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2.3.4 主要ドナーの援助動向  

 タンザニアの主要ドナーのほとんどは、PRSPプロセスとSPに参加しており、新しい援助様態であるコモン・バスケットや財政支援が援助の主流を形成しつつある。しかし、各援助様態に対するそれぞれのドナーの対応は様々である。主要ドナーの援助動向について以下に記述する。

(1) 世銀

 世銀は、タンザニアに対する最大のドナーとして構造調整を実施してきた。タンザニアが、1962年にIBRD、IDA、IFCに加盟して以来、1994年までに合計24億6740万ドルの融資が行われている。1986年の経済復興計画(ERP)採択後は、構造調整プログラムを適用し、援助額も増加しているが、1980年以降の世銀グループによる協力は、より融資条件の緩いIDA融資に限られている。

 世銀は、構造調整により公共支出政策、石油の自由化、金融セクターの開放、民営化、製造業改革を実施するとともに、教育(基礎教育)、保健医療(予防医学)に対する協力を実施してきた。援助実施に際しては、SPに基づく協調やコモン・バスケットによる事業を重視している。34

(2) イギリス

 1970年代から1980年代にかけて目立った協力は実施していなかったが、1986年のIMFとの合意後は積極的にマクロ経済安定のための支援を実施している35。1992-97年、1996-97年ともに農業、流通/観光という経済セクターへの配分割合が大きく、これら2セクターへの配分割合合計は61.7%である。1996-97年になると順位が逆転するものの、配分割合合計は全体の71.7%に上る36

 イギリスは、援助予算の6割以上をコモン・バスケット方式の援助にあてていたが、近年はコモン・バスケット自体が援助国側の合意形成に時間を費やしすぎている等の理由で、コモン・バスケットから財政支援の実施に移行している。現在、同国は援助総額の約6割を財政支援にあてている。財政支援に移行することで現地DfID事務所の業務が軽減されるとともに、財政の適切な管理を求める上でDfIDによるタンザニア政府への影響力が拡大できるという利点があると考えている。372001年度からはPRBSを通して3年間で1億3,500万ポンド(年間4,500万ポンドずつ)を財政支援する予定である。38 また、DfIDの援助資金のモニタリング、監査、検証を行うために最高75万ポンドの技術協力も行うこととしている。同国は貧困人口を、2010年までに半分にすると数値目標を明確に定めている。また、PRBSの導入によって、ドナーの参加プロセスが高まり、援助の透明性があがるとしている。さらに、より効果的なドナー協調を実施し、取引費用を削減し、重点セクターにおける貧困削減の成果へ政策対話の重点をシフトするとしている。

 しかし、財政支援だけに頼るのではなく、政府のキャパシティ(公共支出管理、公共事業施策、貧困モニタリング)の向上のために技術協力も実施している39。経済構造調整以外の協力分野は、保健医療においては日本(地域保健)、ドイツ(マラリア対策)と協調して協力を実施しており、そのほかにも基礎教育や自然保護、農村道路、行政能力強化での支援を行っている。

(3) スウェーデン

 スウェーデンを含むスカンジナビア諸国は、ノルディック諸国会議を設けて援助調整を行ってきた経緯がある。スウェーデンの援助は、民主化の継続、経済自由化支援、組織制度づくり支援、農村開発支援の4つを協力の基本方針としている。1992-95年の間はエネルギーと交通/通信セクターへの配分割合が高く、これらのセクターの配分割合合計で全体の72.7%に上っているが、近年は経済分野から社会分野への援助の集中を図るために、世銀を通じた協力に切り替えを行っている。

 スウェーデンの国会は、1996年、従来からの貧困重視の援助政策に、環境やジェンダー支援といった新たな目標を加えると同時に、現地事務所の権限の強化を打ち出した。この権限委譲はイギリスやデンマークも採用している40。スウェーデンは2001-05年の対タンザニア援助戦略において、「貧困重視」「人材育成」「民主的開発」の3点を開発目標としている。これら3点の目標は、それぞれが独立に存在するのではなく、互いに関連し合い、貧困削減が達成されるとしている。また、貧困削減のためにはタンザニアとのパートナーシップが欠かせないとして、PRSPとTASの実行を支援し、モニタリング指標として使用するとしている。支援形態としてはタンザニアの意向を考慮して財政支援を中心にしている。そのためにスウェーデンの援助資金の使途をモニタリングするための新しい手法をタンザニア政府と協力して開発中である。41

 財政支援の枠組としてスウェーデンはMDF(Multilateral Debt Relief Fund)に最初に参加した国の一つであり、その後継であるPRBS(Poverty Reduction Budget Support)への参加も表明している。PRBSが重視するセクターは保健、教育、水であり、特に女性と子供へ恩恵をもたらすと考えられる。

(4) デンマーク

 1990年代以降、民主化支援、環境保全、ジェンダー、よい統治を基本方針と定め、保健医療、道路を中心としたインフラ整備、農業、民間セクター支援(職業訓練)の4つを重点分野としてきた42。イギリスやスウェーデンと同様にSPを重視し、コモン・バスケットによる支援にも参画している。

 デンマークの援助は1992-97年においては保健セクターへの配分がもっとも大きく、ついで交通/通信、農業セクターへの配分が大きい。これらのセクターに対する配分割合合計は67.4%であった。1996-97年になると、交通/通信、保健、農業の順となり、配分割合合計は上位2セクターのみで60.5%、3セクターでは89.2%に上り、絞り込みが進んだことがわかる。

 デンマークは1994年と1997年に援助戦略を見直し、被援助国とのパートナーシップを強調した。また、プロジェクト型援助からプログラム型援助へ移行して支援分野も絞り込むようになった。援助対象国の数の削減も行われ、1994年の戦略策定時に、1995年に60あった援助対象国を20に減少することを打ち出した43

