政策評価
外務省政策評価アドバイザリー・グループ(AG)第38回会合 議事録
1 日時
令和5年7月7日(金曜日)14時30分~16時00分
2 場所
外務省南272号室
3 出席者
- (有識者)(五十音順)
- 石田 洋子 広島大学副学長(ダイバーシティ担当)/特命教授
- 遠藤 乾 東京大学大学院法学政治学研究科 教授
- 神保 謙 慶應義塾大学総合政策学部 教授
- 南島 和久 龍谷大学政策学部 教授
- 福田 耕治 早稲田大学政治経済学術院 教授
- (外務省)
- 三宅 大臣官房総務課長
- 木村 考査・政策評価室長(司会)
- 西野 ODA評価室長
- 中西 総合外交政策局総務課首席事務官
- 前田 総合外交政策局政策企画室首席事務官
- 和田 大臣官房会計課課長補佐
- ほか
4 議題
- (1)令和5年度外務省政策評価書について
- (2)政策評価をめぐる最近の動き(政策評価に関する基本方針の一部変更)
- (3)行政事業レビュー
5 発言内容
【外務省】
本日は第38回外務省政策評価アドバイザリー・グループ会合に御出席いただき感謝申し上げる。
本日の会合では、当省の地域別外交に関する6つの施策に関して、令和2年度から令和4年度までの3年間の実績に係る評価について議論いただく。評価対象期間のこの3年間の大きな動きとして、一つは、対面外交が大幅に制限されるなど、新型コロナが外交全体に対して大きな制約を課した。もう一つは、昨年2月からロシアによるウクライナ侵略という世界秩序の根幹を揺るがす暴挙が続いている。我々は歴史の岐路に立っており、外交の重要性が益々高まっている。今回はこうした全体の状況を踏まえつつ、当省の地域別外交の取組を評価した。国際情勢の変化の影響を受けやすいという外交政策の特性から評価の難しさを改めて感じたが、我々として可能な限り客観的な評価を試みた。先生方におかれては、あらかじめ御意見をいただき、感謝申し上げる。本日の会合における議論を踏まえ、PDCAサイクルをしっかりと回し、意味のある形で当省の政策評価を一層推進していきたい。
令和6年度以降の政策評価に関し、総務省が政策評価制度全体の改革を進めているところ、枠組みについては今後具体的に検討していく予定。何れにしても評価のための評価ではなく、しっかり良い政策を作るための評価にしていけるよう、試行錯誤はあると思うが、我々として工夫を重ねて改善を図っていく、本日は、前回に引き続き、皆様の忌憚のない御意見・御助言・御指導を賜りたい。
(1)令和5年度外務省政策評価書について
【外務省】
まず、令和5年度の当省政策評価書についての概要を説明させていただく。外務省の政策評価体系は、現在、6つの基本目標の下の16の施策で構成されている。令和4年度からは3年周期の評価を導入し、全施策を3グループに分け、3年に一度、過去3年分の実績を評価することとした。これに基づき、令和5年度は基本目標I、地域別外交の6施策の評価を実施し、とりまとめた評価書案を事前に先生方に送付させていただいた。
評価はs、a、b、c、dの5区分で達成度を判定。当省では、本来達成すべき水準を念頭に客観的かつ厳格に評価しており、5区分のうちbを標準としている。今回の施策の評定については、全6施策、施策I-1のアジア大洋州地域外交から施策I-6のアフリカ地域外交まで、施策レベルでは全ての施策で「相当程度進展あり」、いわゆる「B」評価となった。測定指標レベルでは6施策分全部で95指標があるが、評定の内訳は、「s」1指標、「a」17指標、「b」63指標、「c」14指標となった。具体的な分布については、評価結果のとおりである。
今回も、評価部局としては原課に対して、可能な限り先生方のこれまでのご所見をしっかり踏まえた評価となるように、また、特に成果をわかりやすく具体的に記述するようにと忙しい原課を指導しつつ、一次案、二次案、三次案と複数回にわたり案文の内容をお互いに精査し、時間と労力をかけて評価書案をまとめたところである。
その成果である今回の評価書案は、300ページにもわたり、お目を通していただくのに時間がかかる中、ご多忙な先生方から事前に多くの御所見・コメントをいただき、心から感謝申し上げる。まず、事前提出いただいた内容も含め先生方から順次御所見を賜りたい。
【有識者】
評価対象期間の3か年はコロナ禍やウクライナ侵略など国際環境が激変し、外務省は短期的な課題に対応せざるを得ないことが多かったと思う。そのような中でも、ほとんどの施策に良好な結果が出ており高く評価されたことに満足している。ただし、政策評価は中長期的な観点も必要であるので、中長期という観点からSDGsの指標の取り扱いについて教えていただきたい。
