公邸料理人

令和4年8月16日
(写真1)調理場で現地スタッフとの記念写真 調理場で現地スタッフと(筆者中央)
(写真2)厨房で料理を作る在スリランカ大使館 宮村幸成 公邸料理人 厨房での様子

 私は在ミャンマー日本国大使館の公邸料理人を経て、2018年10月から在スリランカ日本国大使館の杉山大使の下で勤めています。公邸料理人になる前は海外に渡航したこともなく、この仕事のことも専門学校で少し話を聞いた程度で、まさか自分が携わることになるとは思いもしませんでした。着任当初は自分に務まるのかという不安もありましたが、大使御夫妻の多大なるお力添えや現地スタッフの温かいサポートもあり、仕事にも現地の環境にもすぐに慣れることができました。主な仕事は大使が公邸に招待する要人の皆様をおもてなしすることです。会食の形は、2人で着席の場合もあれば20人を超えることもありますし、30人から40人の立食ビュッフェのこともあります。お客様は駐在国の要人はもとより、各国の大使や日本から来られる総理大臣や外務大臣を始めとした閣僚など、普段生活している中では想像もつかない方々です。そうした方々に自身の料理を提供できることは、大きなやり甲斐(がい)の一つだと思っています。和食を楽しみに来られるお客様がほとんどなので、地場の食材をなるべく使い、新しい調理法を取り入れながら、一品入魂で作っております。

 スリランカは日本と同じ島国で、市場には豊富な魚種が並びます。仕入れのために市場に行く時には、料理の仕上がりをイメージしながら食材選びに知恵を絞るのが楽しみの一つです。こうして仕入れや仕込み、メニュー構成や器決め、料理に合うお酒、ワイン決めなど、一貫してその責任を担うことができるため、とてもやりがいのある仕事だと思っております。ミャンマー、スリランカは、仏教やイスラム教、ヒンドゥー教などが混在し、宗教ごとに食べられない物が異なるため、メニューを考える時が一番大変です。例えばピュアベジタリアン(完全菜食主義者)のお客様の場合は、動物性のものを一切お出しできませんので、昆布と鰹(かつお)のお出汁(だし)を鰹を抜いた昆布出汁に変えなければいけません。

 こうした注意点を踏まえた料理を会食の席に供することもさることながら、毎回強く意識しているのは会食の目的です。招待されるお客様ごと、そのシチュエーションごとに、会食を通じて大使や大使館職員が達成したい目的も異なります。自身が関わる会食を通じて、その目的の達成に少しでも貢献できるのであれば、それに勝る喜びはありません。会食後に労(ねぎら)いを受ける際に、そうした手応えを感じられたときには、準備中の大変な思いなど吹き飛んでしまうほど嬉(うれ)しく思います。また、そういった仕事は決して一人でできるものではなく、特に調理や配膳を共にする現地スタッフとの協働は欠かすことができません。こうした協働パートナーとなる現地スタッフとも、お互いの信頼関係が築けるようなコミュニケーションを心がけ、チームワークを第一に、日々仕事にあたっています。

 今や和食は日本の伝統的食文化としてユネスコ無形文化遺産にも選ばれ、ますます世界から注目されています。そのことを念頭に、五感全てを喜ばせる料理を研究しながら、皆様にご堪能(たんのう)いただける料理を作っていけたらと思っております。

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