気候変動
緑の気候基金
(Green Climate Fund: GCF)
令和6年5月10日
概要
1 緑の気候基金とは
- 緑の気候基金(Green Climate Fund:GCF)は、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)及びパリ協定の下に設置されている、開発途上国の温室効果ガス削減(緩和)と気候変動の影響への対処(適応)を支援するための基金です。2010年に開催された国連気候変動枠組条約第16回締約国会議(COP16)にて設立が決定され、2015年、GCFは案件承認を開始しました。
- GCFに対しては、初期資金動員(2015-2019年)及び第1次増資(2020-2023年)を通じて、これまでに合計約200億ドルの拠出が表明され、気候変動対策に特化した世界最大の基金となっています。さらに、第2次増資(2024-2027年)に対しては、これまでに33か国から合計約128億ドルの拠出が表明されています。
2 GCFの組織
(1)理事会(Board)
- GCFの最高意思決定機関。原則として年3回開催され、COPに対して責任を負っています。24名の理事及び24名の理事代理で構成され、先進国及び途上国から半数ずつ選出されます(任期は3年。)。日本は、GCFの設立当初から理事及び理事代理として参加し、GCFの運営に貢献しています。意思決定は、原則としてコンセンサスによりますが、コンセンサスが成立しない場合は多数決を用いることもあります。
- GCF理事会の構成(2024年3月末時点)
- 【理事】
- 先進国12名:英国(共同議長)、日本、米、独、仏、スウェーデン、ノルウェー、伊、カナダ、スペイン、デンマーク、スイス
- 途上国12名:ドミニカ(共)(共同議長)、韓国、サウジアラビア、パキスタン、エジプト、南アフリカ、ガボン、ブラジル、コスタリカ、アンティグア・バーブーダ、ブータン、ジョージア
- 【理事代理】
- 先進国12名:英国、日本、米国、独、仏、スウェーデン、ノルウェー、オーストリア、ベルギー、アイルランド、フィンランド、オランダ
- 途上国12名:中国、イラン、フィリピン、ケニア、マリ、ガーナ、ニカラグア、チリ、エクアドル、キリバス、ガンビア、パプア・ニューギニア
(2)事務局(Secretariat)
- GCFの通常業務を行っています。事務局は、韓国仁川市松島(ソンド)に置かれています。
- 事務局長の下には、国別計画部、緩和・適応部、民間セクターファシリティ部、対外関係部等が置かれています。
(3)事務局長(Executive Director)
- 2023年3月、第35回理事会において、マファルダ・ドゥアルテ(Ms. Mafalda Duarte)氏がGCF事務局長に選出され、同年8月に就任しました。
GCFの活動
1 資金の動員
(1)初期拠出(2015~2018年)
- 拠出表明総額:約103億ドル(43か国の政府(うち9か国は途上国)及び都市・地域(パリ市、ベルギー・フランダース政府等))。
- 日本の拠出額:15億米ドル。
(2)第1次増資(2020~2023年)
- 拠出表明総額:約100億米ドル(31か国・2地方政府)。
- 日本の拠出額:15億米ドル。
(3)第2次増資(2024~2027年)
- 拠出表明総額:約128億米ドル(33か国(うち3か国は途上国))。
- 日本は2023年10月に開催された第2次増資プレッジング会合において、最大約1650億円を拠出する意思があることを表明しました。
2 資金供与の方法
- 資金は、緩和及び適応への支援に50:50の割合で配分されることを目指しています。
- 小島嶼開発途上国(SIDS)、後発開発途上国(LDC)、アフリカ諸国等、気候変動による影響に特に脆弱な国が重視されており、適応への支援の半分はこれらの脆弱国に配分することを目指しています。
- 国際機関、地域機関、国家機関等が認証機関(Accredited Entity)として認定され、それらの認証機関が個別案件を事務局に申請します。
3 認証機関の認定
- 認証機関(Accredited Entity:AE)とは、GCFの資金へのアクセスを認められた国及び準国家の機関・地域機関・国際機関、民間機関のことを指します。官民のあらゆる機関が認証機関申請を行うことが可能です。認証機関の性質によって、ダイレクト・アクセス機関(開発途上国における国・地域及び準国家の機関・地域機関等)、インターナショナル・アクセス機関(先進国における国際機関・地域機関及び国の機関等)に大別されます。
- 認証機関になるためには、GCFの受託者原則・基準、環境・社会配慮、ジェンダー政策等に合致していることが必要であり、理事会での承認を得る必要があります。
- これまでに128機関が認証機関となっており、日本の機関では、国際協力機構(JICA)、三菱UFJ銀行(MUFG)、三井住友銀行(SMBC)が認証機関として承認されています。
4 案件採択のプロセス
以下のプロセスを経てGCFが資金を供与する案件が採択、実施されます。
- (1)認証機関が、案件のプロポーザル(提案書)を作成し、事務局へ提出します。これより前に、任意でコンセプト・ノートを作成して事務局からフィードバックや助言を得ることも可能です。
- (2)事務局によるプロポーザルの審査が行われます。
