国際保健
世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)サンズ事務局長によるキャリアセミナーの実施
平成30年5月18日
4月23日,ピーター・サンズ世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)事務局長が来日し,上智大学で行われた同基金のキャリアセミナーにおいて講演を行いました。
1 趣旨
本年3月に就任したサンズ・グローバルファンド事務局長の公式初来日の機会を捉え,国際メガバンクでCEOを務めた経歴を持つ同事務局長が抱くグローバルファンドの活動ビジョンやその役割,求める人材像について広く紹介し,日本における同基金のビジビリティを高めるとともに,国際機関での就職を希望する日本人に対して同基金を周知する目的でキャリアセミナー「21世紀型パートナーシップの国際機関で働く」を実施しました。
2 概要
- (1)外務省は,グローバルファンド及び上智大学との共催で,(公財)日本国際交流センター/グローバルファンド日本委員会の後援を得て,4月23日(月曜日)に上智大学においてグローバルファンドのキャリアセミナーを実施しました。セミナーには大学研究機関,民間企業,国際機関,NGO等から71名の方が参加し,活発な質疑応答が行われました。
- (2)冒頭,グローバルファンド日本政府理事区理事を務める塚田・外務省国際協力局参事官から,グローバルファンドは国際保健における官民パートナーシップの先駆けであり,他の国際機関,開発銀行などと比較しても,明確なマンデートに基づいて高い成果を挙げた最も成功した国際機関であること,一方でグローバルファンドの全職員に比して邦人職員は著しい過小代表状態にあるため,日本政府としても邦人職員の増強に積極的に取り組んでいる点,さらに金融部門における経歴というユニークなバックグラウンドを持つサンズ事務局長のビジョンの紹介と若い学生や幅広い分野の専門家の間でグローバルファンドに対する理解が深まることへの期待を述べました。
- (3)続いてサンズ・グローバルファンド事務局長より,グローバルファンドは2000年のG8九州・沖縄サミットを契機として2002年に設立したのち,3大感染症対策を順調に進めその結果世界におけるエイズ,マラリアによる死者数は50%減少,結核による死亡率は35%低下,これまでに2200万人の命が救われている旨延べ,一方SDGsのターゲット3.3(3大感染症の流行終息)達成のためには,サブサハラアフリカにおける少女や若年女性のHIV新規感染率上昇,診断されていない結核ケース,薬剤耐性などの課題も多く残されていると説明しました。
- (4)またサンズ事務局長はコンサルタント会社勤務を経て,国際メガバンクでのCEOを務めた自身の職歴につきふれ,国際保健の経済的,ファイナンス的な側面に関心を持ったことをきっかけに国際保健分野に携わろうと決めた点,3年毎に増資会合を行い,政府ドナーや民間財団などから活動資金を募り,真にインパクトのある案件形成,実施を行うために実際に3大感染症で苦しむ人々,現地政府にかわり草の根で活動を行う市民社会をその意思決定に参加させているグローバルファンドのビジネスモデルを紹介しました。
- (5)またグローバルファンドの求める人材について,サンズ事務局長は,ドナーから集めた莫大な資金(現増資期間(2017~2019年)では約130億ドル,1年の案件支援額は約40億ドル)を適切に管理しインパクトを挙げるべく活用するため,グローバルファンドは世界で通用する視野を備えたマネージメント,ファイナンス,モニタリングのスキルをもった人材を必要としており,また120か国以上にも亘る途上国の案件を統括する情報技術のスペシャリストやグローバルファンドの進める人権の保護と感染症対策の両輪のアプローチを行って行く上では司法の専門家の能力が必要とされ,同基金の活動資金の大半を占める3大感染症対策の医薬品,保健製品の調達供給を支えるためには,流通・物流での知識を持った人材が求められる点,保健の専門家以外にも幅広い分野で優秀な人材を探していると述べました。
- (6)職務のやりがいについて,サンズ事務局長は,限られた資源をどう優先順位をつけて振り分けていくかなど難しい選択や挑戦にも直面するが,世界中から多様な人材が集まるグローバルファンドにおいて,3大感染症の流行終息というゴールに向かって共に取り組むミッションは非常にエキサイティングであると述べました。
- (7)その後来場者からは,グローバルファンドの民間セクターの連携,グローバルファンド職員には比較的専門的な民間企業での勤務経験がある職員はいるのか,疾病対策と長期的な保健システム構築のバランスについてどう考えるかなど積極的に質問が寄せられました。
3 評価
- (1)本キャリアセミナーには幅広い分野から数多くの参加者が得られ,新たに就任したサンズ事務局長のグローバルファンドに対するビジョンを国内で周知する良い機会となりました。
- (2)また,金融業界出身のサンズ事務局長の視点から,グローバルファンドが保健人材以外にも様々なバックグラウンドを持つ人材を必要としている点を広報でき,国際機関での就職を希望する参加者に対してグローバルファンドでの就職の可能性を意識させる幅広いアウトリーチを行う有意義な機会となりました。