気候変動
国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)結果概要

日本国政府代表団
1 概要
令和5(2023)年11月30日(木曜日)から12月13日(水曜日)、アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイにおいて、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)、京都議定書第18回締約国会合(CMP18)、パリ協定第5回締約国会合(CMA5)、科学上及び技術上の助言に関する補助機関(SBSTA)及び実施に関する補助機関(SBI)第59回会合が開催された。
我が国からは、岸田文雄内閣総理大臣が首脳級会合「世界気候行動サミット」(12月1日及び2日)に出席し、全体会合でのスピーチで、2030年までの行動が決定的に重要であることを強調の上、2050年ネット・ゼロの達成、全温室効果ガスを対象とする経済全体の総量削減目標の設定及び2025年までの世界全体の排出量ピークアウトの必要性を訴えた。
また、伊藤信太郎環境大臣が2週目の閣僚級交渉に出席したほか、濵地雅一厚生労働副大臣及び吉田宣弘経済産業大臣政務官が関連会合等に出席し、その他外務省、環境省、経済産業省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、金融庁、林野庁、気象庁の関係者が参加した。
COP28では、パリ協定の目的達成に向けた世界全体の進捗を評価するグローバル・ストックテイク(GST)に関する決定、ロス&ダメージ(気候変動の悪影響に伴う損失と損害)に対応するための基金を含む新たな資金措置の制度の大枠に関する決定の他、緩和、適応、資金、公正な移行等の各議題についての決定がそれぞれ採択された。
2 交渉結果概要
(1)グローバル・ストックテイク(GST)
パリ協定の実施状況を検討し、長期目標の達成に向けた全体としての進捗を評価する仕組みであるグローバル・ストックテイクについて、初めての決定が採択された。
12月1日~2日の首脳級会合も経た2週間にわたる議論・交渉の末に採択された決定文書には、1.5℃目標達成のための緊急的な行動の必要性、2025年までの排出量のピークアウト、全ガス・全セクターを対象とした排出削減、各国ごとに異なる道筋を考慮した分野別貢献(再エネ発電容量3倍・省エネ改善率2倍のほか、化石燃料、ゼロ・低排出技術(原子力、CCUS、低炭素水素等)、道路部門等における取組)が明記された。また、パリ協定第6条(市場メカニズム)、都市レベルの取り組み、持続可能なライフスタイルへの移行等の重要性についても盛り込まれた。
(2)ロス&ダメージに対応するための基金を含む新たな資金措置の制度の大枠の決定
昨年のCOP27で設置が決定されたロス&ダメージ(気候変動の悪影響に伴う損失及び損害)に対応するための新たな資金措置(基金を含む)に関し、11月30日、COP28の開会式全体会合において、基金の基本文書を含む制度の大枠について決定が採択された。COP開幕日に手続事項ではない実質的な決定が採択されるのは、極めて異例のことである。また、決定の採択の後、基金の立ち上げ経費を中心に、我が国を含む各国からプレッジが行われた(注1)。
基金(名称は今後基金の理事会で決定される)については、気候変動の影響に特に脆弱な途上国を支援の対象とすること、世界銀行の下に設置すること、先進国が立ち上げ経費の拠出を主導する一方、公的資金、民間資金、革新的資金源等のあらゆる資金源から拠出を受けること等が決定された。
資金措置については、資金措置を構成する機関(世銀・IMF、ワルシャワ国際メカニズム、サンティアゴ・ネットワーク(SN)等)と基金が定期的に対話を実施し、さまざまな資金措置と基金とが調整・協調してロス&ダメージに対応していくことが決定された。
(注1)日本は、基金の立ち上げ経費として1,000万米ドルのプレッジを表明。
(3)ロス&ダメージ
