国連平和維持活動(PKO)

国際連合要員及び関連要員の安全に関する条約

平成22年9月

1.背景

(1)冷戦終結後の国際連合の平和維持活動(PKO)の拡大及び多様化に伴い、これに従事する要員の死傷者数が1992年ころから急激に増加した(1948年の国際連合の平和維持活動創設以後1993年末までの間に1177名の要員が死亡したが、特に1993年の死者数は252名と上記死者総数の21.4%に及んだ。)。このような背景の下で、国際社会、特に国際連合の場においては、国際連合の平和維持活動及びこれに関連する活動に従事する要員の安全の確保が緊急の課題となった。

(2)日本も、1994年の第49回国際連合総会における河野外務大臣(当時)の演説において国際連合の平和維持活動に従事する要員の安全確保に十分配慮する必要性を訴えるなど、従来よりこの問題に積極的に取り組んできている。

(3)国際連合総会は、1993年12月にこれらの要員の安全の確保に関する条約を作成するための委員会を設けること等を決定した。この委員会においては、これらの要員に対する犯罪を行った者の処罰を確保するための法的枠組みを整備するため、既存の条約(人質行為防止条約及び国家代表等保護条約(日本はいずれも1987年に締結)等)をモデルとして検討が行われた。この結果、第49回国際連合総会において、1994年12月9日に、国際連合要員及び関連要員の安全に関する条約がコンセンサスにより採択された。

2.日本による締結

 日本は、この条約の締結に関する国会の承認(1995年4月27日衆議院本会議採決、同5月19日参議院本会議採決)を経て、1995年6月6日、国際連合本部において、この条約に署名するとともに、受諾書を国際連合事務総長に寄託して、デンマークに次いでこの条約の第2番目の締約国となった。

3.締結の意義

(1)この条約は、国際連合の平和維持活動等に従事する要員(国際連合要員及び関連要員)に対する殺人、誘拐の行為等を犯罪として定め、その犯人処罰のため締約国間における法的枠組みを整備することにより、犯人の処罰を確保するとともに犯罪を抑止し、もってこれらの要員の安全を図ろうとするものである。犯罪の処罰についてこのような国際的な法的枠組みを整備することは、既存のテロ防止関連条約においても行われているところであるが、これらの要員の安全の確保に関する初めての国際約束が作成されたことは、大きな意義を有している。また、この条約は、国際社会が有益なものとして重視している活動の円滑かつ安全な実施を図るためにこの活動に従事するものを保護するという考え方において、国家代表等保護条約と軌を一にするものである。

(2)さらに、この条約は、国際社会が国際連合の平和維持活動等の活動の重要性及びこれに従事する要員の安全に引き続き強い関心をもっていること、及び、これらの活動の効果的な実施のために今後とも協力を行っていく決意を有していることを示すものとしても重要な意味を有する。

(3)国際連合の平和維持活動等に積極的に取り組んできている日本がこの条約を早期に締結したことは、極めて有意義である。

4.主たる規定

 この条約は、前文及び本文29か条から成り、その主たる規定は次のとおり。

(1)この条約の適用上、

(イ)国際連合要員とは、国際連合活動の軍事、警察又は文民の部門の構成員として国際連合事務総長により任用され又は配置された者等をいう。

(ロ)関連要員とは、国際連合活動の任務の遂行を支援する活動を行う者であって、国際連合の権限のある機関の同意を得て、政府又は政府間機関によって配属されたもの、国際連合事務総長等との合意に基づいて、人道的な目的を有する非政府機関によって配置されたもの等をいう。

(ハ)国際連合活動とは、国際連合の権限のある機関によって設けられ、かつ、国際連合の権限及び管理の下で実施される活動であって、(i)国際の平和及び安全の維持若しくは回復を目的とするもの、又は(ii)この条約の適用のため、安全保障理事会若しくは国際連合総会が当該活動に従事する要員の安全に対して例外的な危険が存在する旨を宣言したものをいう。(第1条)

