グローカル外交ネット

令和5年2月27日

 外交実務研修員 石田 智彦
 (岐阜県から派遣)

1 はじめに

 私は2021年4月に岐阜県庁から派遣され、国際協力局 国際保健戦略官室にて勤務しております。岐阜県では、採石法や武器等製造法にかかる許認可や立入検査、美術展覧会の企画・運営等といった業務に従事していました。他の多くの研修員の皆さんと同じく国際系の業務とは無縁で、また、「国際保健」に対しても、「何をするんだろう?WHOとか?」くらいのふわふわしたイメージしかなかったため、外務省赴任を拝命したときは驚きとともに、不安でいっぱいだったことをよく覚えています。
 そんな私も、早いもので外務本省での研修期間を間もなく終えることとなりますので、拙文ながらこの2年間の経験を振り返りたいと思います。

2 私が携わった業務について

 新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)の世界的感染拡大をきっかけに、国際保健は、単に人々の健康というだけではなく、経済・社会・安全保障等にも直結する重要課題として、外交の中でも一層重要性を増してきています。私が配属された国際保健戦略官室は、そうした情勢を背景にここ数年で一気に規模が拡大した部署で、感染症の関連を中心とする保健分野の国際機関等に関する事業の企画・立案・調整や渉外を通じて、国際協力の観点から、多国間の枠組みにおける戦略的かつ効果的な外交政策を推進しています。

(1)G7・G20に関連する業務

 国際保健戦略官室の業務は幅広く多岐にわたりますが、私は主に、G7・G20における保健分野に関する業務を担当しました。G7・G20では、その年ごとの議長国のリードのもと、集大成であるサミットに向けて、外務大臣会合や保健大臣会合といった分野別の閣僚級会合が行われます。また、これらの会合に先立ち事務方による準備会合が何度も開かれ、各会合の議題について専門的な議論を深めながら、会合本番で打ち出す成果や、会合で発出される首脳宣言や共同声明といった成果文書の調整が行われます。新型コロナの影響もあり、国際保健は保健大臣会合においてのみならず、外務大臣、開発大臣、財務大臣、貿易大臣等、様々な会合で重要な議題の一つとなりましたが、それぞれの側面から「日本として打ち出したい立場は何なのか」、「各国がしてくるであろう主張は日本として受け入れられるのか」等あれこれ考えながら、省内外の関係者と細かな調整をして会合に臨みます。
 特に印象深い業務として、昨年5月には、新型コロナで滞っていた対面での外交が徐々に再開される中、ドイツ議長国下のG7開発大臣・保健大臣合同会合に出席する鈴木外務副大臣(当時。以下、「副大臣」)に随行し、ベルリンに出張しました。この会合では、各国の開発担当大臣と保健担当大臣が集まり、途上国の開発協力の観点から、医療への公平なアクセスや、将来のパンデミックの予防・備え・対応の強化が議論されました。私は、副大臣の発言や成果文書、報道発表等の調整を行いましたが、現地では、東京の本省と常に連絡を取り合いながら、成果文書や各国大臣たちの発言の確認、記録や報道発表資料の作成等に昼夜問わず奔走していたため、滞在中にドイツらしいことができたのは帰りの空港で飲んだビールくらいでした(笑)。しかしながら、我々事務方が入念に準備を重ねてきた努力が会合本番で結実し、また会合の合間の時間で閣僚同士が歓談しながら親交を深めたり、夕食の席で日本の幹部が外国の高官からデマルシュ(外交上の申し入れ)を受けたりする現場に立ち会うことができ、対面での外交がいかに重要かを実感できる機会となりました。出張中に、副大臣から直接激励や労いの言葉をいただけたのは良い思い出です。

(写真1)各国の旗の前での記念撮影のようす G7開発大臣・保健大臣合同会合(ベルリン)の会場にて
(写真2)リスニングルームの様子 G7閣僚会合の様子を、会場内のリスニングルームから
各国の参加者と傍聴する様子

 G20についても、G7と同様に保健に関連して、サミットでの総理の発言内容や、各種成果文書の調整に従事しました。G7よりも多様な主義主張を持つ国が集まっていることもあり、昨年は議長国インドネシアのもとで成果文書の調整が難航していましたが、ウクライナ情勢等をめぐって立場が分かれる中でも、交渉によって各国が折り合いをつけ、何とかバリ島で開催されたサミットでの首脳宣言の発出に漕ぎつけられるプロセスを見られたことは有意義でした。また、バリ・サミットの場で、岸田総理から「G7広島サミットでも国際保健を重要課題の一つに位置付ける」と表明いただけたことは、大きな成果となったと感じています。