2003年に山谷考査・政策評価官から依頼を受けAGメンバーとなったが、その当時、ミレニアム開発目標(MDGs)は政治的意思決定に関わるものであるほか、数値目標としての取り扱いも技術的に難しく、行政機関が行う政策評価になじまないという理由で、外務省政策評価の指標としては採用しないと伺った経緯がある。それから20年間が経ち、現在はMDGsに代わり、SDGsが国際的な政策目標となった。
このSDGsについては、ジェフリー・サックス・コロンビア大学教授等が中心になって策定されたが、その後も国連統計委員会の専門家グループによって247の評価指標として非常に細かく設定されており、その進捗状況がケンブリッジ大学によって国別・テーマ別に評価され、ランキングされた上で報告書として毎年刊行されている。
国別ランキングでは、北欧・西欧諸国などEU諸国が上位を占めるが、日本は19位で、40位台の米国、50位台の中国及びロシアに比べて、成績が良い。そのような観点から、SDGsの評価指標も日本外交の成果を評価する上で組み入れてもよいのではないか。最近、民間企業のほか、国連機関、各国においても、KPI(重要業績評価指標)を設定してSDGsの取組を評価する事例が増えている。外務省としてこの点を如何に検討されているのかご教示いただければ幸い。
【有識者】
このAGに加えていただき2年目になるが、前回は広報や組織・実施体制のように目標が分かりやすく、つまり何をやったから何が生まれるか分かりやすい分野が評価対象であったが、今回の地域別外交政策は地域や国によって課題が多岐にわたり何をもって良しとするのか明示的でないので、評価の難しさを感じた。その上で、評価学の視点からコメントしたので、測定指標に関してのコメントが多くなっている。
アジア大洋州地域外交においては、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)と基本的原則を共有する「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」の実現に向けた協力の成果が評価されているが、令和3年度の年度目標に含まれていた「ASEAN独自の取組を促す」との記述が、令和4年度の年度目標からはなくなってしまっている。この点が目標から除かれた経緯についての説明が記載されていれば分かりやすくなると感じた。
北米地域外交については、首脳・外相レベルの取組はエビデンスが詳細に示されており、緊密に様々な対話が実施され成果が上がっていることは高く評価できる。一方実務レベルは一定の成果が上がったとされているものの、エビデンスが十分に示されていない。実務レベルこそ次の政策へ反映する学びがあるところ、もう少し具体的事例につき記述があっても良いと思う。
欧州地域外交については、測定指標1-2のNATOとの連携強化について、年度目標には特に言及のない「女性・平和・安全保障分野での協力」として、4代目となる女性自衛官の派遣が記載されている。なぜこの点を記載したのか理由が示されておらず、取組の成果であるかも不明であり、読み手として唐突な印象がある。
欧州地域外交については、欧州地域との総合的関係のほか、西欧、中・東欧、ロシア、中央アジア・コーカサス諸国の地域に分けて、評定付けが為されており、表を見るだけで地域ごとの政策、力の入れ方、進捗状況、達成度を概観できるので、このような評価手法も意味があると思った。
中東地域とアフリカ地域については、どれぐらい会議を開催したかという測定指標があるが、それぞれに特徴がある国々が一つになっている地域であるので、地域全体で10回、20回開催したという指標の示し方は無理がある。多様性に富む国々を含む地域に対する外交政策の成果を定量的に測ることは非常に難しいため、無理に定量的指標を設定しなくてもいいのではないか。目標値についても「適切な水準」となっており、意味のある目標となっていない。もし、定量的な測定指標を設定するなら、もう少し細分化したデータを示すのが良い。10回のうち3回はどこで、2回はどこで、と内訳を記載し、苦労した点、難しかった点、成果があった点を定性的に記述することが考えられる。
他の先生からもご意見があったとおり、SDGsについても記載があってもよかったと思う。
今回の評価対象期間は新型コロナ感染症の感染拡大の時期と重なっており、オンラインや電話を使って会議を開催したと思われる。平時よりも緊密になるなどプラスの影響もあったと推測される。コロナ禍に対してどのような対策を取って克服したのか、などの学びを評価書に記載しておくことは有益と思われる。
