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3. その他の問題

昨年度の専門家派遣制度調査報告書などで提起されていた、上記の問題以外の諸問題については、以下のように考える。

1) 同一案件への専門家の長期的派遣の妥当性

この問題は、上記報告書でも最も関心を持たれていた問題のひとつである。調査団としては、ひとつのポストの長期化それ自体が不適切な派遣形態であるとの予見は必ずしも持たず、実際に長期化しているケースで具体的な問題が生じているかどうかを確認した。まず、質問票調査結果の統計処理の結果では、派遣された専門家が3代目以降の場合に特に受入機関側の専門家の評価が低いということはなかった。また、聞き取り調査でも継続的に長期専門家を同一のポストに受け入れているほとんどの機関が、専門家の必要性を認め、彼らの貢献を評価していた。したがって、同一案件への専門家の長期的派遣を「目的が不明確なまま派遣が習慣化している状態」とは言えないと判断される。しかしながら、こうした専門家の業務にはかなり調整係、あるいは日本側との連絡役の色彩の濃いポストも散見され、果たしてこうした業務内容が長期専門家のそれとして適当であるかどうかは個別に吟味する必要がある。また、JICA関係者からは、相手国の真のニーズの有無や国別アプローチに必ずしも関係なく、関係省庁の意向により当該省庁からの専門家が派遣され、さらに当該セクターの開調とプロ技が続くケースがあることも指摘されている。

2) 専門家の支援体制の不備

この問題も、上記報告書でも提起されていた問題である。具体的な課題としては、既に上で取り上げた「日本側の派遣準備の弱さ」の問題以外にも以下の4項目がJICAの支援体制の問題として挙げられていた。

携行機材調達が出発に間に合わない、備品の購入が手続き上難しい(地方勤務の専門家)
長期専門家を支援する短期専門家派遣制度が整っていない
語学のサポート(翻訳に関する)体制が弱い
後方支援が不十分である

これらに関しては、改めてタイ・フィリピン・メキシコの3国でも専門家に対する聞き取り調査を実施した結果、以下の理由で必ずしも深刻な問題ではないと考える。

a. 携行機材・備品の購入:携行機材については、申請のタイミングに関して事前に十分なブリーフィングがないとの複数意見が専門家から聞かれた。また、派遣中の備品購入に関しては、JICA関係者によれば、「備品に関する補助制度や現地業務費の存在について知らない専門家がいる」とのことであった。したがって、派遣前のJICAによる指導や派遣中のJICA事務所によるより細やかな配慮、また専門家自身の努力で解決は可能であろう。

b. 長期専門家を支援する短期専門家制度:こうした制度があれば課題解決に向けてより効果のある場合もあろうが、長期専門家のTOR自体が不明確・不適切、あるいは専門家の力量が不十分なために短期専門家を必要とするというケースもあろう。したがって、まず専門家のTORを明確化することに重点を置き、その上で、長期専門家の任期途中で必要性・妥当性が高ければ短期専門家の派遣を認める制度も検討するという形にしてはどうか。

c. 語学のサポート体制:JICAタイ事務所によれば、専門書の翻訳などに一定額の予算が確保されているとのことである。こうした体制が専門家に周知されていなければ、その徹底の必要がある。ただし、資料の翻訳などは、十分自力でできるとの専門家のコメントも多かった。

d. 不十分な後方支援:これは、主に情報提供などでの支援の問題である。背景のひとつとしては、やはり元々の専門家のTORが不明確であるため、こうしたニーズが出てくると思われる。また能力の高い適格な専門家であれば、一定の情報収集力があるはずであり、特に制度的に支援を要する課題ではないと考えられる。

3) スキーム選択の妥当性と費用対効果

これは、調査団自身の問題意識に基づいて調査した項目である。

スキーム選択の妥当性は、他のスキームに比して長期専門家派遣が適切であったか問う形で検討した。なお、正確を期するため、コストをほぼ同額にして効果を比較した。

また、費用対効果についても特に事前に問題視されていたわけではないが、一つの事業として当然重要な視点であるので、検証することにした。専門家派遣事業の場合、融資案件や投資案件あるいは農業生産プロジェクトのように何らかの定量的な指標(例:投資収益率、内部収益率)で費用対効果をみるのは、非常に難しい。そこで、本調査では、質問票調査による外国の専門家との比較や専門家派遣の金銭的コストと派遣効果との比較により費用対効果の簡易分析を試みた。

(1)スキーム選択の妥当性:他のスキームとの効果の比較

a. 5名程度の短期専門家との比較:タイでは、「わからない」を除く回答者20名中12名が短期専門家の方がより効果的とする回答を選択した。逆にフィリピンでは、「わからない」を除く回答者7名中4名が、長期専門家の方がより効果的とする回答を選択している。メキシコでも同様の傾向であった。なお、タイ・フィリピンでの聞き取り調査(C/PとそのC/Pの上司対象)では、概して長期専門家に対する評価の方が高かった。メキシコの聞き取り調査では、案件の性格によるとの意見が目立った。

b. 5名程度のC/Pの日本での研修との比較:タイでは、「わからない」を除く回答者21名中17名が C/Pの日本での研修の方がより効果的と回答した。フィリピンでも、「わからない」を除く回答者9名中6名が C/Pの日本での研修の方がより効果的と回答した。メキシコでも同様の傾向であった。ただし、通常C/Pは日本での研修を好む傾向があり、また設問において研修期間も明確にしていないので、これは厳密に効果を比較した結果とはいえない。

(2) 費用対効果

a. 他国の専門家との比較:タイでは、日本以外から専門家を受け入れている機関が回答者総数の半分以下(33)であったが、JICAの専門家の評価の方が他国の専門家よりわずかながら高かった。フィリピンでも同様である。ただ、日本以外の外国人専門家の派遣コストが不明なため、厳密な比較はできない。なお、メキシコでは、日本以外からほとんど専門家を受け入れていなかった。

b. 15万米ドル相当の機材もしくは補助金との比較:タイでは、「わからない」を除く回答者17名中11名が機材・補助金の方がより効果的とする回答を選択した。フィリピンでも、「わからない」を除く回答者11名中7名が機材・補助金の方がより効果的とする回答を選択した。メキシコでも、回答者20名中18名が機材・補助金の方がより効果的とする回答を選択した。ただし、メキシコで行なった専門家受入機関に対する聞き取り調査では、専門家の派遣は15万米ドル相当の価値が十分あるとの意見が多かった。

以上の結果をまとめると、長期専門家派遣の効果は、ほぼ同額のコストのかかる他の援助スキームと比較した場合の優位性は必ずしも明確ではなかったものの、スキーム選択の妥当性が低いとまでは言えない。費用対効果の面ではやや評価が低いことが判明した。



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