(5) ノルウェー

 ノルウェーの支援は100%タンザニア政府の財政を通るオン・バジェットであり、大蔵省、その他省庁の財政を支援している。重点分野は、公務員制度改革、民主化支援、タンザニア側による計画政策に通じたオーナーシップの向上、教育の分野としており、その他に、インフラ整備や環境、エイズ対策、小規模金融を実施してきた。44

 近年は、財政支援とコモン・バスケットによる支援を行っている。相手国の人材活用とオーナーシップの育成のために、1980年代までは90名いた専門家を徐々に減らし、2000年にはノルウェー人専門家とボランティアの派遣を中止した。45

(6) フィンランド

 地方分権のコモン・バスケットに参加しているが、タンザニア政府の組織能力及びアカウンタビリティに懸念を持っている。財政支援についても政府能力とアカウンタビリティを不安視しており、用心深く取り組んでいるが、政府予算を通る支援として長い歴史を持つ県プログラム型援助にはキャパシティ・ビルディングを中心とした取り組みを見せている。また、政府予算を通らないが、住民への短期的な裨益が高いと言われるNGOに対する支援にも高い比重をかけている。46

(7) オランダ

 プロジェクト型援助として実施してきた技術協力の実施を継続しながらも、1996年にセクター支援予算ガイドラインを策定しSPへの支援を表明した。現在、同国はコモン・バスケットや財政支援に積極的に参加している。援助目標は、自由化・開発・自立であり、援助の重点分野は農村部開発である。その一環として、インフラ改善や土壌浸食防止、酪農経営、上下水道整備等を行ってきた。47

(8) アメリカ

 USAIDは、保健分野を中心に支援しているが、コモン・バスケットへの参加は、アメリカの法律が許さないのみならず、タンザニア政府の財政が不透明であることを理由に行っていない。48 USAIDの特徴として、これまでプロジェクト型援助として実施してきた技術協力を継続する一方で、NGOに対する支援を行っている49

 主要ドナーの援助動向は上述のとおりであり、世銀を中心に多くのドナーではコモン・バスケット、財政支援等の新規援助様態の導入を行っているが、ドナーによって重点を置く援助様態は違っている。これらのドナーの対応は、(1)コモン・バスケット中心、(2)財政支援中心、(3)両者のミックス、(4)両者に対しては態度を保留しつつ従来の援助50を継続するタイプ、として4つに分類できる。表1は、ドナー別の援助様態の傾向をまとめたものである。

表1 ドナー別の援助様態の傾向
  バスケット・ファンド 財政支援
(00年度PRBS/MDF実績)
技術協力
(00年度実績)
県レベル
教育
保健 地方政府
改革
拠出額
(百万ドル)
対ODA比
(%)
対ODA比
(%)
(1)コモン・バスケット中心
World Bank          
デンマーク 2.5 3.4* 1.4**
フィンランド   1.4 13.2* 31.4**
アイルランド   0.0 0.0  
(2)財政支援中心
イギリス   57.4 37.6 11.5
スウェーデン       8.4 17.8 1.2
EU     11.7 18.0* 6.2**
(3)両者のミックス
ノルウェー   5.4 14.7 8.1
オランダ 18.1 19.7 23.2
スイス     0.0 0.0 6.6
(4)技術協力中心
UNDP         100.0
アメリカ           100.0
ドイツ         34.8**
日本           12.3
出典:各種資料から調査団作成
* コミットメントベース
** 1999年値
***日本は2001年度よりPRESに参加。

 全体的にはPRBSを中心として、貧困削減を目標にした財政支援へのシフトが行われているが、今後は援助様態の柔軟性を高め、各ドナーが自国の開発政策に沿った方向で進むものと見られる。したがって、各ドナーともタンザニアの財政・組織・制度の現状を見極めながら、各々にとって優位な様態を選択していると考えられる。加えて、ドナーによる対応にこれだけのばらつきがあることは、タンザニア援助に対するドナー間の考え方の相違を映しているとも言え、考え方の相違がプログラム立案過程において協調を難しくし、調整コストを押し上げる要因の一つにもなっている。解決への方向性としては、各ドナーの足並みを揃えるように考え方の相違をなくしていくか、相違そのものを受け容れて、プログラムの実施段階においては柔軟な様態の選択を行うようにするかのどちらかであろう。前者は、大多数のドナーが画一的な援助アプローチに移行するという点で二国間援助の援助の多国間援助化とも考えられる。二国間援助機関はそれぞれの国の開発援助政策や援助供与手続きに拘束されることから画一的な援助アプローチを採ることは容易ではない。したがって、現実的には後者のように多様な援助様態も認めつつ、目的に応じて従来の援助方式の利点も活かせるような方向に進むと思われる。


34 JICA(1997a)、287頁。

35 同上、289頁。

36 JICA(2000)

37 同上、8頁。

38 DfID,(2001), p.4

39 同上, pp.10-11

40 JICA(1997)、289頁

41 SIDA (2000)

42 JICA(1997a)、288-289頁。

43 国際開発センター(2001),複数頁

44 JICA(1997)、289頁。

45 JICA(1997)、289頁。

46 三好他(2002)、6頁。

47 JICA(1997)、289頁。

48 三好他(2002)、8頁。

49 同上、6頁

50 技術協力は、プロジェクト型援助及びプログラム型援助の双方で実施される援助様態である。表1では、援助様態の分類上、(1)コモン・バスケット中心、(2)財政支援中心及び(3) プロジェクト型援助及びプログラム型援助の双方で実施される技術協力に便宜上分類している。




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