【外務省】
要人往来の目標値は「各国との2国間協力関係の強化等の観点から適切な水準」となっている。平成30年以前は、外務省の評定の主流が「a」であったところ、厳しく評価すべきとの考えから、評定の標準はあくまで「b」とし、目標値を高く設定することとしたが、予算との関係もあり省内で議論した結果、少し分かりにくい表現となっている。
首脳・外相・政務レベルでの欧州との要人往来数の測定指標として、2-4が西欧で3-4が中・東欧である。2-4については、コロナ禍で数値自体は減少したものの、特に令和4年度はウクライナ危機の影響から日本と西欧との間の活発な往来が飛躍的に増加し、また、オンライン会議の飛躍的な増加もあり、2-4の評定が「a」となった次第。
【有識者】
今回地域別外交に係る評価書を通じて、改めていろいろな努力をされていることがよく分かり、多とするところである。日本外交が、広島G7サミットを含め、かなりのプレゼンスを示していることを高く評価している。その上で、今回は年に1回の評価にあたって辛口のコメントをできる場であるので、少し踏み込んでお話させていただきたい。
ASEAN地域フォーラムの課長・局長級会合において効果的な発信ができたと明言されているところは、いかなる意味で効果的だったのか、明確にしたほうが良い。おそらく直後に述べる閣僚会合においてウクライナ情勢に関して法の支配の重要性に関するコンセンサス形成に寄与したと出てくるので、その当たりかと思うが、ぱっと見た限りでは、課長・局長級会合での発信が何故に効果的だったか分からないので、書き方を工夫するのが良い。
ミャンマーの問題につき、幾つかの抑圧・権威主義体制の中で、自国の国軍が自国の市民に対して殺傷力の高い兵器を使うこと自体はかなり異常。色々なところでデモクラシーがひっくりかえされたり、抑圧が行われているが、その段階がかなり上がった、悪のグラデーションにおいて上の方に位置する。日本外交がどのようなスタンスを取るのかが問われている。部内では相当苦労されて現在の外交に至っていると思うが、評価書に書かれていることは日本政府が何をやってきたかの羅列に止まる。これは政策評価であるため、建て付けとして、外務省が自らの政策を評価したことについて有識者がアドバイスするのであるが、外務省がどのようにミャンマーの問題について評価したのかが分からない。事実の羅列であって政策評価ではないと自分の目には映る。
例えば、複数のルートで、ア 暴力の即時停止、イ 拘束された関係者の解放、ウ 民主的な政治体制の早期回復を強く求めたことは事実であろう。現地の丸山大使は権威であり、本当に様々なフォーラムやアクター、チャネルを通じて色々なことをやったと思う。しかし自国の軍隊が自国の市民を殺戮し、何の反省も見られないという現状は変わらず、結果に乏しい。この点についてやったことを羅列するのではなく、どういうふうに外務省が現状を評価しているのか総括すべき。それが自分には分からない。強く求めたというところで止めては、評価としては足りない。
ミャンマー問題について日本が色々な宣言に参加したことを記述しているが、制裁や非難は欧米主要国未満だったことは周知の事実。2021年4月の各国大使の声明には加わらなかった。加わらなかったことの評価をどう考えるのか。何か働きかけをしやすくなったのか。そういったことも全く分からない。他の色々なフォーラムでは、法の支配などの原則を強調したうえで、具体的な施策を企画し、実施している旨を強調するわりには、ミャンマーの苛烈な弾圧・殺戮に対して控えめな非難・制裁しかせず、伝統的なバックチャネル外交によって関係を維持しようとしている。こうしたソフトな声高に非難しないアプローチはどこまで有効であったかという評価が欲しい。自分はこの点を否定的に見ている。
同じようなアプローチを天安門事件以降、中国共産党政権に対して取り続け、甘やかしてしまったという反省が中からも外からも出ている。30年ルールで文書が公開される中、批判的な歴史研究も出されている。こういうソフトアプローチが機能する前提自体が疑われる局面になる中、苛烈な弾圧に対して相変わらずバックチャネルでの関係維持に腐心していて良いのか。外野から観察し、アドバイスする身としても外務省自身の検証があるべきと考える。
台湾問題につき、世界的に見て台湾海峡の重要性が高まり、そのアウェアネスの向上に日本はかなり寄与したと思う。一方で、この半年で自分は3回ほど台湾を訪問したが、いってみれば口先介入のような外交について、日本はいったい何をやってくれたかとの厳しい批判をかなり聞くようになった。
