公邸料理人

(在オーストリア大使館・中島大輔公邸料理人)

平成28年8月23日
公邸会食のゲストに料理を説明する中島料理人
(平成28年7月13日撮影)
大使公邸での日本酒紹介イベント
(平成28年6月30日撮影)
中島料理人による野菜で作ったお寿司
(平成28年7月13日撮影)

 在オーストリア日本国大使館の公邸料理人の中島大輔さんは,京都吉兆で8年,在ドイツ日本大使公邸の料理人を3年間務めた和食のプロです。その後,7年ほどベルリンで和食店の経営をまかされていましたが,自分で包丁を握って食の道を極めたいと考え,昨年11月,再び公邸料理人としてウィーンに来てくれました。

 在外公館恒例の天皇誕生日祝賀レセプションを1か月後に控え,驚くようなスピードでウィーンでの食材調達を開拓していってくれました。これは,中島さんがこれまで培ってきた経験に加え,チャーミングな人柄で周りの人々の協力を得ていったところが大きいと思います。私たちが感嘆したのは,レセプション当日の朝,業者が持って来たマグロを見て,これではお客様に饗することができないと即断し,直ちに自ら買い付けに出掛け,夜の設宴に見事な料理として間に合わせてくれたことでした。おもてなし料理をする人は,良い食材を見つけ,お客様の嗜好を知り,工夫するのでしょうが,まさに中島さんはそういう料理人さんだと思います。

 中島さん曰く「ドイツとオーストリアは同じドイツ語圏の隣国同士ながら,オーストリア料理は東欧,あるいはトルコなどの中東からも影響を受けているからか,これまで想像もしたことのない組み合わせに出会うこともあり良い経験になっています」。日本人にとって,お出汁のきいたお吸い物を頂くと,しみじみと美味しさを感じ,幸せな気分にもなりますが,本格的なお椀は言うまでもなく,お出汁の取り方を工夫して,当地の方々にも好まれるようにと作ってくれることもあります。

 昨年,ウィーン少年合唱団の日本人の団員たちを公邸に招いた際,京の千枚漬けが食べられたら嬉しいなぁ,との声が聞こえてきました。それを伝えると,中島さんは「何とかしてみます」とにっこり笑って,美味しい千枚漬けを作ってくれました。また,日本人さえ歓声を上げるのが,野菜で作ったお寿司です。マグロの赤身かと思えばトマト,ウニかと思えばニンジン,と言った具合で目で見て楽しい,食べても美味しい,京都の精進料理の伝統が上手に生かされています。

 今年の6月30日,公邸において,ウィーン市内の日本食材店とともに日本酒紹介イベントを開催しました。当地のグルメ専門の記者やレストラン関係者たちに集まってもらい,日本各地からのとっておきのお酒を,お酒の個性に合った料理とともに楽しんでもらおうという趣向です。

 ワインの世界では権威のあるファルスタッフ誌は,中島さんの名前を引用しながら,こんな紹介記事を載せました。「この日のハイライトはマグロ刺身とグレープフルーツのゼリーの組み合わせで,純米酒のシトラスの果実味と繊細なミネラル感に納得させられた。結論として酒はもっと深く探索する価値がある。ワインと同様に食事と合わせて楽しむと思いがけない味覚に遭遇する。」

 日本酒ソムリエの意見も聞きながら,食材と調味にきめ細かい工夫を重ね,味の相乗効果を生み出すことに成功した結果です。日本酒をさらに引き立てる和食の担い手として,1つ1つの料理を大事に作りたいという強い想いで仕度をしてくれました。中島さんの持論は「その国や地域の食文化を知った上でないと美味しい料理は作ることはできない」。日々研究を重ね,ここ在オーストリア日本国大使公邸ならではの日本料理が生まれています。私は日本国大使としてそれを大変心強く,また誇らしく思っています。

在オーストリア大使 竹歳 誠

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