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3.1.2 援助実施機関のキャパシティに関する問題点  

 PRSPの実施国においては、実施組織や制度のキャパシティが低いことが共通の問題として指摘されている。59 もともとPRSPが世銀、IMFによって導入された背景として、非効率な途上国援助に対する反省があり、援助を非効率にしていた理由の一つに援助吸収能力(absorptive capacity)の低さがあった。援助吸収能力は限られた援助資源をドナーの意図する開発目的に有効に活用するための中央・地方政府の体制(人的資源、ファシリティ)、財政管理能力(効率的な資源配分、資金の使途の監理)を指す。タンザニアやザンビア等のアフリカ諸国においては、低い援助吸収能力の下で様々なドナーからの援助が個別に行われたために、援助の効率性がますます失われる結果となった。そのためPRSPの下では、低い援助吸収能力を向上させるキャパシティ・ビルディングの要素が多く見られるようになった。以下、開発政策の立案、モニタリング・評価それぞれについて、タンザニア政府のキャパシティについて述べる。

1) タンザニア政府の政策立案能力

 政策立案能力についてはPRSPの作成時に国際社会の協力を得て、組織的、制度的な枠組みが作られた(「2.3.2 PRSPの導入」参照)。その際、各関係省庁の代表からなるテクニカル・コミッティが作られたほか、ゾーナル・ワークショップにおいて県レベルの担当者も立案過程に参加している。また、NGOや地域の民間組織等との連携も取られており、貧困層へのアクセスの道が開かれている。
 しかし、PRSP作成時の反省として副大統領府の人材不足が挙げられている。タンザニアの副大統領府は貧困関連の制度・組織を調整する責任を負っていたが、人材が不足していたため、大蔵省に調整のほとんどを任さなければならなかった。同時に大蔵省自身は予算管理、政府会計、財政政策、短・中期の経済関連事項の運営をこなさす必要もあった。そのため大蔵省では、副大統領府の中・長期の開発課題である貧困関連の調整は過負荷であった。現在、副大統領府のキャパシティを養成するか、もしくは計画局や政府内外に存在するシンクタンクその他の研究施設と役割を分担するか、何らかの措置を必要としている。

 タンザニア政府は貧困政策の立案に民間の参加を促すため、1999年に民間セクター財団(Private Sector Foundation)、2001年に国家ビジネス委員会(National Business Council)を創設し、大統領が議長となり政府と民間セクターの代表との定期的なコンサルテーションを持つこととしている。両組織のキャパシティが高まり、効果的に機能させることができれば、近年組織化が進んで参加の度合いが高まってきている市民組織(CSO: Civil Society Organization)の参加促進とキャパシティ向上へと繋がっていくものと思われる。

2) タンザニア政府のモニタリング・評価能力

 援助資源の投入によって生まれ得る資金の流用性(ファンジビリティ)は、援助受け入れ機関のキャパシティと関連していることはこれまで述べてきた。PRSPでは、援助資金のモニタリング・評価のツールとしてPER・MTEFが利用されているが、これらを適切に使用して、余裕ができた資金を有効に活用するための制度的・人的なキャパシティの向上が必要である。

 Full PRSPには、モニタリング・評価体制を構築するために、データの収集、蓄積、共有、分析等、全てのレベルでのキャパシティ・ビルディングが必要とされている。60 データ収集のレベルにおいては各セクターの関連省庁、地方政府、市民団体、研究所等の事業に関わるあらゆる組織が貧困評価に参加する必要がある。データの蓄積、共有の段階においては、関連省庁と統計局(NBS: National Bureau of Statistics)において重要な社会・経済指標のデータベースが作成される。データベースの情報を分析するのは学術機関、研究組織等となる。最終的にこれらのデータを政策決定に生かしていくのは副大統領府であり、PRSPの実施状況のモニタリングに全責任を担っている。キャパシティ・ビルディングはこれら全ての組織に関わるものであり、副大統領府、統計局を始めとして広範な支援が緊急に求められている。これらの組織におけるキャパシティ・ビルディングを行うためには、まず「どの組織でどのようなキャパシティが必要なのか」というニーズ調査が必要となる。

 上記のモニタリング・評価体制は2001年6月に作成された貧困モニタリング・マスタープランによって明らかになった。同マスタープランではモニタリング業務と関連組織を以下の4グループに分類し、モニタリング・評価体制としている。