台湾は国でなく、文化・経済交流が中心になるということは勿論分かるが、台湾という実体が我が国及び世界の安全保障に非常に重要になっている。実体として日本に台湾班長がいて、担当課長がいて、本省の指示の下に交流協会が色々と活動しており、実質的に外交関係をもっている状況とも言える。こうした中で政治的側面を含めた政策評価をしないということで良いのか。経済文化交流に関する記述に終始していて良いのか。そろそろ再検討すべき段階に入っていると思う。
有事になった場合に色々な対応が必要になるが、そのときに国民が付いてくるのだろうか。国民は後ろ向きで、問題を分かっていないとの見方もあるが、台湾とどういう政治的関係をもっていて、どのような方針で臨むかについて、そもそも説明が為されていない。台湾問題が重要だと各地のフォーラムで声高に言っておいて、政府が何をやっているのか記述がなく、評価もない。政策評価の実質に関わる話だが、このままではまずいだろう。
「一つの中国」政策につき、G7外相声明を見ると「それぞれの国の立場を尊重し」のような分かりにくい記述になっている。この点について関係者に照会したところ、日本は「一つの中国」政策について21世紀になって一度も言及していない、その中身の複雑さに鑑み、「一つの中国」との言葉では示せない複雑な立場があると述べていた。しかしながら、「一つの中国」でなければ、その中身は何なのか。我々が守ろうとしている「現状」は何なのか。内外に説明しないままそれを守りますと言っていて良いのか。
結論としては、中国に忖度しているのかも知れないが、台湾について政治的記述をきちんと政策評価書に入れるべきだと思う。書き方を工夫すれば可能である。「現状」をどのように捉えていて、どう守りたいと考えているのか。中国側が捉える「現状」とは異なるところ、その定義を含めて、国民にきちんと説明すべきである。
北米については、アメリカの選挙が近づく中、世界で最大のリスクと考えている。こうした中、重層的な人的交流が進んでいるというのは心強いが、ファインチューニングでいろいろなシナリオを見込んで取り進める必要がある。
中南米につき、コロナ時代に希薄化した要人往来を取り戻す努力が見られることは、良い。
日欧関係につき、安保協力を含めて関係が非常に進展した。ウクライナ関係で米欧と軌を一にした迅速な協調外交も同様で、高く評価している。ヨーロッパでは知識人が力を持っているので、発信力のある知識人交流には力を入れた方が良い。この点では、英独に比べ、フランスやEU本部との関係がブラッセル周りのシンクタンクを含めて弱い。フランスやEU本部との戦略的対話をもう少し考えて良い。もう少し工夫ができるのではないか。
中東関係につき、昨今の情勢を見ると、日本としてパレスチナ支援としてインフラ、教育、感染症など少なくない額を積み上げてきているが、援助をする度にイスラエル側からの破壊・暴力の対象となる。この点についてイスラエル側との間で率直な意見交換を行ったとか、平和の回廊の取組等を進めたなど記載されているが、イスラエルが問題のある行動をした時にはステークホルダーとしてきちんともの申せる関係であってほしい。本年6月に外務審議官が現地を訪問した結果が公表されているが、率直な意見交換を行ったとしか記載されておらず、何をステークホルダーとして申し入れたのか、分からない。細かく書く必要はないが、日本としてきちんともの申していることを示せると良い。
最後に、今回安保関連三文書という大きな動きがあったが、日米関係ではこれら文書についてかなり記述がなされているが、その他の部局、特に東アジアにおいては関連言及がなく、日米関係の箇所に特化した形となっている。その他の地域においても影響を与えないということもおそらくなく、もう少し記述があっても良いと思う。
【外務省】
先生の仰るとおり、施策の分析欄の記述は、往々にして実績欄の記述の繰り返しになりがちである。当室としては原課に対して施策の分析欄で施策がいかに効果的であったかの記述をできる限り書くように指導しているが、そのようになっていないのも事実。これからもどう効果的であったかが具体的に記述されるように努めていきたいと考えている。他方で、外交政策の特性との関係で評価については公開できない部分もあり、なかなか難しい問題だと思うが、改善に努めて参りたい。
他の有識者からも「記述に「効果的」が多用されている。少なくとも評価に関する文脈において「効果的に○○した」とするならば、実際に「効果的」であることが示されている必要がある。」と類似のご指摘があったので、右も含めて検討していきたい。
