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(3)環境分野に対する日本の貢献度合と目的の達成度合の評価

 ここでは、環境分野に対する日本の援助に関して、自然環境保全、居住環境改善(上下水道)、公害防止という3つの分野に分けて、日本の貢献度合と目的の達成度合に関する分析を行い、環境分野における日本のこれまでの援助に関する評価を行うこととする。

1)自然環境保全

 自然環境保全や生態系の保護はベトナム、日本の双方が重視してきた課題の1つであるが、この分野での日本の協力の実績は限定的である。この分野での主な実績としては、植林に関して、中部高原植林機材整備計画(1992年度)、北西部植林機材整備計画(1995~1996年度)等の無償援助と、中部高原地域森林管理計画調査(1999~2000年度)等の開発調査による協力を行ってきた。また、生態系保護について、ハロン湾環境管理計画調査(1997~1999年度)等の開発調査による協力を行ってきた。

 「ハロン湾環境管理計画調査」に対するベトナム側の評価としては、ハロン湾が位置するクアンニン省も中央政府で環境分野を担当する科学技術環境省も、大変高く評価している。ハロン湾は世界遺産にも指定されているベトナム内有数の自然資源であり、自然環境保全の対象として最も優先順位の高いものの1つである。したがって、数量的な評価は難しいもののベトナム側の意見を踏まえると、ハロン湾の環境保全政策の推進に対して貢献した本調査の意義は大きいと言える。

 自然環境保全に関して、ベトナム側が現在必要としているのは、自然環境と汚染の現状に関する正確なデータを収集し、今後どのような対策を講じる必要があるのかについて具体的な戦略を立てることである。この点で、「ハロン湾環境管理計画調査」は、今後ますます観光地化が進むことが予想されるハロン湾の環境保全を進めていく上で、現状の把握と具体的対策の検討を行い、ベトナム側の当該地域における環境保全政策の推進に貢献した。この点について、クアンニン省人民委員会は高く評価している。

2)居住環境改善(上下水道)

 人々の居住環境の改善は、ベトナム側の第7次5カ年計画において、地方における上水道および衛生設備の整備と 主要都市における上下水道・排水システムの近代化が主要な課題として盛り込まれているとともに、日本側も都市部の上下水道、排水設備の整備等に対する協力を優先課題として援助方針に盛り込んできた。これまで日本は、ハノイ市、ホーチミン市といったベトナムの中心的都市をはじめ、北部地域の主要都市であるハイフォン市やハイズォン市、またホーチミン市周辺に位置し、南部の重要な地域であるドンナイ省とバリア・ブンダウ省について、給水施設や排水・下水施設の整備を有償あるいは無償資金協力による支援や、開発調査によるマスタープランの策定や優先プロジェクトに関するフィージビリティー調査を行ってきた。

 このうち、「ハノイ市上水道整備計画調査」(開発調査、1994~1997年度実施)および「ハノイ市排水・下水システム整備計画調査」(開発調査、1995年度実施)に関しては、ハノイ市人民委員会計画投資局の談によれば、ベトナム側の評価は高く、首相からもハノイ市の発展にとって有用な調査であると評価されたということである。また、「ホーチミン市排水・下水システム整備計画」(開発調査、1998~1999年度実施)について、ホーチミン市人民委員会側は高く評価している。日本の有償案件である「ホーチミン市水環境改善事業」を含め、今後この分野においてホーチミン市が実施する優先プロジェクトは本調査の提言に基づいたものである。

 「ホーチミン市水環境改善計画」(有償)は、2000年度にL/Aが締結されたばかりの新しい案件であり、まだ評価を行うには時期尚早である。本案件は、ホーチミン市の中心地区 3,046haを対象に、不十分な排水能力によって頻繁に生じている浸水等の防止・軽減を図るために排水能力を大幅に強化するとともに、下水の収集・処理施設を建設し、域内の運河の水質を改善することを目的としている。ホーチミン市人民委員会によれば、ホーチミン市内では、雨期には市内のあちこちで洪水が起こり、交通への影響も含めて大きな問題となっている。したがって、この問題を防止・軽減することはホーチミン市の住民の生活に限らず、ベトナムの経済の中心であるホーチミン市の経済活動にも大きな効果があると考えられる。ホーチミン市人民委員会の今後5年間における12の優先的プロジェクトの中に、洪水対策と排水処理を含めていることからも、本案件の重要性が伺える。

 また、「ハノイ水環境改善計画」(有償)は、1995年度に開始された案件であり、現在までに60~70%が完成している。本案件では、排水システムを整備して洪水による被害を軽減するとともに、下水処理施設の整備による水質改善を目的とする。本案件では、2日間当たり172mmの排水処理能力を目標としている。しかし、今年8月に20年ぶりの大雨があり、そのときは2日間で347mmの降水量があった。したがって、プロジェクトの第2段階が必要だとハノイ市人民委員会計画投資局側は考えている。3)公害防止

 公害防止対策は、急速に産業化を進めようとするベトナムにとって、人々の健康と自然環境を守るために必要な政策であり、ベトナム側の5カ年計画に盛り込まれるとともに、日本側も対越援助方針において、大気・海洋汚染防止や産業廃棄物処理等を中心に、ベトナムにおける公害の実態と対策、制度の現状を確認しつつ、具体的な協力を検討していく方針を示している。

 この分野における日本の援助の実績は大変限られているが、今後この分野での協力が拡大することをベトナム側は望んでいる。

 この分野におけるこれまでの主要な案件として「産業公害対策マスタープラン(産業廃水)」(開発調査、1999年度実施)が挙げられるが、ベトナム政府側は工業省がこの調査について、調査結果が有用であるだけでなく、同マスタープラン策定過程を通じた技術移転やセミナーの開催によって人材教育の面からも有益であったと評価している。本調査を通じて、約100社の産業廃水の実態に関する調査を行なった成果はベトナム側にとって大きい。JICA専門家の協力を得て、100社の中からさらに24社をサンプルとして詳細調査を行う予定であると工業省側が述べていた。

4)環境分野における日本の援助の評価

 環境分野では、これまで日本は特に居住環境の改善に対して重点的に援助を行ってきた。中でも、ハノイやホーチミン市をはじめ、優先順位の高い主要都市を中心に、上水道や排水・下水施設の整備などに対して援助してきた。これは人々の生活を直接改善するものであり、また経済活動に対する効果も大きいとハノイやホーチミン市の人民委員会は評価している。ベトナム側の国家計画においてもこのような人々の居住環境の改善は目標の1つとして掲げられてきたし、また日本側も援助方針において居住環境の改善を重要な目標として挙げてきた。したがって、この分野の援助はベトナム側、日本側双方の目標に合致したものであると言える。ただし、「ハノイ水環境改善計画」(有償)、「ホーチミン市水環境改善事業」(有償)、「ハイズォン市上水道拡充計画」(無償)等、主要案件はいずれもまだ完成しておらず、目指した目標の達成度等は評価するのに適切な時期ではない。

 他方、自然環境保全や公害防止に関しては、これまで実施してきた案件に対するベトナム側の評価は高く、ベトナム側の目的にも添ったものであった。しかし、これまでの実績だけを見れば、これらの分野に対する日本の援助は案件数も少なく規模も小さい。したがって、自然環境保全や公害防止について日本の援助の貢献度は現時点ではあまり大きくないと判断される。


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