(1) | WIDからGADへ-国際的な潮流 1 1970年代入り、経済開発が、男性と女性に異なった影響をもたらしていること、そして特に女性に対してはむしろ負の影響を与えたことが指摘され、米国を中心とした開発に携わる女性専門家達により「開発における女性(WID:Women in Development)」アプローチが導入された。WID提唱者たちは、女性は家事や育児のみだけでなく、生産活動においても大きな役割を担っているにもかかわらず、女性の生産役割は過小評価され、結果、女性は開発プロジェクトから排除される結果を招いたとし、女性を単なる受益者として捉えるのではなく、人的資源としての女性を十分活用すべく開発過程に統合(integration)すべきであると主張した。WIDアプローチは、1975年の「国際女性年」およびそれに続く1976年から始まった「国連女性の10年-平等・開発・平和」と相まって、女性への配慮の必要性が急速にクローズアップされる結果を生んだ2。女性を対象とした開発プロジェクトが実施され、女性省や女性部局が設置された。 WIDアプローチは、それまで開発過程において省みられることのなかった女性の存在を浮き彫りにしたという点で意義深いものである。しかし、1970年代後半までに、次第にWIDアプローチの限界が指摘されるようになった。WIDアプローチでは、女性の地位の低さを女性の資金等のリソースや教育へのアクセスが限られていることに求め、女性をターゲットとした小規模金融や所得向上、女子教育等の開発プロジェクトが実施された。しかし、そうしたプロジェクトは小規模で予算も少なく、開発計画全体から見ると主流とはなっていなかった。また、なぜ女性のアクセスが限られているのかという構造的問題に目を向けることなく、これまでの開発に統合(integration)するにとどまったため、期待されたほど女性の所得向上をもたらすこともなく、プロジェクトの多くは期待された成果をあげられなかった。他方、WIDの潮流の中で女性問題を扱う女性省や女性部局が設置されたが、その多くは十分な予算・人材があてがわれなかったことから、政府の主流の政策や意思決定に関われず、女性のニーズに十分応えることはできなかった。 こうした中で、1980年代より「ジェンダーと開発(GAD:Gender and Development)」アプローチが導入されるようになった。ジェンダー(gender)とは、社会的・文化的に作られた性差を指す。生物学的な男女(sex)の差異が時代や文化に左右されないのに対し、ジェンダーとしての男女の差異は社会的な関係を通じて作られ、歴史や経済、文化等によって変化する。WIDアプローチが女性のみを問題視したのに対し、GADアプローチは、女性がアクセスにおいて不利を被っているのはジェンダーに基づく社会的な男女の役割意識や意思決定などの力関係によるとし、男女の社会的役割や相互関係に目を向けた。また、WIDアプローチが既存の開発を疑問視することなく女性を統合したのに対し、GADアプローチでは社会構造や制度を見直す必要性を指摘した。家庭や社会で共有されている男女の役割に関する認識、例えば女性が生まれながらにして育児や家事をする役割を担っているといった考えが暗に政策にも反映されることで、一見男女に中立に見える政策であっても、男女に違った影響を及ぼし得ることが明らかになった。家庭、社会、国家におけるジェンダーが、男女不平等を再生産し、強固にしていることが指摘されるようになり、ジェンダー格差を生み出す社会構造や制度の変革が求められるようになった。また、WIDでは女性を均一な集団と捉えたのに対し、GADは女性をひとくくりにすることの限界を指摘し、ジェンダーは階級やエスニシティといった社会分析の一つとなっている。 WIDとGADは、上述の通り理論的には明確に区別されているが、各ドナーの実際の取り組みにおいてはこれらの概念はさほど明確に区別されてはいないため、取り組みの類型においては留意が必要である。 |
(2) | 国際会議におけるジェンダー平等への歩み 1979年、女性に対する差別を国際的に定義した初めての法的文書「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(以下、女子差別撤廃条約)」が国連総会で採択された3。第2条には、批准国の女子に対するあらゆる形態の差別を撤廃する政策をすべての適当な手段により、遅滞なく追求することへの合意が記載されており、同条約の理念の核心をなす条項とされている。批准国は、条約内容の実施状況についての報告を定められた時期に提出することが義務づけられており、女子差別撤廃委員会により審査された報告書に対する勧告をもとに、国内状況のさらなる改善のための取り組みを行うことになっている。この条約により、ジェンダー平等・女性問題を総合的に扱う「ナショナル・マシーナリー(女性の地位向上のための国内本部機構)」4の設立・整備が世界各国で行われるなどの進歩が見られた。 