(1) 94年12月に就任したセディージョ大統領は、法と秩序の確立、政治改革・民主主義の推進を主張し、報道の自由の拡大、司法権強化、選挙の公正拡大、チアパス和平交渉の定着、政治改革合意等に関して着実な成果を上げつつある。
外交面では、北米自由貿易協定(NAFTA)締結に示されるとおり、米国との関係緊密化を重視した政策をとっている。外交関係の多角化の観点から、中南米・カリブ諸国との伝統的友好関係を維持するとともに、EU諸国との関係強化及び環太平洋諸国との協力関係の一層の強化の方向を打ち出しており、93年11月にはAPECにも加盟した。また、94年5月、中南米諸国としては初めてのOECD加盟を実現した。
(2) 経済面では80年代のメキシコは、82年の対外累積債務危機に始まり、85年の大地震、86年原油価格の下落等の影響を受け、貿易黒字の縮小、財政赤字の拡大、高インフレ率と経済状況は悪化の一途を辿っていたが、88年に発足したサリーナス政権下において、債務削減、民営化推進・外資導入規制の緩和等による経済の自由化が推進され、経済は安定を回復した。
しかし、同政権末期になり、チアパス事件、コロシオ大統領候補の暗殺等の政情不安及び巨額の貿易赤字等、メキシコ経済の信頼を損なう問題が顕在化した。セディージョ政権発足直後の94年12月、政情不安を懸念する海外投資家の資金逃避により株価が暴落する通貨危機(テキーラ・ショック)が発生した。その後の緊縮政策によって、95年は深刻なリセッション(95年のGDP成長率はマイナス6.9%)を余儀なくされたが、為替価値が半減したことにより貿易収支は95年5月から黒字に転化し、GDP成長率も96年第2四半期以降プラスに転じ、96、97年と5%超の高成長を記録した。一方、経済回復に伴い貿易収支の悪化が顕著となり、98年は3年ぶりに貿易赤字に転じた。
(参考1) 主要経済指標等
- | 90年 | 95年 | 96年 | 97年 | |
人口(千人) | 86,161 | 91,831 | 93,182 | 94,.49 | |
名目GNP |
総額(百万ドル) | 214,500 | 304,596 | 341,718 | 348,627 |
一人当たり(ドル) | 2,490 | 3,320 | 3,670 | 3,700 | |
経常収支(百万ドル) | -7,451 | -1,576 | -1,923 |
- |
|
財政収支(百万ニュー・メキシコ・ペソ) | -19,436 | -14,781 | -11,479 | -43,172 | |
消費者物価指数(90年=100) | 100 | 230 | 299 | 355 | |
DSR(%) | 20.7 | 27.8 | 35.4 | 32.4 | |
対外債務残高(百万ドル) | 104,431 | 166,780 | 157,848 | 149,690 | |
為替レート(年平均、1USドル=ニュー・メキシコ・ペソ) | 2.8126 | 6.4194 | 7.5994 | 7.9141 | |
分類(DAC/国連) | 高中所得国/- | ||||
面積(千㎞2) | 1,908.7 |
(参考2) 主要社会開発指標
- |
90年 | 最新年 | - | 90年 | 最新年 | |
出生時の平均余命 (年) |
70 | 72(97年) | 乳児死亡率 (1000人当たり人数) |
40 | 31(97年) | |
所得が1ドル/日以下の 人口割合(%) |
14.9(92年) |
5歳未満児死亡率 (1000人当たり人数) |
49 | 38(97年) | ||
下位20%の所得又は 消費割合(%) |
4.1(92年) | 3.6(95年) |
妊産婦死亡率 (10万人当たり人数) |
110(80-90年平均) | 110(90-97年平均) | |
成人非識字率(%) | 13 | 10(95年) |
避妊法普及率 (15-49歳女性/%) |
53(80-90年平均) | - | |
初等教育純就学率 (%) |
98 | 101(96年) |
安全な水を享受しうる 人口割合(%) |
71(88-90年平均) | 95(96年) | |
女子生徒比率 (%) |
初等教育 | 48 | 48(96年) | 森林面積(1000km2) | 486 | 554(95年) |
中等教育 | 48 | 48(96年) |
(3) メキシコは我が国と1888年に修好通商条約を締結し外交関係を開設しており、伝統的に友好関係にあり、文化交流も盛んで、日墨研修生・学生の交流計画に基づき、98年度末までに合計3,044名の研修生を相互に受入れている。要人の往来も盛んで、96年に橋本総理(当時)がメキシコを訪問し、97年及び98年にはセディージョ大統領が訪日した。