【有識者】
この3年間は、新型コロナウィルス、そしてロシアのウクライナ侵攻という国際秩序を大きく変える事態が起こる中で、どのような外交政策を展開するかが問われた。政策評価に当たり、ビジネス・アズ・ユージュアルで書いてあることをそのまま評価することが非常に難しかった期間かと思う。その典型は対ロシア政策であろう。例えば、平和条約交渉や貿易経済分野の協力を進められたかといえば、Noに決まっている。Noであることがaと言え、ここでc評定がついたのは半ば当然で、それで良い。このように、外務省が直面する課題における機動的かつ柔軟な政策対応について政策評価の杓子定規的な土俵に乗せることは難しいことを感じながら所見を執筆した。
この点で、自分としては、所見執筆に当たって以下の3つの視点を定めた。その上で、どの程度の効果があったかの把握は難しいものの、少なくともプラスの効果であったか、そうでなかったかを自分なりの価値判断で評価した。総評として、非常に高い肯定的な評価となった。
- 1点目として、ロシアのウクライナ侵攻を経て、国際秩序の根幹を脅かすような事態に対して日本外交はどの程度機動的に、また旗幟を鮮明に対応できたか。
- 2点目として、G7を中心とした国々が危機への対応にかかりきりになる中、我が国を取り巻く東アジアやインド太平洋における施策について多くの国々の関心を維持し、そして抑止関係や経済におけるパフォーマンスを維持するのに効果を発揮し得たか。
- 3点目として、ウクライナ侵攻を通じて国際社会の分断が先鋭化し、特に昨今のグローバル・サウス問題に言われるような分断状況について日本外交が如何なる働きかけを行ったか。
FOIPにつき、本年3月の岸田総理のインド訪問において新たなプランが表明されたが、一世を風靡した地域概念でも放置しておくとどんどん劣化してしまう。リニューアルして新たな目標の中で暖簾を新しくしていくことは重要。51項目と、暖簾を多く作りすぎたきらいはあるが、リニューアルされた先にあるFOIPが必ずしも競争的概念だけでなく、包摂的な概念が強調されたことは効果的であった。
日韓関係は大変良かった。韓国の政権交代の機会を十分に活かした形でシャトル外交の再開をもたらし、日韓関係のみならず、日米韓の戦略的連携に結びついた。この間、外相・局長クラスで何度も努力が重ねられたことについても評価したい。
日中関係につき、この3年間十分な言葉が与えられていない。かつて唱えられた自由と繁栄の弧など、外務省による外交コンセプトは何の理由もなく突然消えてしまう。国会答弁では、現政権(注:福田政権)においても継続されているというが、実際には外務省ホームページのバナーから消えている。日中間の戦略的互恵関係もその一つ。実際は消えた理由があるが、それが国民に説明されない。現在は、言うべきことは言う「建設的かつ安定的な関係の構築」が中国との間で唱えられるものの、なぜこうなったのかは説明されない。この中における日中関係は一体何を目指すものなのか、こうした政策目標を示すことは政治の役割であるが、外務省としてもどう考えているのかは問われる。この点で、能動的な形で日中関係が論じられない状況が3年間続いていることはやや問題を感じる。ただし、この表現がG7の広島コミュニケの中で使われたことは素晴らしい外交成果。何のためにこの表現が使われたのかについての説明が欠ける点は変わらない。
インド外交につき、2022年5月に一度危機に瀕する状態があったのではないかと思う。特にQUAD首脳会合が東京で開催されたときに、インドに粘り強く働きかけることでインドをQUADの中に止め、実務的協力を広げていくことができた。この分断の世界の中でインドがどちら側の性質の下で国際社会の一員となっているかは、大きな潮流を変えるもの。我慢強くインドを国際秩序の中に引きつけて、昨今の米印首脳会談に見られるようにインドの性質を徐々に変えていく外交の端緒に日本外交が大変重要な役割を果たしたことも高く評価できる。
北米地域外交につき、中国の台頭や様々な問題が起きる中で、日米同盟を強化し、三文書を含む戦略文書の調整が大変うまく行った。
中南米外交につき、対面の外交日程を組むことが難しい地域であるが、コロナ後に幾つかの重要な対面でのハイレベル対話が着実に進展していることは良かった。来年はAPECペルー首脳会合が開催されるので、これに合わせて戦略的且つ体系的な外交が展開されることを期待する。