- (3)事務局による審査を通過すると、独立技術審査パネル(independent Technical Advisory Panel:iTAP)において技術面での審査が行われます。
- (4)iTAPでの審査を経て、理事会での審議に付されます。理事会でプロポーザルが承認されると、法務手続等、案件の実施に向けた手続が始まります。
5 案件審査基準
GCFによる資金支援を決定する際には、以下6つの点が考慮されます。
- (1)インパクト:対象となる支援プロジェクトがGCFの目的や成果分野を達成するために貢献する潜在性があるか。
- (2)パラダイムシフト:支援活動が当該プロジェクトや投資を超えて影響をもたらすか。
- (3)持続可能な開発の潜在性:より幅広い利益と優先事項があるか。
- (4)被支援国のニーズ:受益国と受益者の脆弱性と資金ニーズがあるか。
- (5)カントリー・オーナーシップ:受益国によるオーナーシップと当該プロジェクトの実施能力があるか。
- (6)効率性及び効果:対象となるプロジェクトが経済面・資金面で健全であるか。
6 案件採択実績
- これまでに合計253件の案件が理事会で採択されており、供与承認総額は139億ドル以上になっています。これにより、約29億トンのCO2排出量削減と約10億人の裨益が見込まれています。
- また、日本の認証機関による申請では、三菱UFG銀行(MUFG)による案件3件(サブサハラ・南米7か国における持続可能な民間森林事業支援(2020年3月)、アジア・中南米・アフリカ8か国におけるグリーン債発行支援案件(2022年10月)、)、アジア・アフリカ・中南米19か国におけるブレンデッド・ファイナンスによる適応・緩和策支援(2023年10月))、JICAの2案件(東ティモールの森林地帯コミュニティ支援(2021年3月)、モルディブの気候変動に強じんな島づくり支援(2021年7月))が採択されています。
- 253件のうち、適応分野の案件は110件、緩和分野の案件は67件、適応・緩和の両方に資する分野横断の案件は76件です。また、支援額におけるそれぞれの割合は、適応26%、緩和35%、分野横断38%となっています。
7 GCFの資金へのアクセス向上の取組
(1)レディネス支援
- レディネス支援とは、NAMA(国の適切な削減行動)、NAP(国別適応計画)、NAPA(国別適応行動計画)等の途上国の戦略や計画の策定・強化といったレディネスや準備活動、途上国の能力強化等の技術支援に対して資金を供与するプログラムを指します。
- 全ての途上国がこのプログラムにアクセスすることが可能です。また、レディネス支援のうち最低50%は脆弱国(小島嶼開発途上国、後発開発途上国、アフリカ諸国)に配分されることになっています。
- 1か国が1年で利用できる能力強化等のレディネスのための資金は100万ドルであり、また、NAP策定のためには1か国あたり300万ドルを上限に申請することが可能です。
- 支援対象となる具体的な活動は、以下のとおりです。
- NDAまたはフォーカルポイントの能力強化
- 国家計画の策定等戦略的な枠組みの構築
- 認証及びダイレクト・アクセス認証機関への支援
- 情報・知見の共有
- NAPその他の適応計画プロセスの策定
(2)プロジェクト準備ファシリティ(PPF)
- PPFは、案件形成を支援するためのプログラムです。全ての認証機関による申請が可能ですが、特にダイレクト・アクセス機関による案件及び極小案件(1000万ドルまで)・小規模案件(5000万ドルまで)を支援します。なお、支援額は、1件につき最大150万ドルまでです。
- PPFで支援対象となる活動は、以下のとおりです。
- 実現可能性調査及び立案
- 経済・社会・ジェンダー面での調査
- リスク評価
- 指標の特定
- 契約に関する事前サービス
- 助言サービス
- その他案件準備に必要な活動
(3)案件採択プロセスの簡素化
- 2500万ドル以下の、環境社会リスクが低・ゼロの案件は、簡素化された案件採択プロセス(SAP)を適用することが可能です。
- SAPにおいては、通常よりも簡素なフォーマットや少ないページ数のプロポーザルが求められるなど、案件申請や審査のプロセスの合理化・迅速化を目指しています。
8 民間資金動員の取組
(1)民間資金動員の重視
GCFでは、途上国における民間セクターの気候変動対策への参画を促進させるため、出資や保証といった金融手段を活用して投資リスクを軽減させ、民間セクターからの大規模投資を呼び込むような案件を推進しています。そのため、事務局には民間セクターファシリティ部(PSF)が設置されています。
第2次増資期間の事業方針を定める2024-2027年戦略事業計画においても、民間セクターによるイノベーションやグリーン・ファイナンスの促進を優先事項の一つとして掲げています。
(2)案件特定型評価アプローチ(PSAA)
民間企業等が優良な案件候補を持っていても認証機関ではないためにGCFから資金を得られず、また、そのような企業等が認証機関になろうとしても時間がかかるといった課題に対応するために、2023年4月より、案件を申請する機関と案件内容を同時に審査する案件特定型評価アプローチ(Project Specific Assessment Approach:PSAA)が導入されました。これにより、認証機関ではない民間企業等も、1件まで案件申請を行うことができるようになりました。