中南米地域には多くの日本人移住者が存在するが、組織的移住としてはメキシコ移住が最も古く、現在1万2,000人余りの日系人が在住するほか、在留邦人も約4,700名在住している。
我が国の98年対メキシコ貿易は、輸出で42.6億ドル、輸入で11.2億ドルであり、中南米地域ではブラジルに次ぎ第2位の貿易相手国となっている。また、51~98年度の日本の対メキシコ直接投資は累計5,967億円である。
(1) 我が国は、メキシコがブラジルと並び中南米地域において政治・経済上重要な役割を果たしていること、我が国と伝統的に友好な関係にあり、約1万6,000人余の日本人移住者・日系人が在住していること、我が国の対メキシコ投資が多いなど経済的に密接な関係にあることなどを考慮して、所得水準が比較的高いため技術協力を中心とした援助を実施している。96年2月には、技術協力政策協議を行い、セディージョ政権の方針を踏まえた協力の重点分野、実施上の問題点等についての政策対話を行い、環境分野、産業開発・地域振興に資する人造りを中心に協力を行っていくことを確認した。
(2) 技術協力では、行政、農業、工業、運輸・交通、人的資源などの分野を中心に、各種形態により幅広く協力を行っている。特に研修員受入れについては、日墨交流計画に基づき計画的受入れを進めてきている。また、中米・カリブ海諸国を主な対象国とした第三国研修を実施する等南南協力への支援を行っている。プロジェクト方式技術協力では、「モレロス州野菜生産技術改善計画」等を実施している。開発調査については、農業、環境等の分野で協力を実施している。
有償資金協力では、近年においては、「首都圏大気汚染対策計画」、「首都圏植林計画」等の環境分野等の案件に対して協力を実施してきており、96年8月の橋本総理(当時)のメキシコ訪問の際にも「首都圏下水道整備計画」に対し円借款を供与した。
無償資金協力に関しては、85年の地震災害に対する災害緊急援助、及び、88年度の地震多発地帯である中米・カリブ地域の地震防災対策を図ることを目的とした「地震防災センター設立計画」に対する協力を行った。また、ほぼ毎年文化無償を供与している。
(1)我が国のODA実績 |
(支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 贈与 | 政府貸付 | 合計 | |||
無償資金協力 | 技術協力 | 計 | 支出総額 | 支出純額 | ||
94 95 96 97 98 |
2.59(1) 0.52(0) 0.89(0) 1.51(4) 0.26(-) |
32.52(18) 41.44(14) 37.71(18) 35.68(86) 29.20(-) |
35.11(19) 41.96(15) 38.60(18) 37.19(90) 29.46(-) |
197.53 267.87 196.78 47.38 28.56 |
147.98(81) 246.33(85) 174.24(82) 4.19(10) -85.77(-) |
183.09(100) 288.29(100) 212.84(100) 41.38(100) -56.30(100) |
累計 | 30.76(3) | 411.68(34) | 442.44(37) | 1,052.30 | 767.49(63) | 1,209.94(100) |
(注)( )内は、ODA合計に占める各形態の割合(%)。
(2)DAC諸国・国際機関のODA実績
DAC諸国、ODA NET |
(支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | うち日本 | 合計 |
95 96 97 |
日本 288.3 日本 212.8 日本 41.4 |
フランス 27.1 米国 26.0 ドイツ 12.5 |
スペイン 15.1 ドイツ 12.4 フランス 10.3 |
ドイツ 13.8 フランス 6.5 米国 8.0 |
英国 4.4 英国 5.7 英国 5.5 |
288.3 212.8 41.4 |
365.1 274.3 88.7 |
国際機関、ODA NET |
(支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | その他 | 合計 |
95 96 97 |
CEC 8.4 CEC 8.5 UNHCR 8.8 |
WFP 7.1 UNHCR 6.7 UNDP 8.8 |
IFAD 6.5 UNICEF 4.6 CEC 7.4 |
UNDP 6.1 UNDP 3.3 UNICEF 4.3 |
UNHCR 4.9 UNFPA 1.7 UNFPA 1.8 |
-7.9 -10.0 -12.4 |
25.2 14.8 18.8 |
