2.3.3 国際社会の対タンザニア支援
タンザニアは1961年の独立以来、サブ・サハラ・アフリカの中でも大規模な経済援助が実施されてきた国の一つである。1970年代後半までは北欧諸国、英国等の二国間ドナーを中心に、農業や交通の分野に多くの援助資金が振り向けられてきた。1970年代後半から農業分野への援助が次第に工業、エネルギー分野へシフトするようになってきた。1980年代に入り、援助主体はそれまでの二国間ドナーに加えて、世銀、IMF、AfDB、EU、UNDP、UNHCRといった国際機関が国際経済環境の悪化と債務累積を背景に増加した。我が国が対タンザニア援助で主要ドナーとなり始めたのもこの時期である。さらに1990年代になると、援助国の支援分野は交通・通信が約50%を占め、続いて農業、人材育成、保健、総合地域開発、エネルギー等のセクターへと移行している。
タンザニアへの援助は、1990年代前半まではスウェーデン、デンマーク、ノルウェーといった北欧諸国からの援助額が多かった。これはニエレレ元大統領政権時代のアフリカ型社会主義政策に対し、スカンジナビア型社会民主主義諸国が強い共感を持っていたためであった。22 これら北欧諸国は、対タンザニア協力北欧諸国会議を現地にて実施し、タンザニア政府とも政策対話を続けてきたが、1990年代後半には、いわゆる「援助疲れ」により援助額が減少している。こうした中で、北欧諸国に代わって二国間援助額の1位となってきたのが我が国である。日本政府は、タンザニアをサブ・サハラ・アフリカ諸国における援助最重点国として位置付け、無償資金協力、技術協力を中心に援助を行ってきた。
1991年以降のタンザニアに対する各ドナーの援助総額は、1997年まで減少傾向にあるが、1998年からは再び上昇している。上位10ドナーの実質支出の総額(1991-98年)を比較すると、日本(7億5,078万ドル)、デンマーク(6億2,246万ドル)、スウェーデン(5億9,584万ドル)、ドイツ(5億6,644万ドル)、イギリス(5億3,770万ドル)、オランダ(5億1,326万ドル)、EU(4億8,789万ドル)、ノルウェー(4億8,547万ドル)、イタリア(3億1,831万ドル)、アメリカ(2億8,138万ドル)となっている。この中で、タンザニアへの援助全体の10%以上を占めるドナーは日本とデンマークのみであるが、北欧4カ国の合計は約28%を占めている。23
1980年代、アフリカにおける援助形態に重要な変化が見られた。1970年代まではタンザニア等多くの途上国でプロジェクト型援助が中心として実施されてきたが、1980年代後半、北欧諸国等により個々のプロジェクトを単体で実施するのではなく相互に有機的に関連づけるべきであること、援助吸収資源そのものを援助することが主張された。この背景には、被援助国の乏しい援助吸収資源(経常予算、人材)を考慮せず、「援助の集中砲火」と呼ばれるように様々な援助が相互に調整されないまま行われ、効果が上がらなかった反省がある。こうした援助政策の変化が、セクター・ワイド・アプローチ(SWAP)、コモン・ファンド等と呼ばれる潮流となり、次第にプログラム型援助へシフトすることとなった。1990年代に入り、包括的なセクター開発の重要性が議論され、「貧困削減」への関心の高まりとともに、国家開発戦略としてPRSPが実施されることとなった。
タンザニアにおいても、1990年代に入り、過去の援助が十分に効果を上げ得なかったこと、タンザニア政府の政策実行能力の有限性に関する見直しから、各ドナーの援助方式に大きな変化が生じた。この変化のきっかけとなったのが、へライナー・レポートである。各ドナーの援助方式は、タンザニア政府が財政的に把握しにくいプロジェクト型援助等の方式から、バスケット・ファンドや政府財政への支援に移行している。一方、内容面では政府の優先課題であるセクター別開発計画への支援の重要性が高まっている。各ドナーが個々に独自のプロジェクトを行った場合、タンザニア政府はそれらプロジェクトを把握できず、十分な予算や人材の確保ができず、援助の効果も十分にあがらないといった状況になる場合がある。こうした状況を改善するために、タンザニア政府にオーナーシップを持たせ、援助目的の共有化や援助手続きの共通化といった援助機関の協調が必要となっており、各ドナーの協調に基づくSPが注目を集めている。24
このような構造調整以後の援助形態の変化は、「ポスト構造調整レジーム」と呼ばれ、その特徴は以下に示すとおりである。これらの考え方はその後PRSPやSPにおいて具体化されている。25
1) 構造調整政策の骨格(マクロ経済の安定、市場経済・民間部門主導、外向的開発戦略)の尊重
2) 緊密なドナー協調
3) 制度構築の重視
4) ガバナンスの援助政策対象への取り込み
5) セクター・レベルの活動への重点移行
6) 援助対象国・対象分野に対する選別的アプローチ
へライナー・レポートが外国人専門家を利用した技術協力を高いコストに見合うだけの成果をあげていないと疑問視したこともあり、ノルウェーやオランダのように専門家の数を減らしたり、専門家の配置を再検討するといった技術協力自体の見直しを行った援助国もある。しかし、カナダ、日本、アメリカ、フランス、UNFPA等は、技術協力を重視し、専門家派遣の意義を認めている。我が国が行っている機材供与、専門家派遣、研修員受入を組み合わせたプロジェクト方式技術協力の効果も高い。技術協力の多くは、オフ・バジェットになっており、タンザニア政府の国家予算には計上されないため、援助予測性の向上を図ることは容易ではないとする見方もある。26また、プロジェクト型援助が別々に実施されることで、タンザニアの限られた人材と予算を効果的に利用することが困難となることからも、ドナー協調を基本としたプログラム型援助への移行が行われつつある。
