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(2)ベトナム側が目指した目的と日本側が目指した目的の記述

1)ベトナム側が目指した目的

 ベトナム国の国家5カ年計画において環境分野については次のように記述されている。 まず、第5次5カ年計画(1991~1995年)においては、(1) ベトナムの人間福祉に重要である生態学的過程と生命維持システムの維持、(2) 潜在的価値を有する家畜化、園芸種化した生物と野生生物の生物多様性の維持、(3) 適切な管理下での天然資源の確保、(4) 人間生存に必要な環境の質的維持、(5) 天然資源の持続と一定の生活水準との両立、等が環境分野での開発目標として掲げられていた。

 第6次5カ年計画(1996~2000年)においては、(1) 環境保護のためのプロジェクトを実施し、国立公園を設立し、保全林を決め、都市部や工業地帯の緑化に努め、有害物質と廃棄物の削減のために近代的な技術を導入する、(2) 開発計画の外資の投資計画、インフラ案件等に関して環境影響評価を行い、対策を講じる、(3) 生産過程から出される公害物質を減少させ、水質汚染や大気汚染等を改善する、(4) 生物多様性を保護するために必要な緑地面積を拡大する、(5) 工業地帯や都市部における人々の労働環境や居住環境を改善し、農村部における衛生環境を改善し、全ての領域における環境管理を強化し、環境保護法の適用を確実とするための手段を強化する、等が目標として掲げられていた。

 第7次5カ年計画(2001~2005年)においては、(1) 地方住民に安全な水を供給するための地方における上水道および衛生設備の整備、(2) 主要都市における上下水道、排水システムの近代化、(3) 工業地帯や人口密集地帯における環境悪化への対処、(4) 水質汚染対策と洪水等による自然災害の最小化および対処のために、公害防止対策および自然災害対策サービスの供給、(5) 自然環境保全、国立公園の設立、緑化および生物多様性の保護、環境保護設備の整備、(6) 開発プロジェクトに関する環境配慮の強化、等が環境分野での開発目標として掲げられている。

2)日本側が目指した目的

 1994年度以降の我が国の対ベトナム国別援助方針において、環境分野は重点分野の1つとして位置づけられ、重視されてきた。環境分野に対する援助は、大きく分けて、自然環境保全、居住環境改善、公害防止の3つに分類することができる。自然環境保全に関しては、ベトナムが生物多様性の保全上重要な地域(森林、湿地)の保全に力を入れていることから、植林事業や森林経営計画策定等に対する支援に力を入れるとともに、生態系保護等にも支援を行っていく方針を打ち出してきた。また、居住環境改善に関しては、都市部への人口流入によって上下水道に対する需要が高まることが見込まれるため、都市部の上下水道、排水設備の整備等に対する協力を実施することを優先してきた。さらに、公害防止に関しては、大気・海洋汚染防止や産業廃棄物処理等を中心に、ベトナムにおける公害の実態と対策、制度の現状を確認しつつ、具体的な協力を検討していく方針であった。また、環境分野で活躍するNGOに対する支援を積極的に検討するとともに、直接環境分野を対象とする案件にとどまらず、各種インフラ整備案件の実施において、環境アセスメントを実施し、環境配慮を行う方針を打ち出してきた。

 さらに、我が国のベトナム国別援助計画(2000年度)においても、ベトナムにおける環境問題の現状について「急速な都市化に伴い、水質汚染、大気汚染及び産業廃棄物の処理等の問題が都市部で徐々に顕在化しつつある。また、農村部においては、商業伐採、焼き畑農業及び木材の薪炭利用による森林の減少、森林減少による土壌の浸食、洪水、干魃も多く発生している」という認識を示している。その上で、バランスの取れた経済成長を促進するためには「成長の過程で顕在化しつつある環境問題も重要な課題として対処する」ことが不可欠であるという考えから、我が国の対ベトナム援助の重点分野の1つとして環境が挙げられている。環境分野における援助について具体的には次のように記されている。「環境分野は我が国開発援助政策の中で最も重視している分野の一つであり、上下水道整備等生活環境整備、公害防止、森林の保全・造成、生態系保護や地球規模での環境対策等が含まれる。ベトナムでは、長期に亘る戦争の影響、急激な人口増加といった要素に加え、効果的な環境政策の欠如などから、森林の減少・劣化や水質、大気、土壌の汚染が深刻化している。特に、森林破壊は北部山岳部及び中部高地において深刻であり、当地域に居住する少数民族が持続的農業を営むのを困難にし、貧困状況を悪化させており、森林関連部局の管理・実行能力を強化する必要が生じている。また、人口に比し耕作地が少ないため過度な耕作が行われ、土壌酸化や水脈汚染を引き起こしている。また、都市化や工業化に伴う大気汚染、上水道の水源汚染等も深刻化している。1993年、ベトナムは環境保全法を制定したが、同法に実効性を与えるガイドラインや環境基準が整備されていないため、それらの早急な整備や人材育成を通じて環境保全の体制整備や能力の向上に係る支援を検討することが必要である」。


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