グローカル外交ネット
外務省での勤務を通じて
外交実務研修員 山田 桃
(徳島県から派遣)
1 はじめに
私は2022年に徳島県から外務省へ派遣され、外務報道官・広報文化組織の広報文化外交戦略課で勤務しています。徳島県庁では、最初の配属先で県土整備事業の契約業務、次の配属先では東京2020オリンピック・パラリンピックに係る海外代表チームの事前キャンプ受入れやホストタウン交流のほか青少年の国際スポーツ交流事業を担当しており、後者の部署では外務省とやり取りさせていただく機会や出向経験者の先輩と机を並べる機会があったことから、外務省を少しだけ身近な存在として感じるようになりました。そのような折に外交実務研修員として勤務する機会を頂いたわけですが、実際の勤務を通じて、業務はもちろん組織文化など、想像よりもはるかに学びや発見の多い日々を過ごしています。気付けば本省での勤務も残すところ半年弱となりますが、そうした外務省での経験を本寄稿で振り返ってみたいと思います。拙文ではありますが、今後、外務省で勤務される外交実務研修員や地方自治体の皆様にとって、少しでも参考になりましたら大変幸いです。
2 広報文化外交戦略課での業務
私が配属された広報文化外交戦略課では、国内外への広報、報道関係者への情報発信、文化の分野における国際交流による対日理解の増進に関する基本的な方針の企画、策定及び実施を行っています。なお、課名にある「広報文化外交(パブリック・ディプロマシー)」とは、外国の国民・世論に直接働きかけ、民間とも連携し、自国のイメージアップを図る外交の在り方を指し、外国政府へ働きかけ交渉結果を自国の国民に説明する、いわゆる伝統的な外交とは異なるものといえます。
私は知的交流班に所属し、国内外への広報、特に、外交や政治・経済等に関わる政府の立場や考えを発信する政策広報のうち、有識者や専門家など日本政府以外の主体による発信に関わる業務を主に担当しています。
(1)講師派遣事業


この政策広報のうち、日本の外交政策や政治、経済、社会情勢等に対する諸外国での理解を促進するために、日本から各分野の有識者を海外に派遣し、第三者の立場から我が国の政策を発信してもらう講演事業を、在外公館の主催により実施しています。
テーマや対象者は現地でのニーズや広報効果を考慮してアレンジされ、事業実施の具体的な調整や運営は在外公館や本省の主管課が行いますが、広報文化外交戦略課はスキームを管理する立場として、事業の全体的な方針を決定し、実施に向けた調整が円滑に進むよう枠組みを整えることが求められます。例えば、私が着任した当時は、コロナ禍によりオンライン形態による講演会が中心でしたが、新型コロナの収束とともに対面型の講演会を再開するタイミングとなり、各主管課や在外公館が事業を円滑かつ効果的に進められるよう、事務処理プロセスの改善や合理化に取り組んだほか、限られた予算で効率よく事業を実施するために複数の公館を回るような案件形成を促すなど、事業の枠組みを整えていきました。
実際に事業を実施する立場ではないため、現地の反応や効果を直接体感することは難しいのですが、在外公館からの報告や当日の動画等を通して、参加者からの評価や当日の雰囲気、メディアを通じた情報拡散の結果等を確認することができ、小さくはありますが広報文化外交の一端を担っていることを感じられました。


(2)若手・中堅有識者の開拓・育成事業
(1)と関連する事業として、今後の第三者発信を担う日本の人材の裾野を広げるため、若手・中堅有識者を対象に、海外における英語でのプレゼンテーション能力向上のための研修事業を実施しています。
これまで国内シンクタンクの協力を得て終日の研修を年2回程度実施してきており、私も当日はオブザーバーとして同席しました。研修は1日かけてプレゼンやパネルディスカッションの演習と講師からのフィードバックを行うものですが、参加者の方々からは、このようなトレーニングの機会は他にないのでありがたいとの感想を多く頂いたほか、過去の参加者の方が実際に講師派遣事業等で活躍される例も拝見し、若手・中堅有識者の皆様と外務省の双方にとって意義深い取組であると実感いたしました。
また、個人的にも、県庁時代は研究者の方と関わる機会はそれほど多くはありませんでしたが、外務省の業務では外交や安全保障等を専門とする有識者の方との接点が多く、特に本研修では若手・中堅有識者の方々とお会いして直接お話しする貴重な機会となりました。
3 地方連携推進室での業務
昨今、多くの地方自治体は、友好交流やインバウンド促進、海外販路開拓など、国際的な取組が必要不可欠になっていると思われます。
そのような中、外務省では、外交を推進していく上で、地方自治体等を重要なパートナーであると位置づけ、地方による国際的取組の推進に資する様々な取組を行っております。外交実務研修員は研修の一環として短期間、地方連携推進室で勤務することになっており、私も同室で研修の機会を頂きました。
本寄稿を執筆している現在もまさに研修期間中にあたり、これまで1か月ほどお世話になったところですが、この間、外務省と地方自治体との共催による「地域の魅力発信セミナー」の運営に微力ながら携わらせていただきました。その他にも、駐日外交団による地方視察ツアーや外務大臣と自治体首長との共催によるレセプションなど、外務省が有する地方自治体支援・連携スキームは多岐にわたります。実務を通してこれらを学ばせていただくことで、県庁に戻った際にも、外務省との連携を密にし、今回の経験を活かしていきたいと考えております。
4 おわりに
2年間の本省勤務も気付けば1年半が経ちました。着任当初は外務省や霞が関特有の用語や決裁の進め方、物事が決まるスピード感、求められる専門性の高さなど、県庁との違いを実感する日々でした。ここまで何とかやってこられたのは、あたたかく御指導くださった広報文化外交戦略課の皆様をはじめ、外務省関係者の皆様からの多大な御支援のおかげです。改めて感謝申し上げます。また、貴重な学びの機会を与えていただいた外務省及び徳島県庁の皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。加えて、同じく外交実務研修員として全国から出向されている地方自治体の職員の方々との繋がりは個人的にもかけがえのない財産となりました。
これから約半年の本省勤務後は在外公館勤務となりますが、引き続き御縁を大切にしながら、日々の学びを最大限活かせるよう努めてまいりたいと思います。