ロス&ダメージに関する技術支援を促進するサンティアゴ・ネットワーク(SN)について、事務局ホスト機関として国連防災機関(UNDRR)と国連プロジェクト・サービス(UNOPS)を選定した。UNFCCC事務局、事務局ホスト機関、諮問機関の役割についての合意形成、諮問機関メンバーの選出が行われ、来年以降のSNの本格的運用が決まった。決定文においては、日本ほか各国によるSNへの拠出について謝意が示された。
(4)緩和
COP27で決定された「緩和作業計画」について、実施の初年となる2023年は、公正なエネルギー移行と交通システムの脱炭素化について、2回のグローバル対話で議論を行った。採択された決定では、この対話の報告(再エネ、省エネ、CCUS等に関する実施可能な解決策等を含む。)や「緩和野心閣僚級会合」の議論について留意するとともに、補助機関会合で進捗評価を行うことが決定された。
(5)適応
パリ協定第7条に定められている適応に関する世界全体の目標(GGA:Global Goal on Adaptation)に関するグラスゴー・シャルム・エル・シェイク作業計画の下での2年間に亘る議論の成果として、GGAの達成に向けたフレームワークが採択された。フレームワークは、国主導かつ自主的なものとして、テーマ別の7つの目標、適応サイクルについての4つの目標を設定した。また、GGAに関する新たな議題を設定するとともに、目標に対する進捗評価のための指標を検討するための2年間の作業計画が立ち上がり、GGAの実現及びフレームワークの実施加速化に向けた議論を開始することが決定された。
(6)気候資金
長期気候資金、2025年以降の新規気候資金合同数値目標(New Collective Quantified Goal)、資金に関する常設委員会に関する事項、資金メカニズムに関する事項等の幅広い議題の下で検討が行われた。
新規合同数値目標については、COP29/CMA6での決定に向けて、2022年から継続している協議体(Ad Hoc Work Programmel)の下の技術専門家対話(TED:Technical Expert Dialogue)を継続し、加えて、全締約国及びオブザーバーが議論に参加できる場を設けることが決定された。
パリ協定第2条1項(c)(注2)については、先進国と途上国との間で相互に理解を深めるため、先進国から新規のプラットフォームの設置について提案を行ったが、途上国側は同意せず、既存のシャルム・エル・シェイク対話を今後も継続し、強化することが決定された。
(注2:パリ協定第2条1項(c):温室効果ガスについて低排出型であり、及び気候に対して強靭である発展に向けた方針に資金の流れを適合させること)
(7)公正な移行
COP27で決定された「公正な移行に関する作業計画(JTWP)」について、雇用、エネルギー、社会経済等の要素を含むこと、作業を2026年まで継続し、その時点で効果や効率性について評価を行い、継続を検討すること等が決定された。
(8)パリ協定6条(市場メカニズム)、CDM(クリーン開発メカニズム)
パリ協定第6条2項及び4項については、国連への報告等に関する詳細事項について見解の一致に至らず、引き続き議論されることとなった。 第6条8項(非市場アプローチ)については、各国の取組を登録するウェブ・プラットフォームの運用や今後の作業計画について決定された。また、今後のCDMの機能停止時期や必要な予算等については、事務局が技術ペーパーを作成し検討を継続することが決定された。
(9)その他
技術開発・移転、キャパシティ・ビルディング、農業、研究と組織的観測、対応措置の実施の影響(気候変動対策の実施による社会経済的な影響)、気候変動とジェンダー、気候エンパワーメント行動(ACE:Action for Climate Empowerment)等の幅広い交渉議題についてマンデートイベントの開催や議論が行われた。
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)及びパリ協定下の構成機関に所属する委員の選挙が行われ、日本人委員1名が選出された。
また、次回COP29をアゼルバイジャンで、次々回のCOP30をブラジルで開催することが決定された。
3 閣僚級会合等
