日本の国際テロ対策協力
我が国の国際テロ対策
令和4年3月8日
1 基本認識
(1)テロの脅威
- テロの脅威は、我々日本人にとっても対岸の火事ではありません。2015年のシリアにおける邦人殺害テロ事件及び同年のチュニジアにおける襲撃事件、2016年のダッカ襲撃テロ事件、さらに2019年のスリランカ同時爆発テロ及び同年のアフガニスタンにおける邦人銃撃テロ事件は、我が国がテロの脅威と無縁ではないことを改めて示しています。
- 昨今は、テロ組織と直接関わりのない者や社会的に疎外感を感じている者が、インターネット等を通じて過激な思想の影響を受け、テロを計画または敢行するといった問題が目立っています。2016年のニースにおけるテロ事件に代表されるように、国外の過激派組織の主義主張に共鳴し、自国内でテロを起こす、いわゆる「ホームグロウン・テロ」や、テロ組織との直接的な関わりをもたず、個人(一匹狼)で自発的にテロを起こす「ローン・ウルフ」などです。
- 2019年には、イラク及びシリアにおける「イラクとレバントのイスラム国」(ISIL)掃討作戦の結果、同組織はその支配地を喪失させ、更にはバグダーディ指導者も殺害されました。一方、ISILは、各地の関連組織や支持者を通じてテロ攻撃を継続。特に、アフリカにおける関連組織の活動は引き続き活発です。「アル・カーイダ(AQ)」についても、各地の関連組織と共にその活動は続いており、アフリカ及び中東を中心に脅威は存続しています。
- 2021年8月には、タリバーンがカブールを陥落させ、アフガニスタン情勢が急変、アフガニスタンのみならず周辺国も含めた影響が懸念される事態となっています。同国を二度とテロの温床にしないという国際社会の共通の目標の下、各国と連携しテロ対策に取り組んでいくことが重要となっています。
- 西側諸国に目を向けると、近年、極右や、人種・民族的動機に基づくテロ、白人至上主義者によるテロの脅威が各地で急速に拡大・深刻化してきています。2019年3月のニュージーランド・クライストチャーチにおけるテロ事件では、白人至上主義の過激思想に傾倒する実行犯により、銃撃の様子がSNSでライブ配信され、オンライン上で瞬時に拡散。同事件は、テロリストによるインターネット悪用問題の深刻さを国際社会に強く認識させる象徴的な事件となりました。
- 2020年は、新型コロナウイルス感染拡大がテロを取り巻く環境にも大きく影響を与えました。テロリストは、ガバナンスの脆弱化、貧困、人種・民族問題の顕在化による社会的分断など、パンデミックを受けた社会の新たな状況にも適応しつつ、アジアを含む各地域でテロ活動を継続しています。更には、世界的に、人々のITへの依存が非常に高まったことで、インターネット・SNSを使ったテロリストによる過激思想の拡散、また、テロ資金獲得などのテロにつながりうるサイバー空間での違法行為が増大。水際対策のみならず、穏健な社会の醸成といった息の長い取組を含む総合的な対策が死活的に重要となっています。
(2)テロ及び暴力的過激主義対策の重要性
- 国際社会におけるテロの脅威が持続する中で、我が国がこれまで、G7伊勢志摩テロ行動計画等に基づき実施してきた、ア 水際対策を始めとするテロ対処能力向上、イ テロの根本原因である暴力的過激主義対策、ウ 穏健な社会構築を下支えする社会経済開発のための取組については、今後の「ウィズコロナ」の世界においても、これを維持・強化していく必要があります。
- 特に、パンデミックを受けて、インターネット・SNSへのアクセスを通じて、若者が暴力行為に及ぶモチベーションを高める機会が一層拡大する中で、暴力的過激主義対策の重要性がこれまで以上に高まっています。
- 暴力的過激主義に感化される人を生まない社会環境作りは、一朝一夕に実現できるものではなく、我が国が重視してきた教育を通じた取組をはじめ、刑務所における脱過激化や社会再統合支援、地域コミュニティにおける過激思想への対応能力強化のための啓蒙・能力開発支援等を一層強化していく必要があります。
- また、コロナ禍で一旦途絶えた、国境を越えた人の移動が徐々に解禁されつつある今、国境管理や海上保安を始めとする水際対策の重要性も忘れてはなりません。
- 2021年には、我が国において東京オリンピック・パラリンピック競技大会が、テロ攻撃を受けることなく安全に開催されましたが、2025年の大阪万博を見据え、良好な治安の確保のため、テロの発生・未然防止やサイバー・セキュリティ対策等に万全を期すとの観点からも、アジアを中心とした各国における水際対策への支援により、テロの脅威拡散リスクを低減させることは、我が国及び国際社会にとって、引き続き重要な課題となっています。
2 テロ及び暴力的過激主義対策における我が国外交方針
- (1)我が国は、2015年初頭のシリアにおける邦人殺害テロ事件を受け、テロ対処能力向上支援を含む外交上の「3本柱」を打ち立てました。
- (2)2016年5月のG7伊勢志摩サミット首脳会合において、我が国は議長国として、「テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7行動計画(PDF)
」を取りまとめ、発表しました。
- (3)2016年9月のASEAN関連首脳会議では、我が国は、「テロに屈しない強靱なアジア」としていくための先導的役割を果たしていくとして、アジア地域に対する総合的なテロ対策強化策(PDF)
を発表しました。