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第2章 評価対象時期におけるスリランカの動向

3. 評価対象時期(1990年代後半)の主要ドナーの開発援助政策  

 ここでは、1990年代後半の主要ドナーのスリランカへの援助政策を概観する。スリランカへのODAの概況を下表2.3-1に示す。1990年代後半に、純ODA総額が大きく減少し、スリランカの援助依存度を示すODA額の対GNP比も低下している。

表2.3.1 スリランカへのODAの概況
  1995 1996 1997 1998 1999 2000
純ODA総額
(百万米ドル)
555 487 331 507 264 276
二国間援助 374 278 227 297 220 251
(日本) (264) (174) (135) (198) (136) (164)
(他の国) (110) (104) (93) (99) (84) (87)
多国間援助 182 209 104 210 44 25
ADB (83) (139) (79) (106) (83) (56)
IDA (98) (95) (68) (84) (34) (28)
国連機関 (26) (14) (14) (12) (16) (17)
他の機関 (-26)* (-40) * (-57) * (9) (-89) * (-76) *
ODA/GNP (%) 4.345 3.555 2.218 3.247 1.703 1.699
出所:World Development Indicators 2000, OECD HP
(* 値がマイナスになっているのは、借款返済額が援助額から差し引かれているためである。)

3.1 ドナー会合の動向

 対スリランカの援助機関の代表的な会合は、世銀主催で行われている「開発フォーラム」(1996年までは「援助グループ会議」)である47。1996年と1998年の会合で、強調されたのは、紛争の早期の平和的解決と経済構造改革の推進の必要性であった。

(1) 紛争解決

 「開発フォーラム」は、新政権の努力を評価する一方48、特に1998年には見通しが持てない状況を憂慮し、党利を超えた取り組みを求めている。北部・東部の復興支援についても、1996年から話し合われている。スリランカ政府が、北部復興再建庁を設置したこともあり、ドナー支援を求めたのに対し、多くのドナーは、和平の達成後に復興援助を行う用意のあること、既に支援している救援・リハビリ活動を継続することを表明した。

(2) 構造改革

 新政権以降のマクロ経済の改善を評価する一方、マクロ経済の安定化や経済成長のため、さらなる構造改革を求めている。 民活導入については、通信・航空分野での民営化政策を評価し、これをエネルギー・港湾・銀行部門にも取り入れること、インフラへの民間投資の促進に向けた一貫した政策が必要だとしている。1998年には、選挙を控えて、民活導入が後退しないよう注意を喚起した。

 さらに、財政赤字の削減が不可欠であり、行政コストの削減や、自由経済のニーズへの対応のためにも、行政改革が必要としている。具体的には、社会プログラムの効率改善と補助金供与でのターゲットを絞った政策を求めた。しかし、必要な公共予算(運営・維持費を含む)は確保すべきとしている。

 民間投資を促進する上でも「良い統治」が重要であり、透明性について高い基準を設け実施するメカニズムの強化を評価するとともに、政府の調達能力の強化をドナーも支援することが表明された。

 この他に話し合われた点は次の通り。

(3) 社会政策(1998年)

 これまで達成された人的資源開発分野の状況が悪化しており、保健・教育分野の改善が必要で、特に、教育の質の改善が求められる。両分野の改革にコンセンサスを得るのに時間がかかることを認め、政府が市民社会との対話を始めたことを評価する。

(4) 人権保護(1996年)

 最近の政府の取り組みを評価するが49、人権侵害への監視の継続を求める。

(5) 援助実施体制(1996年、1998年)

 経済・社会開発に向けた援助を継続するが、その供与はスリランカの案件計画・実施体制の改善が前提となる。どのようにして援助執行率を高めるかが課題であり、先のスリランカの調達能力の強化への支援も執行率の改善を目指したものである。

 全体を通して、平和構築が緊急かつ最優先の課題であるとの認識が示された。紛争の長期化や軍事費の増大による経済悪化や国民の犠牲を憂慮している。また、平和努力と経済構造改革を並行して進めるべきだとの意見で一致している。構造改革については、「経済成長の加速を通して雇用を創出し、貧困を削減する」というスリランカの目標を支持している。そのためには、民間主導型の成長を促すことが必要であり、民間投資や雇用を促進する市場友好的な環境を作るべきだ、という基本的な考えが示された。


47 日本・米国・ノルウェー・ドイツ・英国・カナダ等の11~12カ国のドナーと、世銀・IMF・ADB・EC・UNDP・OECD等の9国際機関、スリランカ政府代表が出席している。「援助グループ会議」は1995年4月と1996年11月8日に開催された。名前を「開発フォーラム」と変えた会議は1998年5月26、27日に開催された。以下の記述は、1996年と1998年の会合についてのWorld Bank "Press Release"と日本大使館での議事録による。この他のドナー協議としては、UNDPが定期ドナー会議や、復興支援のような特定分野のサブ・グループを創設して、ドナー間の情報交換を促進していた(大使館議事録、当時の日本援助関係者への聞取りより)。

48 停戦・和平交渉に向けての予備交渉の開始や、地方への権限委譲を認めた憲法改正など。

49 人権タスク・フォースの設置や人権保護のための法整備への努力



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