3.3.4 ベトナムにおけるわが国ODAのインパクトの認知度に関するアンケート調査結果概要と得られた教訓(ベトナム企業経営者及び政府関係者に対するアンケート調査)
本件評価調査の一環として、調査団は、現地で小規模なアンケート調査を行なった。そのアンケート調査(「ベトナムにおけるわが国ODAのインパクトの認知度に関するアンケート調査」20)は、わが国援助のインパクトに関して、ベトナム側の認知度や基本的認識などを探る目的で実施され、以下のグラフに示したように、ベトナム企業経営者100人及び政府関係者100人の計200人を対象として実施した。なお、本件アンケート調査は、調査団がベトナムの調査会社であるCONCETTI社に委託して実施してとりまとめさせたものである。
(1) | ベトナム国内に立地し製造あるいは貿易に従事している企業(国営企業、外資との合弁企業、民間企業)の経営者100名 |
(2) | 政府関係者(JBIC及びJICAプロジェクトのカウンタ-パートなど政府職員)100名 |
(1)で配付した100名のうち68人、(2)で配付した100名のうち72人の合計140人から回答を得た(回収率70%)。アンケートの目標回収率を50%超としたが、コンサルタントが電話やファクスで催促した以外に、自ら訪問して回収するなどしたため、目標回収率を大幅に上回った。なお、企業経営者で回答した人のうち、国営企業経営者が23人、外資合弁企業経営者が17人、ベトナム資本の民間企業経営者が28人であった。(Annex1.のCh1.参照)
以下、そのアンケート調査結果の概要を紹介していく。
(1)日本の援助プロジェクトの認知度 (Annex1.のCh2の2.1参照)
最初に、日本に関する一般的な理解について質問した。概して正確な知識を有していると言えるが、それぞれの項目別に見ると「日本は先進国7カ国のひとつである」、「日本は世界で2番目の経済大国である」、「日本はアジアでナンバーワンの経済大国である」といった事項の認知度が高い一方で、「日本はベトナムへの主要な直接投資国のひとつである」、「近年、ベトナムにとって日本が最大の輸出相手国となっている」といった事項に関して知らないとする人が企業経営者、政府関係者とも40%前後に上っている。
援助に関してみると、「日本がベトナムに対する最大の援助国である」という事実については、企業経営者の72%、政府関係者の79%が認識していた。また、「ベトナムを経済、保健、教育分野のほか制度改革や人材育成の分野でも支援している」という事項についても、企業経営者72%、政府関係者約94%以上が認識していた。(下のTable2.1参照)
Businessmen | GOV officials | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
Correct | Wrong | No idea | Correct | Wrong | No idea | |
Japan is one of the seven most developed nations in the world | 88.2 | 1.5 | 10.3 | 95.8 | 0.0 | 4.2 |
Japan is the second world economic power | 80.9 | 5.9 | 13.2 | 75.0 | 6.9 | 18.1 |
Japan is the number 1 economic power in Asia | 88.2 | 2.9 | 8.8 | 93.1 | 0.0 | 6.9 |
Japan is now the biggest ODA donor to Vietnam | 70.6 | 5.9 | 23.5 | 97.2 | 0.0 | 2.8 |
Japan is one of the first countries to resume ODA to Vietnam | 64.7 | 0.0 | 35.3 | 68.1 | 4.2 | 27.8 |
Japan is one of the biggest foreign direct investors to Vietnam | 35.3 | 22.1 | 42.6 | 43.1 | 19.4 | 37.5 |
In recent years, Japan has been the most important export market of Vietnam | 30.9 | 22.1 | 47.1 | 42.7 | 13.9 | 38.9 |
In the donors' community, Japan has so far been the biggest grant provider to Vietnam | 72.1 | 7.4 | 20.6 | 79.2 | 1.4 | 19.4 |
Japan's ODA not only assists Vietnam in economic, health care and education development but also in institutional strengthening and human resource development. | 73.5 | 5.9 | 20.6 | 94.4 | 1.4 | 4.2 |