国際社会で、ジェンダー主流化へのパラダイムシフトが起きたといえるのは、1995年の北京会議からである。1985年の国連第z回世界女性会議(ナイロビ会議)で初めて国際舞台の資料に登場した「ジェンダー統合」コンセプトは、開発の中の女性の役割を拡大し、女性の価値観からみて重要なものを開発の中に織り込むための手段としてとらえられていた。ナイロビ会議は、あらゆる問題が女性問題であることを宣言した点と、不平等の是正のために取るべき具体的措置を提示した将来戦略を採択した点で画期的だった5。 1995年の北京会議で採択された行動綱領(以下、北京行動綱領)では、「全ての政策、プログラム、プロジェクトの意思決定を含む全ての過程・段階でジェンダーの観点を組み込み使用する」、すなわちジェンダー主流化が明記された。北京行動綱領は各国政府、非政府機関、民間部門を含む国際社会と市民社会に対し、主流化に対する積極的で明確な方針をとることを促している。さらに「我々(政府)のあらゆる政策と計画にジェンダーの視点が反映されるよう保障する6」など各所で、女性のエンパワーメントと地位向上につながるあらゆる方策をあらゆるレベルで採ることが明示されている。 また、法律、公共政策、計画、プロジェクトへのジェンダーの視点の統合に際し、取るべき行動として、「政策決定がなされる前に、それらが女性、男性それぞれに及ぼす影響が分析されるよう努めること7」として、ジェンダー別統計と分析の実施を促している8。国際社会において開発や人権を考えるにあたって、ジェンダーの平等は女性だけの問題ではなく、男女双方の問題であるという観点が不可欠だと、北京会議は認識させた。会議後、多くの国がジェンダー主流化に取り組みはじめ、それを実行に移すための国家計画の制定・変更が行われ、プロジェクトやプログラムにもジェンダーの観点が組み込まれるようになった。 先進国ドナーの集まりである経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC9)は、1983年にWID指導原則を採択、1989年にはナイロビ会議の将来戦略の優先課題を盛り込んだ改訂版を採択し、ジェンダーに関する国際的な潮流を反映させるとともに、加盟国の活動におけるジェンダーの重要度を上げる役割を果たした。さらに、ジェンダー主流化の国際的な流れを受けて2つの政策宣言を発表、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの実現に向けて加盟国が協調して取り組んでいく姿勢を表明した10。1998年、DACのWID専門家会合はジェンダー平等作業部会(Working Party on Gender Equality)と名称を変更し、DACや北京会議によって合意された目標の達成のための指針を打ち出すのに大きな役割を果たしてきた11。1998年には、北京会議で示されたコミットメント12(誓約)の実現と、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを促進する政策やプログラムの策定のために、DAC新ガイドライン「ジェンダー平等/女性のエンパワーメント指針」を発表した13。 WID指導原則で提案されたWIDマーカーはジェンダー平等マーカーに改良された。WIDマーカーでは女性を主対象としたプログラムの実施が重視されていたが、ジェンダー平等マーカーはそれより広義で、プログラム等の目標としてジェンダー平等を掲げ、女性のエンパワーメントにつながるWID的な活動はその中に含むという形になっている14。ジェンダー平等マーカーは、各国の取り組みのモニタリングやDACへの報告に使われると同時に、加盟国のジェンダー平等への取り組みの足並みを揃えるという効果もある15。主要先進国はこのようなDACの政策・新ガイドラインや前述の北京会議の内容を受けて、ジェンダー主流化の理念を政策やプログラムに反映するよう努めており、主流化は現在では国際的な開発アプローチとなっている。 |
(1) | カナダ
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(2) | スウェーデン
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(3) | アメリカ合衆国
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(4) | ドイツ
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(5) | スペイン