「基礎調査・国勢調査(surveys and censuses)」グループ
統計局が調整役となり、家計調査、労働力調査、国勢調査、農業調査、人口・健康調査を行う。

「ルーティン・データ・システム(Routine Data System)」グループ
大統領府の地域行政・地方政府担当が調整し、各省庁の行政データを処理する。また、地方政府や地域レベルのデータも収集される。

「研究・分析(research and analysis)」グループ
ジェンダーに視点を当てて、貧困関連の研究・分析を行う。大統領府の企画・民営化担当が調整し、民間の研究所の研究成果を処理する。参加型による貧困分析も行われる。

「広報・意識啓発(dissemination and sensitization)」グループ
モニタリング体制下で収集・分析されたデータを広報し、貧困削減の現状についての意識を啓発する。このグループを調整するのは副大統領府である。
 「広報・意識啓発グループ」と「ルーティン・データ・システム・グループ(RDS)」においては次ぎの点が指摘されている。

 広報・意識啓発グループの専門作業部会(Technical Working Group)は、貧困撲滅部(PED: Poverty Eradication Division)が招集する。PEDは過去に貧困撲滅に関する施策の広報を担当し、現在はラジオ放送と隔年のニュースレターの発行を行っている。また、全国、ゾーンレベルでのワークショップを開き、タンザニアの貧困撲滅施策について議論している。しかし、多くを短期のコンサルタントに頼っており、より効率的、効果的な広報活動を行うためには、PEDの人員を強化する必要がある。情報を必要とするグループのニーズを分析し、わかりやすい文書作成、配布方法(メカニズム)に関するキャパシティをつけることが必要である。

 ルーティン・データ・システム(RDS)グループは、地域レベルのデータを日常的に収集し、貧困削減事業の実施と最も深く関わっている。このグループが収集したデータの多くがPRSPの指標として利用され、PRSP成功の鍵を握っているとも言える。RDSグループの中核となる地方政府では、現在地方政府改革プログラム(LGRP: Local Government Reform Programme)が進行中であり、地方政府自身のモニタリング・評価システム(LG M&E : Local Government Monitoring and Evaluation System)は2004年まで待たなければならない。

 既存のRDSの改善とLG M&Eの構築にはRDSの専門作業部会が当たっている。既存のRDSの問題点は行政のレベルが下に行くほど情報が一方通行になっていくことである。村・郡レベルの行政機関、事業実施機関はデータを上部機関に受け渡すのみであり、自身でそのデータを利用するということがほとんどない。したがって、RDSによって収集されたデータが、村・郡レベルの行政機関での意思決定にほとんど反映されていない。また、収集されたデータが試算ベースであったり、集計が不完全であったりと、データの信頼性にも大きな問題があることが各セクターにおいて指摘されている。さらに、各セクターの関係省庁におけるRDSから、以下の問題が指摘されている。

  • 各組織のシステム間の調整が機能していない。
  • 収集データと政策決定のための情報とのリンクが希薄である。
  • 地方レベルでは情報が通り抜けるだけで、計画・立案のために使用されない。
  • 下位レベルの行政機関(村、郡)では情報を提出するのみで、上位機関の情報を利用しようとしない。また、村の行政機関では公共サービスの実施機関が提出した報告書を利用しない。
  • データの使用、フィードバックが行われないため、データ作成者が高品質のデータを決められたタイミングで提出するインセンティブが働かない。そのため多くのRDSによるデータの信頼性が失われている。
 こうした問題を解決するために地方行政における下位レベル(県、郡、地域)の担当者のデータの蓄積、解析、使用に関するキャパシティを向上させる必要がある。地方政府改革では、公共サービスの立案・モニタリングも彼らの責任となり、新しく権限が委譲されることになっている。地方政府の政策策定担当者が委譲された権限を行使して公共サービスの立案・モニタリングを円滑に実施するためには、さらに、以下のようなキャパシティ・ビルディングが必要と考えられる。
  • モニタリング・評価、データ維持の重要性に対する意識を啓発する。
  • ニーズ調査を行い、キャパシティ・ビルディング計画を作成し、必要技術の向上を図る。
  • IT関連のトレーニング
  • パソコン等の機材の導入
  • 地方レベルの文書管理センター(documentation centre)の建設


59 笹岡雄一(2000)、53頁

60 Full-PRSP, p.51




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