Japan is one of the most promising technology transfer sources to Vietnam | 54.4 | 5.9 | 39.7 | 65.3 | 1.4 | 33.3 |
日本の援助に関して、各分野からサンプル的に選んだ案件を列挙してその認知度を調べたところ(次ページのtable 2.2参照)、発電所建設、道路整備、港湾拡張などのインフラ分野の大型案件の認知度が、企業経営者の60%以上、政府関係の70%以上と比較的高かった。
一方、社会、保健、教育などの分野からサンプル的に選んだ案件については、企業経営者では30%程度、政府関係者でも40~50%程度の低い率の認知度にとどまっている案件も見られた。加えて、人材育成及び制度改革支援などの分野では、援助内容があまり明確に認識されてはいないことがわかった。
Projects | Businessmen | GoV officials |
---|---|---|
a. Phu My Thermal Power Plant | 63.2% | 73.6% |
b. Cai Lan Port Expansion | 61.8% | 63.9% |
c. National Highway No.1 Bridge Rehabilitation | 63.2% | 76.4% |
d. Hai Van Tunnel Construction | 76.5% | 83.3% |
e. Ha Noi - HoChiMinh City Railway Bridge Rehabilitation | 35.3% | 61.1% |
f. Ha Noi Drainage for Environment Improvement | 55.9% | 73.6% |
g. HoChiMinh City Drainage for Environment Improvement | 30.9% | 51.4% |
h. Small and Medium Sized Enterprises Finance | 51.5% | 43.2% |
i. Rural Infrastructure Development and Living Standard Improvement | 30.9% | 44.4% |
j. Rehabilitation and Upgrading of Cho Ray Hospital | 47.1% | 69.4% |
k. Improvement of Medical Equipment in Hanoi City | 29.4% | 59.7% |
l. Construction of Fishing Port Facilities in Vung Tau | 27.9% | 38% |
m. Vietnam Television Center | 32.4% | 55.6% |
n. Improvement of Facilities of Primary Schools | 29.4% | 50% |
o. Duyen Hai Communication System | 5.9% | 30.6% |
p. Grass-roots Project | 16.2% | 17.1% |
q. Improvement of the Facilities and Equipment of the Faculty of Agriculture, CanTho University | 19.1% | 41.7% |
(2)日本の援助がベトナムの発展に与えたインパクト(効果)の認知度 (Annex1.のCh2の2.2 a.及びc.参照)
全体的な認知度: 企業経営者の間でも政府関係者の間でも、日本の援助がベトナムの社企会経済開発に明確なインパクト(効果)を与えたと広く認識されていることがわかった。企業経営者の88%が「非常に明確」あるいは「明確」なインパクトがあったと答えており、政府関係者ではその率は93%となった。なお、どちらのグループでも、経済開発におけるインパクトの方が、社会開発におけるインパクトよりも強く認識されている。
経済開発面における認知度:さらに具体的に、経済面では、日本の援助がベトナムの発展のどの側面(Dimension)にインパクトを与えたかという質問については、企業経営者は「経済改革と国際経済への統合を促進した」が40.6%でもっとも高く、「金融面の問題点の解消」(37.5%)が続いている。一方、「先進的技術や経験の移転」(21.9%)などについて日本の援助が与えたインパクトは低いと認識されている。
他方、政府関係者からは、「金融面の問題点の解消」の方が41.5%で最も高くなっている。その一方で、「経済の国際統合と改革の促進」(26.8%)、「国内資源の開発と有効活用」(19.5%)、「先進的技術や経験の移転」(12.2%)に与えた日本の援助のインパクトは低いと認識されている。
なお、貨幣不足の解消・安定化という選択肢は、企業経営者、政府関係者双方ともインパクトがあったという回答はなく、この選択肢の立て方が不適切だったかも知れない。
