3.2 我が国の対タンザニア援助実施体制
3.2.1 我が国の対タンザニア援助計画
我が国は、DAC新開発戦略等61で決定されたオーナーシップとパートナーシップの理念を具体化させるために、1997年に経済協力総合ミッションを派遣し、タンザニアとの政策対話を進めた。その後、外務省において、従前の国別援助方針をさらに具体化した「国別援助計画」が2000年6月に策定された。この計画は、5年程度の中期援助計画であり、我が国の援助案件策定の政策指針となる文書である。62
タンザニアの国別援助計画では、対アフリカ援助の重点課題である貧困の削減、社会開発、経済的自立に向けた産業支援等を重視し、タンザニアの社会情勢及び政治・経済状況から開発課題を分析することにより、マクロ的視点で以下に述べる同国への援助政策上の5重点分野をタンザニア政府との合意の上で掲げている。
- 1) 農業・零細企業の振興のための支援
- タンザニアでは農業がGDPの約5割、総輸出額の7割強を占め、労働人口の8割(1280万人)が農業に従事していることから、同分野に対する支援はタンザニア経済にとって大きなインパクトを持つ。また、我が国はこれまでキリマンジャロ州を中心に農業分野の支援において豊富な経験を有し、今後も効果的な援助ができるものと期待される。援助の方針としては以下の3つの観点を重視している。
- まず、農業・農村開発の観点から、小規模灌漑施設、農業インフラ整備、農業技術の移転を実施していく。続いて、タンザニアの農業従事者のうち7割が小規模農民であり、農業振興は貧困対策としての側面も有していることから、農業協同組合組織の整備・育成、マイクロ・クレジット等を推進していく。最後に、零細企業の育成を通じた貧困救済のために、農林産物の付加価値を高めるための加工技術の普及、企業振興等、さらには縫製、製粉、皮革製造、金属加工、窯業等の技術開発や技能訓練、及び小規模融資等による起業家支援を検討していくとしている。
- 2) 基礎教育支援
- 教育分野は、PRSPの策定段階で最重要分野とされ、タンザニア側の援助ニーズが非常に高い分野である。この分野では、1999年より教育セクター開発計画(EdSDP: Education Sector Development Programme)が実施されており、ドナーの援助協調が進んでいると言える。
- 我が国は同国の教育セクター開発計画にも配慮しつつ、学校施設の整備を検討していくとしている。また、教育政策アドバイザーの派遣、教員再教育プログラムへの支援を我が国の比較優位にあるといわれている理数科教育分野を中心に検討していく。さらに保健衛生教育の導入、遠隔地教育、成人教育への支援といった独自の工夫も考えられている。
- 3) 人口・エイズ及び子供の健康問題への対応
- 我が国はこれまでも保健医療分野の援助に関して大きな評価を得てきており、引き続きこの分野における協力を継続していくことが望ましい。今後、地方における医療サービスの充実に注力し、基礎的な医療技術の向上、地区-地方-中央に繋がるリファーラル体制63の充実、衛生知識に関する住民啓発活動等の充実を図っていく。また、我が国はタンザニアを「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ」の重点国の一つと位置づけており、住民のHIV感染予防、家族計画に関わる教育・啓蒙活動実施を支援していく。なお、保健分野においても1999年よりセクター別開発計画が実施されており、教育セクターと同様、他ドナーとの連携にも配慮した支援が行われている。
- 4) 都市部等における基礎的インフラ整備等による生活環境改善
- 都市部では人口増加による、道路、橋等の輸送網、通信、送配電網、上水道、下水道、廃棄物処理施設といった基礎インフラ整備のニーズが高く、他の援助国・機関との連携・役割分担を行いながら協力を進めていく。さらに、地方活性化と都市への人口流入の歯止めとして地方主要都市及び地方都市間のインフラ整備、地域間経済協力の促進のために近隣諸国を含む広域インフラの整備も検討されている。
- 5) 森林保全
- タンザニアの国土の約3分の1を占める森林は、現在、耕地拡大、燃料用途の伐採等によって減少しているが、水資源の確保や土壌保全、観光資源として森林を保全していく必要がある。我が国はこれまで緑の推進プロジェクト等森林保全に関する援助を行ってきており、今後も現地NGO等を活用し、森林資源管理のアドバイザーを派遣する等、引き続き森林の持続的開発に対する協力を進めていく方針である。
我が国は、上記5重点分野を中心に援助を実施する際に、基礎生活分野(BHN)を対象としたプロジェクトを優先的に取り上げ、都市部貧困層及び地方農民といった社会的弱者に直接裨益するよう配慮することとしている。また、基礎インフラ(道路、下水道等)の整備にも、特定の社会層のみに益することなく、貧困層をはじめとした社会各層に分配されるように十分に配慮していくとされている。
一方、JICAでは上記の国別援助計画にて示された5重点分野を踏まえて「国別事業実施計画」を作成している。JICAの国別事業実施計画は3年間の中期計画であり、JICAが実施する援助事業の基本方針として、分野別の開発課題を達成するための開発プログラムを検討し、そのプログラム下における援助形態別の個別案件の抽出を行っている。同事業実施計画では、国別援助計画にて示された重点分野に加え、組織能力拡充(キャパシティ・ビルディング)を示し、その他の開発課題として、観光開発、水産業、地方拠点開発、湖水環境の保全等も重視されている。これらも含めた主要援助分野別の実施案件は別添2「実施案件一覧表」のとおりである(1999-2003年度)。
別添2から、我が国は上記重点分野に沿って、各プロジェクトを「農業セクター開発計画支援」「灌漑農業開発改善」「住民組織化支援」等課題別に分類し、複数のプロジェクトを合わせて相乗的な効果が発現されるように案件の形成がなされており、国別援助計画に示されている各重点分野の援助方針が具体化されていることが分かる。
61 1996年5月、DAC上級会合にて、我が国のイニシアティブの下で「DAC新開発戦略」(21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献)が採択され、タンザニアを始めとする6カ国で重点的に関連支援を実施していくことが掲げられた。その基本理念は、途上国自身のオーナーシップ、ドナー国とのパートナーシップにあるとされ、その理念の浸透と戦略の具体化に向けた取り組みとして、「貧困削減戦略会議」や「第2回東京アフリカ会議(TICAD II)」が、我が国主導の下で開催された。
62 同計画は外務省のホームページにて公開されている。(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/enjyo.html)
63 患者の容態に応じて順次上級の病院診察・治療をゆだねていく体制を言う。