伊藤環境大臣は、アラブ首長国連邦、イタリア、インド、ウクライナ、英国、オーストラリア、カザフスタン、カナダ、韓国、ジョージア、シンガポール、中国、チュニジア、ドイツ、ノルウェー、パプアニューギニア、フランス、ブラジル、米国、モルドバ、EU計21か国・地域の閣僚級及び代表と会談した。各会合では、グローバル・ストックテイクで盛り込むべき内容の提案等、交渉議題の合意に向けた議論を行ったほか、気候変動対策等について意見交換を行った。
4 ジャパン・パビリオンでの発信
我が国は、COP28会場においてジャパン・パビリオンを設置し、会合期間を通じて、我が国企業等の緩和・適応・CO2有効利用等の実地展示やパネル展示、技術のオンライン展示、多岐にわたるセミナーを実施した。
12月2日には、岸田総理及び日・UAEの企業代表者が参加して「Action to Zero led by Japan and UAE」を開催し、強固な日・UAE関係を確認するとともに、岸田総理から、残された2つの大きな課題である(1)産業脱炭素化と(2)成長を続けるアジアの脱炭素化に挑戦する方針も示した。さらに、岸田総理から、「課題解決力を成長のエンジン」とすること、「脱炭素は日本にとって成長のチャンス」であることに触れつつ、日本の金融力・技術力をフル活用して、アジアや中東の各国とも協力しながら、共に脱炭素と経済成長を実現していくことを表明した。
5 国際イニシアティブへの参加
日本政府はCOP28期間中に気候変動に関する以下の国際イニシアティブに参加した。
- 12月1日:UAEが主導する「持続可能な農業・強靭な食料システム・気候変動対応に関する首脳級宣言」(エミレーツ宣言)
- 12月1日:米国・ノルウェーが主導する「グリーンシッピングチャレンジ」
- 12月1日:WMO及び前議長国エジプトが主導する「水適応・強靭性アクション・イニシアティブ(AWARe)」
- 12月2日:議長国UAE及びEUが主導する「世界全体での再生可能エネルギー3倍・エネルギー効率改善率2倍」宣言
- 12月2日:議長国UAE及び米国等による「各国の国内事情の相違を認識しつつ、2050年までに2020年比で世界全体の原子力発電容量を3倍にする」との野心的な目標に向けた協力方針を含む「原子力3倍」宣言
- 12月2日:ドイツが主導する産業脱炭素化を目指す「気候クラブ(Climate Club)」
- 12月3日:議長国UAEが主導する「気候・救済・復興・平和宣言」
- 12月3日:世界保健機関(WHO)及び議長国UAEが主導する「気候と健康宣言」
- 12月4日:議長国UAEが主導する「ジェンダーに対応した公正な移行と気候変動対策パートナーシップ」
- 12月5日:議長国UAEが主導する水素等の国際的な取引促進などを目的とした「クリーン水素認証の相互承認に関する意向表明」
- 12月5日:国際連合工業開発機関(UNIDO)が主導する排出削減が困難な産業におけるグリーン素材の需要創出を目的とした「グリーン公共調達に関する協力意図表明文書」
- 12月5日:米国が主導する二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)および二酸化炭素除去(CDR)の技術開発・展開の加速を目指す「カーボンマネジメントチャレンジ」
- 12月5日:国連環境計画(UNEP)及び議長国UAEが主導する持続可能な冷却の実現を目的とする「Global Cooling Pledge」
- 12月6日:フランス、モロッコ及び国連環境計画(UNEP)が主導する「ビルディング・ブレークスルー(Buildings Breakthrough)」
- 12月7日:日本・米国・フランス・英国・カナダの5か国による、原子燃料の強靱なサプライチェーンの実現に向けた「『札幌ファイブ』宣言」。
- 12月10日:インドが主導する「国際河川都市連合」
6 日本主導のイニシアティブの発表
12月9日、1.5℃目標の実現に向けて、急速かつ大幅な削減の実現が必要とされる中、我が国は「世界全体でパリ協定の目標に取り組むための日本政府の投資促進支援パッケージ」を公表した。これは、脱炭素や適応に対する投資を促進するための基盤を整備することで、「目標のギャップ」「適応のギャップ」「実施のギャップ」という3つのギャップを解消し、排出経路をオントラックにしていこうとするもの。関係国を招いて、当該政策について発表を行うセミナーをジャパン・パビリオンで開催し、我が国の政策について国内外に幅広く発信した。