グローカル外交ネット
日本外交の最前線である外務省勤務を通じて
外交実務研修員 池谷 知啓
(佐賀県から派遣)
1 はじめに
私は、2021年4月から外務省で、外交実務研修員として勤務しております。これまでに民間企業での業務経験などを経て2015年4月に佐賀県に入庁し、県の玄関口である九州佐賀国際空港の活性化、伊万里・有田焼をはじめとする県内伝統的地場産業の振興などに携わってきました。その後、外務省本省での本研修に参加して間もなく約2年間の研修期間が終了しようとしていますが、本寄稿を通じてこれまでの研修を振り返る貴重な機会を頂けて幸いです。
2 担当業務
外務省では大洋州課に配属され、主に豪州班に属し、戦時関係を背景とした業務(戦時遺留品の返還や戦後和解に向けた交流事業等)、日豪相互協力に関わる業務(捜査案件等の行政協力等)、各省庁からの協力要請への対応などを担当しています。また、大洋州課が担当しているニュージーランドや太平洋島嶼国に関わる個別事業を担当しています。この他、担当国と日本の間で行われる外交行事の準備などに数多く関わってきました。
このような多くの貴重な業務経験の中から、(1)日豪の戦時関係業務、(2)外交行事、について御紹介します。
(1)日豪の戦時関係業務(交流事業、戦時遺留品の返還など)
日本と豪州とは、第2次世界大戦中は敵対する国同士でしたが、これまでの互いの歩み寄りによって戦後和解が進み、今では多分野で同じ価値観を共有する「特別な戦略的パートナー」としてより緊密に連携しています。
この日豪関係の発展に貢献してきた、約20年前から継続している招へい事業を私は担当しています。これは戦時中に日本軍捕虜になった豪州人及びその子孫などの関係者を日本に招へいして、日本の学生や市民団体等と交流やゆかりの場所への訪問を行い、対日理解や戦後和解を進めていく事業です。過去2年間はコロナ禍で事業を実施できず、本年度はようやく元捕虜の御遺族の招へいを年度末に実施する予定です。この事業を通じて日本と豪州が一層友好関係を深めていくために両国関係者で共に取り組んでいるやりがいのある事業です。
また、戦時中に豪州において日本兵が遺した戦時遺留品で、豪州人の方が保管されていたものを日本に返還する手続きに関わっています。厚生労働省との連携により、この研修期間に、いくつもの遺留品を豪州人の方の手から海を渡って日本の遺族関係者の元に届けることができました。物を通じた戦後和解の橋渡しに関わることができています。
この他、平和への強い願いや希望を持って日豪間の和解事業に取り組まれている民間(元日本軍人の御遺族など)の方から協力を求められた時に、在豪州日本大使館などと連携しながら情報提供などのお手伝いをする機会もありました。日本政府だけの取組ではなく、様々な人たちの働きかけによって一歩ずつ日豪の歩み寄りが進められていることを学ぶことができました。
(2)外交行事(要人往来など)

私の派遣研修が開始された2021年4月当時は、日本でも世界でも引き続きコロナ禍で人的交流が制限されていました。このような中で、外交行事もオンラインによるテレビ会談や電話会談が各国間で開始されるようになり、私が配属された大洋州課もこのような形態での外交行事が主流となりました。
2021年7月に開催された第9回太平洋・島サミットは、日本が太平洋を共有する島嶼国を含む18か国・地域を招き、初めてオンラインによる開催となりました。外務省が主体となって開催する首脳級の大型オンライン会合は初めてで、会合内容や開催環境が大変な調整を経て緻密に計画されていく中で、私もそのチームの一員として、参加各国・地域との調整窓口を担当しました。相手国との時差や環境の違いを考慮しながら関係構築していくという外務省でしか経験できないような調整を経てオンライン会合を無事に終えることができた時、チームの方々と共に大きな達成感を味わうことができました。
この他、大洋州課に関わる首脳級、外相級、次官級のオンライン会談・電話会談が数多くあり、私はこの研修期間で18件に携わりました。私が、相手国の首脳や閣僚と一言二言の会話を交わして私から取り次ぐ場面もあり、私の大変貴重な人生経験となりました。

そして2022年度に入ってからは、本格的に対面外交が再開されることになり、大洋州課の関連では、ニュージーランドを皮切りに首脳級の訪日や、日本からも総理大臣や外務大臣による外国訪問が行われました。特に訪日行事の対応では、接遇や外交儀礼、警備・警護、関係省庁への協力要請など、オンライン行事とは全く異なる多岐に渡る業務をこなす必要があります。ミスが許されない緊張感を持ちながら、省内や相手国担当者と綿密に調整する一体感と完了できた時の達成感は、大変貴重な経験となりました。
3 本省勤務で学んだこと
私が外務省の門をくぐったその日から、外務省が担う業務を進めていくメンバーになった、という感覚がありました。幹部を中心に省員の皆さんが、常に先の先を見据えた考え方で物事を組み立てながら、正確且つスピード感を持って業務を進めている臨場感を日頃から感じています。その業務環境の中で、私も一つ一つの仕事の意味・意義を捉えながらゴールを目指す力を養うことができました。めまぐるしく物事が動く中で難しく悩む場面に直面することもありましたが、相手国との友好関係構築や、ひいては日本の発展に寄与しているのだと捉えれば、様々な業務にも堂々と対峙することができ、今後の貴重な糧となりました。
4 おわりに
間もなく2年間の在外公館での勤務に臨みます。公私ともに初めての体験ばかりになるかと思いますが、在外公館で業務に従事する貴重な機会と捉えて、様々な知見を吸収して、佐賀県に持ち帰りたいと考えています。
おわりに、私に有意義な本研修の機会を提供してくださった佐賀県庁、そして外務省において様々な業務経験をさせていただいた大洋州課をはじめ多くの関係部署・関係者の皆様に、この場を借りて感謝申し上げます。