(3)年度別・形態別実績 |
(単位:億円) |
年度 | 有償資金協力 | 無償資金協力 | 技術協力 |
90年度 までの 累計 |
1,121.53億円 (内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照 |
35.98億円 (内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照 |
227.76億円 研修員受入 2,629人 |
91 |
なし |
0.94億円 カリージョ・ヒル美術館に対するビデオ機材 (0.47) |
23.39億円 研修員受入 166人 |
92 |
329.13億円 モンテレイ上下水道計画 (134.82) |
6.29億円 シュウダーデル・カルメン漁業調査研究センター整備計画(95) (5.40) |
28.06億円 研修員受入 180人 |
93 | なし |
0.87億円 デゴジャード劇場に対する音響・視聴覚機材 (0.38) |
26.08億円 研修員受入 194人 |
94 | なし |
0.97億円 ハリスコ・フィル交響楽団に対する楽器 (0.48) |
30.43億円 研修員受入 193人 |
95 |
なし |
0.25億円 カナルリテレビ局に対する教育文化テレビ番組 (0.25) |
34.20億円 研修員受入 204人 |
96 |
451.12億円 メキシコ首都圏下水道整備計画 (451.12) |
1.00億円 サン・イルデフォンソ美術館機材供与 (0.50) |
33.74億円 研修員受入 225人 |
97 |
241.27億円 グアダラハラ上下水道整備計画 (241.27) |
1.25億円 国立文化博物館視聴覚機材供与 (0.49) |
34.90億円 研修員受入 223人 |
98 |
なし |
0.77億円 草の根無償(4件) (0.28) |
37.26億円 研修員受入 241人 |
98年度 までの 累計 |
2,143.05億円 | 48.32億円 |
475.82億円 研修員受入 4,255人 |
(注)1.「年度」の区分は、有償資金協力は交換公文締結日、無償資金協力及び技術協力は予算年度による。(ただし、96年度以降の実績については、当年度に閣議決定を行い、翌年5月末日までにE/N署名を行ったもの。) 2.「金額」は、有償資金協力及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力はJICA経費実績ベースによる。 3.76年度から90年度までの有償資金協力及び無償資金協力実績の内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照 (http://www.mofa.go.jp/mofaj/b_v/odawp/index.htm) |
(参考1)98年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
案 件 名 | 協力期間 |
電気通信技術訓練センター 選鉱精錬技術育成(89) 家畜衛生センター(89)(86) 日墨技術教育センター(89)(92) 港湾水理センター(88) 人口活動促進(86) 未利用硫化鉱開発(89)(92) 砂漠地域農業開発研究 地震防災(95) 教育テレビ研修センター(95) 選鉱場操業管理技術 家族計画・母子保健 職業技術教育活性化センター 環境研究研修センター モレロス州野菜生産技術改善計画 石油精製安全研修センター 環境研究研修センター(II) ケレタロ州産業技術開発センター 農業機械検査・評価事業計画 |
67.7~75.7 79.12~84.12 81.6~87.5 82.4~87.3 84.7~88.6 84.7~88.9 86.2~90.2 90.3~97.2 90.4~97.3 91.4~96.3 92.4~96.8 92.4~98.3 94.9~99.8 95.7~97.6 96.3~01.2 96.12~01.11 97.7~00.6 98.2~02.1 99.3~04.2 |
(参考2)98年度実施開発調査案件
案 件 名 |
メキシコシティ廃棄物対策計画調査(第1年次) ソコヌスコ地域農牧業農村総合開発計画調査(第1年次) 要素技術移転計画調査(第2年次) 沿岸部水質環境モニタリング計画調査(第1年次) 沿岸部水質環境モニタリング計画事前調査(S/W協議) 沿岸部水質環境モニタリング計画事前調査(S/W協議) |
(参考3)98年度実施草の根無償資金協力案件
案 件 名 |
タパチュラ家族指導センター母子病院整備計画 トレオン市健康向上計画 薬物中毒患者等社会復帰施設整備計画 サン・マルティン・ブエナビスタ集落上水道整備計画 |