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(6) | UNDPのジェンダー政策 UNDPは「持続可能な人間開発」を開発の基本原理に掲げ、民主的ガバナンス、貧困削減、危機予防と復興、エネルギーと環境、情報通信技術、HIV/エイズの6分野に活動の重点を置いている。 UNDPはこれら6つの分野に、人権の尊重と女性のエンパワーメントを通して取り組んでいくとし84、ジェンダー平等のために特別な分野を設定するのではなく、ジェンダー主流化を通じて組織目標の達成に取り組む方針をとっている。UNDPは、上記6つの重点分野への取り組みにより女性が利益を得られるようにその責任を果たしていく、と明言している85。 UNDPは、UNIFEMにより開発され試行されたジェンダー平等のための措置の内容を充実させ、国際的ネットワークと国連でのコーディネーター的役割を通じてそれを世界に広めていくという責任も負っている86。また、UNIFEMと協力して、途上国におけるジェンダー予算87の作成を支援している。UNDPはジェンダー平等に関する取り組みとして、1)ジェンダーの視点を上記6つの重点分野に取り込むための国ごと・UNDP双方のキャパシティビルディング、2)貧困層、女性のためになる政策アドバイスの提供、3)UNIFEMと協力したジェンダー平等に特化した支援、という3種類のアプローチを採用している88。 1987年にUNDP内に設立された「開発におけるジェンダープログラム」(Gender in Development Programme-以下GIDP)は、UNDPのジェンダー平等政策の実施や活動を支え、女性のエンパワーメントを促進する役割を担う89。GIDPはジェンダーに関する政策やプログラムにおける指導的役割を果たすほか、ジェンダーがUNDPの取り組みの中に十分に取り込まれるようにプロジェクト評価に積極的にかかわり、北京行動綱領と女子差別撤廃条約90で確約された事項の実現に向けた国レベルの取り組みを支援している91。GIDPは、コストシェアリングやトラストファンドなどの、ジェンダー平等のための支援の資金獲得と運用にも関わっている92。 UNDPは現在までに、ジェンダー主流化の指針となる4文書を発行している。1つ目は1996年に総裁から在外事務所代表者に向けられた「Direct Line 11」で、主流化を実施するにあたっての組織の優先事項、資金配分の目安などを指導するものである。2つ目は1997年に発行された「ジェンダー主流化のためのガイダンスノート」で、UNDPの活動におけるジェンダーの重要性を再確認し、その実現のために管理職(本部、各国)が中心となって取り組みを進めていくことを確約したものである。3つ目は1998年の「マネージメントにおけるジェンダーバランス」であり、UNDP内のジェンダー平等達成のための戦略についての政策文書である93。4つ目は2002年11月に発表された「ジェンダー平等における政策ノート」で、1)6つの優先分野の中へのジェンダーの組み込み、2)ミレニアム開発目標の実行および達成状況の評価、3)在外コーディネーターによるジェンダー支援の拡充、4)人間開発報告書、国別、地域別人間開発報告書などの効果的な提言ツールの利用、という4つの方法により、ジェンダー平等の実現に向け努力するとしている94。 | ||||
(7) | UNICEFのジェンダー政策 UNICEFは、子どもの権利の保護と基本的ニーズの充足、そして潜在的能力を十分に引き出すための機会の拡大の支援を進めている95。UNICEFは「児童の権利に関する条約96」を規範としており、子どもの権利が恒久的な倫理原則、国際的な行動基盤として確立されるように活動している97。 児童の差別に関する条約に加え、女子差別撤廃条約は、UNICEFの任務と使命に不可欠な枠組みとなっている98。UNICEFは1985年に初めて女性と女児のための政策を確定した国連の機関の1つであり、1987年にはその実施のための戦略文書を策定した99。戦略文書では女性のニーズや課題を重視し、それらがUNICEFのプログラムの中で具体的な対象として扱われるべきと提言している。このアプローチでは、UNICEFが通常の国別のプログラム戦略の枠内で、女性の正当な権利として、また、子供の生存と発育への鍵として、女性の社会的・経済的エンパワーメントを促進するとしている100。 1994年、UNICEFは「ジェンダー平等と女性・女児のエンパワーメント政策」を発表し、女児・女性のみを対象とする政策にジェンダーの視点を取り入れ、男女の不平等な役割分担や地位を規定する構造的な原因を分析し、男女の不平等を克服することが女性の地位向上には必要であると述べた101。加えて、ジェンダー主流化を進めるにあたって、UNICEFの国別のプログラムを通して当該国の国家開発計画にジェンダーが横断的課題として組み込まれるよう支援していくことなどが盛り込まれた102。1996年には北京行動綱領を反映し、UNICEF理事会により、1)女子教育、2)女性と女児の健康、3)子供と女性の権利、の3つの優先分野が決定された。さらに組織使命として女性と女児の権利の充足を明示するなど、UNICEFはジェンダー平等のための取り組みを強化している。 | ||||
