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第3章 専門家派遣事業に関する問題分析

1. 問題の全体構造

今回の調査では、各種調査によって、専門家派遣事業に関する大小様々な問題点が明らかとなった。

これらの問題点を吟味して比較的重要度の高いものに焦点を当てて、問題点を原因-結果の論理で整理したのが次ページに掲げた問題系図である。専門家派遣事業における中心的な問題は「専門家の派遣が、受入先の機関やあるいは当該分野・セクターにとり、十分に効果を上げていない(=相手側の重要な問題が解決されない、重要な課題が実現されない)場合がある」ということである。これは、具体的には、上記2章で紹介した海外調査のうち専門家受入機関に対する質問票調査の質問項目16.に対する回答結果に示されている。回答結果は、専門家の課題・問題解決に関する貢献度の5段階評価の平均値がタイで3.0、フィリピンで3.8、メキシコで4.0であった(註:設問内容は「もしも当該専門家があなたの機関に派遣されていなかったら、あなたの機関に何か違いがありましたか?」であり、例えば評点の3は、貢献度が中程度すなわち「(専門家がいなかったら)日常業務で小さな問題が発生したであろう」という水準である)。

上記の設問は明確に成果を問うているため、専門家の任期が短いほど高い評価は期待しにくい面もある。したがって、この結果は悪い数字ではないが、数字の解釈の上で重要であるのは、アジア的な文化として書き物による特定の個人に対する評価はあまり厳しくできないということと実際に聞き取り調査で受入機関から発言があったように、「非常に低いコストで日本から迎えている専門家はある意味でゲストに近い性格があり、心情的にそもそも厳密な評価の対象としがたい」という事実である。また、メキシコに関しても元来日本人に対する敬愛の念の強い国柄であり、今回の調査においても全体的に寛大な評価となっているという現地の指摘がある。こうした背景を考慮した場合、上記の数字は必ずしも楽観できる水準ではない。また、5段階評価の分布を見てみると、タイでは、全62名中評価点2の専門家が8名、評価点1の専門家が14名おり(長期専門家はそれぞれ、3名・5名)であった。フィリピンでは、全61名中評価点2の専門家が8名、評価点1の専門家が5名(長期専門家はそれぞれ、4名・2名)であり、専門家の個人差も大きい。

今回、日本側の専門家を派遣している省庁に対する質問票でも上記と同様な専門家派遣の効果に対する質問をしているが、回答結果は、5段階の自己評価点(15省庁の平均値)で4.2であり、先方の認識との間にずれがある。すなわち、日本側が推測しているほどには、専門家の貢献度は高くないと言える。

専門家派遣事業に関する問題系図(PDF)

次に上記の「専門家の派遣が、受入先の機関やあるいは当該分野・セクターにとり、十分に効果を上げていない場合がある」という状況を招いている直接的な原因としては、以下の4つの大きな問題点があると思われる。

1) 相手側のニーズに合った分野・専門性と技術力のある専門家が派遣されていない場合がある
2) 語学力や異文化対応力・社会性などの面で派遣される専門家の資質が不十分な場合がある
3) 専門家及び相手側に具体的な成果実現のモチベーションあるいは成果実現のための計画性が不足している
4) 日本側での専門家の派遣準備が十分になされていない、あるいは受入機関側で専門家の十分な受入体制が整っていない場合がある

以下の2でそれぞれの問題点について詳細に状況を説明する。



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