2.4 「国別援助方針」策定・実施過程の効率性
(1) 「国別援助方針」策定過程の効率性
ここでは、「国別援助方針」策定過程の効率性を重複の有無と迅速性という点から検証する。その際、重複の有無を(1)相手国との関係、(2)実施機関との関係、(3)他ドナーとの関係で考察する。
1) 「国別援助方針」策定過程に重複などの無駄がないか
(1)相手国との関係における重複の有無
「国別援助方針」は、本章2.1でも述べたように、フローチャート1.の過程を経て策定されていると想定され、大使館による原案作成(相手国政府のニーズを踏まえ、JICA・JBIC在外事務所・本部からもコメント)、外務省での協議・決定という過程を経て作成されており、同じ内容の協議を繰り返す等の特段の重複は見られなかった。
(2)実施機関との関係における重複の有無
本章2.2(1)「「国別援助方針」の策定・見直しの概略」で概観したように、「国別援助方針」の策定過程では、JICAの国別援助研究が有機的に「国別援助方針」策定に反映される過程が取られた。またJBICの各種セクター調査は大使館に提出されており、大きな重複を生じないための過程が取られていた。
(3)他ドナーとの重複を避け、連携・協調を促進する過程の有無
「国別援助方針」の基の一つとなった1991年のJICAの「国別援助研究会報告書」では、他ドナーによる援助動向の分析も行われ、他ドナーと相互補完的にノウハウを活かした連携・協調の強化が提案された。同年に外務省により作成された「国別調査票」においても、分野別の他ドナーの援助動向が分析され、日本との援助協調について具体的な検討がされている。また、「国別援助方針」の見直しの参考にされると考えられる年次政策協議においては、他ドナーとの意見交換があった。
「国別援助方針」の策定・見直し過程そのもので、他ドナーとの意見交換がなされた過程は確認できなかったが、上記のように準備段階において他ドナーとの重複を避け協調・連携を促進するための検討が行われていたと言える。
2) 「国別援助方針」の策定過程の迅速性
スリランカの「国別援助方針」は、1990年よりJICAが実施した「スリランカ国別援助研究会」の提言を基に、1991年に経済協力総合調査団がスリランカ政府と協議した内容を基にしている。策定作業が中断されたため、実際に「援助方針」としてODA白書に書かれたのは1993年からであるが、1992年のODA白書には調査団の協議を踏まえた「援助重点分野」として掲載されている。
「国別援助方針」の見直しに関しては、少なくとも毎年、年次政策協議の内容も踏まえて微調整された「国別援助方針」が発表されていることから、年に1回の見直しが行われていたと考えられる。
以上から、「国別援助方針」の策定には約2年、その見直しは毎年行われていたと考えられ、特段の遅延があったとは思われず効率的に行われていたと判断される。
(2) 「国別援助方針」実施過程の効率性
ここでは、「国別援助方針」実施過程(「国別援助方針」が実施機関の援助方針・計画等に反映され、個別事業が実施されるまで)の効率性を、(1)実施機関への反映の迅速性:「国別援助方針」がJICA・JBICの国別事業実施計画・国別業務実施方針、案件形成・実施に迅速に反映されたか、(2)連携・協調の有無:効率性を高めるため実施機関及び他ドナーと連携して実施にあたっていたか、という2点から検証する。
1) 実施機関への反映の迅速性
策定された「国別援助方針」は、JICAの国別事業実施計画・JBICの国別業務実施方針の策定段階で、援助方針の重点分野に沿って計画を策定する、もしくは援助方針との整合性を検討するという過程を経て、反映された。また、個別案件の形成・実施にあたっては、案件が援助方針に示された重点セクター・サブセクターから外れていないか、援助方針との整合性はあるかという検討過程を経て、「国別援助方針」が反映されている。
個別案件の形成過程における「国別援助方針」の迅速な反映については、案件が重点セクター・サブセクターから外れていないかという確認の過程に特に困難はなく、迅速に行われていたということである。しかし、一部聞き取り調査から案件実施までの過程が長いという指摘があった。日本側からは、スリランカ政府からの案件要請の段階で、十分な検討や資料準備が成されていない「成熟度の低い」案件の申請が多い、という指摘があり、年次政策協議や援助実施体制評価においてもスリランカ側と話合われている36。具体的には、EIAの国内承認手続きが大幅に遅延する、もしくは用地取得、住民移転の問題が生じる等のケースで慎重な対応を要するものが多いことがあげられる。また、融資案件の執行率の低さは、その主な要因がスリランカ側の調達手続きの遅延にあったため、旧OECFはADBとともにスリランカ政府内に独立した「調達委員会」の設置を求め、これに協力した経緯がある。これに対し、スリランカ側は、大使館や援助実施機関(JICA/旧OECF)の現地事務所や派遣ミッションの裁量権限が小さく、本部に指示を仰ぐことが多いことを案件実施決定まで時間がかかる要因として挙げている37。
このように、案件形成・実施過程でその迅速性を阻む課題について、スリランカ側との対話を行う等、日本側も改善のための努力や協力をしてきたと言えるが、日本の現地事務所の権限は、2章で示した他ドナーの状況と比べても大きいとはいえないことから、現地の人員補強や案件審査・決定の質の確保も考慮して総合的に検討する余地はあろう38。
2) 連携・協調の有無
(1)外務省・JICA・JBIC間の連携
スリランカでは、当時から現地大使館・JICA事務所・JBIC(旧OECF)事務所の三者は、毎月定例会を持ち、実施機関の財務・運営能力の情報も共有されるなど、対話・連携は活発に行われていた39。
案件の実施においても下記のような連携例が見られた。
(2)他ドナーとの協調・連携
「国別援助方針」の実施過程(「国別援助方針」が実施機関の計画・方針等に反映され、個別事業が実施されるまで)において、他ドナーと連携・協調を測るようなプロセスがあったかについて、当時・現在の日本の援助関係者や他のドナーからの聞き取り調査では、スリランカにおけるドナー間の対話は、1章で述べた開発フォーラムの他に、定例会や分野別のワーキンググループ会合等も開かれていた。
また、当時の日本と他ドナーの連携は、特にJBICとADBの協調融資案件(小企業育成計画、プランテーション改善支援金融計画、南部ハイウェイ建設計画等)の他、スリランカ政府の調達過程の改善でも両機関が協力する等、この点の効率性は確保されていたものと考えられる。
なお、和平協定の締結に伴い、北・東部復興開発支援に関するドナー間の対話は活発化しており、ドナー協調・連携が進む可能性を他のドナーも指摘している。日本大使館もこの対話には積極的にかかわっており、現日本大使のイニシアティブを評価する声が各ドナーから聞かれた。
36 なお、現JICA事務所への聞取り調査では、各省庁にアドバイザー専門家を派遣するようになってから、熟度の高い案件が申請されるようになったということである。
37 外務省「援助実施体制評価」報告書、1997年より。
38 なお、現地事務所の権限の小ささについては、他国においても、これが現地でのドナー会議において日本側の発言を難しくしていることが指摘されている。(2002年12月の国際開発学会でのUNDP日本駐在所代表の弓削氏の発表、および日本の援助機関からの出席者からの発言より)
39 当時および現在の援助関係者からの聞取り調査より
40 (株)国際開発ジャーナル社「資金と技術の結合」2000年より