(8) | UNIFEMのジェンダー政策 UNIFEMは、女性の人権の充足に寄与するプログラムや取り組みに対して、資金と技術面で支援を行っている103。UNIFEMは1975年の第1回国連女性会議(メキシコ会議)に出席していた女性団体の要望によって1976年に設立され、現在では100以上の国で活動を行っている。14の地域にプログラム責任者を置き、世界中にジェンダーアドバイザーや専門家のネットワークを持っている104。 UNIFEMは国連システムの中で、各国との協調関係の促進を通してジェンダー主流化と女性のエンパワーメントのための戦略に対する技術的支援を行うことにより、女性にとっての課題を国家的・地域的・世界的課題と結びつける役割を担っている105。UNIFEMの目標は
UNIFEMは3つの緊急課題として、1)女性の経済的権利を支援し、女性が安定した生活を送れるようにエンパワーメントを図る、2)女性が人生に関する意思決定へさらに参加できるよう、より良いガバナンスと平和の構築に取り組む、3)開発をさらに公平で持続的なものにするために、女性の人権の充足の推進と女性に対する全ての種類の暴力を撲滅すること、を挙げている107。UNIFEMの活動の指針となる5つの中心戦略は以下の通りである。
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(9) | IDBのジェンダー政策 IDBは1987年にWID政策を作成、1991年にWID活動計画(WID action plan)を策定、1994年にはWIDプログラムユニット(Women in Development Program Unit)を設立するなどして、WIDに関する取り組みを進めてきた108。IDBでは、開発は男性と女性の双方を対象にしたプロセスでなくてはならないという認識のもとに、受益者としての女性に配慮した政策やプロジェクトをさらに拡充するためにWID実施政策が策定されている109。この政策の目標は、社会・経済開発を推進するという組織目標の範疇で、貸し付けや技術協力プログラムを通して、メンバー国が開発の全てのプロセスに女性を統合すること、そして女性の社会経済状況を改善することを支援することにある110。具体的には以下の実現を目指したイニシアティブを支援するとしている111:
IDBのWIDユニットの使命は、IDBプログラムを通じて女性の開発への貢献を促進し、その恩恵の平等な配分を確保することにある114。WIDプログラムユニットは本部とフィールドのIDBスタッフ、および貸与側機関の職員に、プロジェクトに女性を取り込むことの重要性と利点を啓蒙する役割を果たしてきた115。また、WIDプログラムユニットは女性がリーダーシップを発揮できるように能力を伸ばす助けとなるべく、公的および市民生活への参加を促す取り組みを行い、家族や子供の利益となるようなプログラムや、貧困と社会的公正(保健と教育を含む)に関するプログラムを積極的に実施しているほか、家庭内暴力など、従来扱われてこなかったような課題も扱っている116。 WIDプログラムユニットはジェンダー主流化の他に、1)貧困、2)女性のリーダーシップ、3)家庭内暴力、4)リプロダクティブヘルス、5)ガバナンスと法整備、という5つの中心課題を挙げている117。WIDプログラムユニットは、ジェンダー専門家を各地域担当部署に置き、女性支援のための資金を増やすなどの努力を行っているが、プロジェクトデザインや実施、国ごとのプログラムなどに対するジェンダー配慮については十分とはいえず、IDB自身のWID政策・実施の評価によると、プロジェクトの準備段階でのWID専門家の参加が不十分、ジェンダー分析のための実用的な基準や手法の不足、中間管理職やプロジェクト実施者のインセンティブや実施義務の欠如がある、とされている118。今後は、IDBのプログラムやプロジェクトの全ての段階でジェンダーが扱われるように中間管理職やスタッフの責任の所在とインセンティブを明確にし、特にプロジェクトの初期段階からジェンダーが組み込まれるようにすること、ジェンダー別データの測定を徹底させること、各国の計画策定にあたって相手国のジェンダー問題担当機関・組織の代表者、IDBのWIDプログラムユニットの代表者との間で協議することなどを課題としている119。 | ||||
(10) |
PAHOのジェンダー政策
PAHOは、各国政府や保健担当省、国際機関、NGO、大学、社会保障機関、コミュニティグループなどと協力しながら、国家的・地域的保健システムを拡充することにより、アメリカ大陸に住む人々の健康に寄与することを使命としている120。PAHOは、保健サービスが全ての人に行き渡り、限られた資源をより効果的に使用するために、コミュニティに届くプライマリーヘルスケアを推進している。その中でも、特に母と子供、労働者、貧困層、高齢者、難民などの社会的弱者をターゲットにしている。 PAHOの女性、保健と開発プログラム(Women, Health and Development Program―以下HDW)はジェンダーの観点を組み込んだ平等で持続的な開発の促進のために、メンバー国に技術協力を行っており121、そのためには女性と男性の間の責任と権力の再配分が必要である、としている。こうした枠組みの中で、HDWは以下の事項における男女間の不平等を特定し、不平等を減らすことを目指している。