その他の分野(主に社会開発面)における認知度:インフラ、農業、保健、人材育成、制度改革、環境の7つの分野において、日本のODAのインパクトを認識する難しさの度合いを5段階で点数付けしてもらった。その結果、インフラ分野は、インパクト(波及効果)を比較的認識しやすいが(例えば、道路ができて輸送量が増えた等)、それ以外では認識が難しい分野があることがわかった。人材育成、保健、教育、環境の4分野が比較的難しく、それらよりもさらに難しいのは、制度改革(Institutional Reform)であることがわかった。
(3)日本の援助がベトナムの貿易及び直接投資に与えたインパクトの認知度 (Annex1.のCh2の2.2b.参照)
日本~ベトナム間の貿易に与えた日本の援助のインパクトをみると、企業経営者の72%が、実施された日本のODAプロジェクトは日本市場に対するベトナムの輸出を促進するために「非常に肯定的に」あるいは「肯定的に」作用した、と認識していることがわかった。なお、政府関係者ではその比率が79%に上っている。また、日本からベトナム市場への輸出に関しても、同様に70~80%が肯定的に作用したとの認識を持っていることがわかった。
さらに、日本のODAによって日本からベトナムへの技術移転が促進されたか、については、94.1%の企業経営者、また97.2%の政府関係者が肯定している。
(4)日本のODAがベトナム国内の経済活動に与えたインパクト (Annex1.のCh2の2.2d.参照)
約4人に3人の企業経営者が、日本のODAプロジェクトは自社のビジネスにプラスの効果を与えたと回答している。しかし、ODAプロジェクトに直接的に業者として関わったということではなく、「輸送インフラが改善した」、「日本の援助プロジェクトによって製品やサービス供給の機会が増加した」、「より開放型の政策がとられるようになった(構造改革が促進した)」、「日本市場への接近が改善した」など、間接的な効果が自社の事業にあったと認識していることがわかった。
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(5)政府関係者の援助プロジェクトに対する認識 (Annex1.のCh2の2.3.参照)
政府関係者のうち、日本の援助プロジェクトが、カウンターパートの組織内でのプライオリティに合致したものではなかったとする回答はほとんどなく(2.8%)、回答者のほぼすべてから日本の援助はベトナム政府側のプライオリティに沿ったものであったと認識されている。
政府関係者から、プロジェクト実施にあたっての問題点として指摘されたのは、用地決定とリハビリ、計画変更などであるが、さほど深刻な問題として認識されているわけではない。
プロジェクトの実施にあたった日本のコンサルタントに関しては、86.8%の政府関係者がコンサルタントとしての人材を質的に高いと認識していることがわかった。その他、75%がベトナムの地域特性を良く理解している点を、また84.1%がベトナム側カウンターパートとのコーディネ-ションが良かったと認識している。
(6)今後の日本のODAの効果を向上させるための提言
本件アンケート調査の最後で、今後の日本のODAの効果を向上させるために必要と認識している事項を聞いた。
企業経営者から:まず、企業経営者からは、ODAの効果を向上させるための提言というよりも、自身の事業発展に資する「マクロ・レベル」での支援に関するアイディアが多く出された。具体的には、(1)ベトナム企業への経営経験の移転、(2)ベトナム企業に対する人材育成支援、(3)日本市場の理解の促進支援、(4)知的支援センターの開設支援、(5)日本で有名なクオリティ・コントロールの紹介などが重要とみていることがわかった。
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政府関係者から:政府関係者からは、今後の効果的なODA実施のために、(1)用地決定・リハビリ方針・手続の改善、(2)プロジェクト管理面でのトレーニング増加、(3)援助プロジェクトに関するより迅速な情報公開、などが重要とコメントしている。
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アンケート調査実施コンサルタントから:最後に、今回のアンケート調査の実施と分析を担当したローカル・コンサルタントからは、広報の重要性が再三にわたって指摘された。日本のODA案件を、企業経営者や政府関係者がどういったルートで知るかというと、テレビ、ラジオ、新聞などのマスメディアを通じた場合が多いことが今回のアンケート調査から分かった。そして、知人や友人との日常の会話から、というのがそれに続いている。したがって、実際にプロジェクト・サイトで案件を見たという例はほとんどない。また、道路や電気などを日常的に使っていても、日本の案件だとは全く意識しない。したがって、日本が日本のODAの認知度を高めたいと思うのなら、マスメディアを通じた広報を強化すべきである。
20 報告書巻末のAnnex 2に原文(英語)を掲載したので参照されたい。