠も」というのがEBPMの流れであろう。
 エビデンスのレベルとしては,トップに来るのがシステマティックなRCT(ランダム化比較試験),次いでシステマティックではないRCT,DID(差分の差分)分析などがあって,一番下層が個々の事例と専門家の知見ということになる。基本的にはRCT,いわゆる社会実験がベストのエビデンスと考えられている。イギリスではブレア政権下以降,EBPMは1,000人規模のエコノミストを使って実践されてきたが,「個々の事例はもう見る価値は無い」と言っていた専門家も最近では「個々の事例も立派なエビデンスだ」と言うようになってきている。その辺りを認識しておく必要があると考える。一部の専門家が考えるように,世の中は理想的,単純ではないので,政策形成において,エビデンスはあくまで一つの要素に過ぎず,それだけで全て政策が決まるわけではないという視点を失ってはならない。

【外務省】
 医療,教育,公共事業等の分野では社会実験もやり易いと思うが,外交政策で社会実験は難しいので,他の分野とは異なるやり方でEBPMを考えていく必要があると思っている。

【有識者】
 統計改革では具体的に何をやろうとしているのか。よりデータ化するという方向に行くのかどうか,分かる範囲で教えていただければと思う。

【外務省】
 統計改革は幅広い内容になっている。一つは,統計の精度の向上。次に,統計の有効活用。政策立案に如何に活用していくか,及び,民間での利活用という側面もある。さらには,そうした政策を進めていく上で,統計を扱う人材の育成も必要であるとされている。
 統計を改善し,うまく活用していくということであり,その議論の中にEBPMが入っている。

【有識者】
 統計改革は内閣府が中心となって進めるというイメージか。

【外務省】
 EBPM,統計改革ともに内閣官房が中心となって,統計を持っている省庁等も協力して取り組んでいる。

【有識者】
 内閣官房と外務省との間で政策立案について何らかの連携があるのか。EBPMを進める上で,何らかの方針,方向性につき内閣官房と外務省との間で連携はあるのか,外務省独自でEBPMについても進めているのか。

【外務省】
 内閣官房行政改革推進本部事務局がEBPM推進の取りまとめをやっており,緊密に連絡を取っている。内閣官房が全体の方針を決め,各省庁がEBPMを推進していくことになっており,その中で外務省もEBPMを推進していく。

(4) 行政事業レビュー

【外務省】
 前回のアドバザリーグループ会合以降に,29年度の秋のレビューがあった。
 春の公開プロセスは,外務省が主体的に行うレビューであるが,秋のレビューは,行革推進本部が中心となって,行革本部が事業を選定し,行革本部の指定した有識者の方にご指摘をいただくというもの。今回の秋のレビューの対象としては,ODAのボランティア事業が取り上げられた。
 本事業は,春の公開プロセスでも取り上げたが,秋のレビューでも,改めて別の視点でご指摘をいただいた。ボランティア事業の制度は構築して50年経っているが,設立当初の目的と現状の国際環境の変化が対応しているのか,というところから議論した。
 具体的には,青年海外協力隊は戦後間もないときから,国際交流に携わってくれる若手の方を増やしていくという点に根幹を置いて,20歳前半から39歳までを対象としているのに対して,シニアボランティアは,長期専門家,専門家から派生したボランティア事業であることに根幹を置き,専門的な知識,知見を有するであろう40歳からを対象としている。
 この39歳と40歳のわずか1歳の違いで現地生活費,住居手当,または家族手当に関する差が,制度の発足当初から発生しており,この点について,もっと専門的知見に比例した手当のあり方はできないのかとのご指摘をいただいた。現在,専門的技能に基づいた手当を支給する方向で外務省で抜本的な見直しをすることとしている。
 また,近時はNGOが世界各国で活動しているので,ボランティア事業でNGOと更なる連携を進めた方が良いのではないかというご指摘もいただき,当省とNGOとの間で話し合いの機会をより多く設けるなど更に連携をしていくことになった。
 更に,EBPMの試行的な検証もあった。
 具体的な事業としては,文科省,農水省,経産省,厚労省,国交省の事業が対象となり,ロジックモデルを作った上で検証していくべしということで,これらの省がロジックモデルを作って,外部有識者の方から評価してもらった。
 何を目的として行う事業なのか,事業の目的,達成手段,それが有効か,事業の達成手段の合理的な説明ができるのかというロジックモデルを作って,それをサポートするような証拠を付けるべしというご指摘があったようである。
 EBPMについては試験的であるが,いずれ当省も秋のレビュー等で対象になると思うので,引き続き省内でも検証した上で準備を進めていきたい。

【有識者】
 EBPMの話にもどりたいのだが,政策立案を行う際に予めエビデンス及びデータに基づいてその政策の有効性を説明して,予算を付けたり,リソースの再配分をするということに対して合理性を高めるという考え方と政策評価とをどう結びつけるのか。評価の際,エビデンスを付けるということか,それとも,そもそも政策の目標の設定自体がEBPMに基づいていたかどうかを評価の対象にすることを含む話なのか。
 つまり,そもそも立案がエビデンスに基づく形でなされていたかということと,達成されたものが,どれだけ可視化されエビデンスに基づくものであるかという,エビデンスの捉え方にはインプットとアウトプットの両方あるように思う。EBPMを重視するという時に,政策のダイナミクスの中でどのプロセスで重視しようとしているのかが,分かりにくい。
 外務省でEBPMと言ったときに,定性的なものを重視するというのはよく分かったが,エビデンスを政策のダイナミクスの中で特にどの辺りに取り入れるのか。

【外務省】
 最近,日本評価学会に参加したが,そこでもEBPMを政策評価との関係でどう整理するか,というような議論があった。
 その上で申し上げると,いわゆるPDCAサイクルの中で,評価はCの部分に相当し,EBPMは政策立案なので,AないしPに当たると思うが,その意味では段階が違うので,この両者の関係をどう整理するかは確かに一つの課題であると思う。
 おそらく二つあって,一つは,政策評価自体がエビデンスとなって,その後の政策立案に繋がりやすいような評価を行っていくという考え方である。
 もう一つは,政策評価をする際に,EBPMが実践されているか,あるいはEBPM的な考え方が取られているかということを評価するやり方である。
 具体的にどのようにやっていくかについては,これから試行錯誤しながら考えていきたい。

【有識者】
 青年海外協力隊をやめて以降の人生のキャリアプランがうまく繋がっていかないので,あまり勧められないということを聞いているが,最近は,次のキャリアの展開に繋がっていくようになっているのか。終了後,何らかの職業,または,国際協力関連の職業に就いているか等,調査はなされているのか。

【外務省】
 この点は,春の公開プロセスで議論された。
 青年海外協力隊というのは,若い頃に海外に行ってしまうので,日本の採用形態の新卒採用から外れてしまうという点はある。
 ただ,海外に飛び出していくような若い,エネルギーを持った,バイタリティーがある人の方が,実は企業にとっては新しい風が入るということで,JICA側,外務省側も,青年海外協力隊のOBの方々の次のキャリアに繋がるような,企業への説明会を強化する取組を引き続き行っており,広報活動も行い,そして更にそれを広げていくという取組を行っている。


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