|
(1) | 日本政府 1992年に閣議決定されたODA大綱において「開発における女性の積極的な参加と開発によって女性が便益を得ることについて配慮する」ことが明記された。1995年、わが国は、北京会議の首席代表演説において、WIDイニシアティブを発表し、女性の「教育」、「健康」、「経済・社会活動への参加」の3分野を中心に、開発援助の拡充に努力することを表明した。1999年に発表したODA中期政策では、重点課題のひとつである貧困対策や社会開発分野の支援を掲げ、その中でWID/ジェンダーを重視するとしている。 このような政策レベルでの整備だけでなく、案件レベルでのWID/ジェンダー分野の取り組みも進められてきた。2000年度の当該分野の実績123は、新規研修員受け入れ922名、個別専門家派遣46名、プロジェクト方式技術協力48件、開発福祉支援事業29件、開発調査87件、青年海外協力隊派遣521名、一般無償資金協力28件、草の根無償資金協力399件、有償資金協力6件、NGO事業補助金14件である。こうした二国間協力における取り組みに加え、UNDPや国際農業開発機関(International Fund for Agricultural Development―以下IFAD)内に設置したWID基金等、国際機関への拠出を通じた支援も行っている。日本WID基金(Japan Women in Development Fund: JWIDF)は、1995年、持続可能な人間開発と貧困削減のために、さまざまなプロジェクトを通じて、発展途上国の女性の経済的、社会的、政治的な地位を向上させ能力を高めることを目的として、日本政府によってUNDP内に設立された。基金設立以来、40件以上のプロジェクトが同基金による支援を受けている。「WIDイニシアティブ」の重点分野である、教育、健康、経済・社会活動への参加、また、UNDPの重点分野である女性の政治参加、インフォメーションテクノロジー(IT)へのアクセス、紛争後の復興における女性の参加などに関する支援によって、女性の地位向上とジェンダー平等を推進している。UNDPと日本のパートナーシップは、日本WID基金を通じた資金面での協力だけではなく、現場レベルでもうまく生かされており、例えば、グアテマラにおけるジェンダーの平等化と女性の地位向上を実現するための「女子教育支援プログラム」を通して日本とUNDPは教育省を支援している。 ODAの企画・立案を担う外務省では、1989年に経済協力局内各課にWID担当官を指名、在外公館においては、1992年に18公館にWID担当官を指名、1994年には、追加指名し、計84公館に拡大し、WID/ジェンダー分野への取り組みを強化するための組織体制の整備を進めてきた。 |
(2) | JICA JICAのWID分野への取り組みは、1990年に「分野別(開発と女性)援助研究会」の発足に始まる。同研究の提言に基づき1991年に環境・WID等事業推進室が設置され、1993年には同室が環境・女性課に改編され、「WID配慮の手引書」が編纂された。これらはすべてWIDイニシアティブが発表される前にとられた措置であり、JICAは1995年以前からWID分野に取り組んでいる。 |
(3) | JBIC JBIC(当時はOECF)では1987年にWID担当官を配置し、1993年には「WID配慮のためのOECF指針」124を編纂するなど、WIDイニシアティブの発表に先立ってWID分野の取り組みを行った。 |
1 スウェーデン統計局(1998年)『女性と男性の統計論-変革の道具としてのジェンダー統計』、東京、梓出版社、pp.13-15、西川 潤編(1997年)『社会開発』、東京、有斐閣、Razavi 1995 From WID to GAD-Occasional Paper1 United Nations Research Institute for Social Development UNRISD、Moser, Caroline 1993 Gender Planning and Development Routledge, Reeves, Hazel and Baden、Sally 2000 Gender and Development: Concepts and Definitions, Prepared for the Department for International Development (DFID) for its gender mainstreaming intranet resource, BRIDGE development -gender Report No. 55, Brighton, Institute of Development Studies University of Sussex.
