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第2章 評価対象時期におけるスリランカの動向

2.2 その後の動き  

 日本の対スリランカ「国別援助方針」が、スリランカ政府の開発計画に何らかの影響を与えたかを検討するために、対象期間後のスリランカ政府の開発計画の概況を検討した。

(1)Vision 2010

 これまでスリランカ政府は、5ヵ年国家開発計画としてPIPを策定し、毎年改定してきた。2001年には、より長期的な開発の方向性を定め、「Vision 2010」という国家開発政策の基本方針をまとめている46

 「Vision 2010」では、経済基盤整備と民間活力による市場での競争力向上によって南アジアの商業拠点となり、2010年までに持続的な7~8%の経済成長と一人当り所得2,500米ドルを達成することを目標としている。そのための重点分野として、経済基盤整備、南部・北部の開発、人的資源開発、貧困緩和とエンパワーメント、製造業開発、公共・民間のパートナーシップ、観光開発、農業の商業化、居住環境改善、行政・制度改革を提示している。

 以下に「Vision 2010」のマクロ指標目標と、これらの目標を達成するための主なアプローチを示す。

表2.2-22 「Vision 2010」マクロ指標目標
指標
2010年までに
  1. GDP成長率8%を達成
  2. 財政赤字を対GDP比9.9%(2000年)から3%に減少
  3. 経常収支赤字を対GDP比6.4%(2000年)から0.5%に減少
  4. 国内貯蓄高を対GDP比17.3%(2000年)から32.0%に増加
  5. 投資を対GDP比28%(2000年)から、35.0%に増加(民間投資は対GDP比26%に増加)
  6. 輸出高を対GDP比39.1%(2000年)から50.8%に増加
  7. インフレーション率を6.2%(2000年)から3.5%に減少

「Vision 2010」の主なアプローチ

  • 公共投資の半分を通信・港湾・電力・高速道路のインフラ整備に回す。
  • 製造業・サービス業の輸出志向を高め、立地的なメリットを活かして南アジア・EUの市場に参入する。
  • 農業の調査・技術開発・インフラ整備・組織化を進めて、小規模農園の生産性を高める。
  • 水産資源の持続的な開発を進める。
  • 森林・沿岸・海洋の環境システムを保全し、都市環境を改善する。
  • 知的生産技術に立脚した経済を樹立する。
  • 民間主導の成長と投資を達成し、公共セクターはファシリテーターとなる。
  • 民間・公共パートナーシップを改善するための制度改革を行なう。
  • 労働環境を改善する。
  • 都市を戦略的に開発センターとする。
  • 北部・東部の紛争を解決し、開発の引き金とする。

(2)貧困削減戦略

 スリランカ政府は1990年代の貧困削減政策を継承し、2000年11 月に「貧困削減フレームワーク(Framework for Poverty Reduction)」を、2002年6月に「貧困削減戦略案(Poverty Reduction Strategy)」を発表した。

 「貧困削減戦略」では貧困削減には貿易・投資政策、商法、労働市場、金融セクター、電力などの改革が必要とし、さらに平和構築が貧困削減の鍵であると位置付けている。また、他国の経験から、貧困層が経済成長に参加できれば、貧困削減が進むことを提示している。貧困層・貧困地域への波及効果の大きな事業として、港湾ネットワーク、近代的道路ネットワーク、バスシステム、鉄道、通信、金融ネットワークのIT化、地方へのインターネットの拡大という7つの事業を重視するとしている。

 さらに、貧困層の人的資源開発に向けた投資として、質の高い教育と国際的な水準の医療サービスへのアクセス向上が重要であるとしている。様々な予防プログラム(子供と妊婦の栄養水準向上と感染症予防の強化、安全な水へのアクセスと衛生の向上)の強化の必要も提示している。また、固形廃棄物管理は危機的な状況にあり市町村の能力強化が重要としている。

 社会保障に関しては、これまで長年にわたり行われてきたプログラムを継続するとしている。しかし、障害者・戦争被害者・老人へのコミュニティベースのケアや、インフォーマルセクターの労働者に向けた社会保険の提供に関しては、特別な対策を開始する必要があるとしている。


46 さらに、2001年から始まった新内閣の主導により、2002年12月に「Regaining Sri Lanka」という開発基本政策が現在準備されている。



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