タンザニアでは、教育・保健・農業・道路等のセクターで政府と各ドナーの協調の下でSPが実施されている。現在実施されているSPは、依然として試行錯誤の中で行われていると言えるが、以下のような問題点が指摘されている27。
(1) 計画策定に長時間を要する一方で目に見える活動がされない
(2) 計画策定に多大な経費と労力が必要である
(3) プログラム型援助実施の調整コストが大きい
(4) 政府側の事務負担が増加しており、職員が多忙である
(5) ドナーの関心の相違による対応の困難さ
(6) オーナーシップの尊重・自覚が必ずしもされていない
(7) 受益者と地方政府の参加が限定的
(8) 資金不足と財政計画が不確実
このような問題点をセクター別開発計画の実施過程上で克服できるかどうかはSPそのものの課題であるが、緊急支援や、受益者と地方政府の参加を促すための制度構築、人づくり支援等、セクター別開発計画の枠内で計画されていないが必要であると考えられるセクター別開発計画の枠外の支援を行うことも必要であると言える。
1) セクター別開発計画で利用される援助の様態(モダリティ)
1. コモン・バスケット方式
コモン・バスケット方式とは、特定の目的のための特設口座に複数のドナーが資金を投入し援助を実施する試みであり、中央政府レベルではSPと関連して設定されている28。タンザニアでは、保健分野と地方政府改革においてコモン・バスケット・ファンドが実施されている。教育分野においても導入が検討され、現在は県レベルでのバスケット・ファンドが実施されている。
保健分野では、デンマーク、ドイツ、アイルランド、オランダ、ノルウェー、スイス、イギリス及び世銀の8ドナー、地方政府改革では、デンマーク、EU、フィンランド、アイルランド、オランダ、ノルウェー、イギリス及びUNDPの8ドナーが参加している。我が国を含むカナダ、フランス、スウェーデン、UNFPA、UNICEF、アメリカは参加が困難であるものの貢献する方向で考えている。29
政府改革の分野でのコモン・バスケットは2つあり、地方分権のためのものと2000年の選挙のためのものである。地方分権では、ノルウェーがこの分野への支援をすべてコモン・バスケットへ投入しており、フィンランドもコモン・バスケットに参加している。選挙支援のコモン・バスケットでは、デンマークが中心的なドナーであり、UNDPやUNがそのコモン・バスケット管理に対して支援を行っている。30
2. 財政支援
財政支援を行っているのは、世銀、イギリス、ノルウェー、デンマーク、オランダ、アイルランド、スイス、EUである。財政支援には、その用途をイヤマークしたものと、していないものとがあり、後者にあたるのがイギリス、ノルウェー、EU、オランダである。31
イギリスは、コモン・バスケットが援助国側の合意形成に時間を費やしすぎるとして、財政支援に移行している。また、EUは外からの監査を導入し、タンザニア政府の財政管理能力のキャパシティ・ビルディングを支援しつつ財政支援を行っている。EU、ノルウェー、イギリス等は、各々対タンザニア支援の98%、100%、60%以上を財政支援に充てている。
1. 県プログラム(県支援)
タンザニアは20の州からなるが、それぞれの州にはいくつかの県(District)がある。現在、地方分権化が進められているため、県政府への権限委譲が進められつつある。県政府への支援は、SPにおいて欠けがちなセクターを越えた視点を持っていることが多く、デンマークやオランダ、フィンランド、ユニセフ等のドナーが、県支援の枠組みで援助を行っている。
県レベルで行われる支援は、フィンランドが25年以上続けている「参加型手法を用いた住民組織のキャパシティ形成を図るプログラム」に代表されるように、住民レベルでの継続的な活動を行うものが多い。32
2. NGO・コミュニティ支援
NGOやコミュニティに対する支援は、政府の財政を通じないことが多いが、草の根レベルの住民に対する直接的支援として、多くのドナーや援助機関は有効であると考えている。これは長期的には政府の支援がコミュニティにも届くように、地方分権等に力を注ぐ一方で、短期的にはNGO等を通しての直接的支援が効果を発揮すると考えられているためである。ただし、これも長期的に開発を促進する政策内で行うべきであるといった示唆もある。
USAIDは、中心的支援であるHIV/AIDS対策を、NGOを通じて行っている。地元のNGOを活用しているが、それらを統括し監督するためにアメリカのNPOや民間企業を利用している。これらのNPOや企業は、監督と能力開発のノウハウを持っており、コストは高くなるがアカウンタビリティがあるといわれている。33
22 JICA(1997b)、277頁。
23 JICA(2000)、20頁。
24 国際開発センター(2001)、3-6, 3-7頁。
25 高橋 基樹(2001b)
26 同上。
27 古川光明(2001)、73頁を参考とした。
28 三好他(2002)、7頁。
29 古川(2001)、68頁。
30 三好他(2002)、8頁。
31 同上。
32 同上、9頁。
33 同上、9-10頁。