2 Razavi, Shahra 'Becoming Multilingual: the Challenges of Feminist Policy Advocacy.
3 ブトロス・ブトロス=ガリ 国際連合と女性の地位向上1945-1996 日本語版 1995 国際連合広報センター
4 「国連婦人の十年」の成果として策定された行動計画に基づき、その実施のために各国で発足した国内組織のこと。
5 国際連合広報センター 2000「女性2000年会議」に関する広報資料; p27
6 北京宣言 第38項 http://www.gender.go.jp/ (内閣府男女共同参画局 訳)
7 行動綱領 第四章 戦略目標および行動 第204項(a)http://www.gender.go.jp/
8 OECD 1998 DAC Sourcebook on Concepts and Approaches Linked to Gender Equality ; p27
9 Development Assistance Committee 1960年発足、現在加盟国22カ国+欧州委員会
10 OECD 1995 Gender Equality: Moving Towards Sustainable , People-Centred Development , Development Partnerships in the New Global Context OECD 1996 Shaping the 21st Century: The Contribution of Development Co-operation http://www1.oecd.org/dac/htm/pubs/p-gender.htm
11 OECD 1998 DAC Guidelines for Gender Equality and Women's Empowerment in Development Co-operation
12 WID専門家会合は、北京会議の準備セミナーにも参加、会議の決定事項に重要な影響を与えたとともに、その準備でも大きな役割を果たした。
13 行動綱領 第四章 戦略目標および行動 第204項(a)http://www.gender.go.jp/
14 OECD 1997 DCD/DAC/STAT(97)1 Reporting on the Policy Objectives of Aid; p7
15 OECD 1997 DCD/DAC/STAT(97)1 Reporting on the Policy Objectives of Aid, OECD Progress Towards Gender Equality in the Perspective of Beijing +5
16 ジェンダーエンパワーメント指数:経済・政治的活動およびその意思決定に女性が男性と比べてどのくらい参加する機会があるかを表す指標 参考:UNDP人間開発報告書1999年; p174
17
Department of Justice Canadian Charter of Rights and Freedoms http://laws.justice.gc.ca/en/charter/#garantie Part 1- no.15
Status of Women Canada 1995 Setting the Stage for the Next Century: The Federal Plan for Gender Equality Section 15,28 of the Canadian Charter of Rights and Freedoms
http://www.swc-cfc.gc.ca/pubs/066261951X/199508_066261951X_e.pdf
18 同上
19 同上
20 同上
21
男女共同参画影響調査研究会海外調査報告書 http://www.gender.go.jp/research/eikyo-kenkyu/eikyou-houkoku-kaigai/iii.pdf (PDF)
22 http://www.swc-cfc.gc.ca/direct.html
23 Canada, Department of Foreign Affairs and International Trade Canada in the World 'International Assistance' http://www.dfait-maeci.gc.ca/foreign_policy/cnd-world/chap6-en.asp
24 同上
25 http://www.acdi-cida.gc.ca/cida_ind.nsf/9c9c207b0db5a8c68525651c005db5a5/6f0d1a1411469628852567290066 0de5?OpenDocument
26 同上
27
1976、1984、1991、1995、1999年とCIDAのジェンダー平等に関する政策は改訂されている。1984年のWID政策では、既にWID統合アプローチを採用し、ハーバードモデルによる分析(後にジェンダー分析と改称)をプログラムに横断的に取り入れる戦略やチェックリストが起草され、5ヵ年行動計画も立てられた。CIDA 'Virtual Consultation on Draft Gender Policy Succeeds' 1998
http://www.acdi-cida.gc.ca/cida_ind.nsf/190b93d3dd8b654a8525677e0073a278/d8014a36a19aa80e8525693900101410?OpenDocument
'Gender Mainstreaming: Reflections on Experience in CIDA'
http://www.acdi-cida.gc.ca/cida_ind.nsf/vLUallDocByIDEn/8700C460E686FBE98525693B00831F31?OpenDocument
28
CIDA 1999 CIDA's Policy on Gender Equality
http://www.acdi-cida.gc.ca/cida_ind.nsf/9c9c207b0db5a8c68525651c005db5a5/6f0d1a14114696288525672900660de5/$FILE/ATTOEVTK/GENDER-E.pdf
29 公正(equity)は、機会の均等を指し、平等(equality)を実現するための手段である。同上; p2
30 同上 ; p2 , p7
31 CIDA 1) 1998 'Virtual Consultation on Draft Gender Policy Succeeds' 2) 1999 'Key Facts about the Policy on Gender Equality' http://www.acdi-cida.gc.ca/cida_ind.nsf/vLUallDocByIDEn/D81F9E1196A3846B8525672B007DBA79?OpenDocument
32 同上
33 総理府 男女共同参画影響調査研究会(第4 回)議事要旨 http://www.gender.go.jp/research/eikyo-kenkyu/eikyou/4.html
34 同上
35 同上
36
Ministry of Industry, Employment and Communications Sweden 2001Gender Mainstreaming in Sweden