欧州に関しては、特にロシアのウクライナ侵攻における欧州の結束を日本としても支援することで、ヨーロッパにおいて起きている問題は、アジアにとっての問題でもあるというとの岸田総理の発言が極めて効果的に響いた。日本の欧州支援は、ひいては東アジアに何か問題が起きた場合の欧州のコミットメントにつながるということで、二つの地域を横断する意識を日本が主導してつくっていったことも高い評価が与えられる。同時にウクライナに各国のリソースが集中する中でも、自由で開かれたインド太平洋が継続的に重要であるとの訴えが随所に日本外交の中に含められた。今後は、戦略的互恵関係以降の対中政策をどうするのかというのと同様に、ポスト・コロナの対中国政策に係る欧州との政策調整をどうするかはよく考えていくべき。
中東地域外交については、全体の評価の区分がこれで良いかとの問題がある。中東和平プロセスやアフガニスタン、イランの核問題は当然大事であるが、中東全体のダイナミズムに日本がどう働きかけていくのかという視点を、どうやったら評価の俎上に載せられるかを考えるべき。トランプ政権で言えば、アブラハム合意で、最近で言えば、中国がサウジアラビアとイランの外交問題を取り持ったことが挙げられる。このような動きについて、日本はそういうことが起こったんだなということではなく、能動的な中東秩序の変化に対してどういう影響を果たしえたのか、また何を防ぐべきであったのか、この点が政策評価の指標として重要となる。このような話は、今のような評価の区分では達し得ない。中東の秩序がメタレベルで変化する中、その変化に対して日本外交がどのように働き得たかについて、中東1課、2課の皆さんの間で共有されるような評価指標があると良い。
最後に、日本外交の柱である「自由で開かれたインド太平洋」について全体をどのように評価するのか。機能別政策の話かも知れないが、FOIPがどのように進展しているかについて政策評価の中でa、b、cを与えながら、部局横断的に見ていく評価指標があると更に良くなると思う。
【外務省】
最後の点は、いわゆる総合評価方式に該当するかと思う。外交政策においては施策間の相互連関が強いので、地域別施策間、機能別施策間のいずれにおいても特定の問題を複数の施策で対応することが多く、現行の目標管理型評価においても総合的に評価が一定程度行われていると思うが、ご指摘の点も今後の評価制度の見直しの中でどのように対応すべきか勉強させていただきたい。
【有識者】
先ほど外務省側から言及があったが、他の有識者のコメントの中にサブスタンスの評価をどうするのかという話が含まれていた。評価書の判定でも迷いがあり、局によって姿勢が違うところも見受けられる。結果にコミットした、もっと結果やアウトカムに近いところを評価しようとしている指標の判定と、プロセスの判定にとどまっているものとが混在しており、これは外交につきものの悩ましい論点ということかと思いながら話を伺っていた。外務省側から、業績測定を中心とする目標管理型実績評価ではできることとできないことがあるというお話をいただいたが、サブスタンスに迫るような議論をしていくためには、もっと多面的に見なければならず、他方で、先ほどの有識者とのやりとりの中でもコメントがあったが、外交の今動いている政策の中では書けない世界もある、書いて良いことと良くないこととがあり、そのような難しさというのが常に外交政策を巡る評価の話にはつきまとっていると思っている。そのような観点から、複数の施策に関連するコメントを4つ申し上げたい。
1つ目は、「今までの政策評価というのがどうも役に立ってないのではないか」という問題意識から、政府部内において政策評価及び行政事業レビューの見直しが進められている。その際の看板として「役に立つ評価」ということが掲げられたが、逆に言えば、「これまで役に立ってこなかった」という、先ほどの有識者のコメント通りの実情があるのではないかと思う。現在、そこを変更することが可能となっており、「率直に反省しよう」という局面にある。3月に「政策評価に関する基本方針」が改定され、もっと役に立つ政策評価を追求しようというところに来ている。この点では、総合評価方式とまでは言わないものの、もう一歩足を踏み込んだレビューをしていくことが求められるのではないか。ここは選択肢がいろいろとある。プロセスの評価をするのか、アウトカムにもっと近いところの、ポリティックスに近いところの評価をしていくのかというところの距離感とかバランスとかある。プロセスを蔑ろにすると外務省自体の努力があまり正当に評価されないということになってきたりするので、まさにバランスを取りながらやっていかなければならない。
