グローカル外交ネット
外務省での勤務を通じて
外交実務研修員 渡邊 祥代
(岐阜県から派遣)
1 はじめに
私は2022年4月に岐阜県から外務省へ派遣され、軍縮不拡散・科学部の不拡散・科学原子力課で勤務しています。これまで国際関係の部署での勤務経験はなく、さらに不拡散や原子力というまったく縁のなかった分野に携わることとなり、未知の世界である外務省での勤務に大きな不安を抱きながら、勤務初日を迎えたことを思い出します。
本寄稿では、私の外務省での業務内容をご紹介しながら、その経験を通して感じたことを記載したいと思います。今後、外務省で勤務される外交実務研修員の皆様にとって、この体験記が少しでも参考になりましたら大変幸いです。
2 不拡散・科学原子力課での業務

私が所属する不拡散・科学原子力課では、核兵器を含む大量破壊兵器及び関連物資の不拡散、原子力の平和的利用に関する外交政策を所掌しており、私は主に国際原子力機関(IAEA)に関する業務を担当しています。
- (1)日・IAEA保障措置協定
原子力技術は、発電分野に加え、保健・医療、食糧・農業、環境・水資源管理、産業応用など、非発電分野においても各国の社会・経済の発展にとって不可欠な技術となっています。IAEAでは、原子力が平和的利用から核兵器製造等の軍事的目的に転用されることを防止するために、IAEAと当該国との間で「保障措置協定」を締結し、当該国の原子力活動に対して実施する査察を含む検認制度である「保障措置」を実施しています。日本はIAEAとの間でこの「保障措置協定」を締結しており、日本の核物質の在庫量や施設に関する情報等をIAEAに申告するとともに、IAEAが実施する定期・抜き打ちの査察を全面的に受け入れています。
こうした「保障措置」に関する外交的事務は外務省が行っており、私は日本からIAEAへの各種申告の提出業務やIAEAが行う査察の受入れに関する調整等を担当しています。 - (2)IAEA年次総会
毎年9月下旬に、全加盟国が参加する「IAEA総会」がウィーンにて開催されます。日本からは閣僚レベルが出席し、政府代表演説や各国との会談等を通じて、日本の東電福島第一原発事故後の取組、原子力政策や不拡散への取組、原子力の平和的利用促進に向けた国際的な支援等、さまざまな分野での取組に関する説明を行っています。
私は各国代表との会談のアポ調整、会談用資料の作成管理に加え、宿舎留保や配車調整、レセプションや展示ブース、サイドイベントの支援といった多岐にわたる準備業務を担当しました。総会自体は9月下旬の開催ですが、各種登録作業やイベントに向けた準備は4月頃から始まります。そのため、総会に出席する関係省庁・団体と密に連絡を取り、在ウィーン日本政府代表部と連携しながら、入念に各種調整を行いました。
また、今年度の総会期間中は私もウィーンへ出張し、現地での最終調整や議場での対応等を担いました。その際、自分の業務がイベントの成否に直結するという、仕事のやりがいや重要さを学ぶことができました。さらに、各国代表団を目の当たりにし、自分が関わっている業務のスケールの大きさを実感するとともに、国際会議の雰囲気を実際に肌で感じることができ、大変貴重な経験となりました。

- (3)IAEA理事国大使の招へい
当課では、例年2月ごろ、IAEA理事会のメンバーとなっている各国のウィーン代表部の大使数名を日本に招へいする事業を行っています。これは、原子力の平和的利用、ALPS処理水の海洋放出、核不拡散、核融合の研究開発等における日本の取組について、国際社会の理解を一層深めてもらうことを目的とした招へい活動となっており、しばらくは新型コロナウイルス感染症の影響で実施できていませんでしたが、今年は4年ぶりに実施することができました。
招へい期間中、私は、大使一行を引率し、原子力関連施設や震災遺構等を視察しながら、当日のスケジュール管理や視察先への連絡等、スムーズな進行に努めました。また、事前調整にあたっては、視察先との調整だけでなく、食事制限や宿舎側の受け入れ態勢、移動時の交通手段など細かい部分にも配慮し、おもてなしの心を持って対応しました。参加した大使からは、今回の招へいを通じて実際に各現場を訪問したことで、東電福島第一原発の廃炉、そして復興に向けた政府や関係者による長年の努力や取組、原子力の平和的利用に関する日本の高い技術に対する理解を一層深めることができたとの声が聞かれ、本事業を通して自分も日本外交の一端に貢献できたと感じました。
3 地方連携推進室での業務

外務省は、外交を推進していく上で、地方自治体等を重要なパートナーであると位置づけており、地方連携推進室では、地方自治体による国際的取組を支援するために様々な取組を行っています。外交実務研修員は研修の一環として、地方連携推進室で勤務することになっており、私も2か月間、同室で勤務する機会をいただきました。
同室での勤務中は、「外務大臣及び新潟県知事共催レセプション」や「駐日外交団による地方視察ツアー」に関する業務に携わりました。どちらの事業も駐日外交団等に対して地方の多様な魅力を紹介する機会となっており、地方自治体と海外との交流促進に資するイベントとなっています。さらに、参加者自身が体験した地方の魅力をSNS等で発信してもらうことで、イベント後においても、地方の特産品の海外販路拡大やインバウンド促進につながる事業であると感じました。出向元に戻った後、このような地方の魅力を海外に発信する業務に関わる可能性もあることから、今後も外務省との連携を密にし、今回の経験を活かしていきたいと思いました。
4 おわりに
外務省での勤務は、外務省や霞が関特有の用語、物事が決まるスピード感、求められる専門性の高さなど、驚きの毎日であり、通常業務はもちろん、要人対応に関する業務など、非常に濃い経験をさせていただきました。そんな中でもここまで何とかやってこられたのは、いつもあたたかくご指導くださった不拡散・科学原子力課の皆様をはじめ、外務省関係者の皆様からの多大なるご支援のおかげです。加えて、このような貴重な学びの機会を与えていただいた外務省、岐阜県、お世話になっている関係者の皆様にも、改めて感謝申し上げます。また、同じく外交実務研修員として全国から派遣されている地方自治体職員の方々との繋がりを得られたことも、私にとってかけがえのない財産となりました。
本省での勤務もまもなく終了となり、来年度からは在外公館での勤務となりますが、この2年間で得られた経験や出会った皆様とのご縁を大切にしながら、日々精進していきたいと思います。