6) 草の根無償資金協力
草の根無償資金協力の対象案件の多くは、すでに述べた5重点分野に分類されるが、小規模であり、限られた地域、草の根のニーズへ対応するものであることから、本項目として独立させ上記の5重点分野と別に概説する。
草の根無償資金協力は1989年度の1件、400万円から始まり、1999年度は13件、7,700万円に達している。タンザニアにおける実施分野は、学校校舎建設、水供給、保健医療、民主化教育等多岐にわたっている。
視察案件は、生活改善、教育、職業訓練、保健医療に関するもので、地域の人々が待ち望んでいたことが草の根無償資金協力によって実現されたものである。例えば、ウェルウェル川簡易連絡橋(表15参照)は、モシ市から約1時間ほどのキマシュク村とシリマトゥンダ村の間を流れるウェルウェル川に簡易連絡橋を設置し、分断された村民の社会サービスへのアクセスの向上をはかるものである。
谷を隔てた村には約4千人の住人が居住し、ウェルウェル川を渡らずに市街地へでるには大きく回り道をしなければならない。ウェルウェル川は、乾期には歩いて渡れるほどの川であるが、雨期には水位が通常より2mも高くなり、毎年5人ぐらいの人が水にのまれて死亡している。ウェルウェル川簡易連絡橋は、急患の発生時の対応、農産物の出荷、通学、市街地へ行き生活用品を購入すること等を容易にし、生活改善の効果が期待されるもので、地域の人々も完成を待ち望んでいる。
このように草の根の即効的な効果が期待されるが、今回視察した草の根無償資金協力案件に日本人専門家がプロジェクト実現に協力している例が見られた。
ウェルウェル川簡易連絡橋建設計画も日本人専門家が仲介することによってプロジェクトが実現している。また、バガモヨ・セント・エリザベス病院建設計画(表18参照)では、日本人専門家--青年海外協力隊--草の根無償資金協力といった日本の各援助スキームが地域に好ましい形で展開していた。このプロジェクトは草の根無償資金協力によって、病棟建設への支援がなされたプロジェクトであるが、申請者は青年海外協力隊員のアドバイスを得つつ、草の根無償資金協力を申請し、支援の実現に至ったものである。ここに至る過程においては、バガモヨ灌漑農業普及計画で活動していた日本人専門家、その専門家が青年海外協力隊というスキームを現地へ知らせた結果、バガモヨの学校へ青年海外協力隊が派遣されて協力活動を行い、草の根無償資金協力というスキームの存在を知り、申請がなされるという展開が行われた。
こうした事例を見ると、青年海外協力隊、専門家は地域の草の根のニーズを吸い上げ、草の根案件として形成していく上での協力者である。こうした協力によって、地域の人々が必要としている案件が増加することは日本の援助スキームが相互に効果を発揮することであり、好ましい方向である。タンザニアにおいては、草の根無償資金協力の贈呈式等に大使が積極的に出席し、テレビ等で扱われる機会も多い。小規模だが「顔の見える援助」として効果は大きい。
名称 | モシ市ウェルウェル川簡易連絡橋建設計画 | ||
実施地域 | キリマンジャロ州モシ市キマシュク村 | ||
協力年度 | 2000(平成12)年度 | ||
援助形態 | 草の根無償資金協力 | 対象分野 | 通信・運輸 |
実施目的 | キマシュク村とシリマトゥンダ村を分断しているウェルウェル川に簡易連絡橋を設置し、キマシュク村住民の社会サービスへのアクセスの向上を図る。援助重点項目のうち、「経済・社会インフラへの支援」及び「貧困対策や社会開発分野への支援」に相当。 | ||
被供与団体 | マトゥンダキリスト教友好協会(国際NGO) | ||
金額 | 4,656.6万シリング(6,131,685円) | ||
援助概要 | 橋柱・橋台建設、橋梁設置、欄干設置工事、路面工事、取付道路工事、工事用道路建設 | ||
事業効果 | |||
架橋により、地域住民の公共サービスへのアクセスが改善され、急患への対応や農産物の出荷、就学機会の拡大、都市部への通勤等、周辺住民を含む約4千人の住民らの生活水準の向上が見込まれる。また、架橋付近の泉から採水が可能となり、女性や子供が従事している水汲みに要する時間、危険性が減少する。 |
名称 | セムキワ・セカンダリースクール建設計画 | ||
実施地域 | タンガ州コログエ県 | ||
協力年度 | 1998(平成10)年度 | ||
援助形態 | 草の根無償資金協力 | 対象分野 | 教育・研究 |
実施目的 | セムキワ・セカンダリースクールの新校舎建設による生徒への教育サービスの維持・確保。援助重点項目のうち、「経済・社会インフラへの支援」及び「貧困対策や社会開発分野への支援」に相当。 | ||