2つ目は、このabcの評価をつけられた総括表についてであるが、ある意味これはよくできているなと思った。これをぱっと見ると、cがついているのが北朝鮮やロシア、aがついているのが欧州等、全体としてうまくいっているところとうまくいっていないところが、ある意味端的に、正確ではないが、ざっくりと表現されている。まさにこの部分であるが、外交の結果の評価をしていくのか、地道な外交的努力の評価をするのかについて、現在の実績評価方式又は目標管理型評価の中では、どちらかといえば結果の方に大きく振れている。そうなると、先ほどの有識者からのコメントのような批判を正面から受けなければならないことになる。他方で、あまりにも結果ばかり記載してしまうと、地道な外交的努力の取り扱いがおろそかになる。今日の情勢が明日には変わることで、今までの努力が高く評価されたり、逆に今までの努力は意味がなかったということになる、というのが生き物としての外交である。そのような中で、どういう評価をしていくのかを考えなければならない。例えば、プロセスを評価していく、その地道な外交的努力を評価するということであれば、それに特化した形で記述していかなければならない。そうするとサブスタンスの評価は別のところで、例えば総合外交政策局の協力を得ながらやらなければならなくなる。他面、地道な外交的努力を正当に評価していくための工夫も必要である。例えば、C評定がついていた、コロナ禍、ウクライナ情勢等、外部環境に依存する部分であるが、これらにおいて外交的努力が払われていたのかについては、何もしていなかったわけではないわけなので、評点がつくと難しいが、そのあたりをしっかりと、どのように評価をしていくのかについて考えていかなければならない。
3つ目は、コロナ禍による影響の取り扱いであるが、局によって評価書上の対応がまちまちであるという印象を持った。コロナ禍でウェビナー等のオンラインミーティングに努力したということで高い評価をつけられるところがある一方、コロナ禍で会合が開催できなかったというところだけを引っ張ってきて低い評価をつけられるところがある。指標の達成度の評価に際して、もう少し統一した取り扱いがなされると良いかもしれない。
最後の4つ目は、昨今言われている「アジャイル型政策形成・評価」に関するものである。本年3月に閣議決定された新しい「政策評価に関する基本方針」を見る限り、「アジャイル型政策形成・評価」の要素もかなり取り入れられている。目標に向かって進んでいるかどうかをより機敏に把握し、小刻みに軌道修正をすることで、ナビゲーションとしての評価の機能の活用が政府部内で求められている。この意味では、3年間同じ指標を堅持する必要はないということも考えられる。例えば、欧州外交の測定指標1-5については、測定対象となるセミナーについて誤認があった旨が記述されているが、そうした場合には柔軟に指標の見直しができると良い。これからまた外務省政策評価の在り方を改めていくことになるかと思うが、その際には、このような点についても前向きにご検討いただきたい。
【外務省】
最後の指標の見直しの点についてであるが、年度目標についてはきちんと状況を見つつ、必要な変更等は行っているものの、外交を中長期的な観点から評価していくという観点から、ある意味で指標の安定性も必要となるところ、引き続きご指摘の点も踏まえて、検討していきたい。
(2)政策評価をめぐる最近の動き(政策評価に関する基本方針の一部変更)
【外務省】
政策評価をめぐる最近の動きについて、昨年12月に総務省政策評価審議会で「デジタル時代にふさわしい政策形成・評価の実現のための具体的方策」と題する答申が出された。その答申に沿って、本年3月、政策評価に関する基本方針を一部変更するための閣議決定が行われた。今回の基本方針変更の基本的な考え方は、機動的かつ柔軟な政策展開のために政策評価の機能を発揮していくこと、また、新たな挑戦や前向きな軌道修正を積極的に行うことが高く評価されるようになることを目指すというもの。今回の基本方針変更に当たっては、特に政策効果の把握・分析機能の強化と意思決定過程での活用を重視することになった。
政策効果の把握・分析機能の強化については、有効性の観点を一層重視し、政策効果の検証にこれまで以上に積極的に取り組むことになった。そのために画一的・統一的な制度運用を転換し、政策の特性に応じた評価が可能となるように評価書様式の全政府画一的な運用が求められないことになった。既に一部の省庁では制度見直しを踏まえた新たな取組が検討されている。
意思決定過程での活用については、政策評価や行政事業レビュー等の評価情報を集約することで、評価書等の質的充実を図り、意思決定過程における活用を推進する。「評価書」という形式にとらわれず、行政事業レビューや審議会等の評価関連作業からの有益な情報を意思決定過程で活用することが推奨されている。
