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(2)日本側およびベトナム側が目指した目的

1)ベトナム側が目指した目的

a) 第8回共産党大会の政治報告での基本目標:社会主義市場経済化の基本戦略

 ここでは、第7次5カ年計画の始まった1996年以降の市場経済化の基本戦略をレビューしておきたい。

 第7次5カ年計画のスタートにあたって、1996年6月28日から7月1日に5年に1度の第8回共産党大会が開催され、86年の第6回共産党大会で打ち出されたドイモイ路線を継承しつつも、同時に社会主義の経済原則に沿った開発を強調した2020年及び2000年までの工業化目標が発表されている。

 ドイモイ政策では、社会主義的な重化学工業を重視した政府主導型の工業化路線を修正し、市場経済と国際的比較優位を原則としたものへと見直しをはかっている。91年の第7回共産党大会でも、この基本戦略は継承され、農林漁業など自国内の資源の活用と連携した分野での工業化を優先すると同時に、加工組立型の機械工業など技術集約的な分野での工業化も徐々に推進していくことが決定されている。

 第8回共産党大会の政治報告は、過去10年間のドイモイ路線による発展パフォーマンスの評価、今後2000年及び2020年までの工業化目標、各主要セクターの開発方向、ベトナム共産党の組織についての4項目から成っている。

 これらを総括すると、今後も、社会主義の建設を目指す上から、市場経済と国営、民間などから形成されるマルチ・セクター経済を重視していく。経済面では開発のスピードアップや効率化を強調しつつも、民主化や国民生活の向上と地域格差の解消などバランスのとれた社会発展と人造り・制度造りを同時に達成することを示している点が特徴点として読みとれる。全体として、これまでのドイモイ路線を継承しつつも、社会主義の理念とそれに基づく経済原則とのバランスをとることが不可欠との認識が強調されている。

 残された課題として、産業の中核を担っている国営企業の改革が株式化への試行を含め全般に遅れていること、また、経済社会開発のための政策、法制度、メカニズムなどが十分に機能するよう体系だてて整備されていないことを指摘している。さらに、金融、財政、価格体系、土地管理、行政手続きなどの分野での改革の遅れ、国民の厚生、教育、技術・職業訓練などの水準の低さの改善も今後の課題としている。

b) 2020年には工業国の仲間入り

 政治報告では、ソビエト連邦や東欧諸国など社会主義国の崩壊を認めつつも、現状は一時的後退を示しているにすぎず、人類全体としては、資本主義から社会主義の移行期にあることには変わりないとしている。こうした中で、社会主義の建設と国家の防衛という2つの重要戦略目標達成のためには工業化と近代化の推進が不可欠であるとして、今後の2020年の長期目標と2000年の中間目標を掲げている。

 2020年には、工業国の仲間入りをはかることを基本的目標としている。工業セクターの生産効率と技術水準向上をはかりつつ、1人当たりのGDPは1990年レベルの8~10倍を見込んでいる。工業とサービス分野のGDP及び雇用に占めるシェアがかなり大きくなるとしているが、農業分野での開発も引続き重視していく姿勢を表明している。

 また工業分野の中では個人や小企業などの民間企業のシェアは高まるとしながらも、国営企業が引続き主導的役割を担うとしている。(当初、政治報告の草案には2020年においては、国営企業セクターがGDPシェアの60%を占めると具体的に表記してあったが、内外の反発によって直前に削除されている。)

 2000年までの期間は、今後の新たな発展局面の重要な段階と位置づけている。市場経済を重視し社会主義を目ざし国家経営を進めていく上で、国営セクター、集団経済セクター、民間セクターなどからなるマルチ・セクター経済を指向していきそのための人造り・制度造りを目指していくとしている。

 政治経済報告では、経済と同時に民主的でバランスのとれた社会発展や教育・人材育成を同時に強調している。社会面では雇用の増大と失業率の低下を目標として、小学校教育の普及をはかるとともに、短期を含め職業訓練を受けた労働力の比率を22~25%に増加させる。国民の生活水準に関しては、貧困層や文盲の撲滅と食糧、住宅、教育、健康、移動など文化的側面も含めた向上と地域格差の解消をあげている。他方、経済発展に伴う環境問題のチェックや社会的不公正や社会悪の抑制の必要性も示している。

2)日本側が目指した目的

 人造り・制度造り(特に市場経済化移行支援)は、わが国の対ベトナム協力重点分野の一つとして採り上げられているが、同分野における援助方針を見ると以下のようになっている。

 自立的・持続的発展のための基礎としての人造り・制度造りに対する支援が重要である。具体的にはマクロ経済のパフォーマンス改善・構造調整を支援するとともに、持続的経済成長のための開発政策立案・実施に係る人材育成、市場経済化に対応する人材育成及び行政体制、法制度の整備・金融システムの整備に係る支援が中核となる。

 更に、自立的な人材育成システムを構築するためにも、官・産・学の人材育成を担う高等教育システムを早急に構築し、優秀な人材を国内に繋ぎ止め、かつ、次世代の人材育成を担う人材を確保しておくことも重要である。


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