外交政策
武器貿易条約(ATT)の採択(概要と評価)
平成25年4月3日
4月2日,国連総会の場で武器貿易条約(ATT)の条約案が圧倒的な多数の賛成により採択された。3月18日からニューヨークの国連本部において開催されていたATT最終国連会議は,会議最終日の28日,北朝鮮、イラン、シリアの反対により条約案をコンセンサスで採択できなかったが,我が国を含む多数の国の提案に基づき,国連総会において採択された。最終国連会議の議長は,ピーター・ウールコット大使(豪軍縮代表部大使)が務め,我が国代表団として,天野軍縮代表部大使(代表団長),北野外務省軍縮不拡散・科学部長,吉田軍備管理軍縮課長他が出席した。
1 今次交渉の概要
(1)昨年7月,通常兵器の輸出入等に関する高いレベルの国際的な共通基準を規定する国際約束の交渉を行うためにATT国連会議が開催されたが,各国の立場の隔たりが埋まらず,条約案の採択には至らなかった。今次会議は,我が国を含め英豪等7か国が提案した昨年の国連総会決議に基づき,同条約案に関する交渉を終結させるために開催された。
(2)会議では,3月18日に,一般討論が行われた後,昨年7月のATT国連会議で提示された条約案を基礎に,条約の要素である前文,目的,対象範囲(武器や行為),移譲基準,条約の実施や手続に関する規定について本会議で検討が行われた。議長は,その結果や議長による法的検討を踏まえて20日に条約の第一次案を提出し,その後,同案に基づき全体会議で検討が行われた。また,主要な懸案事項については,議長から指名された調整役による非公式協議が行われた。
(3)交渉では,ATTに盛り込まれるべき諸要素に対する各国の立場・見解の相違が大きく,合意形成のための作業は難航した。特に,条約の対象範囲に弾薬を含めるか否か,国際人道法違反に使用され得る移譲の禁止規定の強化、防衛協力協定とATTとの関係,転用(武器の横流し)防止等が主要な論点となった。
(4)22日には,議長が実質事項の修正を含む第二次条約案を提示し,同案をベースに交渉が佳境に入った。27日に議長から提示された最終条約案は,圧倒的多数の参加国が支持できる内容であったが,会議最終日の28日に採決にかけられた際,北朝鮮,イラン,シリアが反対を表明し、同条約案は採択されなかった(注:国連会議における実質事項の決定は,コンセンサスによることとされている。)。
(5)かかる事態を受けて,我が国を含む原共同提案国7か国に加え,米国,メキシコ,ノルウェー,ナイジェリア,ニュージーランドの12か国は、同条約案を採択するための決議案を国連総会に提出した。4月2日,国連総会において同決議案は,圧倒的な多数の賛成により可決し,同条約案は採択された(賛成154票(注:共同提案国は我が国を含む100か国以上),反対3票(北朝鮮,イラン, シリア),棄権23票(中, 露,インド, インドネシア, キューバ, エジプト等))。本条約は,本年6月3日に国連本部において署名のために開放される。
2 我が国の対応
(1)我が国は,実効的かつ幅広い国の参加が得られるATTの作成を目指し,今次最終国連会議でも,アジア地域選出の副議長国及び国連総会決議の原共同提案国として積極的に交渉に参加した。会議初日には,我が国を含む原共同提案国の外相名で共同プレスステートメントを発表し,強力で普遍的なATTの作成を強く訴えた。
我が国代表団は、主要な論点であった国際人道法違反に使用され得る武器の移譲の禁止規定に関する各国の立場を収れんさせるための条文案を提案し,交渉を促進させたほか,武器取引の透明性を向上させるために締約国が提出する報告書の公開についての条文案を他の国と共同で提案するなど,交渉を主導した。また、天野代表団長は,議長からの要請を受けて「仲介取引」の条文案の調整役を果たし,合意成立に向け貢献した。
(2)最終国連会議で条約案が不採択となった事態を受けて,我が国は、他の推進国と迅速に連携しつつ,最終条約案を国連総会に提出するプロセスを主導した。その後も各国に対する支持要請を国連及び本国においても精力的に行い,国連総会での圧倒的な多数の賛成による条約案の採択の実現に貢献した。
3 評価
(1)我が国は,今次最終国連会議において,交渉努力を積み重ねた結果,圧倒的多数の参加国が合意できる最終条約案が作成され,それが、国連総会において圧倒的多数の国の賛成により採択されたことを歓迎する。これは各国とともに7年間にわたりATT交渉を主導してきた我が国の外交努力の成果であると評価できる。ATTは,通常兵器の国際的な移譲についての可能な限り高い共通の国際的な基準の設定を通じて,国際・地域の平和及び安全や不正な武器取引の防止に多大な貢献をするものと考える。
(2)我が国としては,今回の成果を踏まえ,この分野での国際的な取組に引き続き主導的な役割を果たしていく考えである。
(参考1)武器貿易条約(ATT: Arms Trade Treaty)
1.通常兵器の輸出入及び移譲に関する国際的な共通基準の確立等を通じて,通常兵器の国際的な移譲の管理の強化を目指すもの。
2.2006年,我が国を含む原共同提案国7か国(日,英,アルゼンチン,豪,コスタリカ,フィンランド及びケニア)が共同で作成した決議案が圧倒的多数で採択され,同決議に基づき国連の枠組においてATTの議論が開始。2012年7月に約1か月のATT国連会議が開催され条約交渉が行われたが,条約案の採択には至らず,同年12月の国連総会決議により本年3月18日から28日までATTに係る最終国連会議を開催することが決定された。
(参考2)最終条約案の概要
条約の目的
国際・地域の平和及び安全に寄与するために通常兵器の国際的な移譲についての可能な限り高い共通の国際的な基準を設定すること等。
条約の対象範囲
条約は,規制対象となる武器として,戦車,装甲戦闘車両,大口径火砲システム,戦闘用航空機,攻撃ヘリコプター,軍用艦艇,ミサイル及びミサイル発射装置,小型武器を,また,規制行為として,輸出, 輸入, 仲介取引,通過・積替えを規定。ただし,締約国の使用のために締約国により行われる所有権の移転を伴わない通常兵器の国際的な移動は適用対象外。弾薬及び部品・構成品については、輸出規制の対象となる。
移譲基準
締約国は,移譲が平和及び安全に寄与するものか、害するものか、国際人道法・国際人権法の重大な違反やテロ関連条約上の違反行為に使用されるか否か等を評価し,否定的なリスクが重大なものである場合には,輸出を許可しない。
実施のための措置
締約国は,条約の実施のために移譲に係る規制リストを含む管理制度を整備する。各締約国は,規制リストや通常兵器の移譲に係る情報を条約事務局に報告する。条約実施支援のための事務局設置を定める。
発効要件
条約は,50か国の批准等により発効。