基本方針の変更を踏まえ、今後の当省の政策評価の在り方について検討していく考え。総務省の方で今後試行的取組期間が設けられて試行錯誤を行っていくことが認められている。中長期的な国益の観点に多分に立脚する外交政策の特性を踏まえつつ、可能な範囲で、柔軟に検討・対応することが大切と考える。当省における政策評価制度の見直しについては先生方とも連携させていただきながら考えて参りたいので、引き続きの御指導よろしくお願い申し上げたい。
【有識者】
今紹介のあったのは政府の基本方針であるが、外務省の政策評価基本計画をどう改定するか重要なところと考える。評価対象となる施策の範囲を含めて検討しなければならないので、次の局面が重要になることを補足として申し上げたい。
【外務省】
本年3月末に当省の新たな政策評価基本計画を作成したが、その内容はこれまでのものをベースにしている。御指摘のとおり、当省の政策評価制度の見直しを行った上で、必要な基本計画、実施計画の変更を行っていきたい。
(3)行政事業レビュー
【外務省】
本年6月7日に、行政事業レビュー・春の公開プロセスをハイブリッド形式で実施し、一般経費政策案件として「国内広報」、ODA案件としてJICA運営交付金のうち「日系社会との連携事業」、拠出金案件として「国連世界食糧計画(WFP)拠出金」が取り上げられた。
当日は示唆に富む有意義な議論が行われ、非常に有意義な御提言を頂いたところ、以下3案件についてそれぞれ概要を説明する。
「国内広報」は、雑誌「外交」の発行、子供向けホームページであるキッズ外務省ホームページの運営、外交政策を解説するパンフレットの作成、幅広い世代の国民を対象にした講演会、世論調査などの事業を行っているもの。この事業は外務省として継続的に取り組んでおり、外部の視点による点検を行い、一層の成果を目指して助言を得ることが有益と判断し、選定した。有識者からは、全体として、限られた予算内で、工夫してうまく取り組んでいるといった事業の意義を強調するコメントをいただいた。その上で、雑誌の外交についてはオンライン化を速やかに進めるべき、講演会・講座については、実施した後のフォローアップを工夫すべき、世論調査については電話アンケートへの回答率が大幅に減っているはずなので、方法の見直しや工夫が必要といった具体的な改善案を頂いた。
JICA運営交付金のうち「日系社会との連携事業」に関しては、我が国の外交アセットである中南米地域の日系社会の持続的発展を支援するための政策となっている。本事業は、中南米地域において、歴史的繋がりの深い日系社会を通じ、中南米地域各国との関係構築・強化に資する重要な業務であり、今後も長期的な取組が見込まれるため、公開点検を行うことは有意義であると考えた。有識者からは、ブラジルをはじめとするラテンアメリカ諸国との友好関係の強化に資するのみならず、人口減少に直面する我が国の国益にも資するものである等、評価をいただいた。同時に、他省庁との連携を通じたより包括的・全国的なプロジェクトを考える必要や、日系人が多く居住する地方自治体とJICAとの一層の連携強化する必要の指摘があった。また、横浜の海外移住資料館ではWEB上でバーチャルツアーができるような工夫があると良いといった具体的な提案も頂いた。
「国連世界食糧計画(WFP)拠出金)は、食糧支援を行う、最大規模の人道支援機関に対する拠出金。本拠出金は、人間の安全保障を外交の柱の一つに位置づけていることとの関係で極めて重要であり、公開点検を行うことは有意義と考えた。有識者からは、WFPへの拠出を拡充する必要性や、外交上の重要性について異論はないとの評価をいただきつつ、日本においての知名度の低さなど課題もあり、活動のさらなる発信の必要があるといった指摘や、予算に関し2022年度については、新型コロナの影響、ウクライナ侵攻の影響によって増加した拠出について、行った支援の評価を行う必要があるといった指摘を頂いた。
以上のように、事業の改善点を外部の目から御指摘いただけるのは大変貴重なことであると考えており、今回頂いた御提言を今後の事業実施に反映させつつ、引き続き予算への反映につなげていきたいと考えている。
【外務省】
今回、3年ぶりの地域局の施策評価となり、原課と当室が力を入れて300ページに及ぶ評価書を作成した。先生方におかれては、書面に加えて本日の会合で洞察に富んだ多数の御所見をいただき、感謝申し上げる。引き続き御指導・アドバイスをよろしくお願いする。