(写真3)G20バリ・サミットの保健セッションに出席する岸田総理の様子 G20バリ・サミットの保健セッションに出席する岸田総理
(出典:首相官邸ホームページ別ウィンドウで開く

 現在は、日本が議長国を務める今年のG7広島サミットに向けて、保健分野での成果をどのように打ち出していくか、厚生労働省をはじめ関係省庁と連携して検討しながら、その準備に携わっています。

(2)その他の各種国際会議や地方との連携等に関わる業務

 G7・G20以外にも、厚生労働省や財務省の方々と連携してWHOの国際会議へ出席したり、米国の感染症の専門家たちとの会合に臨んだり、時には室員の皆さんと夜通し国会答弁を準備したりと、書き出すと切りがありませんが、年間を通じて幅広い業務や作業に従事させていただきました。
 さらに、国際保健とは離れますが、研修の一環として地方連携推進室にも2か月間配属いただきました。文字通り、地方における国際的な取組の推進を支援する部署ですが、ここでの配属期間中は、地方の魅力を世界へ発信する「地方を世界へ」プロジェクトにおける林外務大臣の岡山県訪問に係る同室の担当業務や、外務省と地方自治体との共催事業の準備等を通じて、地方自治体の方々と日々様々なやりとりをさせていただきました。これらの事業に微力ながら関わる中で、自分が県庁に戻ってから携わるであろう業務の向こう側でどのようなスキームが動いているかを体験できたことは、大変良い勉強になりました。

3 外務本省での勤務で感じたこと

 外務省での勤務を通して、仕事の仕方についても感じたことがありましたので、いくつか簡単に紹介いたします。
 まず、外務省では、自治体に比べ、より一人一人が個別に大きな業務を担当しているため、各人が事業のプロフェッショナルとして、強い責任感を持って業務に取り組むことが求められていると感じます。
 また、外国を相手に仕事をするため、先方との間に時差が発生することが多く、それもあってか、昼夜問わず非常に短い期間で照会や作業依頼が送られてきます。昼過ぎにメールが来た照会の締切りが当日中、なんてことは日常茶飯事で、極端な例では、休日に大臣が外遊先に向かう政府専用機内から、「あと1時間で専用機が着陸するまでに局長まで決裁を取り切って!」と突然電話を受けたこともありました。タイミングを逃すと日本の意見を受け付けてもらえないようなケースもあり、プレッシャーは大変大きいですが、最近は当初に比べるとあまり動じなくなってきた自分を見て、だいぶ慣れてきたのかな、と思っています(笑)。
 ただ、そのような状況で省員が日々忙しく業務をこなす中、新しい赴任者が手取り足取りインストラクトしてもらえる機会は必ずしも多くはなく、業務で必要な知識やノウハウは自分で習得していく姿勢が大切だと思いました。特に、わからないことや困ったことがあれば、受け身で待つのではなく、自分から積極的に周りに尋ねたり助けを求めたりすることが肝要だと強く感じました。
 もちろん所属する部署や扱う内容によって仕事の仕方は大きく変わり得ると思いますので、これらはあくまで私の経験に基づく所感ですが、これから派遣される方々等にとって多少なりとも参考になれば幸いです。

4 終わりに

 着任当初は、国際保健外交に関して全くの門外漢でしたが、新型コロナのパンデミックを契機に世界規模でホットなイシューとなった国際保健の趨勢を間近で感じながら、その業務の一端を担うことができたことは、他では得難い貴重な経験となりました。
 また、同じ国とであっても扱う論点によって協調も対立もし得る中、いかにして同志国を増やして自国の主張や目的を達成していくかという、多国間外交のプロセスを垣間見ることで、二国間外交を所管する地域課とは一味違った醍醐味を感じることもできました。
 この2年間の本省勤務で得られた濃密な経験と様々な方とのご縁を糧に、来年度に控える在外公館での勤務や、ひいては岐阜県での業務により一層貢献できるよう、引き続き精進していきます。

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