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第4章 専門家派遣事業に関する改善提言

1. 本事業のあるべき姿の構築

本章の目標は、これまでの分析結果に基づいて、今後専門家派遣事業を改善していくために有効な提言を導くことである。既に第3章で本事業に関する様々な問題を抽出し、整理した。これらの問題を個々に取り上げ対応策を作成することもできるが、それでは、本事業を望ましい形に発展させるための抜本的なアプローチとならない可能性がある。そこで、本章では、まず「望ましい専門家派遣事業のあり方」を確認した上で、それを実現するために何が必要であるかという観点から今後に向けての同事業の改善策を立案することにした。

はじめに、本調査の中で行った専門家派遣事業のあり方に関する派遣中あるいは元の専門家に対するいろいろな形での聞き取り調査や第3章で行った問題分析の結果、またJICA職員との意見交換を基に、以下のような形で専門家派遣事業が行われるのが望ましいと考える(主に長期専門家を想定している)。

望ましい専門家派遣事業のあり方とは、
1) 相手国にとり重要と思われる技術協力の分野・セクターで、
2) 協力の必要性が高くかつ専門家の受入体制の整った相手方機関に対し、
3) 専門家派遣(個別派遣もしくはプロジェクト方式技術協力)が協力の形態として最もふさわしいと思われる状況で
4) 適切な専門家が派遣され、相手方のC/Pとの協同作業により、
5) できるだけ効率的な形で、
6) 相手方機関の重要な問題が解決されたり、重要な課題が実現される
ことである。

上記の「望ましい専門家派遣事業のあり方」を構成する6つの構成要素(以下、「6つの重点課題」)を詳述すると、以下のとおりである。

1)派遣の分野・セクターの妥当性:いわゆる要請主義に基づき、専門家の派遣は個々の案件ごとにその適否が検討されてきたが、今後は既に一部の国で実施されているように、「国別援助計画」及び「国別事業実施計画」などで示された協力の重点分野・セクターによく対応する形で専門家が派遣されるべきである。目標指標*としては、ある援助対象国における専門家の数のうち、重点分野・セクターに該当する分野の専門家の比率が8割以上であることが望ましいであろう。

*註:本項目以下の目標指標は、個々の専門家派遣の事後評価結果を集約することによってその達成度を測ることが可能であり、ひとつの国における専門家派遣事業の総合評価を例えば1年ごとに行なうことが可能である。

2)受入機関の専門家受入ニーズの明確さと受入体制の整備:1)で述べた大所高所の観点からとらえた専門家案件の重要性だけでなく、当の受入機関自体が明確な受入ニーズを持っていなければならない。また、物理的・機能的に専門家の働きやすい執務環境が整えられている必要がある。目標指標としては、いわゆるA1フォームで専門家受入ニーズが明確に記述されていること、また、新規に派遣された専門家に対する聞き取り調査でほとんど執務環境面での不満のでないことが考えられる。

3)専門家派遣事業(個別派遣もしくはプロジェクト方式技術協力)のスキームとしての適切さ:1)とも関連するが、より大所高所の視点から見た課題の解決に向け、無償資金協力・開発調査・機材供与・研修生受入・協力隊派遣等と比較し、専門家派遣が最もふさわしいスキームであるべきである。目標指標として考えられるのは、国別JICA事業評価調査などの際に実施される相手側機関に対する質問票調査などでスキーム選択の不適切さを示すような回答が示されないことであろう。また、こうした評価調査とは別個に2~3年毎に専門家受入機関に対し一斉にこうした質問票調査を行なうことも考えられる。

4)適切な専門家の派遣:語学力や専門性・技術力のみならず異文化対応能力やマネジメント能力も備わった相手側のニーズに合い、かつ国際的な水準を目指した専門家が派遣されるべきである。目標指標としては、例えば、今回海外で実施した質問票調査における専門家の語学力評価(5段階評価)で平均値で4点程度が確保され、なおかつ2点以下の評価点が付くような専門家の派遣がない状態であろう(ただし、必要語学力の水準は専門家の職種にもよる)。こうした厳正な専門家の資質審査の結果、短期的には、全体としてある程度の長期専門家の派遣規模の縮小はやむを得ないものと思われる。

5)事業としての高い効率性:事業としての妥当な費用対効果があるべきであり、期待効果から見た適正な派遣期間・報酬の設定が必要である。想定される目標指標としては、今回海外で実施したのと同様な質問票調査で受入側から「派遣効果が費用に見合うものである」との回答が得られたり、同レベルのコストで比較した場合の「他国の専門家や現地専門家への優位」が確認されるべきであろう。

6)成果の実現:専門家派遣においては、具体的な成果が上げられなければならない。成果の内容は、分野・セクターなどによりまちまちであろうが、想定される目標指標としては、個々の専門家の作成するWork Planに示された技術協力の最終目標の達成度として最低80%程度を確保すべきと思われる。あるいは、今回海外で実施した質問票調査のような専門家の貢献度評価(5段階評価)で平均値で4点程度が確保されるべきである。

上記の6つの重点課題の実現状況と状況の改善に向けての対策を整理したものが、以下の「図4-1」である。「実現状況」は、1章~3章の内容に基づいた各重点課題別の現状の要約であり、「4段階評価」は、個々の重点課題が上述したような目標指標を達成した場合を○(最高点)とした、実現状況に対する4段階評価の結果である。

【表4-1:重点課題の実現度と改善に向けての対策】

*註 ○:よい、△:ほぼ妥当だが改善の余地がある、▲:問題がある、×:非常に問題がある、-:評価不可

重点課題 実現状況(問題点) 4段階
評価*
改善に向けての対策
1.派遣の分野・セクターの重要性 現在、各国で「国別事業実施計画」が導入されており、明確な評価は時期尚早である。 ・外務省・JICA(本部・在外事務所)によるプログラム・アプローチへの積極的な取り組み
2.受入機関の専門家受入ニーズの明確さと受入体制の整備 ニーズはある程度明確であり専門家の専門性・能力とのミスマッチは少ないが、専門家受入体制は万全ではないと思われる。 ・受入機関の専門家に対するニーズの明確化
・専門家の派遣準備の充実
3.専門家派遣事業のスキームとしての適切さ 今回の専門家受入機関に対する質問票や聞き取り調査の範囲では、各事例における長期専門家派遣というスキームの選択については、特に大きな問題は指摘されなかったが、同程度のコストの短期専門家派遣やC/Pの日本での研修の方が、より効果があったとする声も部分的にあった。 ・専門家事業評価の目標の明確化・評価の適正化
4.適切な専門家の派遣 全体として大きな問題はないが、改善の余地がある。具体的には、技術力・語学力や異文化対応力・社会性などの面で派遣専門家の資質が不十分な場合がある。 ・専門家事業評価の目標の明確化・評価の適正化
・専門家の派遣準備の充実
・語学力や専門性などの総合的に質の高い専門家の確保
5.事業としての高い効率性 今回の質問票調査結果の範囲では、専門家派遣に係るコストからみての効果(費用対効果)には改善の余地があると思われる。 ・専門家事業評価の目標の明確化・評価の適正化
6.成果の実現 全体としては憂慮すべき状態ではないが、改善の余地は少なくない。具体的には、質問票調査の結果では、専門家の課題・問題解決に関する貢献度の5段階評価の平均値がタイで3.0、フィリピンで3.8、メキシコで4.0であった。ただし、一部の専門家の評価は、非常に低い。 ・上記の全ての対策



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