http://naring.regeringen.se/pressinfo/faktablad/PDF/n2001_031e.pdf
37 同上 ; p1
38 政府の取り決めや条例などを決める前にその内容の提言をするために活動する委員会
39 同上 ; p2
40
Equality between Women and Men in Sweden
http://www.naring.regeringen.se/inenglish/areas_of/equality.htm
41
Sida Action Programme for Promoting Equality Between Women and Men Part1 Policy; PREFACE
http://www.sida.se/Sida/articles/7500-7599/7515/policy.pdf
42 同上 ; p7
43 同上 ; p1
44 同上
45
Sida Action Plan for Promoting Equality Between Women and Men Part3 Plan;p1
http://www.sida.se/Sida/jsp/Crosslink.jsp?d=656&a=7515
46 同上 ; p1
47
Sida Action Programme for Promoting Equality between Women and Men, Gender Equality
http://www.sida.se/Sida/jsp/Crosslink.jsp?d=656
48 Sida Action Plan for Promoting Equality Between Women and Men Part3 Plan
49 U.S.Department of Labor http://www.dol.gov/dol/wb
50
U.S. Secretary of State 'The President's Interagency Council on Women'
http://www.secretary.state.gov/www/picw/index.html
51 U.S. response to UN questionnaire on the Implementation of the Beijing Platform for Action http://secretary.state.gov/www/picw/beijing/questionnaire.html
52
「女性の組織間委員会」はブッシュ政権への交代に際し廃止された。
http://www.womensedge.org/notesfromtheedge/february2001.htm 参照
53
OECD 2002 'United States Development Co-operation Review: Main Findings and Recommendations'
http://www.oecd.org/EN/document/0,,EN-document-67-2-no-3-36138-67,00.html
54 同上
55 USAID Strategic Plan 1997 (revised 2000) http://www.dec.org/pdf_docs/pdabs960.pdf
56 USAID Gender Reach; The Office of Women in Development http://www.genderreach.com/
57 同上
58
USAID 1999 'Addressing Gender Concerns: The Success of the USAID Gender Plan of Action and USAID Country Programs'
http://www.dec.org/pdf_docs/PNACG586.pdf
59 UNDPの2002年人間開発報告書におけるジェンダーエンパワーメント測定で世界第8位である。
60 Bundesministerium fur Familie, Senioren, Frauen und Jugend (Federal Ministry for Family Affairs, Senior Citizens, Women and Youth)
61
1976年からECが職場における非差別や女性保護の法律に関する指示書を次々と発行したので、ドイツもそれに合わせる必要があった。McPhedran et al. 2000 The First CEDAW Impact Study -Country Papers: Germany The Centre for Feminist Research & The International Women's Rights Project
http://www.yorku.ca/iwrp/CEDAW%20Report/germany.pdf
; p2
62
McPhedran et al. 2000 The First CEDAW Impact Study The Centre for Feminist Research & The International Women's Rights Project downloadable from:
http://www.yorku.ca/iwrp/CEDAW%20Impact%20Study.htm; p19
63 同上
64
European Database 'Gender Mainstreaming Strategies in Germany'
http://www.db-decision.de/GenderMainstreaming/germany.html
65 European
Database 'Report from Germany by Our Transnational Partner'
http://www.db-decision.de/CoRe/Germany.htm
66 同上
67
BMZが援助計画の企画・立案を掌所。予算は原則としてBMZに計上。個々の案件の決定にあたっては、外交政策の面から外務省、予算面から大蔵省、その他必要に応じ他の省庁と協議する。実際のプロジェクト実施は、資金協力は復興金融公庫(KFW)、技術協力は技術協力公社(GTZ)が行っている。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/00_hakusho/siryou/siryou_13.html
68 GTZ 2001 Gender at the GTZ: Corporate Strategy 2001-2005 ; p5
69 GTZ 2000 Gender and Project Management; Summary
70 GTZ 2000 Gender and Project Management
71
GTZ Gender Sourcebook
http://www.wiram.de/gendersbook/navigation.htm;European Experiences: Germany
72 例えば「Xという期間をかけて家庭内でY%の収入増加がみられた(る)」とすると、誰がこの収入増加により得をするのか、家族の中で誰の仕事量(負担)が増えるのか(例えば収穫高を上げる方法導入や輸出作物の価格によるインセンティブにより)、などについては見えてこない。GTZ 2000 Gender and Project Management: A Contribution to the Quality Management of GTZ