被供与団体 | コログエ県庁(地方公共団体) | ||
金額 | 2,865万シリング(5,084,502円) | ||
援助概要 | 教室建設資材(4教室分)、教員用事務室資材(2部屋分)、トイレ資材(穴掘り式6ヶ分)、資材輸送費用 | ||
事業効果 | |||
セムキワ・セカンダリースクールは、閉鎖後の貿易関係公社の建物を利用して経営されてきたが、政府の公社改革によりその建物の売却が決定されており、学校の存続が危ぶまれていた。本案件の実施で、州政府から用意された別の場所に新校舎が完成することで、コログエ地区における学校の教育サービスが維持される。新校舎では、パーティションで仕切れる4教室を活用することにより、以前の約2倍弱の約600名の生徒を収容することが可能となり、教育の普及率向上にも貢献する。 |
名称 | マタニティ・センター設立計画 | ||
実施地域 | ダル・エス・サラーム市及びアルーシャ市内の「人口・保健サービス」診療所 | ||
協力年度 | 1996(平成8)年度 | ||
援助形態 | 草の根無償資金協力 | 対象分野 | 医療・保健 |
実施目的 | 低所得者層の女性に対する出産前及び出産時のサービス供給を目的としたマタニティ・センターへの診察用・分娩用器具及び救急用車両の供与。援助重点項目のうち、「貧困対策や社会開発分野への支援」に相当。 | ||
被供与団体 | 人口・保健サービス(NGO) | ||
金額 | 69,976米ドル(6,787,672円) | ||
援助概要 | 分娩器具(手術台、照明、麻酔機材他)、超音波装置、家具、車両の購入・供与 | ||
事業効果 | |||
都市部への人口集中により人口増加率の高いダル・エス・サラーム市及びアルーシャ市では、医療サービスが十分に普及していない。このような状況の中で、低所得者層向けのマタニティ・センターに出産前後の診療器具や救急用車両を整備することは、妊産婦・幼児の疾病率及び死亡率を低下させ、健全な家族生活を支える一助になる。 |
名称 | バガモヨ・セント・エリザベス病院建設計画 | ||
実施地域 | コースト州バガモヨ県バガモヨ市 | ||
協力年度 | 1996(平成8)年度 | ||
援助形態 | 草の根無償資金協力 | 対象分野 | 医療・保健 |
実施目的 | 老朽化したバガモヨ県立病院にかわる地域医療サービスの拠点としての新病院設立に対する支援。援助重点項目のうち、「経済・社会インフラへの支援」及び「貧困対策や社会開発分野への支援」に相当。 | ||
被供与団体 | バガモヨ・ローマン・カソリック協会(ローカルNGO) | ||
金額 | 2,000万シリング(3,001,800円) | ||
援助概要 | 小児科病棟、婦人病棟、男性病棟建設のための資材および建設費用 | ||
事業効果 | |||
新たに建設されるバガモヨ・セント・エリザベス病院は、日本の草の根無償資金協力($25,015)に加えて、ドイツのローマン・カソリック協会からの資金援助($115,005)、地元住民の自助努力による資金($10,000)によって建設される。 本案件の実施により、バガモヨ市周辺地域を含む約52,000人の住民及び旅行者、長期滞在者が、信頼のおける保健・医療サービスにアクセスできるようになる。 |
名称 | UMATIダル・エス・サラーム・ユース・センター拡充計画 | ||
実施地域 | ダル・エス・サラーム、テメケ地区 | ||
協力年度 | 1996(平成8)年度 | ||
援助形態 | 草の根無償資金協力 | 対象分野 | 医療・保健 |
実施目的 | 貧困層に対する職業訓練や保健教育を実施しているUMATIユース・センターの建物の改修。援助重点項目のうち「貧困対策や社会開発分野への支援」に相当。 | ||
被供与団体 | タンザニア家族計画協会(UMATI)(ローカルNGO) | ||
金額 | 4,880.4万シリング(8,329,440円) | ||
援助概要 | ユース・センター改修工事費用(クリニック棟新設を含む)、ユース・センター用家具の購入 | ||
事業効果 | |||
ユース・センターが実施する職業訓練には、年間約20~50名、10代の母親に対する教育啓蒙セミナーには、年間約20~50名が参加している。また、同センターによって毎日行われている地域住民を訪問しての保健啓蒙活動は、多くの住民に貢献している。 本案件により、クリニック棟の新設を含む改修工事が行われることで、センターとしての機能が充実し、同地域に暮らす約175,000人が恩恵を受けることになる。 |