(2)締約国は、国際連合要員及び関連要員の安全を確保するための適当なすべての措置をとる。また、締約国は、適当と認める場合、特に受入国自身が必要な措置をとることができない場合には、国際連合及び他の締約国と協力する。(第7条)

(3)締約国は、自国の国内法により、一定の行為(例えば、国際連合要員及び関連要員を殺し又は誘拐すること)を犯罪とし、当該犯罪について適当な刑罰を科することができるようにする。(第9条)

(4)締約国は、この条約に定める犯罪が自国の領域内等で行われる場合又は容疑者が自国の国民である場合において当該犯罪について自国の裁判権を設定しなければならず、また、当該犯罪が自国の国民に関して行われる場合等において当該犯罪について自国の裁判権を設定することができる。更に、締約国は、容疑者が自国の領域内に所在し、かつ、裁判権を設定したいずれの締約国に対しても当該容疑者を引き渡さない場合において当該犯罪について自国の裁判権を設定する。(第10条)

(5)容疑者が領域内に所在する締約国は、状況により正当である場合には、訴追又は引渡しのために当該容疑者の所在を確実にするため、自国の国内法により適当な措置をとる。(第13条)

(6)容疑者が領域内に所在する締約国は、当該容疑者を引き渡さない場合には、自国の法令による手続を通じて訴追のため自国の権限のある当局に事件を付託する。(第14条)

(7)締約国は、この条約に定める犯罪を引渡犯罪とする。(第15条)

5.立法・財政措置

 この条約の実施のために、新たな立法措置及び財政措置を行わなかった。

6.締約国等(2010年9月17日現在、アルファベット順)

(1)署名国:43か国

 アルゼンチン、オーストラリア、バングラデシュ、ベラルーシ、ベルギー、ボリビア、ブラジル、カナダ、チェコ、デンマーク、フィジー、フィンランド、フランス、ドイツ、ハイチ、ホンジュラス、イタリア、日本、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、パキスタン、パナマ、フィリピン、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、サモア、セネガル、シエラレオネ、スロバキア、スペイン、スウェーデン、トーゴ、チュニジア、ウクライナ、英国、アメリカ合衆国、ウルグアイ

(2)締約国:89か国

 アルバニア、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、アゼルバイジャン、バングラデシュ、ベラルーシ、ベルギー、ボリビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ボツワナ、ブラジル、ブルネイ・ダルサラーム、ブルガリア、ブルキナファソ、カナダ、チリ、中国、コスタリカ、コートジボワール、クロアチア、キプロス、チェコ、北朝鮮、デンマーク、エクアドル、エストニア、フィジー、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、グアテマラ、ギニア、ガイアナ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、ジャマイカ、日本、ケニア、クウェート、ラオス、レバノン、レソト、リベリア、リビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルク、マラウイ、マリ、モナコ、モンゴル、モンテネグロ、ナウル、ネパール、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、パナマ、フィリピン、ポーランド、ポルトガル、韓国、ルーマニア、ロシア、サモア、サウジアラビア、セネガル、セルビア、シンガポール、スロバキア、スロベニア、スペイン、スリランカ、スウェーデン、スイス、マケドニア、トーゴ、チュニジア、トルコ、トルクメニスタン、ウクライナ、英国、ウルグアイ、ウズベキスタン

7.効力発生

 1999年1月15日

(参考)2005年12月8日、第60回国連総会において、「国際連合要員及び関連要員の安全に関する条約の選択議定書」(仮称)がコンセンサスにより採択された。
 この選択議定書は、「国際連合要員及び関連要員の安全に関する条約」に規定されている国連平和維持活動等に加えて、平和構築における人道・政治・開発援助や緊急人道支援を目的とする国連活動についても、同条約を適用することを内容とするものである。
 本選択議定書は、2010年8月19日、同年7月20日の英国の加入により締約国数が22か国に達したことに伴い、同議定書第6条1に基づき、発効した。日本は未締結。

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