73
GTZ 'Gender Sourcebook'
http://www.wiram.de/gendersbook/navigation.htm
74 同上
75 1990年からBMZとGTZで、プロジェクトへの女性の関与度とプロジェクトの女性へのインパクトを示すため、WIDの考えに基づいた「F指標」が使われ始めたが、DACのWIDマーカーがジェンダー平等マーカーに変わったことを受け、2000年に「G指標」に変更された。
76
MOFA 'Millennium Development Goals'
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html
ミレニアム宣言は、平和と安全、開発と貧困、環境、人権とグッド・ガバナンス(良い統治)、アフリカの特別なニーズなどを課題として掲げ、21世紀の国連の役割に関する明確な方向性を提示したものであり、1990年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、1つの共通の枠組みとしてまとめられたものがミレニアム開発目標である。
77
OECD 2001 New Directions in German Development Co-operation
http://www.oecd.org/EN/document/0,,EN-document-0-nodirectorate-no-12-21831-0,00.html
78 BMZ 2002 http://www.bmz.de/en/media/materials/action2015/action2015_07.html#Gender
79 European Database 'Report from Spain by Our Transnational Partner' http://www.db-decision.de/CoRe/Spain.htm
80 同上
81 同上
82 AECI Ley 23/1998 , de 7 julio, de Cooperacion Internacional para el Desarrollo Articulo 2, 7 http://www.aeci.es/Default.htm
83 同上
84
UNDP 'About UNDP'
http://www.undp.org/about_undp/index.html
85 UNDP 2002 'Gender Equality: Policy Note'; p7
86 同上
87
政府予算を組む際に、異なる社会階層における女性と男性に与える影響の差異を分析し、女性の地位向上につながるようにその編成を検討すること。OECD 'Economics and Finance b)gender budgeting'
http://www.oecd.org/pdf/M00034000/M00034256.pdf 参照
88 UNDP 2002; p8
89
UNDP 'About GIDP'
http://www.undp.org/gender/about/
90 Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Women 国連女子差別撤廃条約 1979年採択 2-1参照
91 同上
92 同上
93
UNDP 'Gender Policy'
http://www.undp.org/gender/policies/
94 UNDP 2002 Gender Equality Policy Note; p9
95 UNICEF 'Our
Mission' http://www.unicef.org/mission.htm
http://www.unicef.or.jp/uni/mis.htm
96 1989年国連総会で採択Convention on the Rights of the Child 児童の権利に関する条約(子供の権利条約)
97 同上
98
UNICEF 'Gender Mainstreaming Policy'
http://www.unicef.org/programme/gpp/policy/genmaim.html
99 http://www.unicef.org/programme/gpp/policy/genmaim.html
100 同上
101 同上
102 同上
103
UNIFEM 'About Us'
http://www.unifem.org/about/
104
UNIFEM 'At a Glance'
http://www/undp.org/unifem/about_us/ataglance.html ,
UNIFEM 2001 Annual Report; p3
105 UNIFEM 2001 Annual Report:Working for Women's Empowerment and Gender Equality; p3
106 同上
107 UNIFEM 2001 Annual Report:Working for Women's Empowerment and Gender Equality ; p6
108 IDB 'WID Unit Work Plan' http://www.iadb.org/sds/wid/site_32_e.htm
109 IDB 'Operating Policy on Women in Development' http://www.iadb.org/sds/wid/site_400_e.htm
110 IDB OP-761 'Operational Policies Women in Development' http://www.iadb.org/cont/poli/OP-761E.htm
111 同上
112 同上
113 同上
114 IDB Women in Development Unit http://www.iadb.org/sds/wid/index_wid_e.htm IDB Sustainable Development Department
115 同上
116 同上
117 IDB Eighth Replenishment http://www.bicusa.org/publications /idbreplenish.htm
118 IDB WID Unit Work Plan http://www.iadb.org/sds/wid/site_32_e.htm
119 IDB Eighth Replenishment http://www.bicusa.org/publications /idbreplenish.htm
120 PAHO 'What is PAHO?' http://www.paho.org/english/dbi/ecp/What-PAHO.htm
121 PAHO 'Women, Health and Development' http://www.165.158.1.110/english/hdp/hdwmuje.htm
122 前脚注以降の文章は全て同上より。
123 WID案件の実績の把握は、案件の実施決定後、WID案件か否かを識別している。草の根無償資金協力については、在外公館が識別を行っている。
124 本指針は、1999年にHandbook on Social Dimensions for ODA Loans (OECF)を作成した際、廃版となった。
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