公邸料理人
外交青書2021 公邸料理人コラム
外交の最前線の担い手として
(在リオデジャネイロ総領事館 新宮健夫 公邸料理人)
私は在ミラノ日本国総領事公邸料理人を経て、2019年11月から在リオデジャネイロ日本国総領事公邸料理人として、大鶴総領事の下で勤務しています。公邸料理人として勤務する以前、私は世界13か国を訪れ、各地の様々な食材を積極的に試してきました。そして、新たな食材に出会い、地場食材を使いながら和食の素晴らしさを伝えたいという思いから、公邸料理人を志しました。
美味しい和食を提供するに当たって重要なのは、新鮮な食材の確保です。冬でも海水浴ができるほど暑い当地で、刺身や寿司として使用できる魚介類が手に入るか心配していましたが、意外にも新鮮な魚介類が豊富に手に入ります。また、1908年に日本からの移住者がブラジルへ渡り、現在では約200万人の世界最大の日系社会が存在し、日系人の御尽力により数多くの日本の野菜・果物がブラジル国内で生産されているため、スーパーや青空市でもきゅうり、大根などが手に入るほか、一部食材は、同国の公用語であるポルトガル語にもなっています(椎茸(しいたけ):(shitake)、しめじ(shimeji)、ニラ(nirá)、柿(caqui))。
一方で、ブラジルならではの食材も和食に取り入れています。例えば、ジャンブーという野菜は花が山椒(さんしょう)のようにピリピリとするので、煮付けや麻婆(マーボー)豆腐にかけ、葉は佃煮(つくだに)にして食べるとおいしいです。カラという山芋に似た食材は、料理のつなぎとして重宝しています。また、アマゾン地域の鱒(ます)科の魚は脂がのっていて、大根おろし、醤油とレモンを添えればご飯が進みます。日本でもアサイー、アセロラは知っていましたが、例えば当地のアサイーは日本で食べた味とは全く異なります。採れたてのアサイーは青臭くドロドロとしていますが、砂糖を少し加えると爽やかな味になり、びっくりするほどおいしいです。
会食の献立で、お客様に是非味わっていただきたい料理が3品あります。まず、焼き物は、牛肉を2時間低温調理しパッションフルーツをベースにしたソースをかけてお出しします。蒸し物は、魚介と筍(たけのこ)をベースにした茶碗蒸しの上に2日間煮込んだ海老(えび)をベースにしたソースをかけたものです。また、揚げ物は、鮮度の良い海老の天ぷらを抹茶塩でお召し上がりいただきます。この3品は初めて会食に出席されるお客様には必ず提供しており、幸い皆様から好評を得ています。
残念ながら、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、4月からは会食全般が実施できない期間がありましたが、その間にブラジルの一般家庭でも作れる地場食材を使用した和食のレシピ動画を総領事インスタグラムで紹介しました。特に天ぷらのレシピ動画は人気が高く、和食の代表的な料理である天ぷらがポルトガル語のテンペーロ(味を付けるという意味)に由来があることにも興味を持っていただけました。その後、8月頃からは万全な新型コロナ対策を行った上で、少人数に絞った会食を実施できるようになりました。
ブラジルには知らない食材がまだまだ沢山ありますので、そうした食材も取り入れつつおいしい和食を作るため、これからも日々精進していきます。